シナリオ【 夢で会えたの 】

夫の恭司が死んで半年。琴美の夢にはよく恭司が現われる。成仏できない彼の霊か。再会を願う琴美の空想の産物か。ありありとした存在感に戸惑いながら、琴美は夢に身を委ねようとする…今は亡き人との再会の物語。

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●松永家・寝室(深夜)

F.I.ベッドサイドに電気スタンドが点いている。

ベッドで眠る松永琴美(49)が物音で目を覚ます。

夫の松永恭司「(ドアをあけスーツ姿で帰宅し)ただいま」

琴美「おかえり(上体を起こす。ふくれっつらで)遅い。ずっと待ってたんだから」

恭司「寝てたじゃない(微笑で鞄を置きネクタイをはずす)」

琴美「待ちくたびれたの。どこ行ってた?」

恭司「出張さ。名古屋」

琴美「あぁ――(目を伏せる)」

恭司「話したろ。忘れた?(微笑のまま)ほんと人の話聞いてない」

琴美「え(ドキッとする)」

恭司「いつも上の空で」

琴美「そうだった?(真顔で聞く)私そうだった?」


●松永家・寝室(早朝)

同じベッドで琴美が目を覚ます。目尻が濡れている。体を起こして部屋を見まわす。恭司はいない。


●松永家・仏間

暗いなかに仏壇。写真がいくつかある。恭司の遺影。その両親の遺影も。タイトル「夢で会えたの」


●松永家・外観

古い一軒家。5月下旬の朝。娘の松永理沙(25)がスクーターで帰ってくる。


●松永家・ダイニングキッチン

理沙「(玄関から来て)わぁ(と驚く)」

琴美「(暗いなかダイニングのテーブルセットに座っていて)おかえり」

理沙「ただいま。どうしたのカーテンもあけないで(カーテンをあける)」

琴美「ごめんご飯つくってない」

理沙「寝れなかった?」

琴美「ううん。パパの夢見た」

理沙「パパ?」

琴美「うん」

理沙「――どんな?(キッチンへ)」

琴美「帰ってきたんで『どこ行ってた?』って聞いたら、出張だって。名古屋って」

理沙「名古屋?(振り向いて琴美を見る)」

琴美「話したろ、忘れたのかって」

理沙「へぇ」

琴美「いつも上の空で――確かにそうだった。ちゃんと話を聞いてないこと多かった」

理沙「夢の話でしょ(流しで手を洗う)」

琴美「名古屋で倒れたって連絡来た時も、ピンと来なくて」

理沙「ショックだったからでしょ、それは」

琴美「話を聞いてたら、もっとちゃんと話してたら、体調不良も訴えてて、気づけたかもしれない」

理沙「そんなことないよ(水をとめて手を拭く)健康診断でもどこも悪くなかったじゃないパパ」

琴美「そうだけど」

理沙「多少働きすぎでも特別じゃなかった(食事の準備にかかる)不摂生もしてなかったし当日お酒も飲んでなかった。それで心不全なんて――寿命だったのよ」

琴美「すぐそう言うけど」

理沙「もう半年じゃない。原因わかんなくてモヤモヤするのはわかるけど、そろそろ考えて。元気になろうってして」

琴美「うん――」

理沙「――(朝食の準備をしつつ、イライラ言ったことを後悔する)」


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