見出し画像

百貨店は何故閉店するのか

先月末で、徳島県からも百貨店がなくなり、他にも滋賀県大津、神戸市の西神中央から百貨店が消えていった。かつて百貨店で11年勤めていて、いまでもいろいろな情報が入る私としては、まだ大津や西神中央が頑張っていた方がすごいと思っている。セブンアイホールディングスがH2Oグループに西神中央を引き取らせようとして、失敗した時点ですぐに閉店と思ったのだが。

既に百貨店が存在しない県も山形県はじめ複数出る事態になってきている。百貨店というビジネススタイルはもう古いものとしてこれからも閉店が続いていくのだろうか。

上にあげるデータを見ることは多くあるだろう。百貨店の売上は1990年代を頭にどんどん下がってきている。その代わりにどんな場所で買うようになったか?よく言われるのは、駅前型の百貨店に対して、郊外型のショッピングモールであったりECであったりが原因として挙げられる。

画像1

出典:日本百貨店協会、日本ショッピングセンター協会、日本チェーンストア協会、日本フランチャイズチェーン協会、経済産業省等の公表資料より
https://www.icr.co.jp/newsletter/report_tands/2014/s2014TS302_4.html

しかし、百貨店に努めてきた人間としては、いくつかの要因が重なっているとみている。そしてそれは地方経済の大きな変化要因を表しているとみている。

百貨店の顧客の変化
かつて、百貨店の顧客といえば「家族」であった。日常より「ちょっといいもの、とてもいいもの」が主力である。
いまでもアニメ「サザエさん」を見ると、一家でデパートを訪れることがある。しかし、家族のカタチが変化している。小学生以下の子供の場合は家族で訪問する場所としては良かったかもしれないが、中学生ともなると子供は自分からいろいろなところへ出かける。一緒に買い物をすることもなくなるので家族としての百貨店訪問回数は減る。そして、その中学生高校生当たりの買うような商品は百貨店の中には「全くない」。こうして、百貨店離れが始まっていく。

百貨店の顧客は60代女性と30代女性だ。贈答需要が中元お歳暮などもあったころはそれでも定期的に百貨店に行く用事があった。冠婚葬祭もだ。しかし、人口減少がやってくる。おのずとそういう需要は少なくなってくる。

地方は、若い人が出ていってしまう。それでもなんとか地方百貨店は30代女性くらいのためにも頑張り続ける。ところが30代女性の好む服を置いてもなかなか売り続けるのは難しい。この客層は変化も早いしトレンドの変化も早い。ブランドを積極的に入れ替えることができる店舗はそれでも対応可能だが、全ての百貨店業がそういうわけではない。人気の商品は常に奪い合いで、当然大手の都心中心部の店舗から割り当てられる。地方はいつも割を食うのだ。そうして頑張った若い人向けのテナントもじり貧となり、結果30代の顧客(そもそも子育て世代にとってはSCの方が断然便利)も少なくなり、60代以上の顧客しか百貨店に行かなくなってしまう。これは2010年くらいから地方の百貨店のみならず全国で見えてきた傾向でもある。

都心部はそれでも、強力なテナント、様々なコラボレーションなどで20代30代といった若い世代のお客も引き付けることができていた。しかし、地方のお店はますます苦しくなっていく。冠婚葬祭需要も贈答需要も減る一方。頼みの綱の食料品部は利益率がもともと低いうえ、中心市街地の空洞化が進むといっぺんに近隣顧客を失う。中心市街地に来てくれる世代も高齢化でどんどん少なくなっていく。

「高齢者はお金を持っていて、使う場所を探している」という話をよく聞くが、それは一部の人であり、大半の人たちはそれを使うことはあるだろうが、別に百貨店でなくてもいいし、使い方も変わってきている。ある程度自分のためにも使うが、そこまで買い物意欲は旺盛ではない。乾いていない馬に水を無理やり飲ませることはできないのである。

集客に困った百貨店は、クーポンや割引でお客様を集めようと必死になるが、これは利益率を下げるだけで逆効果である。かつて神戸阪急(神戸駅の方)でクーポン割引の費用対効果を計測する仕事をしたが、「麻薬だな」といった店舗担当の部長クラスの一言が忘れられない。ここまでくると、店舗としては撤退するしかなくなってくる。しかし、テナントとして入っている店舗は巨額の退去費用が発生する場合も多く、進むも地獄引くも地獄である。

地方経済と百貨店
地方の百貨店では、存続のために自治体が家賃を補助するなど多くの支援を重ねているところもある。しかし、その地域の人口構成が変わるとか、若い世代が急速に増えない限り無理な話である。
こうして変化に対応できなかったというより、変化に伴って百貨店のようなビジネスモデルは幕を閉じる。

百貨店が閉店してしまう理由はまさにその「ちょっといいもの、とてもいいもの」を買う人が減少してしまったことだ。そして、若い世代は地方都市のこじんまりした百貨店では満足せず、2時間で行ける大都市の百貨店を目指す。その大都市の求心力が高ければ高いほどその2時間県内の小都市中都市の商業施設は魅力を失う。こうしていまでもまだまあまあ堅調なのが博多であり、札幌であり、広島であり、大阪であり(神戸は既に大阪に商業的求心力で負けている)、名古屋であり、東京である。人口が多い東京圏の都市(横浜、千葉など)を除いて、その他で百貨店が向こう10年生き残るとすれば、京都神戸はともかく松山と岡山、金沢と静岡と仙台くらいではないか。宇都宮や高崎、和歌山、高松、大分は危ないだろう。

百貨店が廃業してしまうと、何が地域にとってマイナスなのか。人口が減っている以上、百貨店に限らず多くの商業施設が衰退、廃業していくのは明らかだが、私が特に指摘するのは「いい品物」を買うという行為がその地域内で行われなくなることだ。高級品、というのは当たり前の話だがお金がたくさん動く。それが地元のもの(高級フルーツや工芸品)でもあったり、世界的なものでもあったりする(ブランド服など)が、今後そのお金はすべて大都市に行ってしまう。極論すれば、地元で一番高級な和牛やフルーツは都会の百貨店や高級ショップ、あるいは全国的ECショップ(楽天など)でしか売っていない、ということになる。

高級品にまつわる流通は当然のことながら多くの人にお金を落とす。そして何より、高級品を扱うということは、若い人にとっても魅力ある働き口の一つである。百貨店が失われるということは、地域経済の衰退の一つのカタチではあるが、取り返しようがない市場を失うことでもある。ただ、その業態を生き返らそうとするには、もはや百貨店がビジネスモデルを変えるということだけでは追い付かず、地域の人口という地盤の回復がないと不可能な状況になっているという泥沼なのであるが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?