森家ファイト__ver1

2-3 タイマンモード

「ヤノ!」俺は鋭く叫んで詰め寄った。「おまえってやつはホントに情けねーな。そりゃフラれて当然だ。俺が女でもおまえにゃ愛想つかすぜ!」

「い、いきなりなんだっ。おまえには言われたくないぞお」

 俺はさらに挑発。

「一度ガツンと言ってやろうと思ってたんだよ」

「うぬぬぬぬ」

 悪意に憑りつかれる寸前だからか、普段はめったに怒らないヤノの柔和な顔に怒気が満ちる。

「おまえはいつもそうやって謎の上から目線だっ。自分だってフラれるとすぐ鴻巣山に引きこもるくせによお」

 グサッ。痛いところを突かれた。

「うるせえ! 俺はすぐに立ち直って前に進むからいいんだよ!」

「そんで、すぐ相手をコロコロ変えるってか!? 今度はその子かよお」と太い指でナミを指さす。ナミは、リスみたいな目で自分を指さし「わたし?」という顔。

「ナミはそんなんじゃねえ!」

「おまえのその自分勝手さが、いつも女を傷つけるんだぞお!」

 ずっぎゅーーーん。
 俺の胸を特大の矢が貫いた。
 一気にヒートアップ。こっちこそ悪意に目覚めちゃいそうだぜ。
 その言葉で弾かれたように、俺は間合いを詰め、ためらいなく必殺パンチを繰り出した。

 ゴグッ!
 俺の拳はヤノの顔にめり込む!

 ……が、ヤノは少しのけぞっただけだ。
 くそっ。悪意をぶっ飛ばしてきた俺の必殺技なのに、コイツほんとに生身の人間か?

「な、なにすんだよお」とヤノはさすがに戸惑っている。

「かかってこいよ! 白黒つけようぜ!?」俺は手のひらをクイクイ。

「け、結局は暴力か? ったく、おまえは俺より力弱いくせに、いつもそうだなっ」

「男の強さは腕力じゃ決まらねーって、弱いおまえが自分で証明してるじゃねーか!」

「もう許せん!」ヤノが魔人のように両腕を振り上げた。

 俺もすかさず厳冬流の構えで戦闘態勢。
 ナミがどこからか取り出したゴングをカーンと鳴らした。

「宴が始まる……『タイマンモード』だ!」

 そんなナミのわけのわからない叫びに、タイマンっておまえいつの生まれだーーーと内心でツッコミながら、俺はヤノの巨体に突っ込んでいった。

 ◆

「だいたい、俺はな、あのサユリって女が嫌いだったんだよ!」

 叫びながら、体重を乗せたパンチをヤノにぶち込む!

「愛想もわりー、口もわりー、おまけに、俺のこと社会不適合者の残念なオトコみたいな目で見やがって!」

 ボガッ! 動きの鈍いヤノにクリーンヒット。
 しかし、ヤノの巨体にはたいしたダメージを与えてない。

「さ、サユリを悪く言うのは、ハヤト! いくらおまえでも許さんぞおお!!」

「へっ。どう許さねえんだよ!? あんなメンヘラ、おまえと別れてせいせいするぜ!」

「ぬがあああああ!!」

 ぶうん、と巨大な拳が飛んでくる!
 遅せえっ。俺はそれを難なくかわす。

「けどな、俺が本当にムカつくのは、そんな女にフラれてウジウジ動物園に入り浸ってるおまえだ!」

 言いながら左右のワンツー。
 ズゴッ。ズゴンッ。どっちもクリーンヒット!
 さすがにヤノは膝をついた。
 いつのまにか、俺たちのケンカの見物客がまわりに囲いの円を作っている。

「ハヤト!」円の中からナミが叫んだ。

「止めんじゃねえ! まだまだコイツには言いたいことがあるんだ!」

「止めないよ! もっとやれー!」とナミ。「『タイマンモード』は、相手の身体より心を屈服させるバトルなんだ! ただ殴るだけじゃダメ! 言葉をしっかり相手にぶつけて、気持ちで叩きのめすんだ!」

「つまり、口喧嘩しながら殴るようなもんか!?」

「そう! それが『タイマンモード』!」

「ったく、また新しいワードかよ……! ……これ終わったら、そのタイマンなんとかも説明してもらうぜ!?」

 話している間に立ち直ったのか、ヤノが口を手でぬぐいながら、ユラリと立ち上がった。

「……さっそく新しいオンナと仲良さそうだな……」

 暗い瞳で俺をにらみつつ押し殺した声を出す。

「……ケイの気持ちも知らずによお」

 その名前に俺の全身が硬直した。

「ケイがどれだけ思い悩んで俺に相談してきたか、おまえ、全然わかってないだろうがよおおおおお!」

 俺をフッたケイがヤノに相談? なんだそれ?

「ハヤト!」

 ナミの叫びで我に返ると、もう目の前には丸太のようなヤノの拳。

 ごっぎーーーん!!

 首がもげるかと思うほどの衝撃!
 ぶっ飛んで地面をゴロゴロ転がった。
 俺の身体はアリバで強化されているはずなのに……。まるで建設重機で吹っ飛ばされたみたいな威力だった。
 なんとか態勢を立て直して立ち上がる。だが、頭上でヒヨコが踊り、膝から下が笑ってる。

「……ケイがおまえと話しただと?」

「おう。向こうからどうしても相談があるって言われてよお」

「気に食わねえな」まったく気に食わねえ。気に食わねえ!「……こそこそしやがって、俺に言いたいことがあるなら、直接言えばいいだろうがよ!」

 全身に怒りが満ちた。俺はその怒りを燃料にしてヤノに突っ込んだ。
 ドガッ。ヤノは俺の拳をまともに食らった。避けようともしなかった。
 パンチを撃ったまま固まった俺に、カウンターの巨拳が襲い掛かる!

「それができないから、あのプライドの高いケイが俺なんかに相談してきたんだろうがよおおおおおお」

 ゴガーンッとぶっ飛ばされながら、ヤノの雄叫びを聞いた。

 砂煙を立てながら俺は地面を転がり、野次馬どもの人垣にぶつかって止まった。
 すぐに立ち上がり、血の混じった唾を吐き捨て、ヤノに殴りかかる。
 体中の骨がバラバラになったようだったが、構わず突っ込んだ。

 それからあとは、もうひたすら殴り合いだった。
 アリバとか悪意とか、そういうのはもうどうでもよかった。互いに譲れない、男の意地だけがあった。相手の攻撃を避けることももうなかった。
 俺たちは互いに棒立ちになったまま、ただ、ただ、相手目がけて拳を振るった。振るいながら、思いをぶちまけた。

「だいたいおまえは昔からリーダーきどりでエラそうなんだよおおお」ドゴン。

「やかましい! 俺が引っ張ってやらねえと、殻にこもって何もしねえくせに!」バキッ。

「暴走するおまえを陰で支える俺やシンジローの身にもなってみろお!」ゴインッ。

「あ? おまえら、俺が居ないとひとりじゃ何もできねーボンクラだろうが!」シュガッ。

「ケイだって、ハヤトが何を考えてるか全然わからないって、寂しそうにしてたぞおおおお!!!」モガンッ。

「それでふたり仲良く俺の知らねえところでコソコソ会ってたわけか!? いっそおまえらが付き合っちゃえばどうだ?」ズギャッ。

「そういうところだぞ!」がつん。

「うるせー!」ズカッシュ。

 そこが真昼の動物園であることも、まわりにワラワラ見物客が居ることも、何よりナミが居ることも忘れて、俺たちはわめき合い、殴り合った。
 アリバで強くなった俺と、人間離れした巨体のヤノ。
 五分五分の殴り合いが続き、俺たちは疲労困憊、ふたりともフラフラで、立っているのがやっとだった。

「ヤノ……よぉ」

 ぷうんと俺のパンチはもはやハエが止まりそうなスピードだった。
 ペチ。ヤノの顔に情けないくらい弱々しく当たる。

「な、なんだよお……」とヤノもパンチを返すが、それは明後日のほうで空を切った。

「お、俺たちみたいに……フラれちまった男にできることはよ……」

 もはやどこを殴っているかもわからないが俺は精いっぱいの声で言った。

「……せいぜい、強くなって、カッコいい男になってよ……自分たちをフッた女、見返してやるくらいじゃねえか?」

「………………」

「俺はそうするつもりだぜ……この力、アリバで、福岡市を守る」

「ありば……?」

「ああ。だからよ」

 俺は最後の力を振り絞った。
『集中』パンッ。パパンッ。頭の中で光が爆ぜる。

「……これで決めさせてもらうぜ」

 一瞬、ナミを見た。ナミも俺を見て、コクコクと頷いた。
 俺は深呼吸して最後の集中を完成させた。
 パシンッ! コンセントレイトモード発動!

「目を……覚まし……やがれえええええええ!!!!」

 叫びながら、俺は、ヤノ目がけて、渾身のパンチを叩きこんだ。


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