ポプラ社社長インタビューに言寄せて…

経営者の孤独/ポプラ社・千葉均「宗教を持たない私たちは『哲学の徒』として生きる」 - 小さな声を届けるウェブマガジン「BAMP」 https://bamp.is/interview/kodoku12.html

 上記記事を、とても興味深く読んだ。
 率直に感じたことは、当たり前のことを当たり前にやろうとしている方だということ。
 逆説的に、この訴えが異端とされるということはつまり、そういうことなんだということも確認できた。
 正確に言えば、『再』確認だ。そういう空気は間違いなく業界内にある。
 10年ほど本屋で働いたけれど、2年目くらいに不思議な業界だなあと思うようになった。

 そんなこんなの所感を、本屋のスタッフをやっていた立場から書かせてもらおうと思う。
 もう貧して鈍しちゃって哲学や宗教を持つ余裕のない立場から。

 千葉氏はインタビューの中で、業界は読者第一主義であるべきだと述べている。
 売り物が本である以上、これほど当たり前のことはないのだが、わざわざ言わなければならないのだ。
 それほどに業界は目的を見失っている。というより、目的がすり替わっているんだと思う。

 本を売る業界には、他の小売業にはなさそうな独特のルールが色々とある。そのルールに基づいて業界の仕組みができあがった。
 それらはそもそも本を全国で平等に販売することが目的で、一時期は日本中がその恩恵に預かり、業界も大いに潤った。
 ところが、その時代が忘れられないまま、いつの間にか肝心の本が売れなくなっていった。その変化による危機の伝播が徐々にだったものだから、抜本的な改革を行うタイミングを失った。
 外から入ってこなくなったお金を仕組みの内側で循環させるようになり、それぞれの会社の自転車操業が業界全体を回すという複雑な歯車機構ができあがった。
 その結果、ますますこれまでの仕組みを変えることができなくなってしまった。
 そしていつの間にか仕組みを守ることが目的になっていった。

 手段と目的の転倒。
 それが業界に蔓延する病理の根源だと思う。
 「これまでこうだったから」が最上位のルールとして設定されてしまっていて、それを窮屈と感じつつもその中でどうにかしようとするから、歪な当たり前が変わらない。

 つまるところ、こういうことだったのだろうと思う。

 そして、こういうことの結果が、インタビューの中にもあるような、人の集まらない書店や供給過多で物流や現場が疲弊している現実として外から見ても分かるような形で表出している。
 この苦しい現実についても、時代のせいで売り上げが下がっているのが「当たり前」で、活字離れのためにどこも苦しんでいるのが「普通」なのだ。
 改めて思うけれど、これほど後ろ向きな業界があるだろうか。
 ため息をつく前に何かやれることはないのか。

 だから、この記事はとても心強かった。
 経営をする人の中にまともな人がいるのだと安心した。
 どうか、業界の波に飲まれないように、そして何より自身の孤独に酔うことの無いように結果を求めて戦いを続けてほしい。
 自分はやっているけど、やっぱりこの業界はおかしいと悟ってしまうことなく、自社にとどまらず、業界全体のスタンダードになるところまでを結果として、当たり前を塗り替えて欲しい。
 他力本願ではあるけれど、働く側も消費者も笑顔になれる場所であり続けてほしいと思う。
 

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