小説【 初恋 】

成績優秀でスポーツ万能の先輩。ファーストキスの相手で意地悪な幼なじみ。ふたりの男子に揺れる女子高生15歳の春。

※収録の短編集は4月20日発売(税込400円)↓

先輩の名前は藤井和成。3年2組。成績優秀でスポーツ万能。そしてイケメン。当然人気があってテニス部のエースだから放課後テニスコートの周りや見おろせる化学室のベランダには女子が集まる。ちなみに私はラケットを持った先輩を見かけてあとをつけてテニス部と知ったんで最初からそれと知ってキャーキャー言ってる皆さんとは違う。

先輩にはじめて会ったのはひと月前。高校に入ったばっかでまだともだちがいなくてトイレが長引いたりもあってその日の午後私は校内で迷った。3年生の教室がある3階の廊下で音楽室はここらのはず、と見まわしていると「1年生? どうした?」と声をかけられて見ると先輩だった。「迷子? どこ行きたい?」と聞く先輩は男子のともだち2人と一緒で、

「あ、音楽室に」と私が言うと、

「じゃああっちだね」と指さした。「この学校わかりにくいんだ」とやさしい笑顔でうなずいた。

「あ、ありがとうございます」と私がお辞儀し「失礼します」と音楽室に向かおうとすると、

「気ぃつけてねー」と声をかけてくれた。ともだち2人も笑ってたけど先輩の笑顔は歯がキランと輝いてストップモーション、目に焼きついた。なんて素敵な人! 私は銃声が聞こえたね。ズキュンて胸を撃ち抜かれた。

それを話すと萌は「それだけ?」とポカンとして「なんかチャラくない?」と言うから、

「チャラくないよぉ」と言い返したけど私は怒ってない。萌は高校ではじめてできたともだちで好きな人はまだいないらしい。かぶっちゃうよりはいい。中学の時に仲良かった子たちはみんな他校で今のところ話し相手は萌だけ。席が近くて話すようになったけどまぁまぁ気が合う。

とにかくその出会いから意識して先輩を探して見つけたのは先週、ゴールデンウィーク明けの放課後の昇降口でたまたまラケットを持った先輩を発見して尾行。それでテニス部と知った。練習を見学する女子の皆さんのあいだをウロウロして先輩の名前やクラスをリサーチ、て言うか盗み聞きして、でもまだまだ足りない。彼女がいるかどうかも知らない。もっと知るにはどうしたらいい?

それで思い出したのが新太。進藤新太。私の2歳上の幼なじみで同じ高校にかよってる。私んちの4軒隣りにあるコンビニのひとり息子で性格は最悪。意地悪で昔はさんざん泣かされた。今は負けてないけどね。それ言っても萌は「いいな、うらやましい」と言う。萌の家は昔転勤族で引越し&転校が多かったから幼なじみはいないらしい。でもそんなにいいもんじゃないぞ?

LINEで〈3年2組の藤井先輩知ってる? どんな人?〉と聞いても新太は返信を寄こさない。イライラするな。まぁ最近ご無沙汰だったけど。最後に話したのは今年のお正月。年始の挨拶でコンビニに行くとバイトしてた。新太の家は4年前まで酒屋さんだったのを5階建てのマンションに建て替えて1階のテナントにコンビニをオープンして、新太は高校に入ってから時々手伝ってる。そのあと同じ高校に合格したと新太のパパやママには報告したけど新太はノーリアクションだった。聞いてないはずないんだけどね。とにかくなんも言ってこない。登下校の途中でも会わない。まぁどうせ朝はいつも寝坊してギリなんだろう。

というわけで私は夕飯のあと歯を磨いてコンビニに出発。学校帰りに覗いた時は店内に新太はいなかった。

※収録の短編集は4月20日発売(税込400円)↓


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