Fate/Revenge 11. この世全ての悪-①
二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。
11.この世全ての悪
「やりおった! 馬鹿者どもが! 何も知らぬわけではあるまいに、あのランサーめ」
バタンとキャスターが本を閉じてしまったので、アンは慌てて大きな革装の本を開いた。
「ちょっと、なんで閉じるのよっ。大事なところでしょ、お話で言えば佳境ってやつよ」
「佳境ではない。最悪の展開だ」
灰色の髪の紳士がインバネスを翻してテーブルから離れる。頭をかかえた姿にアンが眉をひそめる。
「まさか、あんた……」
アンの頭の中でキャスターが繰り返した忠告が蘇ってきた。今回の聖杯は歪んでいる。聖杯に願いを懸けてはならない──それはつまり、こういうことだったのだ。聖杯は使ってはならないことに使われ、その理は歪んでいると。
「知ってたのね! バーサーカーの中に、あの化け物がいることを! だからバーサーカーとは戦わないとか、なんとか」
「化け物ではない。もっと悪いものだ。ユーブスタクハイトめ、百年生きたところで何も学ばなかったと見える。なんということを」
「あれをどうすればいいの。メフィストフェレス」
本の中からは絶望的な会話が続いている。アンも次第に聖杯戦争がおかしなことになっていくのが分かりはじめた。制御された見せものではなく、何か恐ろしい悲劇に変わってしまうのだと。
キャスターが振り返る。
柔らかな金髪を垂らし、不安な瞳で自分を見つめるアンに気づくと、キャスターはぐいっと歩み寄り、本を覗いた。彼が画面を操作すると、そこには白銀の鎧をまとい、黄金の宝剣をたずさえるアーサー王が映し出された。
「最後の希望は彼女だけだ。大いなる闇も打ち払う強い光を持っている。常勝の王にして不死なる御身よ。どうか世界を救いたまえ。黄金の戦女神よ」
キャスターが本の中のアーサー王に向かって頭を垂れる。アンはじっと両手を組んで祈った。
ああ、お願いよ。救国の英雄たるアーサー王。
どうぞ、私たちの祖国を救って。
御身の奇跡をお示し下さいますよう。
丘の上で暴れる物は三つの口から黒煙の中に雷、炎、白煙を舞い上げる。その姿は到底この世の物ではありえず、集まった一同を震撼させた。
「アハト翁はあれを制御する方法を考えておいでだったのか」
茫然とする明時に灰色の美女がすうっと手を差し出した。
「御覧になって。やってはみました」
彼女の手には鮮やかに赤い令呪が浮き出ていたが、一画、落ちていた。アルトリアもそれに気づいてはっとする。ホムンクルスの美女は俯き、唇を噛んだ。
「私はあくまでバーサーカーのマスター。復讐者を制御することはできないのです」
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