森家ファイト__ver1

1-9 偽りのアリバの目覚め

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 俺たちはまず、食品売り場コーナーをまわってみた。

 このあたりはどこのスーパーも変わらない。かごを下げたおばさんたちが、ゆうげの買い物を楽しんでいる。

 騒ぎはまだ全体へは広がりきっていないようだ。


キャラ (1)

「ハヤト。あれ」


 ナミが指さしたほうには、見慣れない栄養ドリンクの試供品が並べられていた。


キャラ (1)

「ココロにツバサを。アシタにユメを。『レッツ・プル』……?」


 へんなコピーが書いてある。新発売のエナジードリンクらしい。

「ちょうどいい。もらっておこう。これ、きっと役に立つよ」

 全部で五本あった。

    試供品を独り占めするのは気が引けるが、非常事態だ。仕方ないだろう。

 マユの姿はない。

 ナミの話によると、ナミには悪意を発見するレーダーのようなものが備わっているが、超強力な悪意であるマユは、自分の気配を消すことができるらしい。

 あれ以来、マユの『脳内放送』もない。

    俺たちはさらにアピロスの中を捜索する……。


bk_1_18_野間アピロス紳士服


bk_1_21_野間アピロスおもちゃ売り場


bk_1_14_野間アピロス2階中央



 アピロスは、専門店街とスーパーとの二ブロックに分かれている。

 一階には出入口がいくつかあったが、そのすべてが防火シャッターで閉鎖されていた。

 上は四階まで。最上階には『屋上遊園地』なんてもんがあって、大きくはないものの観覧車まである。

 騒ぎは、下から少しずつ少しずつ上階へと伝播していっている感じだ。

 大勢のひとが、不安げにうろうろし、小走りに駆けていく。

 紳士服売り場に行ったとき、突然、マネキンが動き出した。


pハヤト

「ナミ、危ねえ!」


 マネキンが繰り出した腕から、とっさにナミの身体をかばう。


pナミ

「ちょ、ちょっと! どこ触って……!」


「ナミ……。悪意って物にも憑依すんのか……?」

「いや! これは……マユが操ってるんだよ!」

「やれやれ、かくれんぼの次は鬼ごっこか! ぶっ壊してやるぜ!」


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 緩慢に動くマネキンに拳を叩き込む。

 人間相手じゃないから、遠慮はいらねえ……!

 さらに、ローキック。ミドルキックをお見舞いする。

 マネキンは腰のあたりからへし折れて、動かなくなった。


「なんだ。意外に手応えねえな」


(クスクスクス……)

 突然、マユの笑い声が脳内に響いた。いきなりやられると、心臓に悪いぜ……。


e_23_boss_23_リン (2)

(こんどはもっとくふうしなくっちゃ。がんばってね。お兄ちゃん)


pハヤト (2)

「くそ。遊んでやがるな」


 その後も、時々動き出すマネキンをぶっ壊しながら俺たちは進んだ。

『遊び』と称するマユがいかにも居そうな、ゲーセンや本屋、おもちゃ売り場なんかを調べるが、見つからない。

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 四階までをひと通り調べたあと、俺たちは一階へ戻った。

 今や、アピロスは大混乱だった。

 店内放送で、防災シャッターが制御不能になったことが告げられた途端、パニックが発生した。

『慌てないで落ち着いて行動してください』なんて言われたって、そりゃ無理だろ……。

 客たちは我先にと一階へ殺到していた。出口は一階だけだから無理もない。

    でも、上階に行くほどひと気がなくなって、捜索はしやすかった。


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「あとは。屋上遊園地だな」


「遊園地?」


「ああ。アピロスの屋上は遊園地になってるんだ。考えてみりゃ、そこが一番クサいよな」

「行こうよ」

 しかし、エスカレータも階段も混乱した大勢の客で埋まってしまっていて、まるで身動きはとれなさそうだ。

「まいったな……上に行けねえ」

「他にルートはないの?」

「そうだ。エレベータを使おう」

 エレベータも混雑していたが、幸い、立ち入り禁止のフロアにある従業員専用のやつは、誰も使っていなかった。

 関係者以外立ち入り禁止のドアからズカズカ進む。

    ナミは別に止めたりもしなかった。

    ここで変に「勝手に入っちゃダメだよ!」とか言うような生真面目なタイプじゃなくてよかったぜ……。

 ボタンを押す。

 チン。

 しばらくしてエレベーターが到着した。

    ナミが乗り込み、自分も乗り込もうとした瞬間、(クスクス)とマユの不気味な笑い声が耳に響いた。


「!? 待て!」


「え」


 ナミを抱きしめ、エレベータの外にジャンプした。

 ブッという不気味な音がして、ワイヤーの切れたエレベーターは闇に吸い込まれるように、アッサリ落ちていった。

 少し間を置き、すさまじい音と衝撃。


 (あっれー。ざんねーん。もうちょっとだったのにー)


「……………………!!」


 床に倒れ、ナミと抱き合ったままの俺の脳裏に、無邪気なマユの声が響いた。


キャラ (1)

「………………冗談じゃねえ……」


メインキャラ (12)

「……ハヤト……?」


 俺の腕の中でナミが顔を上げる。前髪がハラリと顔にかかっている。

「……乗ってたら……たぶん死んでた。……イタズラの域を、越えてやがる……」

 ナミを離し、立ち上がって俺は天井をにらんだ。

 あたかも、そこにマユが居るかのように!


もう……お尻ペンペンじゃあ、すまねえぜ! マユ!




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キャラ (10)

(おこったの? こ、こわくなんかないよ!)


 戸惑ったマユの声が響く。

 今や、俺にもはっきりと感じる。マユは上だ! 屋上だ!

 がしゃがしゃん!

 突然、通路の防火シャッターが落ちてきた。

(お兄ちゃんはもうそこから出してあげない!)

 がしゃがしゃん!

    俺の前後が重たいシャッターで閉じられる!


pハヤト

「どけ!」


 拳を放った。

 ばがんっ。シャッターがぶっ飛んだ。


pナミ

「え……!?」


 俺の目の前に、次々と防火シャッターが降りてくる。

「邪魔だ!」

 俺はそのシャッターをぶん殴って破壊する。


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「……うそ……」


 ナミが何か言ってるが、俺の耳には入らない。


「……許せねえ」


 身体の中に、マグマのように熱い何かが漲っていた。

 拳が、全身が、熱い。

「……マユは本当に優しい子なんだ」

「……………………」

「なのに、マユに、誰かを殺させようとしやがった。こんなことさせて、一番傷つくのはマユなんだ!」

「…………ハヤト……」


キャラ (1)

「これが悪意のせいだっていうんなら、俺は悪意を許さねえ……!」


 唖然とした顔のナミを横目でうながし、非常階段へと走る。

「マユのところへ行くぞ!」

 螺旋状の階段を駆け上がっていると、逃げ遅れたらしい客の青年と、大柄な中年のガードマンが、いきなり立ちふさがった。

 様子がおかしい。目が赤い。


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「フシャルルルルルルルウウウウ」

 ドス黒い吐息。悪意か!

 そのままの勢いで、ガードマンを殴りつけた。

 信じられないほど身体が軽い。頭の中でイメージした通りに身体が動く!

 俺のパンチで、悪意ガードマンは簡単にぶっ飛んでいった。


メインキャラ (12)

「やっぱりだ! ハヤトに……」


 はあはあ言いながら追いついてきたナミが何かつぶやいた。

 客の男がわけのわからない喚き声をあげて襲い掛かってくる。

 ガツン!

 まともにパンチを食らったが、たいしたダメージは受けていない。

 反撃のパンチを放つと、客は、マンガみたいにぶっ飛び、壁に激突して動かなくなった。


「……アリバだ! アリバが宿ってる!


e_23_boss_23_リン (2)

(へえ。すごいチカラだね)


 せせら笑うようなマユの声。

(でも、そんなのじゃ、マユはたおせないもん)


「倒す? ……お兄ちゃんはマユを倒すんじゃねえ」


(……じゃあどうするの?)

「救うんだ!」

(…………)


「俺はお前を絶対に助ける! 待ってろよ、マユ!」


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キャラ (10)

(…………まってる)


 ぷつん。脳内放送は切られた。

 たぶん、これが最後の脳内放送だと直感した。

「行くぞ! ナミ!」

 屋上へ。

 マユの待つ、屋上遊園地へ!


pハヤト




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