マユ顔2

1-7 ファミレス「ハピネス」

 自動ドアから表に出ると、高宮駅前広場にある街路樹のベンチに座ったナミが、全身からドス黒いオーラを放っていた。

「な、ナミ……!?」

「ねえ。ハヤト」ナミは俺の方を見もせずに「ハヤトだったよね? ボクにどうしても話があるから、顔貸せって家から連れ出したの。なのに、どうして、ボク、こんなところで、灼熱地獄攻め味わっちゃってるの?」

「あ、いや、その」

「喧嘩売ってる?」とナミは氷のような表情でいきなり俺を見た。「……買おうか? 相場的に、買いどきだと思うし」

「ちょっと待て待て待て」どうしてこの子はこんなに好戦的なんだっ。「遊んでたわけじゃねーだろ? セーブしてきたんだ。手続きは万事滞りなく完了だっ」

「……おそすぎない?」とジロリ。「それに、なんか店から出てくるとき、妙にウキウキ機嫌よさそうだったような」

「とりあえず、ハピネスに行くぞ!」

「はあ?」

「暑かったし腹も減ったろ? 近くのファミレスに昼飯食いにいこーぜ!」

「暑かったしお腹も減ってるけど、そういうので誤魔化されると思ってんの?」

「うぐっ」

「ねえ。ハヤト」とナミは眉根を寄せてなんだか憐れむような顔をした。「ハヤトって、ぜったい女の子にモテないでしょ?」

「なにい」

「はっきり言って、残念なタイプ」

 くっ。言いやがる……!
 ケイにこっぴどくフラれた傷がうずくぜえ。
 しかし、ここは変に逆らわず、まずはご機嫌取りだ。
 そんなわけで、俺たちはハピネスへと移動した。
 高宮通りを『西鉄大橋駅』方向に少し歩く。

黄色い看板にオレンジ色のロゴでお馴染みの、九州地方を中心に展開する二十四時間営業のレストランで、お手頃な値段が貧乏学生に愛されている。

 俺たちは席につき、とりあえず日替わりランチを二つ注文した。なんにしても、これでようやくゆっくり話が聞ける。

「……で、だ。ナミには色々聞きたい事がある。まずは……」

 悪意ってなんだよ、と口を開きかけた瞬間、俺を呼ぶ声がした。

「お兄ちゃん!」

 見ると、ふたつほど離れたボックス席から愛らしい女の子が手を振っている。

「お。『マユ』じゃないか。来てたのか」

 背が低くて、パーテーションに隠れて気づかなかった。

「うん!」

「誰? お兄ちゃん……てことは、妹も居たの?」ナミが怪訝そうに。

「そうだったら嬉しいが、違う。まあ妹みたいな……トモダチだ」

 マユは、近所に住んでいる小学生で、なぜかひとりで良くハピネスに来てる。それで、つい気になってしまって話しかけたのがきっかけで、俺たちは仲良くなった。
 以来、マユは俺を「おにーちゃん」と言って慕ってくれる。ツインテールが可愛らしい、見た目も性格もいい女の子だ。
 本当に俺の妹だったらよかったんだけど、実際は、ニキビ面の弟だもんな。神を呪うぜ……。

妹みたいに思ってる女の子?」ナミが首を傾げる。「まさか、そんな子との『ひと夏の恋』とか言い出すんじゃ……」

「なんの話だよ、それ」どっかで聞いた事あるようなないような。

「こんにちはー」

 近寄ってきたマユが、礼儀正しく挨拶する。うんうん。小さいのに感心な子だ。

「………こ、こんちは」

 ナミのほうはぎこちない。コミュ力低いな、オイ。
 マユが、なんでいつも一人でファミレスに来てるのかは知らない。どう考えても複雑な家庭事情があるんだろうけど、他人の俺が踏み込むのもどうかと思い、あえて聞かないようにしている。

「マユ。今日もひとりか?」

「……うん」

「じゃあ、俺たちも一緒していいかな?」

 返事を聞く前に立ち上がって、水のコップを持ってマユの席に向かう。

「うわーい。いっしょにたべよう!」

 それから俺達は三人で日替わりランチを食べた。
 いつもの通り、最近始まったアニメの話や、マンガの話なんかで盛り上がった。
 ナミに色々話を聞く機会を逸したが、まあ、マユが嬉しそうだったから良いや。ナミからは後で改めて聞き出せばいいしな。

「お兄ちゃんたちはこのあと、なにするの?」

 デザートを食べながら、マユがおそるおそる聞いてくる。

「ちょっと用事があるんだ」

 ……マユは、まだ俺と一緒に遊びたいんだろうな、と感じたけど、そう答えた。いい加減、ナミから話、聞き出さないと。
 マユは一瞬すごく残念そうな顔をしたが、すぐに健気な笑顔を作った。

「うん。わかった。マユはおカイモノいくね」

アピロスか?」

「そう。文房具、買わなきゃ」

 俺たちは一緒に店を出た。
 おごってやろうとする俺に、「おかあさんからおカネはもらってるから」と言ってマユは自分で支払った。

「じゃあね、お兄ちゃん。それから、お姉ちゃん」

 俺はたたたっと走り去るマユの小柄な後姿に手を振った。
 ナミは駆けて行ったマユをじっと見つめている。

「…………」

「どうした? さっきからぜんぜん喋らねーな」

「あの、マユって子……」

「ああ、可愛い子だろ」

「…………ひょっとしたら……いや、たぶん」

「マユが……どうした?」

 ナミの真剣な顔を見て、緊張が走る。そうだ。いま、福岡市でおかしな事が起こり始めているんだった。
 まさか……マユが何か関係してんのか……?

「あとを追ったほうがいい」

「え?」

「『あぴろす』に行くってなに?」

「ああ。『野間ダイエー』っていうショッピングセンターのことだ。アピロスってのは、地元の人間の愛称だよ」

「すぐ追いかけよう!」

 ナミはいきなり駆けだした。アピロスの場所もわからないくせに。相当慌ててる。

「……わ、わかったよ。なんなんだ……」

 でも、他ならぬマユの事だ。放ってはおけない。
 俺はナミを連れて、熱い日差しの下、大池方面、アピロスへと急いだ。

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