見出し画像

Fate/Revenge 2. 伯林へ-①

 二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。

      2. 伯林ベルリン

 カスパルは夜の森を急いで走った。
 暗闇の中で声がする。頭の中で走馬燈のように光景がめぐる。
 カスパルが初めて魔術に触れたのは五歳の時。十も歳の違う兄はカスパルにとって遠い存在だった。だが彼はカスパルに優しかった。
「なあ、カスパル。お前もマキリの子供として恥ずかしくない魔術を身につける歳になったと思うぞ」
 兄が庭に連れ出し、簡単な蝶の操り方を教えてくれたとき、カスパルは胸が弾けそうに嬉しかった。
「兄上、兄上、できました!」
「いいぞ。カスパル。その調子だ」
 見上げる兄は格好良かった。背が高く涼しげで隙がない。子供のカスパルには輝いて見えた。兄上は俺の憧れだった。灰色の瞳がにっこり笑うと存外に優しげでカスパルは兄が大好きだった。小さな頃は。
 でも今は──
 独逸ドイツの春の森は湿った土と草の香り、萌え出ずる若葉の香りでむせかえるようだった。月明かりの差す雑木林のへりに切り妻屋根を持つ中世風の小屋があった。
 そこへカスパルは駆けこむと、ランプに火を入れ、どこへともなく声をかけた。
「出てきていいよ、セイバー」
 するとカスパルの背後に薄青い光の粉が舞い散り、すうっと青いドレスをまとったアルトリアが現れた。それは神秘的な光景だった。薄暗い部屋でアルトリアは輝いていた。カスパルの胸はどきどきする。彼女が戦士だと分かっているが、美しい少女にしか見えないのだった。彼女は小さな金色の頭を巡らせて小屋の中を見回した。木で造られた小屋は杉の香りがして気持ちのいい場所だった。
「ここが貴方の離れですか、カスパル」
「そうだよ。とりあえず、ここを基地とする!」
 カスパルは背ばかり伸びて薄い胸を張る。アルトリアは頷いた。
「まずは日本へ行かねばなりませんね」
「そうなんだよね。でも簡単に行く方法があるはずなんだ。兄上はそれを知ってるはずだよ。そうでなければ、とっくに日本に発っているはずだもの。朝が来たら館に戻って探ってくるよ」
「貴方のお兄様も参戦なさるのですか」
「うん」
 屈託のないカスパルの答えにアルトリアは眉をひそめた。
「それは、つまり、兄弟で聖杯を奪いあうということですか」
「違うよ」
 カスパルは深刻に考えてはいなかった。とても単純に、チェスや狩りの成績を競うような調子でしか想像できなかった。
「だって参戦するのは兄上だけじゃない。ほかにも、たくさんの魔術師が参戦するんだ。俺と兄上が闘うとは限らないじゃないか」
 だがアルトリアは悲痛な表情でカスパルを見上げていた。
「カスパル、貴方は分かっていない。聖杯を手に入れられるのは唯一人。貴方が最後の二人まで勝ち残って、そのとき、もう一人が兄上だったら、戦わなければならなくなるのですよ」
 アルトリアの言葉をカスパルは受け合わなかった。
「そんなことないよ。今回は大英帝国の魔術協会から、すごい魔術師が派遣されてくるらしいんだ。兄さんは、そいつが最大の敵になるって言ってたよ。俺なんか眼中にあるはずがないさ」
 カスパルは自嘲するように顔を背けた。
「おじいさまだって、俺には期待なさっていない。だから俺は聖杯を手に入れなければならないんだ」
 だって、おじいさまは俺に決して魔術を教えようとはしなかった。教えてくれたのは兄上だけ。兄上だけが俺をマキリの人間だと認めてくれていたはずなんだ。でも兄上は態度を変えた。俺が十にならないうちに俺に魔術を教えるのをやめた。
 俺を兄上は見捨てたんだ。
 アルトリアが俯くカスパルをじっと見つめる。
「おじいさまとは」
「ゾォルゲン・マキリ。聖杯を造った最初の三人の一人だよ」
 カスパルの答えにアルトリアは目を見張った。きゅっと唇を引き結び、黙りこくった。
 だがカスパルは得意気に喋りつづけた。
「君たちのサーヴァント・システムは、おじいさまが確立したんだ。おじいさまは君のことに気づいてるかもしれないね。あの館の中じゃ隠しごとなんて出来ないさ。どこにおじいさまの放った蟲がいるか、分かったものじゃない。もっとも生まれた時からおじいさまが見守ってくださるから、俺たちは安全に暮らしてこれたんだけどね」
 両手を広げて肩をすくめるカスパルに、アルトリアはため息をついた。
「なるほど」
 アルトリアはきゅっと目を閉じ、カスパルに近づいた。木の床がぎっと鳴り、カスパルの胸をときめかせた。小さなあごを上げてアルトリアがカスパルを見上げる。緑の瞳が翡翠のように滑らかに光る。彼女が現実には存在しない人間だなどと思えなかった。
「貴方はどうして聖杯を求めるのですか」
「おじいさまに後継者として相応しいと認めてほしいんだ」
「貴方は後継者ではないと」
「うん。おじいさまは俺には見込みがないと仰る」
 唇を噛みしめるカスパルにアルトリアが顔を伏せる。彼女も居たたまれないように見えた。だがカスパルは恬淡と明るく言いきった。アルトリアに近づき、にっこり笑う。
「でも俺だってマキリの男だ。家を継げるよ。だからセイバーには手伝ってほしいんだ。俺が家を継げるように」
 明るいカスパルにアルトリアが困惑したように眉をひそめた。
「聖杯を持ち帰れば、貴方が家を継げるのですか」
「当たり前だろ。聖杯をとれるってことは俺が兄さんより優れてるって証拠じゃないか。当然、俺が後継ぎってことになるよ」
「そういったことは、おうちの中で話しあってあるのですか」
「ううん」
 無邪気なカスパルをアルトリアが悲しげに真っ向から見上げた。
「分かっていますか、カスパル。貴方は長く続いたおうちに跡目争いを起こそうとしているのですよ」
「そんなんじゃないよ」
「いいえ。そうなります。私にその片棒を担げと言うのですか」
 アルトリアの顔は明らかに怒っていた。それは年端もいかない少年の浅はかさに対する怒りだったのだが、カスパルは分からなかった。カスパルの中では、自分のしようとしていることは全き正しさに満ちていたからだ。
「悪いことじゃないよ。自分の力を示すことが悪いことなのかっ」
 カスパルは煽られたように声を高くする。アルトリアがすうっと光の粒に変わって消えていく。
「いいえ。私は流血の代行者。否やを唱える権利はありません。貴方に令呪のある限り」
 取り残されてカスパルは茫然とした。何故、彼女が怒っているのか、その原因を考えようとはしなかった。
「なんだよ、セイバー。君も僕を認めないのか……」
 悔しさに震えるカスパルの胸で新たな欲望が火を吹いた。
 あの美しい少女に自分は彼女に相応しいマスターなのだと思わせなければならない。そうすれば、あの幻のように美しい少女は自分のものになるだろう。その存在全てが自分のものになるだろう。


 伯林一の賑わいを見せる街の目抜き通り、菩提樹通りウンター・デン・リンデンにある名門ホテル『アドロン』。その最上階、ジュニアスイートにウォルデグレイヴと変わった青年の姿があった。
 ウォルデグレイヴは聖杯戦争の舞台が伯林になったという知らせを受け取っていた。ちょっとした機転で聖遺物を博物館からタダ借りした場所が、戦場に変わるとはついている。
 青年はホテルの部屋を見回し、高級感あふれる調度品やカーテン、ラジオなどをしげしげと見て回った。
「ほう、これがラジオというものだな」
 慣れない手つきで機械をいじるが雑音しか出ない。ウォルデグレイヴがつまみを回して周波数を合わせてやった。途端に熱狂的な歓声と声高な演説が流れ出た。
『我ら独逸国民の窮乏はどこから来たか! 全てはベルサイユだ! あの日、我らが栄光は崩された。八百万の独逸国民よ、結束せよ! この国家的危機を乗り越えるために必要なもの、それは揺るぎなき結束、我らを繋ぐ紐帯である。そのためには異分子を取り除く必要がある。純粋なる結束は純粋なるゲルマン民族のみに可能な奇跡だからだ』
 青年は最初わくわくとラジオを見ていた。しかし演説の声が耳に入るや、ぱちんとラジオを切った。今度はスイートを横切ってベッドにぽんと寝そべってしまう。
「おや、もういいのか。ランサー」
「つまらぬ。何の話だ、あれは」
「総統閣下の大演説でございますよ」
 茶化したようなウォルデグレイヴの口調に青年、ランサーは薄く笑ってベッドに身体を伸ばした。肘をついて顔を上げ、皮肉に微笑んだ。
「どうやら、この国には優れた王がいないと見える」
「何故」
「窮乏は暗愚な王の贈りものだからだ」
 剣呑な青年の言葉にウォルデグレイヴは笑った。
「なるほど。どうして君がわたしのところへ来てくれたか、分かった気がするよ、ランサー」
「ふうん。僕は別に聖杯なんぞ欲しくはない。友が望むというなら別だが」
「それだよ。君には政治のセンスがある」
 ウォルデグレイヴが背広の腕を組んで家具を背に足を組む。ランサーがきょとんとした。
「僕は王ではないぞ。民を治めたこともない」
「だが君はいにしえの王の隣に長年、座りつづけていた。彼のすることを見ていたのではないかな」
「それはまあ」
 ランサーが不思議そうにベッドの上に身体を起こした。
 ウォルデグレイヴは足を組んだまま器用に両手を広げて肩をすくめた。
「そして、わたしたちはどちらも聖杯に興味がない」
「それなのに参戦している。馬鹿げた話だ」
 ランサーが咽喉の奥で忍び笑う。ウォルデグレイヴも一緒に笑う。この二人は奇妙に波長が合っていた。
「君なら、今回のわたしの立場を理解してくれそうだ」
 ウォルデグレイヴが部屋を横切り、ランサーの向かいのベッドに腰を下ろした。彼はベッドのスプリングを手で押して、ため息をついた。
「やれやれ。アドロンのベッドがこんなに硬いとは。独逸の窮乏は急速に進行中だな」
「僕はこれでも構わないぞ。石の上でも寝られる」
「そりゃあ君は。いや、そうじゃない。大切なのは今回の聖杯戦争に参加する目的だ」
 肩をすくめてみせるウォルデグレイヴにランサーの青年が低く笑った。その整った顔は無邪気な好奇心に満ちていた。
「では聞くぞ。貴様は何故、聖杯を求めねばならないのだ。自身のためでなく」
「まず上司の命令だからだ。わたしは来たくなかったが、ほかに適当なメンバーがいなかった。というか……皆、逃げ出したのだ」
 ランサーが眉をひそめ、それから声を立てて笑った。
「なんだ、貴様の国は臆病者揃いなのか」
「聖杯戦争は殺しあいだ。相手を殺してしまわなれば意味のない戦いだ」
「ふむ」
 ウォルデグレイヴは、この凄絶な力を秘めるランサーがあまりにも屈託がなさすぎて、自分の役目が分かっていないのではないかと危惧していた。それで切々と語りかけた。
「聖杯は魔術師たちにとって最大の野望なんだ。誰もが手に入れたいと熱望する」
「だが貴様はいらぬと」
「わたしは聖杯にかける願いなど持ちあわせていないだけだ。だが聖杯を発動させるには他の英霊サーヴァント全てを殺しつくさなければならない」
 ランサーが薄く笑った。彼は愉しそうだった。ウォルデグレイヴは言葉を重ねた。
「またマスターを残してもいけない」
「何故だ。サーヴァントを失えば、聖杯戦争で勝ち抜くことはできないのではないか。我々はお前たちより、ずっと優れた力を持っている。並の魔術師では僕にだって傷ひとつ付けることはできまい」
「いや。サーヴァントはマスターを失ってすぐに聖杯に戻るとは限らない。そもそもサーヴァントが現界するのに必要な魔力はわずかだ。サーヴァント自身の魔力でもある程度の時間は現界を保てる。実際、アーチャーのクラスならばマスター不在でも二日は現界が可能だ」
「ふむ」
 ランサーは興が乗ったように乗りだして聞く。ウォルデグレイヴは後輩に授業をしているような気分になってきた。
「だからサーヴァントを失ったマスターと、マスターを失ったサーヴァントが監督役の認可で再契約されれば、ふたたび敵が一組出来上がりというわけだ」
「分かった。二度手間を省けと言うのだな。英霊サーヴァントとマスターは同時に倒すべしと」
「できたら」
「覚えておこう」
「まあ、そういうわけだから、野望と恐怖を天秤にかけて御辞退願う同胞が多かったというわけだよ。ただでさえ戦争の危険は高まっている」
「いやはや。嘆かわしい」
 ランサーが面白そうに笑った。彼には何でもおかしくて、しょうがないかのように見える。ある意味、これほど朗らかな英霊サーヴァントというのも珍しい。
「そういうわけで、わたしが来たわけだが、今回の任務は複雑きわまりない事情をかかえている」
「それを話せ。面白そうだ」
 やっぱり。ウォルデグレイヴは心の中で呟いてしまう。この青年は面白ければ何もかもどうでもいいのかもしれない。そういう危険性はある人物だ。
「まず国内事情の方だ。長年、我が国の平穏と繁栄を我々魔術師は陰ながら支えてきた。しかし次の国王となる皇太女殿下が問題だ。聡明でらっしゃるのは結構だが、非常に現実的で実際的な判断をお持ちの方でな」
「理想的な君主ではないか」
「いや。魔術を御信用くださらない」
 今度こそランサーが爆笑した。
「ははは! それは、それは!」
「というわけで聖杯を持ち帰り、その力をお見せし、魔術の信を勝ちとらねばならん。科学流行りの昨今、魔術の現実性をにわかに御信用なさらないのも無理はない。このままでは千五百年、我らが祖、偉大なるマーリンから続いてきた伝統が切れてしまうかもしれんのだ」
「だが、それはお前たちが自ら演出してきた結果ではないのか、魔術を一般人に見せてはいけないとか言っただろう。だから昼間は戦うな、などと」
 ランサーが茶化すように手をひらひらと動かしてみせた。ウォルデグレイヴは肩をすくめた。
「仰る通り。自業自得だ。だが、だからこそ責任はとらねばならん」
「分かった。では国外事情とやらも話せ。どうせ、何やらあるのであろう」
 きらきらと光る水色の瞳を見て、ウォルデグレイヴは不思議なことに気づいた。ランサーの物言いは高飛車なのだが、口調はとても穏やかなのだ。明るいと言ってもいい。
「さあ」
 手を差し出す仕草も丁寧だ。
「外交事情は深刻だ。この国がおかしな状態にあることは君も感じているだろう」
「ああ」
 ランサーは微かに目を伏せ、囁いた。彼は何か遠くの音楽を聞いているように見えた。
「慌ただしい焦燥と怨嗟、ひもじさや恨み、暗い感情が渦巻いている。こんな場所は初めてだ」
「独逸は現在、国家経済が破綻しているといっていい。おまけに急進系右翼のナチスが国を牛耳りはじめて早四年。ユダヤ人や少数民族の排斥を捌け口にして国内の不満をそらしているが、物資の不足は覆うべくもない。遠からず、我が国と独逸の間で戦争が始まるだろう。チェンバレンは表向き、独逸の要求をのむようだが、それで治まる話ではない。早く開戦の準備を整えなければならない」
「武器を揃え、兵を鍛え、物資を貯めこみ、貴様の国だと船もいるな。大事業だ」
 ランサーが軽やかに答えてウォルデグレイヴは目を見張る。
「君の言うことは政府が調える。わたしの役目は全く違うことだ。今回から法王庁ヴァチカンが聖杯戦争に介入してきた」
「貴様の言う監督役とかいう輩だな」
「そうだ。派遣されてくるのは年端もいかない若者だがな、ヴァチカンが故なく選ぶはずがない。ただ者ではあるまい。問題はナチスとヴァチカンが強く結びつくことだ」
 ウォルデグレイヴは胸の前で両手をがしっと組み合わせてみせた。
「強くなければいいのか?」
 くすくす笑うランサーにウォルデグレイヴは頷いた。ぱっと両手を開いてみせる。
「放っておいてもヴァチカンはナチに近づくさ。そうやって二千年、世界に君臨してきた法王庁だ。問題はナチが事実上、ヴァチカンを手駒にできるような結びつきを作らないことだ。伊太利イタリーが独逸と組むかは不透明だが、そうなった場合、ヴァチカンが我が国と対立する立場になるのは避けねばならん」
「具体的にはどうしろと言いたい。僕には汲みとりようのない話だが」
 ランサーの顔には異様な聡明さがあった。
 ウォルデグレイヴは気を引き締めた。自分より頭のいいサーヴァントも厄介だ。何を言い出すか知れたものではない。
「ライダーのマスターはエヴァ・ブラウンという魔女だが、こいつは総統の愛人だ」
「ほう」
「彼女と監督役が水面下で密約など結ばないようにしたい。そのためには最初にライダーを排除する」
 ランサーが愉しそうに唇を歪めて笑った。
「つまり僕の最初の獲物はライダーでいいのだな」
「そうだ。どこにいるか、分かるか」
 ウォルデグレイヴの問いは通常であれば無意味なものだ。一般的な英霊の感知範囲はせいぜいが半径200m前後。かなり接近しないと感知できない。だがランサーは目を閉じ、頷いた。
「この近くには三体の英霊サーヴァントがいる。一体は気配が異様に薄い。キャスターだろう。残り二体のうち一体はすぐ近くにいる。もう一体は少し離れた郊外だ。湖の中の小島にいる。この二体は戦士の気配だ」
「いやー、いいなあ」
 今度はウォルデグレイヴが笑った。彼は使い魔一匹放つことなく敵の情報を得られるのだった。
「君の気配感知スキルは本当に凄まじいな。どちらがライダーか、感じとれるか」
「小島の方が特に強い。妙だな……あまりよくない気配だ。バーサーカーかもしれない。だが近くの一体はセイバーやらライダーやら見当もつかぬ。もちろんアーチャーの可能性もあるが。騎士クラスのような気がするな」
「分かった。地図を」
 ウォルデグレイヴが地図を示すと、ランサーは簡単にもう一体のいる場所を指してみせた。ホテルのある伯林中心部から東にずれたオストクロイツ駅北方の込み入った区画だった。
 確か、ここは『閉じられた家メゾン・クローズ』がある辺りか。魔女が潜伏するには相応しいが。
 ウォルデグレイヴは頷いた。
「使い魔を放って様子を探る。ライダーだと確認できるまでは、ここにいること。少なくとも今夜は外に出ないこと」
「いやだ。本屋に行きたい」
「もう、とうに閉まっている。明日にしてくれ。昼間は好きに過ごしていいから」
 ウォルデグレイヴが立ち上がり先生のように見下ろすと、ランサーは渋々といった顔で頷いた。
「やむをえまい。では湯浴みだ」
 言った途端、ランサーが光の粒となって消え失せ、セーターやカーディガンが抜け殻のように床に落ちた。すぐにシャワーを使う音が響いてくる。
「はあ。やれやれ」
 ウォルデグレイヴは床の服を拾ってベッドの上にのせてやった。
 全く扱いやすいのか、扱いにくいのか、分からないな。
 どうにも性格の読めない英霊サーヴァントだった。

Fate/Revenge 2. 伯林へ-②に続く


サポートには、もっと頑張ることでしか御礼が出来ませんが、本当に感謝しております。