見出し画像

とりわけ憎んで厭うべし?!虚無僧ならぬ虚無族の実態が書かれた草茅危言を読む📖

18世紀末頃の普化寺や虚無僧たちの所業の実態について書かれた書物に、中井竹山(積善)著 『草茅危言そうぼうきげん(1789年)があります。


こちらは中井竹山肖像画


中井竹山とは、江戸時代中期の儒学者。大坂の学問所 懐徳堂の四代目学主として全盛期を支えたそうな。
詳しくはこちらをどうぞ↓



草茅危言そうぼうきげんとは、

江戸後期の儒学者、中井竹山ちくざんの著作。5巻。
1788年(天明8)、時の大老松平定信の諮問しもんに応じて書いたもので、翌1789年(寛政1)に一部を脱稿して献上、91年に全巻を脱稿した。
内容は、王室、国家制度、参勤交代、国替くにがえ、諸侯大借、御麾下きか、外舶互市、朝鮮、琉球りゅうきゅう蝦夷えぞ、金銀幣、水利、物価、常平倉じょうへいそう、社倉、戸口、窮民、米相場、寺社とみ、米仲仕なかし、町中馬方仲仕、捨子、身上限などで構成されており、幕藩制の本質にかかわる政治・経済・社会政策など経世上の諸問題が多岐にわたって建策されている。なかでも特徴的なのは、広く一般庶民の生活に言及していることである。これは、竹山が大坂町人の学塾懐徳堂かいとくどうで長く教えていた経験に基づくものである。

日本大百科全書(ニッポニカ)



因に、四字熟語の草茅危言そうぼうきげんの意味は、

民間にあるものが政治を鋭く批判する、苦言を呈すること。

[解説] 「草茅」は「くさ」と「かや」で、転じて民間、在野という意味。「危言」の「危」は激しいという意味で、激しい苦言、または、身の危険を恐れずに強くいさめることをいいます。

四字熟語を知る辞典


と、言う事で、批判満載の書物なんですね。虚無僧に関してもなかなか厳しい苦言が呈されております💦




(画像はいずれも国立国会図書館所蔵)


虚無僧ノ本寺妙闇寺ハ、何ナル由緒来歴ノモノニヤ。自ラ武士ノ隠家ト称シ、血刀ヲさげ、カケ込タル者ニテモ直ニ引受、本則ヲ渡シ修行ニ出ス由。夫故それゆえ平生其宗ハ、悪党無頼ノ者ノ巣窟トスルト也。是ハ殷紂いんちゅう(1) いりシノ、逋逃ほとう(2) ノ淵藪えんそう(3) ト成シノ類ナレハ、甚タ憎ムヘキ者ナリ。又其輩、修行ノ先々ニテ狼籍ヲシ、無體ヲ云カケ、米銭ヲ子タリ取リ、假初ニモ喧嘩口論ヲスル事毎々聞及ヘリ。是ハ其宗門ニテモ堅クいましめ禁スル事ナル共、無頼子ゆえカツテ用ヒス、別テ憎ヘク厭ヘシ。

是ハ追テハ、其宗門禁絶モ有タキ者ナレトモ、先ハ有来タルモノ、又ハ其徒モ他宗ノ如ク格別多人数ニテモ無レハ、今其有姿ニテ論スルニ其輩ニ有髪ノ者多シ。是ハ伊蒲塞 (4) ノ類ニテ、真ノ僧ニ非スサレトモ、既ニ僧ト名付袈裟ヲ掛レハ出家ニ非ストモ云難シ。ワケノ立ヌ事也。故ニ今ヲ下シ有髪ノ者ハ袈裟ヲ掛ヘカラス、袈裟ヲ掛ル者ハ無髪タルベシトアリタシ、此宗笠ヲヌカヌヲ法トスルユヘ、袈裟ナキ分ハ本寺ノ本則ニテ其当ヲ定メスムベシ。袈裟有分ハ、本則ハ本ヨリニテ改テ度牒どちょう (5) 金ヲ受ベシ、是ハ新旧ヲ論セス、一時ニ命セラレテモ格別多カラヌ者故、行渡ルベキカモシ身貧ニシテ辨(弁)シカヌル者ハ、髪ヲ立テ袈裟ヲ止ムヘシ。尤有髪ニテ僧ト称スルハ当ラヌヿ(事)、此分ハ僧ニ非シテ僧ノ曹輩トナル者故、改テ已來ハ文字ヲ虚無曹ト書ヘシナト命令アリタキモノカ。


  1. 殷紂いんちゅう】殷の紂王、暴君として有名。

  2. 逋逃ほとう】罪を逃れること。

  3. 淵藪えんそう】活動の中心地。(中国語の文語文で、逃亡者の隠れ場所の意で【逋逃薮】という言葉がある)

  4. 【伊蒲塞】(=優婆塞うばそく)在家のこと。仏教において、出家せずに、家庭にあって世俗・在俗の生活を営みながら仏道に帰依する者のこと。

  5. 度牒どちょう】得度後、受戒した際に授けられる戒牒とともに、僧尼が所持しなければならない証明書。


こちらが殷の紂王です↓

『絵本三国妖婦伝』高井伴寛 著・北馬 画 早稲田大学所蔵




<コムジョの現代語訳>


虚無僧のミョウアン寺って、何なの?自ら武士の隠家だとか称して、刀を提げて駆け込んで来た者も引き受けて、虚無僧免許まで出してる。だから、その宗派は悪党無頼の巣窟になってるのよ。これでは殷の国の暴君、紂王ちゅうおうが加わっている逃亡者の隠れ場所ね。大いに憎むべき者たちだわ。又、その輩は修行の先々で悪さや乱暴し、米銭をゆすり取って、その度ごとに喧嘩口論をしていると聞くじゃない。これは、その宗門でも堅く戒めて禁じている事なんだけど、やくざ者だから通用しないのよ。とりわけ憎むべきで避けるべきね。

この宗門、禁絶にしたいんだけど、昔からあるし、又その宗徒も多宗派みたいに多人数でもないし、今その格好ついて言うと、有髪の者が多いわ。これは在家の類だから真の僧侶ではないんだけど、僧って名乗って袈裟を掛けてるから出家してないとも言えない。ややこしいわね、わけがわかんないわ。有髪の者は袈裟を掛けず、袈裟を掛ける者は無髪とあるべきよ。この宗派は笠をとらないことを法としているから、袈裟が無いのは、本寺の免許をもってそれに値すると定めるべきだし、袈裟が有る分には、免許は模範だから改めて証明金を受けるべきよ。貧しくて証明金を払えない者は、袈裟をとるべき。有髪なのに僧侶を称するのはそれに当たらないわよ。これは僧じゃないのに僧侶だって言ってる輩だから、虚無僧じゃなくて虚無族って書けと命令したいものね。



本文には「虚無曹」とありますが、分かりやすく「虚無族」としました。
なかなか面白いネーミングできましたね。笑




因にですね、
本文に出てきたカギカッコみたいな文字、

ヿ←これが何て読むのか分かります?


調べてみましたら、「事」の略体でした。
2002年から電子機器上で扱えるようになったそうですよ。



こうして、一つ一つ賢くなっていく気がします、笑。
有り難や🙏



『草茅危言』による怪しい集団、虚無族についてでした。




最後までお読みいただき、ありがとうございました♪

古典本曲普及の為に、日々尺八史探究と地道な虚無僧活動をしております。サポートしていただけたら嬉しいです🙇