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Fate/Revenge 14. 聖杯戦争四日目・夕刻から夜──聖杯の崩壊②

割引あり

 二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。


 
セイバーたるアルトリアは自らを選んだ剣に目を落とす。これならば悪を晴らせると信じているのに。
「貴様も神の愛子ではないのか、英雄王」
「そんなものは突き返したわ。我が友の果てし時にな」
 英雄王がゆったりと旋回する輝舟ヴィマーナの操縦席から立ち上がる。
はしため、そなた、これを飛ばすことができよう」
「何を考えている。貴様が私の技を見たいと言ったのではなかったか」
 英雄王が目の前にいた。アルトリアはぎょっとして彼を見上げる。白い整いすぎた顔、完璧な形に彫り抜かれたような口元、その炯々と光る赤い目を。たなびく金色の髪に確かに光の片鱗が見えた。
 彼が聞いたこともない優しい声で囁いた。
「そなた、消える気であろう」
「!」
 セイバーは口が利けなかった。首飾りを受け入れたのは最後の一撃を放つため。決して自分のためではなかった。それを見抜かれていたとは思いたくなかった。無言で硬直するセイバーを、あの赤い目が案じ顔で覗きこむ。微笑むような気遣うような表情は一度も見たことのないものだった。
「愚か者。何処に王の許しを得ず、生命を断つ婢がおろうか」
「私は貴様の婢ではない。私の死に場所は私が選ぶ」
「ならぬ。これはオレの決定だ。逆らうならばどうなるか、分かっていような」
 アルトリアは戸惑いを消せぬまま、英雄王を見つめた。彼はその気になればアンリ・マユを放り出すだろう。自分と彼が戦い、アンリ・マユが街に出るなど、それこそあってはならぬ。
 剣の切っ先が落ちるのを見て、英雄王が進み出た。
「不安か」
 背中を向ける英雄王をアルトリアは翡翠の瞳を研ぎ澄まし、睨みつける。
「このような事態になって喜ぶ者などいるはずがない。それも分からぬか、王の身でありながら」
「案ずるでない」
 ふわりと、英雄王が振り返る。瞬きも難しいほどの暴風の中で、彼は穏やかに落ち着いていた。玉座のごとき操縦席を視線で示す。
「あちらにおれ。どう飛ばしても構わぬ。任せたぞ」
 その横顔はそれまで見てきた英雄王とは違っていた。彼は竜を仕留める気だ。それがセイバーにも感じられた。初めてアルトリアは自分から英雄王に視線を合わせた。
「よかろう。私の騎乗スキルを堪能するといい」
「はははは」
 英雄王が声を立てて笑う。
「全く勇ましき娘よ。退屈せぬわ」
 立場が逆になった。白銀の鎧に青いドレスを覗かせるセイバーが玉座にあり、黄金の鎧に深紅の直垂ひたたれをたなびかせる英雄王がヴィマーナの前方で腕組みして立つ。
 操縦席のある台座に上がってアルトリアは気づいた。風が弱い。この周りは特殊な力場が発生していて、外部の変化が和らげられるらしい。
 私が膝をついたからか。
 アルトリアは思いあたって悔しくなる。彼はどうも自分を庇護すべき存在だと認識したらしい。勝手に臣下だと思いこんでいる。その哀れな婢が膝をついて堪える姿を慮ったとでもいうのか。
 それは私に対する侮りだ。
 馬鹿にしている。
 玉座の前でアルトリアは反転する。狂ったような風の中で英雄王は揺らぐことなく、黄金の背中を曝していた。
 あの男、私に背中を預けるのだな……
 それは奇妙な感慨だった。彼が現界げんかいしてから半日も経っていない。だが彼は怒り、高慢、涙、気まぐれ、雅量とも呼べる優しさと戸惑うような顔ばかり見せる。いかにも彼らしいものから、とうてい彼がするとは思えぬ顔まで。
 アルトリアはおそるおそる操縦席に収まったが、座った瞬間、この機械の恐るべき搭載機能が理解できた。脳波で操縦することも可能な上、姿を消したり、探知装置を攪乱したり、実に様々なことができる。竜を相手に戦う際、便利なのは緊急衝突防御機能だ。これを上手く使えば曲芸のようにヴィマーナを旋回させることができる。
 即座にアルトリアは英雄王の手並みに劣らぬ巧みさで、ヴィマーナを操りだした。
「なかなか、やるではないか。流石は我が友の推挙せる婢よ」
 英雄王とアルトリアの間に黄金の光が満ちていく。渦のように泡のように空間を埋めつくす光の中から、伝説に彩られた無数の宝具が浮かんでくる。
「まずは我が宝物庫を開くとしようか。神といえど見たこともない宝の数々、とくと拝むがよい!」
 それは『王の財宝ゲート・オブ・バビロン』──世界の全てに君臨した太古の英雄王のみが自在にする、計測不能の宝具だった。

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