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真雪アナザー [1]

上野美術大学空間デザイン学科。
高校三年生の春、進路志望調査の紙にそう書き記し提出した。
一年前の高二の春には何と書いて提出しただろう。県内にある適当な国立大学だった気もするし親や教師そして一年後の自分に見栄を張り、少しの期待も添えて学力より背伸びした偏差値の大学を探して書いたかもしれない。
しかし今となっては取るに足らないことで、記憶を辿ろうとするのを意識的に止め、上野美術大学のホームページを映すデスクトップに意識を向ける。
提出したのは昨日のことだった、1ヶ月ほど経てば三者面談があるのだろう、タイムリミットはすぐそこだ。

真雪は春休み中に親に話すつもりだった。しかし夕ご飯の時に言おうと思えば喉が詰まり、寝る前に言おうと思えば親は寝ており、朝起きて言うには朝の頭は冴えが悪くて言い出せなかった。そんな日々が3週間弱過ぎて今強く後悔している。

そんなことを思いながら明日の予習をしていないことを思い出し、授業中に当てられないことを祈ったり沙衣にどう見せてもらおうか考えているといつの間にか意識は落ちて、目を覚ました頃には予習のこともすっかり忘れて、5分間二度寝をしようと意識を混濁の中で絶妙な位置に置くことに努力した...。
また目を覚ますと2分しか経っておらず今日は成功の日だ、と思いつつ起き上がることを受け入れた。カーテンから細く漏れる光の線が枕を射していることに気づきカーテンを少しだけ開け顔を近づける。そうだ、今日なら言えるんじゃないか、そんなことを朝一番に思えれる程に眩しすぎない太陽とはらりと落ちる桜の花びらを窓から眺め見蕩れる余裕が心にあった。

母が入れておいただろうコーヒーをマグカップにそそぎ簡単に朝の食事を済ませた。親がいない朝はイヤホンをつけながら食事を摂ったり歯を磨いたりできる自由があり好きだった。外に出ると眩しい太陽が眩しく木々を照らしていて気が滅入りそうになるが習慣化した動きをする身体に身を(心を?)任せて自転車に跨り坂を下っていく。

遠出の散歩