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私の皮膚のメンヘラ具合

 いくら難しいことを考えて高らかに論じていたとて、何か自分の身に起これば簡単に吹き飛んでしまう。
 己の身を振り返ってそう思った。所詮私だってただの人間(しかも結構くだらない部類の)なんだし、いざってときには結局低いところに流されてしまって、それで頭がいっぱいになりがちだ。だから日ごろから、体験なんてできないような自分の枠を遥かに超えたようなことを簡単に言葉にして嘆くのはやめておこうと思っていたのだ。そして今それを改めて実感している。

 かゆすぎない?蕁麻疹。

 2,3年ぶりだろうか。体中に瞬く間にかゆみと腫れが広がって、あっちこっちで主張し続けている。せっかくの3連休だというのにそのかゆみと戦っていくだけでずいぶんと神経を摩耗してしまった。
 かゆいかゆいかゆい。もう頭の中がそれでいっぱいだ。世界の情勢とか人間の在り方とか未来への展望なんかより、遥かに「どうやって一刻も早くかゆみを取るか」が大事になる。
 思わず掻いてしまうと「ありがとう!もっと構って!」と言わんばかりに主張し、遠回しな自傷行為を勧めてきやがる。構ってちゃんなメンヘラ女子か!しかもどこまでもどこまでもしつこい点が、なかなかの危ないストーキング感が出ている。
 そしてやつは数十分粘って、飽きたら跡形もなくきれいに消え去り、他のところでまた主張を始める。そして私の掻いた跡だけが少し傷となって残る。今のところ粘膜以外の箇所でだいたいそんな感じで順繰りに起こっている。頭皮とかも。うううう。なんなんだよぉ!

 思い当たる節はなくはなかった。

 ここ数か月、自分としては結構珍しいくらいに動き回ることが多かった。そのうえ夜寝るのが普段より深い時間になってしまうことが多々起こってしまう。頭はぼーっとするときもあり、週末の食事がひどいことになっている時期もなきにしもあらず。血管が生きてるのか疑わしいくらいの冷え性なのに、今年はやけに暑く感じて薄着になりたがって、袖がついたものやぴったりとしすぎるパンツを避けて避けて避けまくった。なぜだか肌に布が触れるのが嫌になったのだ。
 (嫌なことではないけれど)急に変化したことによるストレス、不規則な生活、睡眠不足、主に週末の暴飲暴食、冷え性なのにのぼせ、それゆえに冷やしまくる。
 ええ左様でございます。特定のアレルギーではないにしても、心当たりばかりで今更どれが原因だかわかったもんじゃありません。
 しかもちょっと前兆らしき傾向があったにも関わらず。油断しすぎた!

 もう症状が典型的だったし、密に関わる人に移っている様子もなさそうだったので、飲み薬を買ってきた。抗アレルギー剤を服用するしか道はないのだ。かゆみ止めのコーナーだったり、鼻炎のコーナーだったり、あるいは花粉症の薬でもいけるはずなのだが、家に在庫がなければ(これだけでもかなり絶望した。友人の花粉症の薬ってまだ残ってたはずなのに……)、店でもいくつかの種類が売れてしまっていて、高いものしか在庫がなかった。なんで?今皮膚トラブルラッシュなの?虫刺されやあせもとかならわかるんだけどさ。抗アレルギー剤だよ?気温があがると毛穴も開いて、体内からのあらゆる不満が噴出するの?

 とても日常の細かいことや軽い運動でさえもやる気が出ず、ほぼ掻き毟りのたうち回って休日を終えてしまった。前回はさすがにここまでじゃなかったような気がする。薬を飲みだしてからは、今のところ徐々には収まってきているものの、まだまだ体は斑点だらけでかゆみメンヘラが暴れまわっている。
 このままではメンヘラのせいで仕事にならないので、朝全身に液体ムヒを浴びる勢いで塗りたくり、かばんに放り込んで仕事へと向かった。このとき新しい液体ムヒをあけて塗ったので、メントールの爽やかさが尋常ではなかった。皮膚どころか鼻や目からもメントールが刺激される勢い。全身メントールすぎて私そのものがメントールなんじゃないかと錯覚するわ。これ下手したら通勤電車でも匂って「トニックシャンプー使いすぎ人間」の異名をとられない?と思ったくらい。

 それでも液体ムヒのメンヘラ拘束具合は素晴らしいもので、午後までかゆみは10分の1以下(当社比)まで抑えてくれていた。午後までは。

 別にムヒが悪いわけではない。作業場所が移動になって、締め切った空調のない部屋での作業になってしまったのだ。

 今の私は心身ともにナイーブそのもの。よりによって今日は外が雨で寒いので長袖着用、しかも髪を完全に下ろしてしまっている。そこに締め切った部屋によって噴き出しかける汗。
 そう、私の皮膚を、その奥にいるメンヘラを、発動させるには十分な刺激だった。日常に埋もれていて忘れていた。世の中って、こんなに刺激に満ち溢れていたのね!なんて。
 荷物を持っていけるわけではなく、ポケットもない服なのでムヒも持っていけなかった。「おまたせー!」と500m先くらいから走ってこっちに向かってくるメンヘラ。じわじわとかゆみが蘇る。そして私の精神もゆるやかにいらいらへと傾いていく。

 しかも一番にやってきたのは胸の間だ。服やらなんやらで邪魔して掻こうにも掻きにくい。ならば痛みじゃ!と言わんばかりにグーで胸をたたく。それでもかゆみメンヘラには格好の刺激だったようで、もっともっとと要求してくる。1秒でも早く私はかゆみから逃れるために、両手で胸をたたき出した。

 あれ……私……人間として仕事を全うするために、ゴリラになってる……。
 なかなか哲学者でも行きつかないパラドックスやでこれぇ……。

 なんとか軽く汗をかいたものの作業を終え、元の部屋に戻れた私は、ほどよい空調のおかげでなんとか人間に戻った状態で1日を終えたとさ。帰ってそっこーでシャワーと液体ムヒを浴びたのは言うまでもない話だろう。

 「きっとあらゆるストレスや悪いものが皮膚から出ようとしてるんだな。」ということは頭でもわかっていて、やっぱり延々と各所でかゆみが起こるのは不快だし、傷にはしたくないし、それでかなりいらいらしてしまう。特に私は多少皮膚が荒れようと、変に抑え込むより出してしまった方が治りが早いことがあると自覚しているが(ニキビもつぶした方が治り早いし、痕が残らないタイプ)、蕁麻疹にはその概念は通用しないだろうしなぁ。
 具体的な原因が付きとめられる可能性は低そうだし、わからない以上、しばらくはこの追いかけてくるメンヘラのようなかゆみとの戦いを続ける他ない。まだ夏は始まったばかりで、まだやりたいことや予定は詰まっている。メンヘラに付き合って自傷行為を過激にしてしまい、ボコボコの肌で過ごすような羽目になっている場合ではないのだ!

 さぁかかってこい!
 いや嘘!かかってこないで!できたら1秒でも早く私の体から退散して!これでもすでに結構怪しい傷ができてて、それも治す時間も必要なんだから!色素沈着怖い!!!!!


 

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