森家ファイト__ver1

幕間5 ~ケイの独白~

 それは、いつも通りの、まったく退屈な舞踏会だった。
 シンデレラパレスでコスプレできるってことで、けっこう期待していたんだけど、選んだ衣装は、結局いつものような、自分のキャラに合ったクールビューティな服。
 まわりからの反応もいつもの通り。綺麗ですね、美しいですね、女王様バンザイ。

 うんざりした気分でホールを抜け出し、扉を開けて、テラスに出た。
 いつのまにか日は沈み、パークは夜になっていた。雪が降っていた。粉雪の中のシンデレラパークはイルミネーションがキラキラ輝き、現実とは思えない美しさだった。
 そしてアイツはそこに立っていた。

 ……思えば、最初からフェアじゃなかったと思う。
 なにしろアイツが着てたのは、私がずっと憧れていたキャラクターの服装で、しかもちゃんとサマになっていたのだから。
 それまでに見た、その格好をしたコスプレイヤーの男どもは、聖剣で頭からまっぷたつにしてやりたいような連中ばっかだったのに。

 星くずが降るテラスで、アイツは白いマントを冬の風になびかせながら、静かにただ黙って眼下の光の海を見つめていた。

 ふと私の視線に気づいてアイツがゆっくりこっちを見た瞬間、何かの演出のように、蒼い鎧姿の向こうで、青や赤や黄色の花火がドドンと上がった。そして、アイツは品よくにっこり微笑んだ。
 それだけで私はもうすっかりうろたえてしまった。猫とカエル。ヘビとねずみ。スリ銀とパトカード。

 なのに、アイツが私を見るなり最初に口にしたのは、

「……イケてないな」

 美人とかキレイとか美しいとか百万回くらい言われてきたけれど、そんなことを面と向かって言われたのは生まれて初めてで、そのせいで、なんだか余計に特別な男に見えたのだ。それがまあ運の尽き。

 言うことにかいて、次にアイツが口走ったのは、

「可愛い」

 美人とかキレイとか美しいとかは百万回くらい言われてきて、今さら特に耳に残ったりもしないし、そう言ってくる相手を特にどうとも思わない。

 なのになぜか私は、「可愛い」と、そう言われただけで、ツバサが生えてきそうなほど舞い上がった。そしてそれから三時間二十六分もの間おしゃべりをした。

 自慢じゃないけれど、仕事関係と父親以外で、同じ男と十分以上話したのなんて初めてだった。
 アイツは私にとって初めて甘えられる相手で、私はアイツに会って初めて、「誰かに甘えることの心地よさ」を知った。
 アイツはとうとう最後まで私に甘えてはくれなかったけど。

 ◆

 私が女王になる不思議な夢から目を覚ますと、そこはやっぱりシンデレラパークで、日が沈んだパレスの、見覚えのあるあのテラスだった。
 柔らかくてすべすべの太ももに膝枕してもらっていた。
 人間とは思えない、嫉妬するくらいなめらかで綺麗な肌だった。

 テラスの欄干には、赤い羽根の付いた緑色のぼうしと、枯葉色のシャツとゆったりしたズボン姿のピーターパンが腰かけていて、遠い目で夜の遊園地を眺めていた。
 私がぼーっとその横顔を見ていたら、こっちに気づき、なんだかつられて笑ってしまいそうな素敵な笑顔を浮かべた。

 そう。それはピーターパンだった。
 それも緑色タイツじゃない。ちゃんと、秋の枯葉と、いい匂いの木の汁で作った服を着たピーター。
 よく見ると、私を優しく膝枕してくれていたのはティンカーベルだった。青く光る黒髪を後ろでまとめた、信じられないほど可愛らしい顔をしたティンク。

 ピーターはホッとしたような顔で、身軽に欄干から飛び降りると、気取った口調で言った。

「こんばんは。ウェンディ。ぼくはお伽の国からキミを迎えに来た」

 ティンクの気持ちいい太ももから身を起こし、私は震える声で言った。

「…………ほんとうにきてくれたの? 私を迎えにきてくれたの? 私はまだそこへ行けるの? わたしは……まだ汚れていないのっ……?」

 私はピーターの素朴な服の肩口をグイグイつかみ、訴えかけるように叫んでいた。
 お伽の国。ネバーネバーランド。竜や妖精が住み、星と月が微笑み、海も空も永遠に汚されず、水と大地は清らかで、誰からも何も押し付けられない、本当の自分で居られる夢の世界。
 いつか私はそこに行けると。誰かがきっと迎えに来てくれると。そう信じていた。

「お、おいおい。なにマジになってんだよ。俺だって」

 ピーターはどこか意地悪そうに困った顔で笑い、帽子を脱いだ。

「……………………」

 カアーッと足元から燃えるような恥ずかしさがこみ上げた。

「あ、あ、あんたねえっ……」

 私は思わず右腕を振り下ろしながら鋭く叫んだ。

「食らえっ。アイスカリバー!

 しーん。
 ……な、なにやってんだ私は。自室の鏡の前でポーズ決める中二病患者かっ。
 自分でもなぜそんなことをしたのか理解できないまま、私は自分の右手の平を黙って見つめた。

 ふと気づくと、ハヤトと傍らのティンカーベル姿の女の子が、ひどく真剣な顔で私を見つめていた。

「ケイ……おまえ……」

「……マユのときと同じみたい。少しだけ残ってる

 ティンクのささやきに、ハヤトは安心したようなため息をついた。なんなの、いったい。

「……私、こんなとこで何やってんの?」

「あ? ああ、熱中症ででも倒れてたんじゃねえか? 俺たちが来たときにはお前もう寝てたぞ」

「寝てた?」

「ああ。幸せそうにな。なんか変な寝言、言ってたぞ? 『アイスドラグーン』とか『プリンセスタイム』とか。夢でも見てたんじゃないのか?」

「……そうかもね。夢……見てたのかもね」

「いい夢だったか?」

 ハヤトが聞く。私の好きな表情で。

 不思議な夢は太陽が昇る前の朝露のように私の心に残っている。
 冷たい女王に心を囚われた私を、勇敢な騎士が助けてくれた。
 闇の女王は私から切り離され、暗い影として襲い掛かってきた。
 私と騎士は、ふたりで力を合わせて女王と戦った。
 女王は氷の竜を召喚した。私は、私の望んだ姿……『闘う姫君』となって、騎士と共に剣を持ってそれと戦い、勝利したのだ。それは本当に……。

「……いい夢だったわよ」

 言った瞬間、生々しい唇の感触が蘇り、私の血液は煮立ったように熱くなった。それと同時に、まあ色々余計なことも思い出したわけだけど。

「……一部イラッとしたパートはあったけどもね」だいたいこのティンクは誰なのさ。

 ◆

 そのあとで、私はハヤトを無理やり引きずって、観覧車に乗り込んだ。
 ティンクも当たり前の顔して引っ付いてこようとしてたけど、ガウッとにらんで追い払った。

 まわるまわる。観覧車はまわる。
 ゆれるゆれる。ゴンドラはゆれる。
 光る光る。光はあふれ、まばゆくこぼれ。
 ハヤトは妙に大人びた顔で黙って窓の外を見ている。
 こいつがこうやって余計なことを喋らず、キャラも変えて、自分を『ぼく』とか言ったりなんかすれば、もっと女ウケいいだろうになー、なんて考える。

「……ねえハヤト。提案があるんだけど

 金銀に輝く遊園地をぼんやり見ながら、私は言った。

「またかよ」

「なによ。またって」

「……いいや。こっちの話だ。なんだ? まさか福岡市の半分をくれるとかって言い出すんじゃないだろうな」

「なんなんのよそれは。違うわよ」

「だったらなんだ?」

「……私たち、やり直さない?」

 へんな夢を見たあとだからか、思いのほか素直になれた。

「……………………」

「私とあんたが組めば、なんだってできる。怖いものなんてない。私はあんたと居ると……」本当の自分になれる。さすがにそれは言わずに我慢した。

「ダメだ」

 予想通りの返事。もう少し言い方ってもんないの? 予想していた痛みが予想通り来たって、痛いものは痛い。

「……………………どうして?」

 きゅうううっと、唐突に鼻の奥が酸っぱくなった。

「俺と一緒に居ると、お前は弱くなるからだ」

「……………………」

「そして、お前と一緒に居ると、俺自身も弱くなっちまう」

「あんたが? 弱く?」

「ああ。お前と居ると、俺、甘えちまってさ。今の自分のままでいいかなって気がしてしまう。けど、俺たちはまだまだ未完成で、今のままで満足してちゃダメだろ?」

 出たよ。またわけのわからない『ハヤト理論』
 ふいに、目の奥から涙がしみ出してきて、こぼれそうになって、私は慌ててハヤトに背を向けた。
 夜の観覧車の黒い窓へ目を向ける。
 情けないくらいイジけた顔の自分が映っていた。
 猛烈に腹が立ってきて、私は意地を張った。

「わかったわよ」

「ごめん」

「あやまるな。よけいにミジメになる」

「お前がミジメなもんか。ケイ。お前はこれからどんどん高い場所にまで登っていける女だろ。俺なんかにこだわってるほうがおかしいんだ」

「ハイハイ。そうよ。私がその気になれば、あんたより顔がよくて、あんたより強くて、あんたより金持ちで、あんたより背が高くて、あんたより優しくて気が利いて言うことなんでも聞いてくれて、あんたより社会的地位も将来性も才能も上で、あんたより百万倍いい男だって手に入るわよ

「ああ、そうだろうよ……」

 でも、そんなものを私が欲しいかと言われれば、それは別問題なんだけど。


 観覧車がもうじき地上に着く。
 降りたくない。
 この時間が終わって欲しくない。
 そんな私の気も知らず、ハヤトはさっさともう降りる準備をする気配。
 私は、はーーーーと深いため息をつき、これだけは言っておかないと、という言葉をなんとか口から出す。

「なんか夢の中で私はあんたに助けられた気がするのよね」

「…………そうなのか?」

「この借りは返したいワケ」

「いや、だって夢の中の借りだろ。いらねえよ、そんなの」

「私の気が済まないの! 恋人同士なら貸し借りなんてナシだけど、ただの友達なら……きっちりしときたいワケ」

「はいはい。お姫様はワガママだな」

いつか、あんたが死ぬほど大ピンチになったとき、このケイさまが颯爽と駆け付けて、あんたを助けてやるわ。約束。覚えておきなさい」

 ……そう。あれはすべて夢だったのかもしれない。
 けれど、私は、私の中に残った不思議なチカラの存在を感じていた。
 さっき目に染み出した涙は、私が意識すると氷の結晶になって弾けて消えた。
 私の中に宿る氷の力。これがなんなのかはわからない。
 なんのためにあるのか。どうして私の中にあるのか。
 ただ、何か大きなものが私の中に一度入りこみ、やがて出ていったことを覚えている。そのあとで、私自身に大きな変化があったのだ。

 私の目の前でトボけた顔してるこのバカが、私の見込んだ通りの男だというのなら、きっとこのチカラはコイツに関係がある。コイツは何か途方もなく大きなことに関わっている。
 あるいは……考えたくはないけど、『いいように使われようとしている』

 いいわ。誰がこいつに干渉しようとしてるのか、こいつを利用しようとしてるのか、それは知らないけど、この私がそんなことはさせない。
 こいつの、無邪気な男らしさ。打算抜きのおせっかい。バカ一歩手前のひたむきさ。はっきり言って全部間違ってると思うし、ムカつくんだけど、それを利用しようとするヤツは絶対に許せない。

 だから、必ず私が助けてみせる。
 そして、「俺にはやっぱりケイが居なくちゃダメなんだーーー」って、そう言わせてやるんだから。



 第5話 【焼けぼっくいに氷の微笑】終わり


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 第五話終了時のステータス ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【ヤギハラ】 高校生 レベル7 EXP250 風属性 身長178センチ 体重58キロ

 HP  25(E)
 攻撃力  32(D)
 防御力  30(C)
 特殊攻撃  15(D)
 特殊防御  40(C)
 素早さ  32(C)

《東和高校二年生。ハヤトの被害者ナンバー3。メンバー中最弱。ちょっと鍛えた一般人よりも劣るうえ、特筆するステータスもない。本来、風属性は自信や信念があるのだが、それもない。趣味はパソコンとゲーム。
 東和高校の全校生徒強制参加の剣道大会で準優勝したという意外な過去がある。
 シンデレラパークの乱戦は、大多数の氷属性を相手に、メンバーのほとんどが火属性という圧倒的に不利な状況だったが、ヤギハラが敵の攻撃を一心に引き受け、回避し続けたことで劣勢を切り抜けた。実は影の功労者
 
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レベル1 こて打ち 20/20 威力5 命中率90% 通常】

《引けた腰つきで、相手の小手を遠慮がちに打つ。属性のない通常攻撃。威力も低い。ただ、敵のヘイトを誘い、狙われやすくなるという効果がある》

レベル2 すり足 30/30 回避率大幅アップ 攻撃力大幅ダウン】

《剣道特有の足さばきで、回避率を異常に上げる技。引き換えに攻撃力も異常に下がるため、使い勝手は悪い。ただし、オトリに専念した際は非常に使える技となる

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【ケイ (アイスクイーン)】 女優のタマゴ レベル15 EXP20 氷属性 身長170センチ 体重52キロ

 HP  160(A)
 攻撃力 200(S)
 防御力 20(C)
 特殊攻撃 210(S)
 特殊防御 96(A)
 素早さ 99(A)

《ハヤトの元カノ。さる企業の社長令嬢で、その気高くスキのない容姿から、両親を含めあらゆる人間から女王扱いされている。が、本人は可愛ものが大好きな乙女チックな性格で、甘えられる相手を求めているシンデレラコンプレックス。アニメ・ゲーム・漫画の隠れオタクでもある。
5-4においてハヤトの一撃で正気に戻った後、己から切り離したアイスクイーンと対決(未公開の5-5)。『戦うお姫様になりたい』という彼女の願いは成就した

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レベル1 アイスブレイダー 50/50 威力120~180 命中率80 氷系特殊】

《氷の剣を具現化する技。形状はイメージ次第。威力が非常に高いうえに連射も可能。中でも『アイスカリバー』は凄まじい威力を誇る。また、レベル4【プリンセスタイム】によって手に負えないほど威力と性能が高まる恐ろしい技》

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レベル2 アイスマジック 50/50 威力80 特殊・分身製造】

《氷の彫像を生み出し戦わせる。彫像はある程度自発的に行動可能なうえ、制限回数までは何体でも作れる。攻撃だけでなく、身を護る盾としての使い方もできる。アイスブレイダーとアイスマジックをうまく使えば、攻防に隙がなくなる。さらに【プリンセスタイム】によって異常なほど強化可能》
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レベル3 アイスドラグーン 3/3 威力225 特殊・分身製造】

《非常に強大な戦闘力を持つ氷の竜を召喚する。この技も【プリンセスタイム】によってダメ押しで強化可能。もはやまともな攻略は不可能で、シルフィーコールを重ねがけしたマユでようやく勝負ができるレベル。なお、「アイス」なのに「ドラグーン」なのはご愛敬》
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レベル4 プリンセスタイム 1/1 特殊 味方の極限強化】

《ケイの切り札。味方の能力を極限まで上昇させ、必殺技の性能まで強化する、究極のステータスアップ技。仮にアイスクイーンがこの技を使っていたら、ハヤトは瞬殺されていた。逆に、アイスクイーンを切り離した後、この技のおかげで、ハヤトとケイはアイスクイーンを倒すことができた》
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