はたらく

「自分らしくはたらく」とは【IBD編】

IBDとはたらくプロジェクト キックオフイベント「自分らしくはたらく」を考えるに参加してきました!お聞きした内容について、以下に綴っていきます。当日ライブ配信を見逃してしまった方、イベントがあることを後から知った方など、どなたかの参考になればうれしいです。
※メモの書き起こしのため、ニュアンス含め内容に齟齬があればご指摘ください。
※見出し以外の太字の箇所は、私が特に印象に残った点になります。長文になりますので、今はさっと読みたいという際には、よろしければ太字の箇所をさらって読んでみて下さい。

<内容>
1. プロジェクト発足の経緯(ヤンセンファーマ社 人事部長)
2. 「IBDとともに私が脚本家を続けられた理由」(脚本家 北川悦吏子さん
3. 特別公演「就労支援のプロが語る、したいことを続けるためのセルフマネジメント術」(atGPジョブトレ ベネファイ施設長 藤大介 氏)
4. パネルディスカッション「専門家に聞いてみよう 就職・就労継続のライブ相談会!」( 佐賀大学病院 江﨑幹宏先生、atGPジョブトレ ベネファイ施設長 藤大介 氏、IBD患者さん;さっちんさん、くわっちさん、みやうちさん)


1. プロジェクト発足の経緯(ヤンセンファーマ社 人事部長)
"Beyond the Pill"を掲げ、長期にわたり再燃と寛解を繰り返す患者さんにとって「はたらく」は大きなテーマです。働きやすい環境を整備していくため、IBDネットワーク、ゼネラルパートナーズと協働でこのプロジェクトを発足しました。
国内のIBD患者さんは約29万人。うちクローン病が7万人、潰瘍性大腸炎が21万人。就業率はクローン病の人は65.4%、潰瘍性大腸炎の人は61.6%、発症後、病気理由で休んだことのある割合はクローン病の人は67.1%、潰瘍性大腸炎の人は46.8%、病気理由で離職した経験のある人数はともに25%以上です。27.8%の人はIBDのことを職場に伝えておらず、職場にどう病気のことを伝えるかを悩んでいるといわれています。
そのような現状に一石を投じたいと考え、社会の中で難病患者さんがもっと自分らしく働けるように、また治療と仕事の両立は患者本人だけでは難しいのも事実なので、病気を抱えながらはたらくことをもっと広めていきたい、Diversity & Inclusionにも寄与したいと考え、発足しました。

2. 「IBDとともに私が脚本家を続けられた理由」(脚本家 北川悦吏子さん

【経緯】
2000年頃に潰瘍性大腸炎であることが判明しました。
判明時には「治らない病気」「完治はしないけど、ほとんどの人が元気に暮らせるよ」「大腸全摘する人は1割に満たない」といわれていましたが、あれよあれよと10年目に大腸を全摘しました。
個人によって全然症状は違うものの私は相当酷かったです。痛みのあまり夜中に壁を蹴っていたこともあったし、入院中に痛みのあまり、大きな声で痛いと叫んだこともありました。
元気な友達に「どういう感じなのか」と聞かれたこともありましたが、「神様って不公平だな」と思いました。
痛み止めは服用に時間を空けなければならないですが、次の痛み止めの時間を待つだけが楽しみだった時もあります。

【体調の波と仕事のスケジュールはどうしていたか】
体調の波は仕方がないので、それでも「書きたい」ということを周りにいい続けていました。先ほどお話のあったグラフ(IBD患者さんの就業率等)を見て驚いたが、本当に仕事を続けていくのは大変だと思います。
一緒に仕事をする人を巻き込んで、「こういうものをとても書きたい。ただ私は病気がある」ということを受け入れつつ一緒にやろうと思ってもらえるか、ということを発病後20年近く繰り返していました。
大腸全摘後もトラブルは絶えませんでした。
いつ入院するかわからない人をNHKもすぐには受け入れてくれず、「半分、青い。」の実現までには3年かかりました。もし自分が病気で倒れたらこの人にお願いしたい、ということを知人の脚本家に頼んでみることもしました。
聴神経症で左耳を失調しています。でも、だからこそ書けるものもあると思っています。あとは気合、絶対に諦めないぞとという気合です。
無理だと思ったことも3年の間にはありました。ただ、その中で身を結んでいるものもありました。
どこかに所属するのとフリーとでは違うこともありますが、相手も人間なので、理解してもらって、自分の想いを伝えて、あとはアイデアでこういうことがやれるということで、乗り切っていけるのではないかと感じています。「半分、青い。」のハンディキャップを持った女の子は、ある種病気を持った後のテーマになっているようなところもあり、それを地で行っているような感じです。
怖くてしょうがなかった、IBDが。もちろん、症状はいろいろなので、酷くなかったら全然怖がる必要はないですが、全摘したら元気になるというイメージだったが、術後もうまくいかなかったです。縫合不全、腸に穴が開いたりした。このような症例は全国でも7個くらいしかありませんでした。
だから怖くてしょうがなかったので、病気を忘れるために、夢中になれるものが必要だと思いました。自分の場合はそれが脚本を書くという仕事でした。
何かに捕まらないと無理。達観している仙人のような人もいる。でも怖いのも痛いのも嫌です。そればかり考えているとおかしくなってしまうので、体のことはしょうがないがメンタルだけは保ちたいと思っていました。その他に自分はどうしたら「すこやか」「穏やか」で忘れていられるか、自分で自分を調整するようになりました。そこにはすごく聡くなりました。

私は病気のことや付随するネガティブな気持ちを友達にも言います。家族はあまりにも近いので、近い人に色々言うと家族が成立しなくなってしまうので、少し遠い人(そんなに会えない親友)に話したりしています。ただそれも、一人の人にガーっと話すのではなくて何人か、4〜5人にしています。「死にたい話」がただの愚痴にならないように、最後は冗談っぽくすることもしていました。それで救われた部分もあり、その時救ってくれた人は今でもありがたいと思っています。
この病気になってよかったとは絶対に言えませんが、これによって書けた脚本もある。だから、悪いだけではなかったです。

【数年前に病名を公表された経緯は】
一番は娘が大きくなったことです。小学生や中学生だといじめられたら嫌だと思っていました。
他には、発症当時若かったので、イメージとしてすこやかな人と思われたいなどがあったのかもしれません。今でこそ、そういった感情ではありませんが、発病が40手前だったので、そんなことを考えていたのかもしれません。

【病気を公表された後の、周囲の反応は】
ヤフーのトップニュースになっていました。それまでは難病と言っていましたが病名は言っていませんでした。公表することによって、今日この場にも呼んでもらえてました。自分が入院している時などに、雑誌で「こんな病気をしました」というものを読むと勇気付けられました。その人たちが今はこんなにキラキラしている、仕事をしているから。
こんな病気だけど朝ドラ書けるんだ、と言うことを言いたいがためにやっている部分もあります。
それから、同病の人は連帯感があります。再燃した時の「またか」という長い病気ならではの感じとか。その人たちにわかるよと言ってもらえたりとか。

【IBDと向き合いながら働いている患者さんや周囲の方に向けてのメッセージ】
本当に辛いんです。痛みなどは元気な人にはなかなかわかってもらえない。
私は一日フルで動けたことがなくて、そうしないと体が持たないです。病気を治そうと、ありとあらゆることをしていて、すごく時間を取られている部分もあります。日経新聞にも少し書きましたが、IBDに絡め取られたくない、人生の少しの元気な時間までもがIBDに絡め取られることは嫌なので、要点だけ抑えたら他のこと、楽しいこと、夢中になれることをしています。
上手く付き合うほどIBDが好きではないので、大嫌いなペットが横にいる感じでやっています。

職業ごとで大変さも違うと思います。「だって北川さんは特別じゃん」と言われるとそれまでかもしれないけれど、「打ち合わせの時間は2時間以内にしてください」と頼んだこともありました。自分のルールを人に押し付けるわけにはいきませんが、相手も人間なのでこちらからお願いするだけではなく、ギブアンドテイクで巻き込んでいく、理解していく、という何かの方法があるのではないかと思います。
病気だけに絡め取られないように、自分の方向を明るい方向に、光が差す瞬間を見逃さないようにすれば、健康な方が絶対にハッピーだけど、病気があっても幸せにはなれる、と思います。

3. 特別公演「就労支援のプロが語る、したいことを続けるためのセルフマネジメント術」(atGPジョブトレ ベネファイ施設長 藤大介 氏)

【はじめに】
IBDの方がしたいことを続けるために大切なことや今後のヒントになることがあればと思います。
ゼネラルパートナーズは「誰もが自分らしくワクワクする人生」を企業理念に掲げ、障がいをお持ちの方の就職支援や就労支援を展開しています。就職を通じて、知らないことによる、障がいをお持ちの方への差別偏見を解消していきたい、という社長の考えに基づくところから、正しい認知を広めていこうとしています。私のいるベネファイは、2017年10月に立ち上げられた難病専門の就労移行支援所で、障害者手帳をお持ちでない人に対しての支援も行なっています。通所いただいている方の中には、障害者手帳をお持ちでない人もいらっしゃいます。

【なぜセルフマネジメントが重要か】
セルフマネジメントと聞いて、イメージされるものの多くは、疾病の自己管理かと思いますが、今回お話する内容では、体調管理以外のこともお話しします。私がこれまでお会いしたIBDの方の「したいことが続けられない理由」を3つにまとめると、①対人関係上のストレス、②就労不可によるストレス、③疾病の理解が得られないことによるストレスが挙げられます。
①対人関係上のストレスは年齢・性別問わず起こりうるものですが、②就労不可によるストレスは、例えばサービス業などを中心に、体力を使う仕事では、体調を崩して離職、その後寛解期に復帰、それを繰り返して、思うようなキャリアを積めないという方がいらっしゃいました。
次に③疾病の理解が得られないことによるストレスについてです。ご自身の症状や必要な配慮についての言語化が大事です。キャリアの棚卸しや得意なこと・好きなことを把握することは一般的な内容ですが、IBDの方特有のものとして疾病の伝え方を考えるということが挙げられます。企業側に知識がないことを前提に、いかにわかりやすく不安を与えずに伝えるかが大切です。
我々ベネファイでは、支援者とのコミュニケーションによって、次の職場へのマッチング精度を上げるお手伝いをしています。「どのようなことがストレスになり、体調を悪くする引き金になるのか」「どうやってリカバリーするか。またその期間をこれまでの経験から導き出す」ということなどです。また、ご自身にとって働く意味とは何かを考えることも大切です。労働はあくまで手段なので、どのように、どの程度働くことが、ご自身の公私のバランスや自己実現にとって大切なのか考える、ということです。
また、「権利と義務」について、疾病を抱えながら働くことを望むのは、当然の権利であります。他方、企業は従業員の安全配慮義務がありますので、必要なサポートを受けながら働くことができます。
過去にサポートさせていただいた方の中には、働き始めてしばらくすると簡単に職場の人に配慮事項が言えなくなってしまう傾向がありました。休憩が必要な時に、同僚の忙しさを見ていると、同僚や上司に言い出しづらく、一人で我慢する日々を送っていたそうです。自分と同僚を天秤にかけるだけでなく、その時の状況に応じて見極める必要があります。
このように、働き始めると、従業員として果たすべき義務と体調管理のバランスをモニタリングする必要があります。「ギブアンドテイク」と同じで「権利と義務」を考えることもまた大事でしょう。

【選考に進むに当たって大事なこと】
応募書類を作成する時に言語化することとして、強みの言語化があると思いますが、疾病の状態の説明もわかりやすい表現が求められます。「本当に働けるのだろうか」という心配や誤解を生じさせてしまう可能性がある表現ではなく、「トイレの回数は1日に●回ほど」であるとか、「人口の●%は神経性のものに起因してお手洗いが近いです。そのため、何も珍しいことではありません」などと伝えるのが良いでしょう。
また働き始めた後のサポーターとして、身近なサポーターで言えば、職場の同僚やご家族・パートナー、友人などが挙げられると思います。ソーシャルサポートという考え方もあります。これには、患者会やSNSのつながりも含められます。自分が、どのような時(疾患の状態)にどういったサポート(必要な配慮)が必要かを把握することも大事でしょう。

<Aさんの事例>
10〜20代はアルバイトと入院をしていましたが、大腸全摘後に体調が安定しました。その後は、障害者雇用枠での就職活動を行い、身体に負担の少ない事務職を選ばれました。この時、Aさんは時短勤務から始められましたが、「時短勤務からのスタート」ということは代表的な配慮事項の一つです。
<Bさんの事例>
Bさんは20代で発症し、長らく体調が安定しませんでしたが、大腸全摘後に体調が安定するようになりました。この方も、デスクワークへのキャリアチェンジを行い、以前経験のあったアパレル業界での事務職に就職しました。ご経験のあるアパレル業界での仕事はやりがいを持ってできる、というこれまでのキャリアを踏まえたマッチングでした。Bさんは、配慮事項として、お手洗いのこと(頻度など)を伝えており、職場の方からもお手洗いへ行きたくなったらいつでも行ってね、とお声がけいただいているそうです。

この他に、定期的な水分補給も配慮事項としてお話される方もいらっしゃいますし、昼食や飲み会に誘われた時のことについても、配慮事項として伝えておくことが可能です。食事会への参加のスタンスは人によって様々で、最初から参加しないことを表明される方もいらっしゃれば、食べ物・飲み物には制限があることを伝える方もいらっしゃいます。
通院については、ほとんどの企業が有給休暇で対応されます。

【ベネファイについて】
ベネファイは「模擬職場」として通っていただきながら、仮想業務に取り組んでいただきます。これまでには、事務職へのキャリアチェンジを希望した方や、就業経験のない、在学中に発病した方に通所いただきました。
ベネファイの特徴は、セルフマネジメント研修です。IBDでは2名の方がこれまでに在籍してくださいましたが、デスクワークにキャリアチェンジされた方のうち1名は障害者手帳のない方でした。
セルフマネジメント研修では、「健康管理と職業生活の両立ワークブック(難病編)」を弊社独自のものと合わせて活用しています。ワークブックに書いた内容をどなたかに見ていただ区ことで客観的なアドバイスを得られるといいと思います。書いていただいたワークブックは、疾病のことを知らない企業人事の視点から、付箋でフィードバックを記載してお返ししています。このように、客観的な視点をもとにご自身の今の状況を整理することが大切です。
【まとめ】
セラピーやカウンセリングは耳にされることがあるかもしれませんが、これらは「客観性の獲得」が目的です。ご自身のことをよく知るために、自分のことを違う角度から語ってくれる位置付けに利用することができるでしょう。就職前の段階を語ってくれる相手としてはご家族などが挙げられますが、職場においても、配慮事項などをわかりやすく事前に伝えておくことで
配慮いただきながら働くことができ、ご自身のやりたいことが続けていける
ようになるでしょう。
WRAP(ラップ)」という概念があります。これはWellness(元気)、Recovery(回復)、Action(行動)、Plan(プラン)の頭文字を取ったもので、日本語では元気回復行動プランと訳されます。リカバリーに大切な5つの柱として、「希望を持つこと」→「学ぶこと」→「サポート」→「権利擁護」→「責任」…というサイクルがあります。
それぞれ、
「希望」ポジティブな希望を持つこと。必ず道は拓けると信じること。
「学ぶこと」努力をすること。
「サポート」人はサポートなしには生きていけないということ。
「権利擁護」職場においても、プライベートな場面においても、必要なことをお互いに伝え合っていく関係性の構築。
「責任を持つこと」制約がある中でも、責任を持ってそれを引き受けること。
提唱者であるメアリー エレン・コープランドさんは、精神疾患がありましたが、周囲から絶対に無理だと言われた本の出版という目標を達成しており、同じ疾患を持つ方が元気になる姿を見てこられました。このようなこともぜひご参考になさってください。

4. パネルディスカッション「専門家に聞いてみよう 就職・就労継続のライブ相談会!」( 佐賀大学病院 江﨑幹宏先生、atGPジョブトレ ベネファイ施設長 藤大介 氏、IBD患者さん;さっちんさん、くわっちさん、みやうちさん)

【IBD患者さんの自己紹介】
さっちんさん(会社員):
私はクローン病と診断されています。正社員として、機械を輸入して販売する商社の営業として勤務しています。

くわっちさん(フリーランス):
2007年から症状が出始めて、高校入学直後に潰瘍性大腸炎と診断されました。もうすぐ子どもが3歳になります。昼はアミューズメント施設、夜は託児所で働いていて、この他にフリーランスとしても活動しています。

みやうちさん(公認会計士):
クローン病歴は14年くらいになります。もともと理学療法士として病院でリハビリなどを行なっていましたが、働き始めて半年後くらいにクローン病と診断されました。そのままリハビリの仕事を続けることも考えていましたが、もともと高校が商業科だったこともあり、病院の経営の方に携わりたいと考えました。病気になってからキャリアチェンジしたことは大きな選択でしたが、一度きりの人生後悔したくないと思いました。これまでは会計事務所に勤めていましたが退職し、今はスキルアップのために英語の学校に通学中です。

【◯/×回答形式でQ&A】
<Q:ご自身の病気を職場関係者の方にお伝えしているか>
さっちんさん→×
今の職場は最近転職した職場になります。
公表していない理由は転職理由に通じています。前職でも商社で営業をやっていましたが、業務中に体調崩し、正直にクローン病であることを伝えたところ、企業側の配慮の一つとして人事異動になり、営業ができなくなってしまったことがありました。公表することは自分にとって必ずしも得策ではないと考えました。

くわっちさん→◯
在職中の2社とも、先に病気のことを伝えて入社しました。私は離婚を経験していますが、入社前の面接の時に、これから離婚予定であることや自分のことの一部として病気のことも話しました。伝え方としては、大腸から血が出る病気で自己免疫系のもので感染することはないこと、どういう対策をしたらいいかについては、お手洗いのこと・仕出し弁当はなくていいというお話をしました。会社側は「そうなんだ」と言ってくれて、採用に至りました。
こちらに登壇する前に、「どうして受かったのか」ということを職場に聞いてきました。離婚や病気、子供のことも含めて話してくれたので逆に安心できた、頑張ってくれるかなと思って採用したと教えていただきました。
病気を伝えることが必ずしも良いわけではなく、書類を返されたこともありましたが「必ずどこかに自分のことをわかってくれる職場があるのでは」と考えていました。

みやうちさん→◯
私の場合は伝えましたが、人によると思っています。
私は食事制限が厳しい方なので、事前に伝えた方が適切な配慮を得られるという判断をしました。もし体調を崩した時に対応してもらえるのではと思いました。
病気があることを伝えると、面接時に病気のことを聞かれます。
ある会社からは「クライアントと焼肉行くこともよくあるが、その時あなたは残すんですか」と質問を受けたので、「残すと思います」と回答しました。こちらの会社は縁がなかったですが、自分が伝えた方がいいと思うのであれば伝えるようにしています。
ただ、さっちんさんのように、病気を伝えることで自分の望まない方に動いてしまうのであれば伝えないのも一つだと思います。

江崎先生:
診療する医師の立場から申しますと、体調が悪くなった時に診療間隔を短くしてもらわないといけない場合もあり、周りの方から理解してもらうことが大切になってくるので病気があることを伝えるのも一つだと考えます。
ただどうしてもそれが職場の人員配置などで不条理に働いてしまう側面もあるかもしれないので、個人個人のシチュエーションによって伝える伝えないを判断することになると思います。
患者さんの中には、経理としてお勤めで、病状不安定なクローン病の方がいらっしゃいますが、会社から理解を得られており、会社の人も仲の良いお友達のような感じで、毎回診察に一緒に来られているほどです。
(そういった方は)伝えていただいた方が良いかもしれません。
病気と向き合いながら働く上で大切だと思っていることとしては、皆様の病状はかなり異なるもののという前提で、診療する側としては少しでも良い状態になるよう努めています。身体が健康であることが精神的にも健康であるということが多いので、働く前段階として、病状を安定させて少しでも健康な状態にしていくことで協力できるようにしたいといつも思っています。

<Q:現在の職場の環境や働き方について悩んだことがあるか>
全員が◯でした。

みやうちさん→◯
食事の制限があるので、それが一番心配だったでしたが、実際に働いてみて、出張に行ったりすると移動が予想以上に体力を使うことに気付きました。その線引きがうまくつかめないことありましたが、自分の中で線引きをした上で、上司に伝えて対応していただいた経験があります。例えば、過去の在籍企業では、国内の出張が多かったので、出張は関東圏内にするなどの配慮をいただきました。

くわっちさん→◯
接客業なので、エアコンの風が当たって体が冷えてしまうことがあります。制服がぺらっとした薄手のワイシャツですが、下にTシャツを着用することで対応しています。
それから、自分でお弁当を持ってくることに対して他のスタッフにどう言われるか気にしていました。
また、今は全く通院していない状態ですが、風邪を引きやすくなったり、働くのがしんどくなった時に、上司や同僚に相談しようと思っているものの、それをどう理解してもらおうか、どこまで理解してもらえるのだろうかという点を悩んでいます

さっちんさん→◯
海外出張が多い仕事で、ヨーロッパに行くことも多いです。フライト時間が長い時はトイレの心配はもちろんありますが、気合いでなんとかしてしまうタイプです。しかし、気合いではどうにもならないこともあります。
私は下痢がないタイプではありますが、人間、朝起きた時が一番腸が動くものです。排便の回数が多いことが朝の悩みです。これに関する自分なりの解決策は、朝にバナナを食べること、コーヒーを飲むようにしており、これが概ね良い結果になっています。
自分なりに、いかに体調を良好にするかという計画を自分なりに考えて立てられるといいのかもしれないと思います。

藤さん:
まだ働けるという認知度が低い段階ではないかと思っているので、就労支援者としては、働くことの成功事例を1つでも多く作り、ほんの少しの配慮でIBDの方も働けるのだという発信をしていきたいと思っています。
ベネファイでは、3ヶ月に1回企業の人にお越しいただいており、IBDと企業の方が出会う・直越お話しする機会を作っています。この事業所見学会を通じて、利用者の方の就職先が見つかったこともあります。IBDのことを知らない・IBDのかたにお会いしたことがない企業様に対して、直接コミュニケーションをとったことで採用に至ったケースです。
また、障害者手帳の要件など、制度に訴えかけるためにも成功事例を発信していくことが大事だと思います。
”理解は徐々に理解の間で広まっている実感はありますか”という司会者の方からの質問に対しては、まだまだだと思っていますが、労働人口が少なくなっていく中で、企業としても様々な人が働く機会を広めなくてはならないと思っています。

<Q:医療機関の患者様向けサポートを実際に受けたことがある>
全員×でした。

くわっちさん→×
制度があることは知っていました。医療従事者ではありませんが、医療系機関で働いていた時に、ソーシャルワーカーさんと患者さんがコミュニケーションをとっているのは目にしていました。高額医療費の助成制度についてソーシャルワーカーさんが説明していたことも知っています。ただ、自分の入院した病院にはそういったサポートが一切なかったので、全て自分で行いました。

さっちんさん→×
制度があることを知りませんでした。

宮内さん→×
私も知らなかったです。

江崎先生:
医療現場の取り組みとしては、各都道府県に難病相談支援センターがありますが、院内にも以前難病相談支援センターがありました。
また過去には、患者さんからの質問が自分に届くということもありました。それから、各病院に必ず栄養指導の人がいますので、そういったサポートを活用いただくこともできます。
また海外では、IBDは若年で発症することが多いという背景もあり、IBDナースという制度があります。直でIBDナースに電話をして、患者さんからの電話を看護師さんが受けています(一次受けをして、確認が必要な質問は医師に確認した上で回答)。
実際のところ、各施設で規模が違うので、足並みをそろえて、患者さんへのサポート体制が向上していっているわけではありません。
JSIBD(日本炎症性腸疾患学会)などでは、多職種の医療従事者の育成プログラムや勉強会を開催しています。

<Q:自分らしく働くの定義について、自由形式でそれぞれの方のお考えをお聞かせください>

みやうちさん:
やりたいことをやるに尽きると思っています。ただし、難病の人の場合は「やりたいことをやるに尽きる+ただし自分のペースで」と補足します。
私は今、英語の学校に通っていますが、自分の体調や要領の悪さもあいまって、仕事をしながら何か別のスキルを身につけることは難しいと判断しました。ですので、メリハリつけてやっています。
病気と向き合う中で、他の人が半年でできることは自分は7ヶ月〜1年かかるかもしれないと考えるようにしています

くわっちさん:
いろんな仕事が世の中にはあるので、自分のペースにあうものをいろいろ経験してみるようにしています。病院やバーで働いたこともあり、月曜から金曜まで働くスタイルは自分には合わないと思いました。「自分はこうだな」ということや、「人はこうなのか、参考にしてみよう」と考えています。
また、自分がどう仕事をしていくのかを見つけることが大事だと思っています。周囲を積極的に巻き込んでいくこと、自分について考えてもらうのも手かもしれないと思っています。

さっちんさん:
働くからには健康が第一と思うので、どうやって自分の体の状態を健康に持っていくのかを考えた時に、健康のセルフマネジメントをしないといけないと病気をして強く感じました。体調について、ある程度コントロールできる部分があると思いますが、自分の生活のリズムをどうしたら健康に持っていけるかを考えています。
また、自分の好きなことや趣味を充実させることが大事だと考えています。大学生の頃から歌が大好きでアカペラもやっていました。歌は今でも続けています。仕事の空き時間に好きなことをするのが、病気と向き合うことにもプラスに働いているように感じており、自分らしい時間を持つということが大事だと思っています。

司会者の方:生活環境や考え方、その人次第、ということがよくわかりました。

【会場からの質疑応答】
<Q:皆さんは就職活動の時にどのように就職をしていましたか(過去に難病相談支援センターで勤務していた方の質問)>

さっちんさん:
人材紹介会社の募集を見て応募しました。自分でサイトを通じて探していくことをメインとしていました。

くわっちさん:
高校卒業後すぐに工場で働き始めました。そちらは、10年来の付き合いの友人が事務職で応募して、そのかたに誘われて応募しました。それ以降はアルバイトや正社員など様々な雇用形態で働いていますが、求人サイトや知人の口コミで応募しています。

みやうちさん:
紹介や自己応募が多いですが、人材紹介会社を利用したこともあります。ただ、その人材紹介会社は難病専門の会社ではありません。ベネファイのようなものが広まればと思っています。

<Q: 出張などで万が一を考えたほうがいいと思っています。主治医との相談など何か気にされていることはありますか。(UC歴4年の方の質問)>

さっちんさん:
腹痛はたまにはあるが、痔瘻の症状があります。絶えず膿が出る状態なので、ガーゼを引いて移動しており、替えのガーゼを用意しています。
また、清潔にしたいので、よく行く場所のシャワートイレを覚えているようにしています。お医者さんと個別のやりとりは特にしていません。

江崎先生:
長時間移動に対する対処方法として、患者さんが旅行する場合には、事前に想定される困りごとに応じて、下痢止めを出したりしています。また、行き先で病状悪化した時などに備え、英語で現在の病状の説明や服用中の薬、注意点などをまとめたお手紙を渡すようにしています。

<Q:新卒入社した会社で、これから本配属となります。環境変化と体調変化の相関はありますか。(建設会社の現場監督になられる予定の方の質問)>

みやうちさん:
環境が変わると体調にどれくらい変化があるかということは、当事者の方はわかると思いますが、影響はあります。その影響をいかに下げるかを考えるようにしています。職場で相談できる人はいるか、職場でなくても頼れる人がどれだけ多いかが大事な気がしています。

くわっちさん:
私の場合は季節に応じて体調変化します(関節痛が膝にあります)。事前に準備できることはしておくといいかもしれないと思っており、羽織の準備や下に一枚着るとかすれば、気候的の面での環境にも順応できるのはと思います。他には、あまり冷たいものを飲み過ぎないようにするなどしています。

さっちんさん:
環境が変わると体調変化しやすいですが、出張などが多く環境が変わりやすい職場であるため、いかに環境が変わっても体調が維持できるか、体調維持できるように準備を怠らないことが大事だと思っています。私は、どういったものを食べれば体調が良い、悪いなどの記録を取る・覚えるようにしています。

江崎先生:
環境変化によってストレスは受けるものです。特にIBDのかたは生真面目な人が多い傾向があると感じています。環境変化が契機で悪くなることもあります。
また、質問者さんと同じように現場監督のかたは私の患者さんにもいらっしゃいます。そのかたは外でのお仕事なのでトイレがなくて、なかなか行けないという困り事があるそうです。不安なところをできるだけ消していって仕事に臨むのが大切かと思います。

【最後に一言】
さっちんさん:
発病して5年程が経ちます。無理して元気に、ポジティブになろうということは決して言いたくはないですが、自分をいかに自然に保てるかが病気と向き合う上でのキーワードとなると思うので、自然体で病気と向き合うこと、仕事は人生の一部なので、自分が楽しめることを思う存分楽しむといいと思います。

くわっちさん:
今でこそ元気に話すことができ、このように生きていますが、潰瘍性大腸炎と判明した時はとても泣きましたし、結婚や通学も無理かと思っていました。発病してすぐは、「〇〇ができないのではないか」「〇〇はどうだろうか」と思い悩むことがあるとしても、回り道しても、やってみる・相談してみる・誰かに聞いてみることで、そこから始まる人との関係性もあると思います
また、好きなことを一つ以上見つけることも大事だと思います。私はアイドルが好きですが、入院中も見るなどしていました。こんな風に、自分の気持ちが晴れるものを見つけると、自分らしく生きられると思います。

みやうちさん:
やりたいことをやるに尽きます。病気を治すための人生を生きてもしょうがないと思います。やりたいことがあっても、IBDでできないのではと考えるのではなく、やってみることが大事だと思います。
自分が大事にしていることの一つに、人生の決め手は何かというお話があります。それは、人生を決めるのは起こった出来事ではなくて、起きた出来事をどのように解釈するかが大事、ということです。
例えば、IBDがあったら仕事がうまくいかない、というのは解釈に過ぎません。私は2年前にストマの手術をしましたが、「パウチが漏れた」という出来事の時に、私は服を買い換えましたが、これは「神様が新しい服を買いなさい」といっているのかもしれないと私は解釈しました。
ですので、一歩踏み出して一度しかない人生を生きることが大事だと思います。

藤さん:
テクノロジーの進化に伴い、人間に残る仕事のキーワードとしてCMH(クリエイティブ・マネジメント・ホスピタリティ)と言われています。このようなことをヒントにするのも一つかもしれません。

江崎先生:
たくさんの患者さんを診ている中で、病状は様々で、ほぼ健康に暮らしている人もいます。自分の落とし所を見つけることも大事と思っています。
私が研修医の頃と比べると薬も良くなってきています。先ほど、ご自身の経験をシェアしてくださった方がおっしゃられていた通り、デトックスも大事なことの一つです。IBD患者数が増えた原因は食生活の変化、化学調味料やジャンクフードが原因とも言われています。医師の立場として、患者さんがさらに健康になっていく上でサポートできればと思っていますし、自分らしく生きるために頑張っていただければと思っています。

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