あの男と過ごした幾多の夏の思い出

2013/7/27

あの川に飛び込みたい

悲しみと同化し、ひと時の涼しさをもとめるために

あの夏の夕暮れに戻りたい

いや欲を言うなら、一週間前にでも一か月前にでも戻れるならば


貴方を失くした夏の夕暮れ

夕暮れを迎える前の西日の光が

私の目線の先、アスファルトの上に逃げ水を作る

追いかけても追いかけても掴めぬそれの実態は

貴方が短い人生の中で探し続けても見つからなかった答えに似ている

否、答えが出たから自ら人生を終わらせる決意をしたのか

もう何年も貴方の番号に電話をかけ続けているが

声も聴けぬ、本当のことなんか尚更わからない

間違いないのは

あの夏の明け方、あの川が貴方を呼んでいた

呼ばれる方向に貴方は流れて行ってしまった

涙も流れ、時も流れ、周囲の景色も変化していく

私もいつかは間違いなく命を終える

地獄で会う、貴方の姿は私が若かりし頃の貴方の姿

私の顔は悲しみや愛を刻み、身体は老い衰え昔の姿ではないだろう

再会したらまた色んな話を聞きたい

子供のころに面白い話を沢山聞かせてくれたように

悪いことも良いことも吸収した、あの時の子供の心で


背景

今夏叔父の7回忌を迎えた。叔父を亡くし悲しみに打ちひしがれた女はあと13年もすれば叔父が亡くなった42歳を自然と迎える。

女が60歳になっても89歳になっても、女の中の叔父は42歳のままだ。今後夢に出てくることがあっても、化けて枕もとに立って現れても、姿は42歳のままなのだ。

ボケて全てを忘却してしまうまで、記憶喪失になって思い出を失うまで、たまに叔父を思い出して、笑ったり泣いたり考え込んだり、女は自分なりの方法で弔い続けると胸に誓っている。

女の姉妹や従妹たちも歳を重ね、今では遠く離れた場所で暮らし、仕事や家族を始め各々の生活に追われる。3回忌、7回忌と時が経つにつれ法事の出席率も悪くなるが、それぞれが叔父を想う気持ちは薄れない。

幾多の夏を過ごして、幾多の命日を迎え、盆、彼岸と叔父を家に迎えそしてまた送り出し、叔父と過ごした過ぎ去りし夏を懐かしんで、女は暑い風の中に叔父を感じる。

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