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『カタツムリレポート#8 YKK AP株式会社』〈後編〉

「一人ひとりが循環者になる未来ってどんな未来だろう?」
カタツムリレポートは、よりよい未来をつくろうとする人達や研究者の方に、その研究や取り組みのワクワクをご紹介いただくインタビュー記事です。子どもたちが「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるよう、参加企業や研究者の取り組みにググッとフォーカスしてお届けします。

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このnoteは、JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学×鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営しています。


前編はこちら

人にフォーカス!

川上にも川下にも近い金属や樹脂という素材のおもしろさ

片山 樹脂窓のリサイクルがここまで進んでいることに驚きました。大学での研究や入社後のお仕事はどのようなことをされてきたのですか?

市川さん 大学では応用化学を専攻して金属と化学に関する知識を学び、大学院ではその中でも特に有機化学の分野に興味をもち研究をしていました。具体的には鎖状につながっている有機化合物から環状の有機化合物を合成して薬の原料を作る研究です。
卒業後の進路として、化学系の企業や創薬、化粧品の会社に進む先輩もいて、そういった素材そのものを取り扱う企業にも興味はあったのですが、YKK APは金属と樹脂を扱っていて、その素材を通じて川上(原料)にも川下(商品)にも近いという点に興味をもち、それが入社のきっかけになりました。

最初に配属されたのは、YKK APの主材料であるアルミや樹脂素材に関わる性能評価や成分分析をする部署です。国で定められた規格に押出成形した形材や板材が合致しているかどうか、新しい材料や商品の成分分析、また製造工程では水や薬品も使用しますのでその処理水、処理溶液の成分分析・管理などの業務を担当しました。
その後、化学物質のバックグラウンドや、入社後に環境分野の国家資格を取得していた背景から、現在の安全環境管理部に異動しました。そこでは、工場で使う化学物質や商品に含有する化学物質の管理政策立案・推進を担当してきましたが、上司の勧めで大学院に行くチャンスをいただきました。

大学院で何を研究したいかを考えた当時、樹脂窓のリサイクルにも化学物質の課題があると感じていました。そこで、建材のリサイクルと化学物質の在り方についてより広範囲に研究したいと思い、樹脂窓リサイクルの第一人者の先生がいる現在の研究室に進学しました。進学後、北海道で解体された樹脂窓を使ったリサイクル実験がスタートしたことも重なり、現在はその樹脂窓の再生処理実験の企画から直接関われています。

片山 入ったら、まさに取り組みたいテーマがあったのですね。

市川さん はい、タイミングよく使用済み樹脂窓リサイクルの社会実験が始まってよかったです。仕事と学業の両立は大変なことも多いですが、研究はとても楽しいです。

YKK APさんのAとPを表現してみました!リクエストにお応えいただき、ありがとうございます!

作る側の責任として「リサイクルを、今やる」

市川さん 社会実験がスタートした当時は、使用済み樹脂窓のリサイクルがここまで順調に進むとは思っていませんでした。日本では樹脂窓リサイクルの研究は2000年頃から取り組まれてきましたが、当時は使用済み樹脂窓の回収量が少なく、再生処理技術の面でも私たちのような再生原料を使う側の技術が追いついていなかったように思います。今、廃材の量が増えてきて、そこに社内のリサイクルで培った技術力も加わり、リサイクルへの社会の追い風もあるこのタイミングだったからこそ、ここまで進んでこれたのではないかと実感しています。

日用品や家電はその商品のライフサイクルが、長くても十数年程度です。一方、窓の場合は40年近く、あるいはそれ以上使用されます。規制やルールが当時と異なる可能性が高く、リサイクル時には当時の使用材料や作り方などから新たな課題が生じる可能性もあります。そういったことから先を読みながら新しい商品を開発しなければならないという難しさがあります。

また現実問題として、回収や何段階もの再生処理に手間がかかるので、リサイクル材はそのコストが非常に高くなります。ただ、世界的な気候変動や資源の枯渇などの地球環境の問題、そして、埋立処分場のひっ迫やプラスチック規制の強化なども起きています。そこで作る側の責任として、まさに今、リサイクルに取り組まなければいけないと思って挑戦しているところです。

未来にフォーカス!

研究で培ったリサイクル技術をこれから取り組む人達に伝えたい

片山 子ども達や未来に向けて、どのような教育の取り組みをされていますか?

市川さん 子ども達に関わるコンテンツとして、学研さんの「ひみつシリーズ」という学習漫画で「窓のひみつ」を発刊しています。

片山 ひみつシリーズ、小学生の時に読みました!

市川さん 「窓のひみつ」を製作する時に私も関わりまして、窓の大切さや作り方を楽しくご紹介しています。YKK APのリサイクルや環境の取り組みにも触れていますので、多くの小学校で教材として扱っていただけていたら嬉しく思います。

その他の教育支援としては、絶滅危惧種の二ホンメダカの生息環境を製造所内で再現して繁殖させ、小学校にメダカを寄贈する「おしえて!メダカ先生プロジェクト」や、中学生を対象としたショールームでの職場体験、エコハウスづくりなど、いろいろと行っています。

市川さん 資源循環に関する教育にはまだ十分に取り組めていないので、今後COI-NEXTコンソーシアムのみなさんと一緒に教育コンテンツやイベントを企画していけたらいいなと思っています。

片山 最後に、市川さんがこの研究の先に見る夢を教えてください。

市川さん まず会社としては、COI-NEXTのお話のところでも触れたように、やはり自社だけではなく異業種の方々と交流しながら、今進めているリサイクルをどんどん広げていく。そして、今は樹脂窓のリサイクル実験を行っている地域が北海道だけですので、それを日本全国に広める取り組みも進めたいですし、YKK APの海外拠点でも同じようにリサイクルができるようにしていきたい。それが直近の夢です。

それから個人的な夢として、窓は金属と樹脂の両方でできている複合建材と呼ばれる商品で、窓同様にリサイクル技術が確立していない複合建材がたくさんあります。そこに、樹脂窓リサイクルの研究で培った技術的な課題解決方法を参考に展開していただけるようになり、そして私の研究論文がこれからリサイクルに着手する方々の参考図書のようなものになるといいなと思っています。

サンプルを見ていただいてわかるように、社内端材で作ったリサイクル樹脂窓も、使用済み樹脂窓で作ったリサイクル樹脂窓も、新しい材料で作った樹脂窓と同等の品質の商品です。窓は使った人が直接捨てるものではないので、なかなか意識されないとは思いますが、まずリサイクルできることを知っていただきたいです。ある日突然ペットボトルのリサイクルをみんなが普通にし始めたように、窓にもきっとそんな未来が来るはずだと思っています。

ーーー市川さんありがとうございました!!
窓枠の再利用の話がとても興味深かったです。壊したお家から窓枠を取り除いて、異素材がくっついてくる中、機械で細かく破砕し、プラスチックのみにできる技術、それを再利用しても新しいプラスチックで作った窓枠と変わらない品質にできることに驚きました。 YKK APは以前から聞いたことがあり、もしかして!と思い、家の中を調べてみると、扉や窓枠にYKK APと書いてあったのでとても親近感が湧きました。新しいことをたくさん知れて、とても知識が深まるインタビューでした!(片山)


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