bk_5_3_シンデレラホール

5-3 仮装舞踏会と氷の微笑


 外に出ると、シンデレラパークは大混乱だった!


キャラ (3)

「あ、兄貴! ここに居たのかーっ! とんでもないことになってるぞ!」


キャラ (8)

「ハヤトさん! 大変ですっ。遊具が暴走して止まらなくなってるようです!」


キャラ (17)

「ハヤトさん。えらいことになりましたなっ。パーク中が、悪意の反応であふれかえっておりますなっ!」


 ごったがえす客たちの目つきがおかしい。東和の乱のときと同じだ! みんなアニメやゲームのコスプレ姿だけに、余計にシュールな感じだぜ……!


キャラ (5)

「ひでぶぅううううううう! ひでぶううううううううぅぅぅぅぅぅぅ!」


 冗談みたいな速さでレールを爆走するINABIKARIから、コミネの悲鳴がドップラー効果で聞こえてきた。


pカスガ

「ハヤトー」


 大柄な人影がドスドス走ってくる。


キャラ (6)

「いきなり係員が変になって、コミネとヤノが乗ったままのINABIKARIが止まらなくなったんだー!」


「……ああ。そのようだな」

 ヤノの悲鳴は聞こえねえ。すでに気絶してるんだろう。


pヤギハラ

「あのう……ハヤトさん……」


 物陰から怯えた顔の剣道着が現れた。

「ヤギハラ! おまえのほうは大丈夫だったか?」

「それが……その……なんか……ナミさんが……」

「ナミが? どうした!?」


キャラ22

「な、なななんか、ミラーハウスで、……さらわれたっていうか……ラチられたっていうか……」


キャラ (1)

「なにぃ!? おまえ、黙って見てたのかよッ!?」


「ウヒィッ……そ、その……あ、ああ相手は、か、カムラとカワハラだったもので……」

「あいつらが!?」

「か、カムラが、何かガスみたいなものをかがせて、ねねね眠らせていました……!」

 そのとき、園内放送のスピーカーから、居丈高な女の声が鳴り響いた。


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キャラ (5)

……ガッ……園内に居るものたちよ。私はアイスクイーン。この世界の新しい女王。すべてのものは私の前にひれ伏しなさい……ガッ


pシンジロー

「あ、あにきぃ……この声って……」


pハヤト

「……………………」


 くそっ。やっぱりお前なのか……ケイ!

『自らの本性を解放しなさい! 理性を捨て、本能とこのアイスクイーンにのみ従うのよ! これ以上本当の自分を隠すことなんかない。他人からどう思われようが、ぜんぶさらけ出すワケ! そして、園内に居るアリバとかってコシャクな連中を、三分以内にギッタンギッタンにしてやるのよ!』


e_36_boss_ケイ

……この放送を聞いてるスペシャルゲストさん。招待状は持ってるかしら? あなたの【大切な女性】と一緒に、舞踏会へのお越しを心待ちにしてるわ!』


 ガッ。放送は切れた。


キャラ (3)

「アニチ……行くのか……?」


キャラ (1)

「……ああ。【大切な女性】ってのが誰なのか、今はっきりわかったからな」


 パークの中央にそそり立つ、おとぎの国の宮殿を見すえる。


pハヤト

「……俺はそいつを取り戻さなくちゃならねえ……!」


 気がつくと、俺たちは園内の悪意……あらゆる人気アニメ・マンガ・ゲームのキャラクターに囲まれつつあった。

 自然、俺たちは固まって円になり、そんなコスプレ悪意どもと相対する形になっていた。


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キャラ (1)

「……みんな……すまねえがあとを頼めるか?」


キャラ (3)

「オウヨッ!」


キャラ (8)

「行ってください、ハヤトさん!」


キャラ (6)

「なんとかやってみるよー」


キャラ (17)

「ここは我らに任せるですなっ」


pハヤト

「アイスクイーンの支配下だけに、氷属性の敵が多いはずだ。まずは、風属性のクリハラを探して合流しろ。そしてなんとかINABIKARIを止めて、コミネを助け出せ! この局面、風の大将が居ねーと話にならねえ。あいつを中心に隊列を組んで戦うんだ!」

 ジリジリと間合いを詰めてくる悪意をにらみながら俺は続けた。

「シンジロー、シモカワ。テンション上げすぎんなよ! 氷属性相手だと、おまえらは分が悪い。まだ正気の一般人の保護に専念しろ!」


pシンジロー

「わかったよ兄貴!」


pシモカワ

「うおおおぉぉぉし! 情熱スイッチオォォォン!」


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「カスガっ。おまえも火属性だが、ステータス的には一番タフだ。コイツらを守ってやってくれ!」


pカスガ

「おーう。おれがみんなの壁になるー!」


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「それからヨシオ。風属性といってもクリハラは未熟だし、ヤギハラは戦力として正直微妙だ。こんなときこそおまえの電波が頼りだ。頼んだぜ」


pヨシユキ

「ウイ、ムシュー!」


 俺は、カスガの背中に隠れるように怯えるヤギハラに声をかけた。


キャラ (1)

「ヤギハラ」


キャラ22

「にぎゃっ……は、ハイッ」


「さっきはああ言ったが、いまこの場で風属性はお前だけだ。できることでいい。力を貸してくれ」

「は、ハヤトさん……」


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キャラ (1)

「……じゃあ、始めるとするかっ! パーティに遅れちまうからな!」



 悪意どもが一斉に襲いかかってきた!

 先行する仲間たちがそれを迎え撃つ!


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 突破口が切り開かれる。俺はその一瞬の空隙を駆け抜けた!


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風景 (44)


風景 (45)


 パレスに近づくにつれて、気温がどんどん下がっていく。

 尖塔と白亜の壁は、紫色のまがまがしいオーラに包まれたイバラの城のようにも見えた。

 大勢の悪意が暴れる園内を駆け抜ける。目指すは、淡く光り始めた夏の夕空にそそり立つシンデレラパレス!

 跳ね橋を渡り、戦車でも通れそうな巨大な扉の前に立つと、待っていたように、分厚い扉がギイイイッと開いた。

 城内は虚ろな仮装舞踏会の真っ最中だった。

 華やかなオーケストラがBGMを奏で、テーブルいっぱいに、スナック菓子やジャンクフードが並んでいる。

 キラキラ輝くシャンデリアの下、宝石のようなグラスには安っぽい高アルコール飲料や健康に悪そうなジュース。

 そして城内には、霧のように冷気がまん延していた。

 冷気の中で、手に発光材を持ったコスプレ連中が、シャカシャカした奇妙な動きのダンスを一斉に踊っていた

 その姿は、アニメやマンガのキャラクター

 楽団が奏でるのは、アニメの主題歌やBGM。

 誰もが目に精気がなく、ぼんやりしている。

 まるで醒めないどうしようもない夢の中に居るように。

 俺にはまったく興味のないアニメや漫画。だが、ここに居るヤツらは、その世界に浸るのが何よりも望みらしい。

 俺の嫌悪感を敏感に感じたのか、オタク悪意どもが同時にこっちを見た。

 その赤い瞳には、自分たちの世界を否定する人間に対しての、あからさまで攻撃的な敵意!


キャラ (1)

「チッ。よくできた幻想の世界にこもって、ずっと都合のいい夢だけ見て、誰かの作ったキャラを借りて……お前らそれで満足なのかよ!」


 襲いかかってくる悪意たち!

 俺はかたっぱしから、そいつらをぶっ飛ばしていく。

 だが、ゾンビのような悪意たちは、あとからあとから湧いて出てきやがる。その圧倒的な人数に、俺は背筋が凍る思いだった。

 くそっ。いつからこの国は、こんなヤツだらけになっちまったんだよ……。

 ラチがあかねえっ。ムキになって相手にするだけ時間のムダだ。

 俺は先を急いだ。

 虚ろな目をした悪意どもは、執着心は薄いらしく、すぐに俺を追うのをあきらめ、フラフラとまた夢のパーティーに戻っていく。


画像14

「よよよ、ようこそ……いっ、いっ、いらっしゃいましたっ。アイスクイーンがお待ちです」


 執事服を着たカワハラがいきなり現れた。

「……………………」


キャラ (18)

「ひえっ……ハヤトさん、マジで怒っとるやんっ」


キャラ (1)

「…………てめえ、よくもノコノコ俺の前にツラ出せたな」


「ひぃぃぃぃいいい」

 カワハラは、不思議の国のウサギもかくや、というスピードで逃げ去った。チッ。レベル2必殺技【脱兎】かっ。

「待ちやがれッ」

 カワハラを追いかけ、さらに奥へ。

 石の階段を上り、赤いジュウタンの通路を進み、大きな扉を蹴り開ける。

 謁見の間に出た。

 奥行きのある暗い室内には、ぽつぽつと道案内のように、オレンジ色の燭台が連なっている。

 その二列のオレンジの光。その向こうの豪華な椅子に、アイスクイーンが座っていた。頬杖をつき、気だるげな顔でうつむいている。

 その優美なドレス姿には見覚えがあった。

 俺たちが初めて出会った日の、あのコスプレ衣装。


メインキャラ (67)

「……あら。早かったわね。ちゃんと一時間以内じゃない。あんたが私の指示した時間を守るなんて、初めてじゃなあい? ……本当に【大切な女性】ってワケね」


 アイスクイーンが顔を上げた。

 真紅の双眸が怪しくきらめく。

 そして……氷の微笑。


pハヤト

「お招きにあずかり光栄だぜ、アイスクイーン。……大切な女を返してもらいにきた」


pナミ

「ハヤト!」


 声のしたほうを見ると、巨大な氷の柱に身を埋め込まれたティンカーベルが、囚われていた。

「ナミ!」

「……こめん……ボク……油断して……」

「大丈夫だ。気にすんな」

「みんなは……?」

「パークのほうを任せてある。ここへは俺ひとりで来いってクイーンからのお達しだったからな……!」

「……ダメ……このひとは……アイスクイーンの悪意は……ありえないほど強い……無属性のハヤトじゃ、絶対に勝てない……!」

「……………………」


メインキャラ (12)

「か、風属性のコミネさんやクリハラくんでないと……まともな戦いにすらならないよ……」


「……それでも……」

 俺は言った。


キャラ (1)

「……コイツだけは他のやつには任せるわけにはいかねーんだ。俺自身が決着をつけなくちゃダメなんだよっ!」


e_36_boss_ケイ

「ハイハイハーイ。盛り上がってるとこ悪いわねえ」


 苛立たしげな笑顔でアイスクイーンが割って入る。


キャラ (5)

「女王を無視して、イチャつかないでくれるかしら? 舞踏会の主催者として、おもてなしさせてもらわないと……まずは、我が親衛隊長と戦ってもらうわよ」


キャラ (1)

「親衛隊長? どうせカムラだろ?


キャラ (192)

「…… (ギクギクッ!)」


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 大広間の太い柱の陰から気配がした。


pハヤト

「……カムラ。今なら、2/3ゴロシで済ませてやる……。こんなことになっちまったのには、俺にも責任がある。おまえらばかりを責められねえ。けどな、これ以上俺の敵に回るなら、三倍ゴロシじゃ済まねえぜ……!」


 物陰からいきなり、蝶ネクタイにタキシード姿の巨体が、もみ手しながら転がり出た。


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pカムラ

「は、ハヤトさん。誤解ですって! 俺は最初からハヤトさんの忠実な手下ですって! ダブルスパイとしてアイスクイーンに取り入り、危険もかえりみず情報収集を敢行しましたぜっ……!」


e_36_boss_ケイ

「あ。コラ、カムラ! あんたなにソッコーで裏切ってるワケ!?」



 息を切らせながら俺のそばに来たカムラは、卑屈な顔で耳打ちしてきた。


キャラ (192)

「……このカムラめがつかんだ情報によると、どうやらアイスクイーンは、まだかなりハヤトさんに未練タラタラのご様子……」


 ドゴンッ!

「ぐええっっっ!!!」


pハヤト

「だまってろ」


 カムラはそのままゴロゴロ転がって消えた。


キャラ (1)

「さあ、お次は何をする?」


キャラ (5)

「……じゃあ本題に入りましょうか。あんたに提案があるのよ」


「提案?」

「どう? 私たちで手を組まない?」

「……………………」


画像18


キャラ (5)

「私は悪意。あんたはアリバ。お互いすごいチカラを持ってる。そんな私とあんたが組めば、怖いもんなしってワケ。福岡市のすべてを支配することだってできる。そしたら、あんたには、その半分をあげてもいいわ。私たちがふたりで福岡市に君臨するのよ。王と女王として。永遠にね」


キャラ (1)

「……………………」


「どう?」

「どう……って、なんだそのつまんねー提案は。福岡市の半分? いらねえよそんなもん。アホか」

「……ムカムカッ! あ、相変わらずね……」

「ゴタクはもういい。そろそろケリをつけようぜ、アイスクイーン」


キャラ (5)

「……どうしてもやるってワケね……大切な女を助けるために」


 ねめつけるような暗い瞳。憎悪の真紅が灯る。

 ドス黒い冷気を噴出させながら、アイスクイーンはユラリと玉座から立ち上がった。


キャラ (1)

「ああ、その通りだ。……俺の大切な女を……ケイを、返してもらうぜ! アイスクイーン!」


e_36_boss_ケイ

「!!??」


pハヤト

「……ケイ! 俺はおまえを必ず助けだす!」


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