森家ファイト__ver1

2-5 そして初めての仲間


 俺はただ前に出て、思うままに立ち回ればいい。

    あとは、後ろからヤノが適当に合わせてくれる。

    それがいつもの俺たちだ。


 目についたサルの一匹をロックオンし、ダッシュしながら集中。

 パンッ。パパンッ!

「キャキー!」


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 サルが歯をむき出し引っ掻いてくる!

 遅せえっ。俺はそんなサルに必殺パンチをぶち込んだ!

 サルはバンザイしたまま『くの字』のポーズで飛んでいき、街路樹に当たると大人しくなった。

 続けて飛びかかってくるサルやチンパンジーを、次々に必殺パンチで撃退していく。


pナミ

「ハヤト!」


 数頭のシマウマが、俺のまわりを取り囲むようにすごいスピードで走る。

    その背中には、大量のムカつく顔をした赤い目のモンキーたち。

 いつのまにかすっかり囲まれてやがるっ。ケモノのくせに上手に連携しやがって!


pヤノ

「フンガッ!」


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 低い声とともに、パキンッとガラスの割れるような澄んだ音が響いた。

 目の前でキラキラと氷の破片が散り、シマウマとサルがまとめて地面になぎ倒される!

 思わず口笛を吹いて、ヤノの氷の一撃に感心した。

    これが、アリバの『属性』か。確かに、俺のチカラとは何かが違うぜ……。

 なんつーか、俺のは、ただ殴るだけで原始的というか……。

「ンキャーホッ! ンキャーホッホ!」

 そんなヤノにたかるハエのように、チンパンジーどもが数匹襲い掛かった。

 ヤノは剛腕を振り回すが、敵の素早さに翻弄されている。

 パパンッ! 敵の目がヤノに向いている間に、最後の集中が完成した。

 コンセントレイトモード発動!

 集中した俺には、チンパンどもの動きもスローモーに見えるぜっ。

 「そらよっ!」


 ヤノの周囲を猛スピードで跳ねまわるモンキーズを、冷静に一匹ずつ撃ち落としてやる。


「来るよっ」


 避難民を安全な場所へ誘導していたナミが、そばに来て叫んだ。

 そんなナミを、俺とヤノが壁になって守る。

 そして、ローランドゴリラが……

 ゆっくりと静かに、俺たちへ近づいてきた。




 なんて貫禄だよ……歴戦の軍人のような猛々しい雰囲気だぜ……。

    瞳は赤く、よく見ると、全身から薄い炎のようなオーラを発している。


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「……彼は怒っている。同胞をオリに閉じ込め、自分の自由を奪ってこんな場所に連れてきた人類に……怒りを燃やしている!」


キャラ (1)

「……で、悪意にとりつかれたってわけかよ。たしかにその境遇には同情するぜ? けど、だからってここで暴れたって、関係ないひとたちが犠牲になるだけだろ? とくに罪のない子供たちがなっ」


 周囲を見渡す。敵の数はだいぶ減らした。客たちの避難もあらかた済んでいる。


「よし! 残りのザコは俺がやる。ヤノはアイツを止めてくれ!」


「ホキョエアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


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 いきなりゴリラが叫んだ。

 鼓膜が破れそうなほどの大音量。皮膚や服までビリビリ振動している……!

 と思ったら、瞬間移動したかのような速度で、ゴリラが間合いを詰めてきた。

    速ぇ! これが野生のダッシュ力かよ!?

 ゴリラはためらうことなく、ナミを狙った。

    そんなナミとゴリラの間に立ちはだかる巨体!


「……憤ッ」


 気合とともに、ヤノとゴリラはがっぷり腕四つになって組み合う。

 もりっと音がして、ヤノの背中の筋肉が山のように盛り上がった。


「あぶねえっ。そいつらから離ろ! ナミ!」


 空中から強襲するインコやオウムを殴りながら俺は叫んだ。

 ナミはあたふたと、ぶつかりあう巨体と巨体から離れた。

 力比べは……互角! 悪意ゴリラとタメ張れるなんて、ヤノならではだ。


「はわわわ。す、すごい迫力……相手のゴリラにしたって、とんでもないパワーなのにっ。ぜんぜん負けてないよっ」


「はっ。力だけはすげえんだよアイツは」

 と俺がホメた矢先……

    ゴリラのハンマーパンチがヤノに炸裂した!

    ぐわっとのげぞり態勢を崩すヤノ。

 ゴリラは、その一撃で暴力性が解放されたのか、腕を振り回して大暴れする!


「ホキョッ! ホキョッ! ホキョキョッ!!」

 ガゴッ! ドココッ! ずゴゴ!


「ヤノ!」


 ヤノは、ぶっとい両腕を交差させてガードしながら、一方的に殴られている。

 ゴリラの暴れっぷりは小型の嵐のようだ。あたりに土煙がもうもうと上がった。


「なにやってんだ! 避けるか、反撃するかしろ!」


「なんでヤノさん、やられるがままなのー!?」


「ンホホホホホホーーー!!」


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 一方的にヤノを殴っていたゴリラは、勝利宣言のように胸をドラミングした。

 土煙が晴れる。

    身体中を赤く腫らした傷だらけのヤノが、がくっと膝をついていた。

「くそっ」

 俺は最後の一匹のサルを殴り飛ばすと、ゴリラへ向かっていった。


pナミ

「ハヤトの力じゃ、ゴリラは無理だよっ。ましてや、属性の補正もない!」


pハヤト

「ほかに誰がやるんだよ!」


 正直、俺の攻撃力で、あの筋肉の塊みたいなゴリラに歯が立つかはわからねえっ。けど、ヤノがあんなザマじゃ……。


pヤノ

「……俺はよお」


 ヤノが突然落ち着いた声で語り出した。

「俺は、はっきり言って、おまえに同情してるんだ。森で平和に暮らしていたのに、捕まえられて、故郷を離れた、日本の福岡市のこんな場所に連れてこられて、閉じ込められてよお。可哀そうだよお。ちくしょう」

 ヤノは本気で悲しそうな顔をした。

    まさか……ゴリラに話しかけてんのか、あいつ……?


「……そしておまえは、仲間たちを解放しようと闘いを始めた。その勇気はすごいぞ。たいした漢だ。俺は、そんなおまえを憎めないぞお」


 しかもなに敵に同情してやがんだ? 殴られすぎて、イカれたか!?

 くそっ。こうなりゃ、ヤノもまとめてぶん殴るしかねえかっ?


「……けどよお、俺にも俺の事情があるんだよ。ハヤトに手伝うよう頼まれたし、アイツはアイツで、信念をもって何かと戦おうとしているらしいぞ。
 バカでナルシストだけどよお、そういう矜持はあるヤツなんだよ、ハヤトってのはよお……」


 ゴリラの顔が憤怒で歪んだ。

 激怒して両拳を頭上で何度も叩きつける。

 今やはっきりと肉眼で見えるほどの炎が、筋肉に覆われた灰色の身体から立ち上ってやがる。


「だからよお……俺は……」メキョッ!


 ゴリラのワイルドパンチが、話している途中のヤノの顔にめり込んだ。

 同時にボワッと炎が巻き上がる!


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 ……がヤノは動じない。

 ヤノは、バネを引き絞るように、身体を後ろに捻じ曲げた。

 トルネード投法みたいな態勢。

 足はそのまま、ゴリラに背を向ける。

 背後に居る俺とナミからは、ヤノの上半身がはっきり見えた。

 鼻血を垂らしたまま、ヤノは悲しみをたたえた深みのある瞳で……

 みちりっ。

 音がするくらい強く拳を握った。

 まわりにキラキラと氷の結晶が舞う。


 ブォンッ!


 引きちぎれる寸前まで巻かれたゼンマイが一気に開放されたように、上半身が回転した。あまりの速さに、上半身だけが消えたみたいだった。

 ドッコオオオオオオオオンンンン!!!

 大地を揺るがす音とともに、ヤノからパンチを受けたゴリラは、何十メートルも先へとぶっ飛ばされ、地面に転がっていた。


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 ヤノはゆっくり、ゆっくりと、地面でヒクヒクしているゴリラに近づく。


キャラ (4)

「……まだ、やるかよお?」



 ゴリラはそのまま正座するように飛び起きると、組んだ両手を頭上に上げ、頭を垂れて「降参」のポーズをした。


キャラ (1)

「ったく。冷や冷やさせやがる」


キャラ (2)

「きっとやさしいひとなんだよ。ヤノさんって」


 俺たちは、うずくまって大人しくなったゴリラを見下ろすように立つヤノの元へと走った。


 ……こうして、福岡市動物園を襲った悪意騒動は沈静化され、俺にとって初めての仲間ができたのだった。



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