『スパイダーマンホームカミング』の“あの曲”について

※以下、『スパイダーマン ホームカミング』のネタバレ含みます。

『スパイダーマン ホームカミング(以下『ホームカミング』)』を見てきた。個人的には面白くもあり、不満もあり、あの名作『コップ・カー』の監督作としては…という感じだった(しかし僕は基本的にどんな映画を見ても面白いと感じる人間なので、その意味ではもう全然大満足!なのだが)。

それでも作中、否応無しに興奮してしまい、鳥肌が立ちまくった場面がある。スタークに待機を命じられたスパイダーマンが、NYで地道な人助けをくり返すシーン。そのシーンで爆音で流れるのが…ラモーンズの『Blitzkrieg Bop(電撃バップ)』

僕がまだ10代だったある日。どこかで偶然耳に入ってきた曲に、洋楽を好きになり始めたばかりの僕は衝撃を受けると同時に何故か直感した。

「これはあらゆるミュージシャンのインタビューで目にする、ラモーンズに違いない!」

すぐさまラモーンズのベスト盤を購入してみると、はたしてその曲は本当に彼らの曲であった。そしてそれがまさに『Blitzkrieg Bop』だった。

以降、胸を張ってラモーンズマニアと言えるほどではないにせよ(何しろ僕の友人には彼らに人生を捧げてラモーン姓を名乗り生きている奴までいるのだ!)、ラモーンズの精神性というのは僕のどこかに根付いている。

だから劇中『Blitzkrieg Bop』か流れた時は否応無しに反応してしまったし、宇野維正さんがリツイートしていた以下のツイートにも大きく膝を打った。

しかし、上記の方(ラモーンズ好きと思われる)が敢えて触れなかったであろう彼らがずっと抱えていた問題を考える時、今後のMCUの展開すら予感させる存在として『Blitzkrieg Bop』は響いてくる。

20年以上に及ぶラモーンズのキャリアにおいて、常に中心的な役割を果たしたメンバーは二人いる。Voのジョーイ・ラモーンとGtのジョニー・ラモーンだ。ファンには有名な話だが、この二人の関係は長らく良好と言えるものではなかった。

ジョーイはリベラルな思想の持ち主で、ラモーンズのドキュメンタリー映画『End of the Century』では、民主党への投票を呼びかけるようなCMにバンドが出演する様子が映っている(この辺、うる覚えなので細部が間違っていたらすみません)。

しかし同じ映画でジョニーは語る。「俺はずっと共和党支持だよ!」。そう、バンドの中心人物二人が正反対の政治思想を持っていたのだ。

さらにこの二人の仲を決定的に切り裂いた原因は、ジョーイのガールフレンドをジョニーが奪ってしまった事にある、と噂されている。

これに怒ったジョーイが作ったのが『The KKK Took My Baby Away(白人至上主義者が俺の彼女を奪っていった)』という曲なのだ。

大きな大きな影響を世界中の人々に与えたバンドでも、その内部ではこのようにドロドロしたものを抱えていた。そういう事を知ってガッカリしてしまう人もいるだろう。

しかし同時に、こうも考えられないだろうか?「政治思想が真逆でも、互いに良い感情を抱いていなくても、それでも一緒に一つのことに取り組んで、人々を感動させることも出来るんだ!」

現在アベンジャーズの内部はアイアンマンとキャプテン・アメリカの思想の相違が主な原因となり、二つに切り裂かれている。まるでラモーンズのように。そしてそれは先週、米バージニア州シャーロッツビルで起きた事を例に挙げるまでもなく、世界中で起きている事でもある。

これまでのところピータ・パーカーの行動原理は、トニー・スタークに対する憧れと「少しでも近づきたい」という焦燥感と共に語られてきた。

しかし、『ホームカミング』でピーターが通う高校では、例え生徒に聞き流されるような扱いを受けていようとも、ビデオメッセージという形でキャプテン・アメリカが彼らに正しさを説いている。それは無意識のうちにピーターの心にも刷り込まれている筈だ。

よく語られるように、クイーンズで誕生したラモーンズは本来ビートルズやビーチボーイズに憧れていたのだが、幸か不幸か演奏技術が未熟であった為にパンクという全く新しいスタイルを作り出してしまった。その歩みを『ホームカミング』のピーター・パーカーに重ねることも出来る。(ちなみにラモーンズはスパイダーマンのテーマをカバーしている!

しかし僕が彼らの音楽に真に感動するのは、独自の道を歩き続けた結果、彼らは彼らの形でビートルズやビーチボーイズに並ぶポップソングに到達してしまった所にある。

(例えば『Howling at The Moon (Sha-La-La)』という曲の美しさはどうだろう?)

今後二つに切り裂かれたアベンジャーズは、様々な違いを乗り越え共通の目的の為に再び共闘を選択する筈である。その時、彼らを結びつけるのはアイアンマンとキャプテン・アメリカ両方に薫陶を受け真のヒーローに成長したスパイダーマンではないだろうか?

そしてその時こそ、もう一度高らかに『Blitzkrieg Bop』が鳴り響いて欲しい!

Hey Ho, Lets Go!

※ちなみに本作でMJを演じるゼンデイヤの気だるそうな雰囲気は、どことなくジョーイに似ていると思うのは僕だけだろうか?

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