森家ファイト__ver1

1-8 野間アピロスの邂逅


『野間ダイエー』……通称アピロスは、福岡市南区の小高い丘の上にある。

 すぐ隣に、大池公園という感じのいい公園があることをのぞけば、ごく普通のショッピングセンターだ。

    とうの昔に買収されて名前は変わっているが、みんないまだにアピロスという旧名称で呼んでいる。

 公園と隣接しているせいか、のんびりした、味のあるスーパーだ。

 正面入口から入ってすぐは、昭和のデパートの雰囲気を色濃く残したホールになっている。


キャラ (1)

「ここがアピロスだ。このへんの住人は、買物っていったらここが定番だな。デイリークィーンってレアなハンバーガー屋もあるから、あとで名物のソフトクリームでも……」


メインキャラ (12)

「……ハヤト。たぶんここ。感じるんだ」


「感じるって何をだ?」

 そこへ、とうのマユ本人がひょっこり現れた。


キャラ (10)

「おにーちゃん」


「お。マユ! ちょうどよかった。探してたとこなんだ」

「あそぼうよ」

「え? ええとな、遊ぶのはいいんだが、その前に……」

 ふと、マユの様子が少し変なことに気づいた。

 なんというか……ちゃんと目が俺を見ていない。そして、俺の声が耳に入っていない……そんな違和感。


「マユね、ひとりぼっちなんだ」


「……え?」


「さびしいよ」

「…………」


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 やっぱりおかしい。こんなにはっきり寂しがるマユは初めて見る。

 確かにマユは、孤独の影がつきまとっているような、寂しげな子ではあった。

    でもそれを、快活な性格で覆い隠し、見せないようにしている……

    少なくとも俺には、そんな、大人びた子に見えていた。

 このマユは、何かがおかしい。

    ……幼すぎる


e_23_boss_23_リン

「かくれんぼしよっ」


 マユはくるっと背を向けると、あっという間に、アピロス一階の通路に消えた。


pハヤト

「マユ! ……なにがどうなってんだ……」


pナミ

「……ハヤト……間に合わなかった」


「間に合わなかったって……何が?」



 よく見ると、ナミは小刻みに震えている。


「マユは悪意だ」


「悪意って、鴻巣山でナミが言ってたやつか……?」


 でも、今見たマユは、あのときのオッサンとは違っていた。

 もっと、落ち着いているというか……

    変な表現だけど、ザコっぽくない。


e_23_boss_23_リン (2)

(さぁ、マユはかくれたよ。さがしてね……)


pハヤト (2)

「!? なんだ!? マユの声が、頭に直接入ってきたぞ……!?」


pナミ (2)

「ダメだ……ハヤト……逃げよう」


「なんだって?」

「あんなに強力な悪意だったなんて……。あのマユと渡りあえるだけの『アリバの戦士』もまだ見つかっていない。……ボク自身も、アリバが使えない。こんなのじゃ戦いようがないよ」

 ナミがそう言った瞬間、ガラガラと音を立て、アピロスの出入口にシャッターが下りた!

「!? 出口、ふさがりやがったぞ!」


e_23_boss_23_リン (2)

(マユをみつけるまで、にげちゃダメだよ。ちゃーんと、みつけてね)


 音声コードを脳に繋げられたみたいに、頭の中で声が響く。

 マユの言葉から察するに、シャッターを閉じてアピロスから出られなくしたのは、マユ自身の仕業かっ!?


「悪意ってのがどうしてマユに!? それに、この妙な現象はなんだよっ。悪意って、超能力みたいなマネもできんのか!?」


「……………………」


 ナミ自身にも、目の前の事象が完全には測りかねているような顔だ。

「くそ! ……てことは、鴻巣山のオッサンみたいにマユも凶暴化すんのか!?」

「……あの子はそれだけじゃ済まない。あの子は……悪意に選ばれた子なんだ」

「選ばれた?」


「悪意は誰でも覚醒する可能性がある。老若男女も関係ない。でもごくまれに、悪意が選ぶ『特別な人間』が居るんだ」


「まさか……それがマユなのか……?」


「……そんな人間は、ただ取り憑かれた人間よりもずっと強い、恐ろしいほどの力を手に入れる。そして、自分の心の闇に取り込まれてしまう」

 人の心に……棲まう闇。

「……追いかけろって言ったり、逃げろって言ったり。どっちだよ」

 俺はため息をついて苦笑した。

 震えるナミを勇気づけようと、わざと能天気な声を出す。

 本当は、俺自身のほうがビビってるのに。

 アピロスの中がにわかにざわつき始めた。

 店員に詰め寄る客。

 ケータイをかけようと試みる客。

 シャッターを持ち上げようとする客。

 非常口を探す客。

 今、俺の目の前で、事件が起き始めようとしている。

    それも、引き起こしたのは、俺のよく知る少女だ。

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キャラ (1)

「探そうぜ。マユを」


    俺は笑顔で言った。


「………………」


 ナミは虚ろな顔で俺を見る。

「向こうも探してくれって言ってるしな」

「アリバを持たないハヤトにできることなんてない」

「さっきは追いかけろって言ってたじゃねえか」

「マユが悪意として覚醒する前なら、仲のいいハヤトがうまく話すことで、覚醒を止められるかもしれないと思ったんだ……マユは……」

 ナミはそこで言葉を切り、じっと俺の瞳を見つめた。


「……ハヤトのことを……慕っているようだったから」


「だったら、なおさらマユに会わないとな」


 俺は自分の中の勇気を奮い起こす。

「まだ手遅れじゃないかもしれないぜ? それにマユは俺と会いたがってる」


殺されるかもしれないよ?


 ナミが無表情に言ったその言葉は、現実味なんてどこにもなかった。

「……行こうぜ。とりあえず、あちこちまわってマユを探そう」


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