ハヤトナミ顔

1-2 展望台での出会い

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「ああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 叫びながら、闇の海の中でもがくように、俺は目を覚ます。

 目には涙が溜まり…

    胸はぶっ壊れそうなほどバクバクと鳴って…

    全身には、ぬるっとした嫌な汗。

 なんだ……? 俺は……いったい………。

 ひどい悪夢を見ていたような気がするが思い出せない。

 でも、この胸の痛みは……

 何か大事なモノを失ったような……喪失感は……なんだろう?


キャラ (1)

「重いんだけど」


 すぐ目の前に、俺を見下ろす女の子の顔があった。

 冷たさすら感じさせる無感情な声。

 どうやら俺は、その女の子に膝枕してもらっているようだった。

 今まで気を失っていたのか……?

 全然状況がつかめない。


キャラ (2)

「重いんだけど」


 その子がもう一度繰り返す。

 しばらくの間、目が合ったまま、互いに何も言わなかった。

 無表情で、優しさのかけらもない口調……。

    だけど、膝枕したまま動く気配はない。

 不思議と嫌がってる感じはしないが……

 

 それにしても、印象的な女の子だ……。

 青みがかった髪。

    大きな黒い石のような瞳。

    下から見上げると、そんなに大きくはないけど、柔らかそうな胸の膨らみがよくわかる。

    漂ってくるのは、甘い香り……。


キャラ (1)

「あ、ああ。わるいっ」


 慌てて身を起こした。

 頭が痛い。何も思い出せない。大事なことを忘れているような居心地の悪さは、ずっと続いている。

「な、なあ……俺はいったい……?」

 相変わらず無表情に俺を見たままの女の子に問いかけた。

 ……ん? なんだ?

    この子……なんか見覚えあるような……


「……ナミ……?」

 具体的な記憶が想起されるより先に、口から勝手に名前が出ていた。

 『ナミ』と。



pナミ

「……え? キモッ。なんで……わたしのなまえ……知ってんの?」


「なんで、って……」

 俺が知りたいくらいだよ……。


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「……俺たちどこかで会ったことあったっけ?」

 女の子はゆっくりと首をふる。なんだかもの凄く警戒した顔だ。

「いちどもない」

 キッパリそう言うと、自分の体を抱くような仕草で少し後ずさって……

「……だからキモッ」

「キモッてなんだよ。膝枕してくれてたのそっちだろ?」

「こ、これは……仕方なく……」

「仕方なく……? どういうことだ?」

 俺が尋ねると、ナミはゆっくりと腕を上げ、何かを指差した。


「………!?」

 鴻巣山の森はひどい有様だった。

    木は何本も吹き飛ばされ、

    地面はえぐられて露出し、

    そこにぷすぷす煙の出る隕石が突き刺さっていた。

 まわりはクレーターのように陥没している。俺たちはそのすぐ側に居た。

 焼けた土と木の匂い……。隕石はまだ熱をもっている。

「……ボクがここに来るとき、空から隕石が落ちてくるのが見えた。それで、急いで走ってきたら、ハヤトが倒れていたんだ」

 そうか。あの時か……。結局、落ちてきたんだな、隕石。

 こんなもんが間近に降ってきて、よく死ななかったな、俺。


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 ………え?

 「ちょっと待て……いま……?」

 弾かれたようにその子を見た。今、すごく気になることを……。


「……ボ、ボクって言ったのか? もしかして、ボクっ子かよ!? そんなのがホントに実在するとはなー」

 感心して大げさに驚く。


「…………介抱してあげた恩人にそんなこと言う? フツー」


 ナミはギランと音がしそうな目でにらんできた。こ、コエー。

 可愛い顔して、まったく愛想ってもんがないな。

 そう。ナミは顔は可愛い。というか、間違いなく、今まで見た中で一番可愛い女の子だ。

    アーモンド形の大きなツリ目。日本人なのか外国人なのか分からないようなシュッと整った目鼻立ち。

 鼻は小さく尖っていて、桜色の薄い唇は、何がそんなに気に食わないのか、『への字』になっている。でも、それすら愛らしい。

 こんな女の子、初めて見た。日本人の親しみと、外国人の異質さが絶妙にブレンドされた容姿……ハーフだろうか。

 でも、フツーに綺麗な日本語喋ってるよな……口は悪いけど。

 にしても、隕石が降ってきた衝撃で俺は気絶しちまったわけか。

 さっきから思い出せない大事なことって……それか?

 俺が居た展望台は……半壊してる……。

    鉄骨の展望台が半分崩れるなんて、とんでもないエネルギーだったはずだ。

 なのに、俺の身体は……見たところまったくの無傷?

 隕石が落ちてきて、展望台は半壊して、ふっ飛ばされたらしい俺は気を失って……それで、無傷かよ……

    ラッキーなんてもんじゃないだろ……。



 おそるおそる隕石の側に行ってみた。

 大部分が地面にめり込んでいても、俺の身長よりずっとデカイ。

 クレーターはまだブスブスと煙を立てていて、ストーブみたいな熱気を全身に感じる。じっとり汗が噴き出してきそうだ。


pナミ

「………………………」


 ふと気づくと、ナミが俺のほうをにらんでいた。

   それも、さっきまでのツンツンした態度じゃなく、あきらかな敵意を帯びた怖い顔で。


pハヤト

「……な、なんだよ」


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「…………来る」

 俺の背後の暗い山道を見ながら……

    押し殺した声でナミはつぶやいた。

 俺も振り返る。

 闇の中からこっちにゆっくりと近づいてくる人影。

 心臓が跳ねる。全身がひどく緊張するのがわかる。

 なんだ、この感覚……?

 俺は……何をこんなに……怯えているんだ……?

メインキャラ (14)


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