金バエの半生で思うこと。

金バエという配信者が頭にストッキングを被って電車に乗り込むという様子を配信していた頃、世の中は芸能人といえばテレビの中に居るもので、芸能事務所に所属して活動するもので、ネットはPCで一部の人が見ているものだった。
もちろんまだ、SNSサイトもあまりない時代だった。
ネットの人は匿名掲示板に集まって、文章を吐き捨てるのが当たり前の時代だったし、ブログサイトできっちりと長く文章を書くのも当たり前だった。とにかく、ネットコンテンツは、文章のコンテンツがメインだった時代だ。
その中で、動画配信というのは新しかった。
しかも、芸能事務所とは無縁な、そこいらへんにいる素人のおっちゃんが、PCを持ち歩きながら自分を映して全世界に向けて喋ってるなんてものは、新しすぎた。
だから、金バエという男は、人々に、無職扱いされてしまった。
しかし、その金バエという人間にたいして、根気強く応援し、食い物をプレゼントしたり、お金を渡し続けた人間も集まっていった。
何度か警察に逮捕されるような事件を起こしたことがあったといっても、比較的軽い内容というのもあったような……。
刑務所にずっといるような反社会的勢力の集団に取り込まれたヤクザでもないというあたりって意味ね。

とにかく、当時の人々の常識で、きちんとした仕事とされる仕事に就くことは、金バエという男にとって、難しいことだったのだろう。たぶん本人は、最大限に努力したと思う。それで、上手くいかないときに、期待しては助けてくれなかったというのはあったと思う。
まともな仕事は、全部出来ないという状態に打ちのめされる、その様子は就職氷河期世代という時代の空気とともに、同世代の共感も生むものであったとも思う。

だからといって、金バエは、いわゆる障害者の世界で年金をもらいながら作業所で生きていくには、出来ることやわかることが多すぎるという一面も持ち合わせていた。

金バエという男は、一般の世界で就労するには、出来ることやわかることが少なすぎるし、かといって障害者の世界で年金もらって作業所で暮らすには、出来ることやわかることが多すぎるし、かといって、容姿の世界で食べていけるほど優れてる容姿を持つわけでもなく……性別は男性なのもあって、いわゆる性産業従事者として生きることも難しい。
そして、ヤクザもんとして生きていくには、既存のヤクザの世界の中にさえ、取り込まれにくいような人でもあった。
それに、軽いうどんと思い込んでカレーうどんと天ぷらを頼んで食べて、のたうち回るようなところもあるので、いわゆるライター的な仕事は難しい面もあったかもしれない。
つまるところ、金バエという男がすぽんと収まる居場所は、昔からある場所には、存在していなかったのだ。

それもあってか、動画生配信というジャンルの世界にのめり込んでいった金バエという存在を、それを理解しきれないアンチが運んで広め、草の根的に知ったファンがついていき、いつの間にか、彼は、配信業だけで生計が成り立つくらい、人もお金も集まるようになっていった。
その中で、彼の本名や生年月日といった個人情報はバラされたり、色々と失ったものも多かったのかもしれない。

彼の仕事の配信業というのは、比較的新しい職種というか……その配信業が始まる時点から、ずっと配信業を続けてきた人間の一人なのだ。
これをレジェンドと言わずに何と呼べばよいのか。

なのに、彼自身は自分のプロフィールに無職と書くこともあった。さんざん、仕事じゃないだの無職だのと、配信内でアンチからコメントされてきたからだ。
生活保護も疑われていたかもしれないし、彼の生計の成り立ち方というのが不思議でしょうがなかったという人であふれていたのだ。
金バエという配信者の生計の成り立ち方は、大道芸人の生計の成り立ち方に非常に近い。
彼は、ただひたすら、自分の生きる姿を配信でさらして、コメントを見て反応する、それを見ている視聴者が、サイト内のアイテムを投げてみたりする。そのアイテムからの収益で暮らしていると言える。
とはいえ、配信業が始まった初期は、配信は本当に趣味の世界でしかなく、なぜか配信をする側がお金を出してチャンネルつくる有り様の仕組みだったし、無料で配信出来るサイトが生まれたが、配信するだけではお金や収益というものは生まれることがない仕組みだった。
今では考えられないほど、金勘定を全く感じられない仕組みだったのだ。
それもあって、無職っぽく見えたのだ。
生活保護を受けて税金をもらって生活しているにちがいないとさえ勘違いしては思い込む輩も存在していた。
しかし、実際は、そうではなかった。
彼の配信に心を動かされたファンの中には、食べ物を差し入れしたり、直接、銀行口座でお金を振り込むような人間もいたのである……。

私は、原初の芸能人のあり方に返っていったようにも感じた。芸能事務所なんてものもなく、組合もないような時代の芸能人って、こんなふうだったとも言えそうな。

そのうちに、比較的新しく立ち上がった配信サイトの中には、サイト側から配信者側へお金を渡す仕組みを用意したサイトが増えていった。
そして、配信サイト戦国時代が始まった。

配信者という仕事が生まれてきて、人々へ認識が広まっていったのだ。

そして、新しい配信サイトの収益の集め方の仕組みは、だんだんと……まるでオンライン上で、キャバクラやホストクラブをやっているかのような収益の集め方の仕組みを持つサイトも増えてきた。
それも、致し方ないと私は思う。
だって、これから新しく配信をはじめる人間たちには、金バエのような歴史的なストーリーは存在しない。
金バエが体験してきた、新しいジャンルを切り開くにあたっての苦しさや悲しさが存在しえないのだ。

そして、オールドメディアの中で宣伝されまくってきた既存の芸能人のような知名度も存在していない。

今から始める人間らは、ただ、若いだけだったり、ただ見た目が良かったりするだけの人の中で、大量にいる中で競争するポジションとなってしまった。だったら、昔から性風俗産業の一部で行われてきた、イベントという課金煽りのある仕組みにする方が、少ない集客力の人であっても仕組みに乗っかるだけで、それっぽいストーリーが出来上がるし、見ている人間が面白がってお金を投げるキッカケつくりも出来る。
その仕組みの中で、売上や順位の良い人らを選んで、タレントとして売り込むことも備えた仕組みにすれば、芸能関係の仕事が好きな人間がどんどん集まるようになっていったのだ。

そして、全世界での競争の中で、決定的に新しい概念も生まれていく。
ショート動画の登場である。
30秒以内で、映像や音声をまとめて出すことでまずは存在を知ってもらって集客の足がかりにしていく手法が確立していったのだ。
あまりにも多すぎる動画コンテンツの海が、いつの間にか出来上がっていったのだ。

すると、新しい世代の配信者たちに人の時間は移り変わっていき、関心も変わっていく。

それでも、金バエをずっと応援し、買い支えるファンがいつづけているという事実があるからこそ、金バエは12年間配信業一本で、生計を立てていけていたのだが、配信業でそれだけの人間を集めて会話し続けるというのは、かなりのストレスがかかる面もある。
彼は、お酒を飲み続けた。
主にビール500ミリ缶を18本くらい、毎日飲むという生活を続けた結果、アルコール性肝硬変になり、今、腹水がお腹にたまる状態となり、命の危険にさらされている。

いつの間にか、しょーもない動画も増えてきたのもあって、ただ平等に動画を見るような人間は貴重となったものだから、サイト運営は動画を見てくれるだけでポイントあげると言って、視聴者を集める戦略を取るようにもなっていった。正直、お金をもらったとしても、ずっと見るのはしんどくなる動画も数多い。一度見ては、スワイプしまくって、中には、面白い人もいるなぁという程度となってしまった。

そんな中でも、金バエは配信枠をあけるだけで、きちんと人が集まり、お金が飛ぶ人間である。
金バエは金バエであるというだけで、見る時間を割きたくなるだけの人なのである。
彼の人生、ヒストリーを生で見ていきたいと思うのは、それこそがある種の歴史に立ち会う瞬間でもあるからなのかもしれない。

追記
このところ、Tik Tokでバズった動画の実際の時間を調べたところ、アルゴリズム変更があったようで、一分以上ある長めの尺の動画の方を優先してオススメする方向性となっていました。
ショート動画の代名詞であったTik Tokでのこの変更は、重要な転換点かもしれません。
おそらく、長めの動画をしっかりと見てもらうことで、広告収入をつけやすくし、収益改善をしていこうとしているのでしょう。

他の記事も、色々と書いてきました。

なんか、金バエ様のおかげで、過去1バズってる予感がするので、私が今まで読んだ中で過去1面白かった記事もおいておきますね。


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