ハヤヤノミネ__4_

2-6 暴走西鉄電車

「……にわかに信じられない話だがよお……」

 ヤノはそう言うと、自分のグローブみたいな手のひらに、子供の頭くらいある拳をゴバッと打ちつけた。パアッと氷の結晶が散り、夏の強い光にキラキラ輝いた。

「……実際、こうして自分の中に不思議なチカラが宿ったのは感じるもんなあ。本当のことみたいだぞお」

 動物園はすっかり平穏を取り戻している。飼育員によると、すべての動物が無事確認されたようだ。なにしろ俺とヤノで片っ端からぶっ飛ばして気絶させたからな。

「まあそんなわけで、お前も手伝うの決定な」

「……ったく。強制かよお。相変わらず強引なやつめ」

「忙しくなるぜ? なにしろ、悪意と戦い、仲間を増やし、この福岡市を守らなくちゃならないんだからな。……余計なことに思いわずらってる暇はねえ」

「……余計なこと、か」とヤノはためいき。「……わかったよ。仕方ない。俺も手伝うよ」

「よろしく」

 ナミがぶっきらぼうに言った。戦いも終わり、また元のツンツン女に戻っちまったな。

「あ、ああ。ナミだったな。あらためてよろしく頼むぞお」

 そのとき、またも『ウーーーーー』と聞きたくない類のサイレンが遠くから聞こえてきた。役に立たないオマワリさんどもが到着したらしい。

「チッ。今ごろ警官隊のお出ましかよ」と俺は舌打ち。「ズラかるぞ、ヤノ」

「なんでだよお? 俺たちはみんなを守って戦ったんだぞ?」

「……オマワリどもに、悪意とかアリバとか説明するわけにもいかねーだろ? このままだと、むしろ俺たちに全責任を押し付けられるかもだぜ」

 俺たちのまわりには、倒したサルやチンパンやゴリラ、その他各種動物がノビて転がっているからな。しかもその直前に、俺とヤノで白昼のタイマンバトルを派手に繰り広げたのを大勢に見られてもいる。
 状況だけ見たら、俺たちが動物を逃がしたくらいに思われそうだ。

「……そ、そうか。確かにな。こんな話、誰も信じてくれないよなあ。俺だって、自分にアリバが宿らなかったら、ハヤトのいつもの妄想と思ったぞお」

「いつもの妄想は余計だっ」と俺はヤノの肩を軽く殴る。「とにかく、西門のほうから出るぞっ。あそこからなら逃げられる」

 言うが早いか、俺はダッと駆け出した。

「な、なんでハヤトって脱出経路に詳しいの?」

 俺のあとについて走りながらナミが呆れた声を出す。

「なにしろ、この男は、深夜の動物園に忍び込んだ前科があるからよお」

 ドスドス走りながらヤノが答えた。

「なにそれ……ふ、不法侵入?」

「夜の動物園がどんなふうか、いっちょ見に行くぜって……俺も無理やり付き合わされてよお。一歩間違ったら、新聞沙汰だぞお……」

「……バカだろうとは思ってたけど、そこまでだったなんて」とナミが絶句。

「……ナミもきっとこれから、ハヤトのムチャに振り回されてきた俺の苦労がわかるぞお……」ヤノもしみじみ。

「……へっ。あのとき、おまえも最初はビビってたけど、最後のほうは楽しそうだったじゃねえかっ」

 先頭を走りながら、顔だけ振り向いて言った。

「今回だってそうさ」

 俺は前を向いた。生い茂った夏の樹々の隙間から、午後の光に照らされた西門の看板が見えてくる。

「……いま、俺たちの前に、すげえ楽しいことが始まってるんだ。……きっと、一生忘れられない夏になるぞ」
 
 ◆

 動物園の西ゲート近くの植え込みから警察の包囲網を抜けた俺たちは、ハイソでお洒落な『浄水通り』を平尾駅(ひらおえき)へ向けて歩いた。ヤノはこのあと、友達と会う約束があるらしい。

『コミネ』と天神で落ち合うことになっててよう」

「そっか。まあ、アリバで福岡を守るって意気込んではみても、当面何をすりゃいいのか、俺自身も実はまだよくわかってなくてよ……」

 唯一事情を知る女がだんまりで、ロクに話を聞けてないからな……。
 当のナミは澄ました顔でテクテク歩いている。
 熱い日差しの中、動物園から必死こいて走ったもんだから、俺もヤノもすっかり汗まみれで男くせーってのに、美人のナミは涼しげだ。

「じゃあ、いったん別行動するか? これからの方針がまとまったら、ケータイにでも電話するからよ」

 駅近くの街路樹の日陰で立ち止まり俺は言った。平尾は緑の多い雰囲気のいい町だ。止まった瞬間、足元から煮られてるみたいな熱気を感じた。頭上ではセミがジージーうるさい。

「いや、コミネとも、合流したらハヤトの家に遊び行こうかって話してたとこでよお。どうせなら、みんな一緒に……」

 ピルルルルルルルルル。
 パーパパポピピー。パーパパポピピー

 ヤノがそこまで言ったところで、俺とヤノのケータイが同時に鳴った。

「……ん? 愚弟からだな」

「こっちはコミネからだぞお」

 俺たちは同時に電話に出た。

『あ、兄貴ぃ! たいへんだよっ』

「なんだ? やぶからぼうに」

『事件なんだ! 大事件っ。いまパソコン通信してたら、福岡市でとんでもない緊急事態が発生したらしくてよっ』

「またパソコン通信か? どうせデマだろ?」

『いや、今度のはマジもんなんだっ。目撃者も多数居る』

 ……チッ。まさか俺たちが巻き起こした動物園の騒ぎが、もうパソコン通信上に広まってやがるのか? あそこに常駐してる連中、耳の早さだけは感心するほどからな……。
 思わずヤノのほうを見る。
 ヤノの電話の相手は、俺たちの共通の友人コミネのようだったが。

「ええっ! それほんとかよお!? たいへんなことじゃないかよお」

 ヤノはヤノで何か慌ててるな。

「兄貴! 聞いてんのかよっ」

「……ああ。わりー。聞いてなかった。なんだっけ? まさか動物園か?」

『動物園? なに言ってんだよ。……だから、『西鉄電車』が暴走して、いま平尾駅あたりを爆走中なんだって! なんか運転手だか車掌だかがおかしくなったらしいぜっ!』

「な、なにい……!」

「は、ハヤトよお」とヤノは血相を変えた顔で俺を見ていた。「いまコミネが乗ってる電車が、なんか、暴走してるらしいぞお……!

「な、なんだってえええ」

「ハヤト!」ナミも叫ぶ。

「おまえまでなんだよっ」

悪意の反応だ! あっちのほう」とナミは平尾駅方向の電車の高架線を指さして「すごいスピードで横に移動してるっ。これってどういうことかなっ!?」

「……どうもこうもねえ」

 俺はそこまでの情報を総括し、結論を出した。

「……悪意にとりつかれた運転手だか車掌が、西鉄電車を暴走させて、そこに友達のコミネが、たまたま乗り合わせてるんだよ!」

「「ええええええええ!?」」

 動物園騒ぎに、今度は電車暴走かよ。なんて一日だよ……。

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