1-5 カタギリ家 朝

 次の日も朝からいい天気だった。福岡市ってところは夏場はぜんぜん雨が降らないのだ。
 ベッドから起きるとひどい筋肉痛で身体が痛かった。昨日のおかしなオッサンとの戦いは、相当骨身にこたえたらしい。
 ナミは大丈夫なのだろうか。

 ジーンズとシャツに着替えて部屋から出た。
 朝の台所からはいい匂いがしてくる。
 母さんのはしゃいだ声と、シンジローの「ヒャッホーイ」というアホな叫びも聞こえる。どうやらみんなもう起きてるようだ。

「っはよーっ」

 エプロンをつけたナミがくるっと振り返った。
 振り返る直前までは笑顔で、俺は初めて見るその愛らしい表情に、胸を射抜かれたようにドキッとさせられた。
 が、それも一瞬。
 あっという間もなく、氷点下まで急降下した眼差しで俺を見る。

「………………」

「お、おはよ。ちゃんとよく眠れたか?」

「まあね」とナミ。なんなんだ、この変わりようは。

「あ。ナミちゃん、お皿取ってくれる?」

 フライパンとターナーを持った母さんがのんびり言った。

「はあい」コロッと愛想よくなったナミの猫なで声。「これですか? おばさま」

「ありがとねー」母さんは手早く目玉焼きとソーセージを皿に盛る。

 なんだよこの猫かぶりは。そして、俺にだけ向けられるキツい視線は!?

「弟。テーブルの上、片付けて」

 両手に皿を持ったナミがシンジローに命じる。
 シンジローは、「いえっさ」とか軽妙に答えてテーブルを片付けた。ナミに話しかけられてご満悦の様子。
 弟、とあまりにもぞんざいな呼び方だが、俺に対する態度よりは柔らかい気がする。気のせいか……?

 とにもかくにも、俺たちはテーブルに着き、母さんとナミの手製という朝食を頂いた。お手て合わせて、

「「「「いただきまーす」」」」

 親父が出ていって以来、ずっとひとつ空いていた椅子が、四人満席になるのは久しぶりで、俺はなんとなく嬉しくなった。
 母さんは言うに及ばず、寂しがり屋のシンジローも嬉しそうだ。そして、ナミも。
 さっき一瞬だけ見た、素直で可愛らしい笑顔ほどではないにしても、その表情はほんのり柔らかだった。

 家族みんなの朝食の席で、『悪意』やら『アリバ』やら、わけのわからないことを聞き出すわけにもいかない。
 飯の片付けが終わるのを待ったあと、俺はナミを外に連れ出すことにした。

「母さん。ナミとちょっと出かけてくるよ」

 そう言って玄関で靴を履く俺の肩を、いつのまにか背後に来ていた母さんがヒジでつついた。

「……なに?」

「あんた、うまくやりなさいよー。まだトモダチなんでしょうけど、私から見て、ナミちゃんそうとう脈アリ、よ」

 母さんがニヤニヤしながら小声でささやく。
 いや、そんなこと言われても……。
 だいたい、脈ありって、どこがだよ……。
 考えてみれば、とてつもなく可愛い女の子と知り合ったってのに、ちっとも気分が盛り上がらない。それよりも、同時進行している異常事態のほうに気がいってしまうのだ。
 ……もったいねーよな……だってのに。

 家を出るとき覗いたポストに、俺宛のダイレクトメールが入っていた。

『あなたの人生を"セーブ"しませんか? 一寸先は闇。転ばぬ先の杖で、余裕ある人生を』――セーブカンパニー

 そんな謎のコピーが記してある。なんでも、福岡町の全住人の中からたったひとり、俺がモニターとして選ばれたという。
 セーブってのは、あれだよな? ゲームでお馴染みの……。
 それが現実でできるならすごいが、はっきり言ってうさんくさい。
 でも案内を見ると、申し込み期限は今日の正午までだった。

 半信半疑だが、俺はそのセーブカンパニーとやらに行ってみることにした。
 ナミは、相変わらず無愛想を通り越して不機嫌そのものの顔だったけど、特に何も言わずついてきた。
 シンジローも犬のようについてきそうだったが、黙殺。ガキの頃ならともかく、大学生にもなって、兄弟べったりで行動できるかってんだ。
 こいつも、もう高校二年生なんだから、ちったあ自立させねえとな。

 セーブカンパニーは、西鉄『高宮駅』の前の高宮通りにあるという。ウチからそう遠くはない。

 俺たちは、夏の日差しがあふれる高宮通りにある、『セーブカンパニー』に到着した。

「ここがセーブカンパニー……?」

「らしいな」

 ナミが怪訝そうな顔をする。見た目はケータイショップにしか見えない。

「とにかく入ってみるか」

 何しろ、俺は、福岡市でただひとり選ばれたモニター様らしいからな。
 でも、考えてみりゃ、そういうの、詐欺の常とう文句じゃないか?
 ふと、ガラス越しに、カウンターに座った店員の女性の姿が見えた。
 どれもタレントや芸能人レベルに美人揃い
 な、なんだ、ここは!? 天国かっ。

「……ナミ。この書類によると、どうも、ここに入る資格があるのは、当選したモニター本人だけらしい」

「え。そうなの?」

「わりいが、ちょっと待っててくれるか?」

「う、うん。まあ仕方ないか。暑いけど」

 ナミが恨めしそうに太陽を見上げる。確かに、まだ午前中だが、日差しは強烈で、すでに猛暑だ。今日も余裕で三十度越えるだろう。

「できるだけ早く済ませてくるぜ」

 ナミにはちょっと申し訳ないけど、美人とお話するのなら、女連れより男ひとりで行くほうがいいに決まってる。
 ケイから受けた傷も癒えてない今、俺に必要なのは、ツンケンした無表情美少女からの冷たい視線じゃねえ。
 当たり前の美人のお姉さんからの優しい応対なのだっ。

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福岡市を悪の手から守る、仕組まれた同人ADVゲーム「福岡ファイト!」の公式ノベライズです。Twitter上で、オリジナル版ゲームのYouTube、キャラクター紹介、更新情報などを公開中。

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