森家ファイト__ver1

1-11 風の妖精 遊園地に舞う

 アピロスの屋上遊園地はまったくの無人だった。

 安っぽいスピーカーからポップなBGMが流れる中……

 誰も乗せていないメリーゴーランドやコーヒーカップが、もの悲しげに動き続けている。

 日暮れの空は、燃えるように赤い。

 マユは、そんな落日に照らされて、ひとり、ベンチに座っていた。


キャラ (1)

「……マユ、みいつけた」


キャラ (10)

「……お母さんがね、マユはいらないっていうんだ」


「………………」思わず歩みを止める。

「マユのせいでお父さんとケンカばかりしてた」

「……………………」

「……ともだちもマユがキライだっていうんだ」

「……………………」

「いいコぶって、マジメで、ウザいって」

「…………マユ」

「クラくて、いっしょにいてツマんないって」

「マユ。俺は……」

「…………みんな、マユが、じゃま、なんだ」

 ゆっくりと立ち上がるマユ。

 さっきから一度も顔を見せない。

 強烈なプレッシャーを感じ、俺の肌が粟立つ。

 ヤバイぞ。本能的にそれを感じている!


e_23_boss_23_リン

「…………どうせ、おにーちゃんも、心の底ではマユがじゃまなんだ」


pハヤト

「マユ! 俺は……!」


「……きらい

 きらい、きらい、きらい。

 だあーーーーいきらい!

 おにーちゃんもお母さんもお父さんも学校のみんなも、みんなみんなだいきらい!
 みんな、みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな! こわれちゃえーーーーー!!!!!!!」


画像1


pナミ

「来るよ! ボス戦だ!




「くそ。やるしかねえのかよ!」



 薄ら笑いを浮かべたマユがこっちを見る。

 今まで出会った悪意同様に、目がらんらんと紅く光っている。

 でも、俺にもわかるぜ。マユの悪意は、これまでの奴らと全然違う!


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「風さん風さんこっちにおいでー。わたしといっしょにあそぼうよ」


 歌うように両手をかざすマユ。

 その声に呼応するように、旋風が巻き起こった。

 綺麗なツインテールや可愛らしい緑のワンピースが揺らめく。

 やがて、風に包まれたマユの身体が、ゆっくりと浮かび上がり始めて……


「ていうか、浮かんでるぞマユ!」


「み、見ればわかるよっ」


「ありえねえだろ!」

「信じらんない……」

「お、おれもアリバで同じようなこと、できんのか!?」

「ハヤトにはムリ!」

 ナミは俺にアリバがあると言った。

 けど、宙に舞い上がるほど人間離れしたマユと渡り合えるチカラなんて、本当に俺にあるのか!?


「あっ。情報がアップデートされたよ!」


 ナミがいつのまにか取り出したタブレットを見ながら叫ぶ。

「あれは、マユのレベル1必殺技【シルフィーコール】だ!」


「どんなワザだそれ!」


「【シルフィーコール】は風の属性力をさらに高める能力上昇系の技みたいっ。マユは『風属性』なんだ!」

「風属性? 属性ってさっき階段で言ってたやつか!?」

「でも……こんなにすさまじい風属性だったなんて……ヤバイよ! 想像以上だ! やっぱりマユの悪意は普通じゃない!」

 今や、マユを中心に強烈な風が吹き荒れ、まともに立っていられないほどだ。

 風はうなり、街路樹は左右に大きく揺れ、看板やバケツ、空き缶が転がっていく。

まるで巨大な台風が直撃したかのように。


「くそっ。わけわかんねえ! だいたい属性ってなんだ!?」


「アリバの持ち主も、悪意に憑りつかれた人間も、必ず属性を持ってる。『火』『氷』『風』の三種類本人の性格的傾向でそれが決まる! で、その属性には相性があるんだ。マユは風属性だから、氷に強くて、火に弱い!」


「そんなとこまでゲームかよっ。でも、そういうことなら、すぐ理解はできるぜ」

 いわゆる三すくみってヤツだろ? ゲームじゃお馴染みだ。


キャラ (1)

「……それで、俺はなに属性なんだ!?」


メインキャラ (12)

「ハヤトは……」


「火属性ならいいが、相性の悪い氷属性だとちょっとマズいんじゃねえか!?」

「うん。あんなに超強力な風属性、氷属性だと瞬殺されるよ!」

「げっ。マジか!」


キャラ (10)

「おにーちゃん。マユとあそぼ?」


 マユが小首をかしげ、愛らしくはにかんだ。

    それは、笑いながら小動物をバラバラにする子供のような、無邪気な狂気を含んだ顔だった。

「これ。かわせるかなあ」

 マユのまわりの風の流れが変わった。無数の細かいつむじ風が生じた。

 信じられないことに、本来見えないはずの空気の渦が、はっきりと緑色の刃として俺の目に映っていた。

    それだけで、マユの風の力の物凄さがわかる。


「おにーちゃんならきっと大丈夫だよね。ちゃんと避けてね。あんまり早くバラバラになっちゃったら、つまんないから」



「ハヤト! マユのレベル2必殺技が来る! 【エルフィンダンス】だ!」


「……技の説明は要らねえぜ……」


 マユの小さな身体のまわりに無数の風の刃が生じている。

    あれが一斉に飛んで来るのは、説明を聞くまでもねえ……!

「ナミ! それで俺の属性は!?」

「わかんないよ! おかしいんだ。表示されない! こんなの変だよ!」

「けど、このままじゃ……」

 マユは、文字通り風とダンスでも踊るように、ゆらゆら空中で揺れている。


「ハヤトもレベル2必殺技を使って! 【集中】!」


 集中。そういや、さっきタブレットに表示されてたな。ムラッ気のある俺がヤル気を出して潜在能力を発揮とか。

 まったく余計なお世話な説明文だが、今はそれに頼るしかねえ!

「集中は特殊防御力を上昇させるから、風の攻撃にもある程度は耐えられるかもしれない!」

 俺は、目をつぶり、深呼吸した。意識を深い場所にまで沈め……


画像3


 くわっと目を開く。

 ふいに視界が狭まり、まわりの音が遠くなった。

 自分の意識が鋭く研がれるのを実感する!

 頭の中で一瞬火花が散り、パンッと音がした気がした。


「……こいつが集中かっ」


「もっとだ! もっともっと集中して!」


 さらさらの髪を風にあおられながら、目を細めたナミが鋭く叫ぶ。

「もっと?」

 そういえば、タブレットに『重ねがけ可』って表示されてたな……。

 幸い、マユは風と戯れるように空中で踊っている。まだ少しだけ時間の余裕はありそうだ。

 俺は、静かに息を吐きながら、意識の奥の、さらに深部へと潜っていく。

 パンッ! また同じように頭の中で火花が散った。

「まだイケる! ハヤトの本気はまだまだのはずだよ!」

「おう!」

 ダテにガキの頃から、通信簿に『ハヤトくんはヤル気さえ出せばすごいんですが……』って書かれ続けてねえぜ!


e_23_boss_23_リン (2)

「ふうん。なんかおにーちゃん、コワい顔してるねー。かっこいいー!」


 こそぐったいくらいに愛らしい声が、逆に怖い。

「じゃあマユも、もっともっと、もぉーーーーっとチカラを出すねっ」

 烈風が吹き、マユの身体がさらに上昇していった。

 その高さはすでに地上から十メートルはある。

 出来の悪いアクション映画のような、非現実的な光景だ。


「風さん風さん根こそぎあつまれー」


 マユが無邪気に語り掛けた。

    まるで、エサをもらいにきた鳥たちにでも話しかけるみたいに。

「マユといっしょに、おにーちゃんをカイタイしよーよ」


pナミ (2)

シルフィーコールの重ねがけ!? ずるい! そんなのチートじゃないかっ!!」


 ナミの悲痛な叫び。

 カイタイって、解体か!? 冗談じゃねえ!


「ナミ! 隠れてろ!」


 荒れ狂う風の中、俺は怒鳴った。

    ナミはとっさに、メリーゴーラウンドそばの、電話ボックスみたいな係員控室に飛び込んだ。


「おにーちゃんのナイゾウって何色かなあ?」


 くすくすくす。

 酷薄な天使のようにマユは笑い、両腕を俺に向けて振り下ろした。

 その瞬間、

 舞い上がったマユのまわりに生じた無数の緑色の刃が……

 一斉に俺に向かって飛んできた……。



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