はじまりの夜

1-1 鴻巣山に落ちた隕石


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 海と山に挟まれた、のんびりとした町、福岡市。

 鴻巣山《こうのすやま》展望台は、そのちょうど真ん中にある。

 雑木林の道を歩き、鉄骨の展望台を上がると、そこからは、福岡市の綺麗な夜景が一望できる。

 見上げる夜空には、満天の……とまではいかないものの、それなりの星の輝き。

 いい場所なんだが、夜に訪れる人間はあまり居ない。というか、俺以外に見たことはない。

 もし、この展望台でひとり、星空と夜景を眺めているような女の子に出くわしたら……

 俺はその場でプロポーズしちまうだろうな、きっと。

 申し遅れたが、俺の名前は『ハヤト』。二十一歳。福海大学の三年生だ。


キャラ (1)


 俺はこの展望台によく来る。
 
 まあ、主にフラれた時なんだけどな。はは……。チクショウ……。

 ケイ……。

キャラ (5)


 ケイってのは、俺の最新の黒星。ついさっきフラれた女の名前だ。

 艶やかな髪に、涼しげな瞳の、女王サマ系美人。

 小さいながらも劇団に所属していて、ヒロインを張ることも珍しくない、気品に満ちあふれた女だ。

 それだけに、俺のフリ方も実に堂々としたものだったぜ……。


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『あのね、ハヤト』


 ケイは肩にかかった髪をバサリと後ろにやりながら流し目で言った。

『私は、アンタの理想の女じゃないワケ。そういうの押し付けられるの、はっきり言って迷惑なワケ』

 俺は別にそんなつもりはなかったのに。


キャラ (5)

『それじゃあね』


 ……それで、数か月の俺たちの付き合いもアッサリ終わりだ。

 理想を求めるな、か……。

 思わずため息。夏とはいえ、深い緑に囲まれた夜の展望台には、涼しい風が吹いている。そして静かだ。

 ふと、夜空を見上げる。

 俺の頭上で、星が強く瞬いた。

 お。流れ星か。珍しいな。急いで願いごとしなきゃ。

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キャラ (1)

「理想の女の子と出会いたい!  理想の女の子と出会いたい!  理想の女の子と出会いたい!」


 目をつむって、早口で三回。

 ケイにえぐられた俺のハートを癒すには、次のステキな出会いしかない。流れ星にも祈るってもんだぜ……。

 ふと目を開けると、流れ星はまだ流れていた。ずいぶんと長いな。

「……って」

 ちょっと待て……なんか……だんだん大きくなってきてるような………

 ていうか、こっちに落ちてきてねえか!?

 流れ星……というか隕石は、もう、赤く発光する表面の岩筋まで見えるほど間近だ。

 あわてて背を向け、三階建ての展望台から駆け下りようとした。

 そんな俺の背後がカッと輝き、衝撃波と熱風が背中から襲いかかる。


pハヤト

「うわあああああああああ!!」


 見えない巨大な力で俺の身体は紙くずのように舞いあげられ……

 そして意識は、闇の中へフェードアウトしていった……。

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