小説【 DREAM 】

自由に夢を見られる機器「DREAM」 それを開発するのはゲーム会社ダイバーシティ社。プロデューサーはゲームをはじめ映画やドラマを手がけるクリエイター野沢克彦。彼にインタビュー取材を行なったフリーライターの本条紗恵子は、誘われるがまま「つくられた夢」の世界を体験し魅了される。夢と現実の「物語」の真髄を描く近未来SFストーリー。

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1.メモ

8/23(月)21:10

エンタウェーブ誌の編集長、岡沢亜紀女史から電話。PCのテレビ電話で応対。

ひとしきり時候の挨拶(今夜も熱帯夜)と近況報告(お盆はどうしたか)のあと仕事の依頼と確認。買い換えたばかりのウェアラブル端末、眼鏡タイプをかけ女史にからかわれる。女史いわく私の記録癖は病気らしい。「仕事熱心ですよ」と反論。依頼はゲーム会社への取材。

以下、端末で録画した会話の文字起こし。

――ゲームですか?

厳密に言えば違うらしいけど、開発してるのはゲーム会社。ダイバーシティ社。プロデューサーは野沢克彦氏。ご存知?

――ええ、名前だけは。いろいろやってる方ですよね。

そう。ゲームは勿論、映画やドラマのプロデュース、脚本、演出。彼のご指名なの。取材を申し込んだら聞き手はあなたにって。

――私に?

ファンみたいよ。本条紗恵子さんが聞き手ならって。

――まさか(当然信じない。社交辞令と判断)

ホントよ。それで連絡したの。お願いできる?

――ゲームはそんな詳しくないけど。

だから厳密にはゲームじゃない。

――どんなです?

彼はいま独身。3年前に奥さんと別れて、子供はなし。

――なんですそれ。

そういう意味のチャンスもってこと。いま彼いないんでしょ。

――そういうの込みならお断りします(ヒキになりません。むしろメンドイ)

冗談よ。とにかく今のとこつかんでるのはうちだけ。そういうネタだからぜひ実現したいわけ。いい返事をもらえないと詳しく話せない。

――苦手なものじゃ受けられないし、ある程度聞かないとお返事できません。

そうね、そちらはそちらで。

――信用できないですか。口外しません。

信用してるよ、ともだちだし。でも立場上ね、編集長がそこらをグズグズにしちゃあれでしょ。

――わかりますけど。

開発してるのは夢を扱う機器らしい。

――夢?

そう、ドリーム。

――寝てる時に見る?

見たい夢を自由に見る機械。究極のエンターテインメント。脳科学者とか心理学者とか、ゲームのシナリオライターとかいろんな専門家が集まって開発を進めてるらしい。

――へぇ。

未知の世界でしょ。誰にとってもそうだし、素人目線がむしろ大事。あなたなら楽勝よ。やってくれるでしょインタビュー。

(ということであさって25日に取材決定。時間と場所は追って連絡するとのこと)


2.取材メモ

8/25(水)13:24 新宿

ダイバーシティ社のあるビルに到着。タクシー代は1200円ちょうど。高層ビルの22階から5フロアがダイバーシティ社らしい。

受付で取り次いでもらうと5分後に広報の女性、山崎遥香さんが到着。名刺交換済み。約束は2時からだったので「2時からと伺ってましたが」とやんわり早すぎを指摘される。機材のバッグをさして「準備があるので少し早めに伺いました」と弁解。

受付で来客用の入構証をもらい25階の応接室へ。途中の社内風景は録画済み。開発したゲームのポスターやフィギュア、販促用のオブジェなどが廊下にあって、普通の会社とは違う雰囲気。社員の人たちはラフな服装が多い。

応接室の窓は都内が一望できる。新宿御苑や皇居の周りなど緑が目立つ。真夏のせいかな。

14時5分すぎ、野沢克彦氏登場。ノートPC持参。やはりラフな服装でピンクのストライプのシャツにジーンズ。45歳にしては若い。

以下やりとりの文字起こし。

やあ、はじめまして、野沢です。いらっしゃい。

――はじめまして。本条と申します。

すいませんね遅くなって。

――いいえ。

どうぞ(ソファーをすすめてくれた)眼鏡なんてかけてましたっけ(テーブルにノートPCを置きながらの質問)

――あぁ、ええ、まぁ。

録画?

――ええ、記録用に。

そうか(テーブルにあったリモコンで壁のディスプレイをON。笑顔がないので)

――気になりますか。

そうね。そうとわかると気になるかな。どうぞ、おかけになって。

――はい、失礼します。

顔を見るたびいま撮られてるなって、意識のどっかにチラつく(パソコンを操作しながらも嫌そうなので)

――はずします(と端末をはずす。ここでいったん音声のみに)

いいの?

――お話だけ録れればいいので。このカメラもあるし(ソファー横に低い三脚でビデオカメラを設置済み)眼鏡は一応予備で。

とった方がいいね。

――はい?

眼鏡、ない方が。かけてるのもいいけど。

――ありがとうございます。

(あれはちょっと照れたね。さり気ない褒め言葉。悪い気はしなかったけど、でも大人の対応でスルー。ああいうことをさらっと言えるのは女慣れしてる感アリ)

インタビュー番組あったでしょ、ネット配信の「RETSUDEN」 いろんな業界人に話を聞く。あれのファンだったんです。シリーズ通して好きだったけど、特によかったのが本条さんの回で。

――そうでしたか(岡沢女史が言っていた「ファン」というのはそういう意味らしい)

話を聞きながらひっかかったとこ、それをいいタイミングで聞いてくれて、解消して進めてくれるからわかりやすく入ってくる。その流れのつくり方って言うか。

――ありがとうございます。

波長が合う気がした。この人ならうまく聞いてくれて、わかりやすく伝えてもらえるんじゃって。

――あの番組はでも、編集の力も大きかったと思います。

なるほど。

――私はただのインタビュアーで、ライターで。

フリーでしょ、でも。

――まぁ。

引く手あまたなんでしょ。

――そんなことありません(そんな余裕ないよー)

ただ目の前にいるだけで、ほかの人と違うんじゃないかな。あの番組でも聞かれる人が活き活きしてた。

――ありがとうございます。

たまにチラッと映ったでしょ、本条さんが。見切れる時が。

――あぁ、はい。

そのとき眼鏡はかけてなかったから。

――カメラマンや音声さんがいる時は、必要ないのでかけません。

そういうことなのね。

――はい。

心配ならかけていいですよ。

(ここでノック。広報の山崎さん再登場。「失礼いたします」とトレーで野沢氏のコーヒーを持ってきた。私の分はもうあってひとくち口をつけた状態)

確かに録れないとこっちも困る。どうぞ、つけて下さい。

(野沢氏が言うあいだ山崎さんは邪魔しないように黙って配膳)

――いえ、音は録れてるはずなので、じゃあここに(端末はテーブルのうえ、私のコーヒーの横に置いた)

そう。

(野沢氏がうなずくあいだ山崎さんはお辞儀して退室)

このカメラがメインの記録用?

――はい。

もう撮ってます?

――いえ、まだ。お嫌でしたらこちらの、眼鏡の録音だけ使います。

いいですよ。こういう職業柄、カメラ前に出たりはたまにあるし。

――そうですか。

得意じゃないけど嫌でもない。

――(ここで疑問が浮かんだ)本日のインタビューは映像でなく、文字で、ということでよろしかったんですよね。

そう希望しました。

――ならいいんですが…。

嫌でもないけど要らない情報でしょ、しゃべってる僕の姿や声って。あればどうしても気が散る。だから文字だけで、動画じゃない方がいいと思った。最初の発表になるし、内容だけ伝えたくて。

――わかりました。何かこちらに手違いあったかと思ったもので。

ありません。はじめましょう。カメラもどうぞ、回して下さい。できればこっち側がいいな。こっちから見た顔の方が好きなんで(と設置したのと逆側、自分の右側を指さした)

――はい(希望通りカメラを移動。いろいろ言いつつカメラ映りを気にするなんてお茶目。でも私の気をほぐそうとしたのかも。そのぐらいの気は回しそうな印象。細やかそうな)

(野沢氏は壁のディスプレイに映像を出した。美麗なCGでダイバーシティ社のロゴ。続いて「DREAM」というロゴ)

これはプロモーション用です。まだ作りかけですが。

――はい。

(次に出たのは機器の写真)

これがその装置。左が専用のコンピューター。右が脳とのやりとり、情報を送受信するアンテナです。コードレスで4つある。

――夢を自由に見られる機器、とのことですが。

そう。見たい夢を寝る前に設定すれば、寝てるあいだ体験できる。

――体験ですか。

僕はそう考えてます。好きな夢を自由に見られたらどんなにいいだろって、子供のころ思いませんでした?

――考えたかもしれません。

映画でもあるでしょ。有名なのは「トータル・リコール」

――はい。

見たことあります?

――シュワルツェネッガーの。

そう、監督はポール・バーホーベン。

――リメイクもされましたね。

コリン・ファレルね。そっちはご覧なってない?

――いえ、一応両方とも、昔。

どんな感想持ちました?

――そうですね、どちらもなんか、夢を見てトラブルになる話で。

うん。

――ちょっと怖いような。実際どういうものかは想像できなくて。

まぁ映画ですからね、トラブル起こさないと話にならない。

――まぁ。

実際はそんなことありません。もっと楽しいもの、文字通り夢中になれるものと思います。

――そうですか。

例えば子供のころは、テレビやゲームに夢中になるでしょ。すぐ没頭できる。アニメを見終わった後しばらく主人公になりきって、ごっこを楽しんだり。

――ええ。

ところが大人になるとそうはいかない。見る気満々で映画館に入って、まわりを暗くしてもまだどこか醒めてる。3Dとか4Dとかの技術を駆使しても、完全に没入できるわけじゃない。

――そうですね。

映画はまぁ一方的に見せられるもんだし、受け身すぎて乗り切れないのはあるけど。

でもキャラクターを自分で動かすゲームもそうでしょ。どんなにリアルな世界でも、これはゲームの世界、どっかにそんな意識ある。

――ありますね。

大人ならそれで当然でしょうけどね。長く生きてたくさんの情報を得れば、気になることが増えて当然。しょうがない。

――夢の中は違うと。

そう。寝てるあいだは判断力が弱まって、見てるものが夢なのか現実なのかわからなくなるでしょ。あり得ない展開が続いても、それが夢だと思えない。現実と同じように感じる。

――錯覚しますね。

理論的に考える脳の部分が、寝てるあいだは機能停止するので。それを利用するわけです。体験というのはそういう意味。

――明晰夢のようなものではないと。

そうですね。お調べになった?

――多少、予備知識と思って。

さすがですね。明晰夢というのは見てる夢を、「これは夢だ」と自覚しながら見るものでしょ。

――らしいですね。

自覚しながら本人が、見たいように夢をコントロールする。それとは違います。コントロールはこの装置に委ねる。

――DREAMという名前ですか。

まだ仮です。あんまりヒネリがないんで、いずれ変更するかもしれません。

――具体的にはどういう仕組みですか。

理論的に考える脳の部分が停止しても、ほかの部分は動いてるわけですね。例えば寝てるあいだちょっとした物音が聞こえれば、寝室に誰か入ってきた夢を見る。カレーのにおいを感じれば、それを食べてる夢を見たり。喉に冷たい金属の棒をあてれば、首を切られて処刑される夢で跳ね起きる。

――そうなんですか。

外部から与えられた刺激に反応して、それがなんなのか、どうしてか、納得できるよう瞬時にストーリーをつくる。人間の脳はそういう仕組みになってるんです。そして刺激は内外ありますが…寝る前に見たテレビの出演者が出てきたりね。それは記憶という内的なもの。

――ええ。

そしてさっき言った外的なもの。でも外的なものは、実際の刺激、音やにおいや感触でなくていい。

――と言いますと。

脳に直接刺激を与えればいいんです。

手足も神経に刺激を与えれば、動かすことができるでしょ。骨や筋肉に問題なければ、本人の意思で動かせない部位も。

――ええ。

脳も同じです。手術で頭蓋骨をひらいたとき脳の表面に電流で刺激を与えると、患者は麻酔で眠ってるのにいろいろ感じる。視覚の部分を刺激すれば映像を、聴覚の部分を刺激すれば音声を。それと同じことをこの装置は行なうわけです。

――すごいですね。

順番に申し上げると、このアンテナをまず寝室に設置します。

――はい。

設置するのは枕、つまり頭からおおよそ等間隔にバラバラで。

最初はカプセルのようなもの、日焼けマシーンの頭部だけのような形を考えたんですが、あんまり小さいと跳ね起きた時ぶつかるでしょ、狭いと。

――ええ。

だから距離を置けるようバラして、4つを自由に置けるようにしました。

――GPSと同じ仕組みですか。

そう。夢を見てるあいだ反応してる脳の場所、それを正確に当てるため。

次に本体のコンピューターで、見たい夢を設定します。これは今のところ大きく分けて3つ。見たい夢を細かく設定するのが1つと、設定せずに見始めた夢を膨らますモード。そしてこの装置がメインになって、ユーザーの意思と関係なく夢を見せるランダムモード。

――1つめから伺えますか。見たい夢を細かく設定するというのは。

例えば離れて暮らす恋人とデートする夢が見たい、と希望しますね。設定を開始してそう念じる。

――念じる?

考えるだけでいいんです。恋人の画像や動画があればそれも取り込めるけど、脳内で思うこと、それは今データ化できますから。映像に復元して他人が見たり共有できる。

思い出してる時に動いてる脳の場所、そして思い出したものをさっきのアンテナが検知してデータ化し、このコンピューターに取り込む。

――そんなことができるんですか。


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KATARA

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