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yes. I. do 現在地について12

「ROCKIN' ON JAPAN」1月号に掲載されたインタビュー。

セットリストはその瞬間に歌いたい歌、その瞬間にリアルな心情で歌える歌で構成されるということ。
そこからはずされた歌たちは、エレ次の中のソロ次が作った歌だったということ。

「現在地について10」での考察は、あながち的はずれでもなかったようで嬉しい。
そして、前々からなんとなく感じていた “今宵の月のように” への違和感の理由も、なんとなく糸口が見つかりそうな気がする。(これはいずれ別稿にまとめたい。)

インタビューは読むたびに、これほどまでに明解に整理されている明晰な思考と、自身を冷静に分析する俯瞰の視座に、ただただ唸るばかりだ。
《両輪》という言葉がたびたび使われてきたが、実質は《一輪車》なのではないかと感じている。男椅子に乗り上がって背もたれに足を掛けるが如くに、驚異の体幹バランスで乗りこなす。進む道に合わせてサドルやタイヤをチューニングする。
あふれる才能は、それぞれに行きたい方向があって、それを整理して制御して、それぞれの方向にふさわしい一輪車の乗りこなし方を見つけるまでの35年の旅。


それでもモヤモヤは残っていた。
「バンドのためにソロをやる」
この真意が釈然とするまでに2年かかった。
「エレファントカシマシが世に問うものはもうない」
ここがまだわからなかった。

その時その時の気持ちを反映させることのできるセトリ、それを組めるだけの曲数があり、積み上げてきたものだけで勝負できるという確信が持てたということ?
無垢な4人がいて、当時のままの気持ちで歌うことができる、この《聖域》をどう継続させていくかということ?
もう変わる必要はない、新しいものを作る必要はない、ということ?

文字どおりに受け取るとそう解釈してしまうから、煌びやかなソロ活動に酔いしれながらも、心から応援しながらも、この言葉がしこりのように残っていた。
ただ、これまでも、ああそういうことだったのかと腑に落ちるまで長い時間はかかったし、壮大な物語の伏線回収は続いているし、このひとの中ではしっかりと道筋が見えているのだろう。バンド名義でありながらソロワークだった、と振り返る司令塔氏との11thアルバム『ライフ』の後、バンド回帰して大名盤『DEAD OR ALIVE』が生まれたのと同じ道筋を、まさに今、辿っている。そう思いたかった。待っていた。


今朝。4年半ぶりの新曲が映画の主題歌に決定した、というお知らせ。
神戸でのカバーコンサート「ロマンスの夜」の翌朝。
あのエレファントカシマシの、あの宮本浩次が、カバーのみのコンサートをやるって、よく考えたらとんでもなく振り切ってるし、思いっきり攻めてる。戦う男。
そして、そのひとつひとつに決着をつけながら進んでいるのだということが、この告知タイミングからもわかる。

タイトルは “yes. I. do”。

かっこよくありたいという理由で避けていた英語、それが “RESTART”、“Wake Up”、“Easy Go”、そしてこの新作 “yes. I. do” と続く。
映画の予告編で流れる “yes. I. do” を聴いた。“Wake Up”、“Easy Go” とで《自己肯定レジリエンス3部作》ともなりそうな明るいエネルギーが漲り、それでいて人生への愛と哀愁が通奏低音にあるような響き。

悲しみや虚しさを 、生きる情熱に変えてしまう楽曲でした。宮本浩次さんには、この映画を見て思ったことを率直に、断定的に叫んでほしいとお願いしましたが、期待を上回る力強い愛の歌に心が震えます。
映画公式サイトより、本木克英監督のコメント

このひとがなぜ信頼できるのか。
生きるとは、悲しみや虚しさや、その他のさまざまな感情と共に在ること、それを大前提としているから。その上で、がんばろうぜ!出かけようぜ!勝ちに行こうぜ!と叫び、その舌の根も乾かぬうちに、疲れたらそのまま寝ちまえばいいと言ってくれる。前だって後ろだって斜めだって、止まってたっていいんだぜ〜!と言ってくれるから。

「ROCKIN' ON JAPAN」1月号のインタビューを読んで思った。
結局、人はみんなこうやって生きてるんだ。
夢が夢であるうちはワクワクして、いくつになっても今こそ青春の真っ只中!と感じて、それが現実になるとヒリヒリする。
たぶん、みんなそうやって生きている。
でも、自分ではうまく整理できないことが多いし、ましてやなかなか言葉にして説明できない。それをきちんと話してくれる。ここまで言っていいのかと心配になるくらいに真っ直ぐに。正直に。その凄まじい人間力が《自己肯定レジリエンス》の芯。

35年の旅の道程で自己実現と承認欲求とその方向性をしっかりと整理できた今、《エレファントカシマシ宮本浩次》は、《歌手 宮本浩次》を背負わなくてよくなった。《エレファントカシマシ宮本浩次》は《エレファントカシマシ宮本浩次》として、より自然に、より純度を増して生きていけるのだ。
野音2022のステージ、“未来の生命体”。
  解き放ってやらねばなるまい!
   もう一度行くぞ!
    魂よ!
  行くぜ!
   越えろ!
    バイバイ!
と高らかに天を仰いだ姿が脳裏によみがえる。

「ああ、俺たちは別に立派でもなんでもないけれど、折にふれそんな自分を感じられるストレイトな感情を持っている。」
映画公式サイトより、宮本浩次のコメント

己が抱える葛藤を、己のこころに深く潜った逡巡のモノローグ/独白、己の心と向き合ったダイアローグ/対話、音楽性の試行錯誤を経て、歌によって治癒して自己肯定感へと昇華してきた宮本浩次の《自己肯定レジリエンス》と、4人で鳴らす《エレファントカシマシの音》が、今、たしかに人々に届いて世間から求められている。
つまり、ドーン!と行こうぜ! 明日も明後日も! 太陽は昇ってくるんだぜ!
……これを世に問う必要なんて、もうないのだ。


生きてりゃ、そりゃいろんな困難にぶちあたる。
でも、誰にだって何度でも立ち上がる力はある。
今朝の太陽に照らされて、今日の風に吹かれて、今宵の月を仰いで、星に願いをかけて。
あなたが歌と生き方で教えてくれる。
いつだって、答えはあなたの歌の中にある。
そしてその歌は、私たちの心の中にも答えがあることを教えてくれる。

答えはいつも heart の中にあるのさ
yes. I. do
“yes. I. do”


歌詞語彙データベースを完成させる期限を、2月17日と定めた。
4年半ぶりの新曲 “yes. I. do” が主題歌となる映画『シャイロックの子供たち』の封切り日。
そして、奇しくも森鷗外の誕生日だ。
35周年イヤーがいよいよ封切られる。




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