伝説の○○○○少女、スミちゃん(仮名)

本格的にご先祖様の事を調べ始める前から、この親戚スミちゃん(仮名)(ちなみに母のはとこだと調べてから判明)の話は時々聞いていました。
叔父はこのスミちゃんが来訪、いや来襲する度に散々な目に遭わされていたそう。
今回はこのスミちゃんについて書き記そうと思います。
家系について興味を持った理由のひとつでもあるのですが、ちょっと最終的には悲しい話でもあります。

母の出身は新潟県柏崎市。
母方の祖父は、柏崎でとある商売を営む一族の末っ子に生まれ、祖母と結婚してからも家業を手伝っていました。
その都合もあったのか、一家は他の商売絡みの親戚と同じ敷地内で暮らしていたのです。

(母曰く、関西にいる親戚はこの話をしてナンセンスな疑いを掛けられた事があったそうで、それもあるのか父も結婚してからしばらくは母の幼少期の家庭環境を知らなかったそう)

一家を仕切っていたのは、私から見た曽祖母のテイさんだった様。
よって、時々テイさんの親戚が来訪する事がありました。

テイさんの親戚は、関西に移住した人が多かったみたいです。
スミちゃん(仮名)のお家もそうでした。
ですから、スミちゃん(仮名)が学校の長期休みに入った時だけ来るというのがパターン化していた様です。
新幹線もない当時、どれだけの手間暇を掛けて柏崎と関西を往復していたのか気になりますが、これは全く本題とは関係ありません。

スミちゃん(仮名)は、いつも柏崎にスミちゃんの祖母(テイさんの姉妹)とおばさん(伯母なのか叔母なのかはっきりしない)と来ていました。
柏崎に来る時だけこのメンバーだったのではありません。
先祖調べを始めて、詳しく聞いてから知りました。
スミちゃん(仮名)のお家には色々な事情があり、普段からずっとその三人で暮らしていたのです。

スミちゃんの祖母は、まだ小さいのに親元を離れているスミちゃん(仮名)をとても気の毒に思っていた様です。
ですから、それはそれはスミちゃん(仮名)を大切に……というか、悪く言えば甘やかし気味で育てているのがその短い来訪でも明らかだったそう。
スミちゃん(仮名)がどれだけワガママを言っても、スミちゃんの祖母はニコニコと彼女の言う事を聞き続けていたのだそうです。

そのせいもあったのか、今から半世紀ほど前、柏崎である事件が起きました。

ある夏、またスミちゃん(仮名)が柏崎の街に降り立ちました。
最も辛く当たられた叔父ほどではなかった様ですが、母から見ても数歳上の小さな暴君スミちゃん(仮名)が来る季節はつい身構えてしまう時期でも……あったかどうかは定かではないですが多分そうだったでしょう。

親戚の伯母さん(私の母から見て)が、スミちゃん(仮名)を出迎えます。
そして「スミちゃん(仮名)、今日は何食べたい?」と話題を振りました。

スミちゃん(仮名)はこの様に答えました。

「カ ラ ス ミ」

母はきょとんとしたそうです。
小学生の母は、「カラスミ」を知らなかったからでした。

ちなみにカラスミとは、以下のイラストの様な食べ物です。

いらすとやさん、カラスミのイラストもあるんですね! 感動


言うまでもなくカラスミは高級品で、とてもじゃないですが普通は義務教育中の子どもが食べたがる物ではないと思います。
しかしスミちゃん(仮名)(言うまでもなくこの仮名はカラスミから取っている)を、スミちゃんの祖母は一切咎めも叱りもしませんでした。

半世紀前の柏崎で「カラスミ食べたい」なんて言うのはどう考えてもなかなかの無茶振りです。
思うに、スミちゃん(仮名)は頭が良かったそうなので(タチが悪い)、わざとそんな意地悪を言ったのではないでしょうか

さて、衝撃の返答を受けた伯母さんですが、その後どうしたでしょうか。

なんと。

なんと……。

伯母さんはその日の食事に、カラスミを出したのです!!

いや出るんかい!! カラスミだぞ!?


詳しい入手ルートは明らかにされていませんが、柏崎中あちこちの店を回って探し求め、ようやく見付けたという噂があります。
逆にカラスミが出てスミちゃん(仮名)もびっくりしたんじゃないだろうか。

母曰く、「さすがにお金は後で払ってくれたと思うけど……」
ああ母よ、私が突っ込みたいのはそこではありません
むしろそこ以外の全てです


「それにしてもスミちゃん(仮名)、ある意味大物過ぎない? 今どんな大人なの?」
私がたずねると、母は微妙な顔をしました。

「スミちゃん(仮名)、もう若い頃に亡くなったから
「…………」


スミちゃん(仮名)は、果たして本当にカラスミが食べたかったんでしょうか。
真相を知る事は、もう出来ません。

伝説のカラスミ少女のお話でした。

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