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【2019シーズンJ1第4節】北海道コンサドーレ札幌vs鹿島アントラーズ マッチレポート

 所用(武蔵代表戦含む)により、試合から1週間ほどが経過したタイミングでの記録となります。改めて試合を見直し、そして熱気を帯びた皆様の感想や意見などに目を通したところです。
 ※本文の下書き保存に2回失敗し書き直しになっており心が折れかけています……。誤字・脱字・乱文ご容赦ください。
 負け試合ほど、論点も多くそして失点やうまくいかない事象の責任を何かに持たせたい。そしてそれを次節までにこのように修正すべきだ。人を変えたりフォーメーションを変えたり。悔しいのは私も同じなので、そのように言う気持ちは実にわかります。
 しかしながら、シーズンは長くチームは更に長い期間を、今もまさにその熟成に費やしています。上手くいかないことを掘っていくよりも、今は兆しを拾い集めて置いたほうがきっと将来的に楽しい。どこかのタイミングで覚醒の瞬間を見ることが出来たとき、噛み合ったピースに心当たりがあればもっとそのサッカーを面白いと思えるのではないでしょうか。というわけで、負け試合のレポートですが、基本ポジティブな姿勢で進めていきます。

フォーメーション&メンバーは試合前予想のとおり

 北海道コンサドーレ札幌は3-4-2-1、鹿島アントラーズは4-4-2の布陣。メンバーについても、事前に各紙予想されていた通りの構成に。
 コンサドーレは前節の5得点で良い攻撃のイメージが出来ている反面、開幕以降速攻からの攻撃パターンの充実は示せているものの、ブロックを構築された時の攻めについては回答を出せていない。3ラインをコンパクトに保つアントラーズに対してどのような崩しを見せていくのかが見どころとなります。
 一方アントラーズとしては、4-4-2と3-4-2-1のアンマッチを生かしサイドで数的優位を作りながら攻撃を組み立てたい。特に日本代表SB安西(白22番)とU20日本代表安部(白10番)を擁する左サイドからの攻撃に期待がかかる。加えて、コンサドーレ得意の4-1-5セットで押し込まれる展開を想定しながら、その後方守備において不可避的に発生する歪みを突くロングカウンターが争点となることは、チームで共有されていたものと考えられます。試合前安西のコメントからも、守備から入るアントラーズ得意の展開が予想されます。
 昨シーズンも含め数試合見るとアントラーズは展開によって2トップのプレス位置と強度を調整し、それに連動させて守備のやり方を変えてくるところに巧さがあります。縦のコンパクトネスについてはなかなか崩れないので、横に揺さぶることでサイドor中央で柔軟に起点を作っていきたいところです。

”決勝点”は前半早々に

 立ち上がり、試合への入り方について今シーズンのコンサドーレはすこぶる快調で、序盤の数プレーにおいてはアントラーズのゴールを割ることは時間の問題なのではとさえ思わせる内容でした。特に、アントラーズの2トップ+1枚をセットにしたプレスの開始位置が定まらず、相手の中盤中央のスペースを優位に活用しながら中→外→中とリズムよくボールを動かし、前半5分の攻撃では16本ものパスを介し決定機を生み出しました。
 しかしそのゴールの匂いも状況と相手あってのこと。前半12分、右からのセットプレーよりこぼれたところから、菅のクロスが対面DFにリフレクション。ルーズボールをレアンドロに確保され、レアンドロ→レオシルバ→伊藤翔のルートで少ない手数で直線的なロングカウンターを許し失点。
 この失点により、アントラーズはリスクを冒す責務から逃れ、試合を通して後出しの権利を得ることに。2トップがパスコース限定に専念する形をとり、アントラーズの4-4-2ブロックはここから3ラインのコンパクトネスをさらに高めていきます。試合を終えてみれば、この1失点目がコンサドーレにとっては決勝点と言っても良い程の重みをもつことになりました。

ベルマーレ戦からの成長を感じる失点

 この試合を通して、アントラーズの”らしさ”や”成熟度”を感じ、同時にコンサドーレの”若さ”や”未熟さ”を感じた方は多かったかと思います。確かに、より相手を考察し、相手に合わせてまとまりのある柔軟な戦い方を実行したアントラーズにはチームトータルとしての経験値の高さを感じました。
 対してコンサドーレは、確かに最終判断におけるミスや試合運びにおける未熟さは露見しましたが、第1節以降着実にチームとしての成長を実感できています。
 そうした成長を感じることもできる、アントラーズのロングカウンターにより生じた1失点目のケースを切り取っていきます。

脱・結果論の話

 ”宮澤が油断して戻り切らなかった””ルーカスの守備対応が軽かったあるいは不運だった””そもそもその前のシーンでレアンドロをファウルしてでも止めるべきだった””更にその前で菅のクロスが引っ掛かったのが悪い”などなど個々の選手に原因を求めるこの論調はあって然るべきものだとは思います。実際に、このいずれかのポイントでも過程が違えば、結果はどうあれカウンター攻撃の形は変わり、もっと相手にとって成功率の低い攻撃をさせることが出来たように思えます。
 しかし、各々の判断やプレー精度等技術に原因を求めても、それは結果論でしかなくチームとして守備を捉えたときに意義の少ない議論になってしまいます。各プレー判断の中にチームとして定めた原則や約束事が存在しているのか、というところに観点を置いて考察を進めていきます。

攻撃の中にリスクヘッジを

 いきなり余談ですが、チームで推奨されるクロスの質が昨シーズンと今シーズンではおそらく変化しています。昨シーズンは、前線にジェイや都倉という純粋な高さで勝負した際に質的優位を取れる選手がいました。そのため、ファーサイドに足の長いクロスを入れてシュートor折り返し、のパターンを多用していました。これが実は被カウンターの機会を確実に減らしました。途中でリフレクションすることがないからです。対して今シーズンは、ロペスに武蔵と高さはあるもののそれよりも局面での速さを優先してか、ニアor中央へスペースを目指した配球や、ストレート気味の弾道でのクロスがどちらかというと多く、チャンスにも結び付いている印象です。もちろん今後は相手の配置や対応によって、数種類の球質が使い分けられることと思います。
 今回のケースに戻ります。ボール導線上に相手守備者を置かないというのは、パスやクロスにおける出し手受け手共通の原則です。菅のクロス位置は左ペナルティエリア角手前。菅は左足でクロスを入れるので、守備者は若干右寄りに位置取りながら、中央とのボール導線を塞ぐようにプレスを掛けます。この位置でリフレクションしてしまうと、ピッチ外にボールは出ず手前にこぼれるため、セカンドボール次第で即カウンターになる大きなリスクを負います。菅選手のクロスを入れるというプレー判断については論じたい点ではありません。ただ、中央に人数をかけた攻撃時、トランジション観点での約束事がどの程度設定されていたのかは気になるところです。
 【深い位置まで侵攻してのプルバック(リフレクションしてもCK)】、【浅い位置からクロス供給の際は、複数名で対応し相手守備者をボール導線上からズラす】という約束事を設定しボール保持者以外の連動を求めることが一般的な対処となります。

判断と判断、駆け引きの応酬

 リフレクションしたボールがレアンドロに回収され、局面は変わり攻撃→守備のネガティブトランジションとなります。
 ネガトラにおいては、①プレス(ボールホルダーの自由を奪う)、②ディレイ(帰陣の時間を作る)、③守備陣形を整える(位置的優位、数的優位を作る)、④シュートゾーンから遠い位置への誘導(サイド、後方への誘導)というプレー原則が存在します。
 ルーズボールを確保したレアンドロへの対応については、この原則通りに進んでいたように思えます。3人のプレイヤーが次々とプレスをかけ、前線への直通パスを封じる。周囲のプレイヤーは帰陣の時間を得ることができ、その間に後方守備は最低限数的同数を確保しました。プレス対応者と帰陣し守備陣形を整えるプレイヤーの役割分担がスムーズで、非常にスピーディなネガトラの対応となります。これは第1節ベルマーレとの試合でチームとして遅れていた部分で、数試合で大きく磨かれた印象です。ここでレアンドロにカード覚悟のファウルをしてでも進藤が流れを止めるべきだったという意見は多かったのですが、サイド誘導はできなくとも帰陣時間を稼ぎ数的同数を作ることが出来ていましたので、ここでの進藤の対応は理にかなっていました。
 ※個人的に最もこのケースで驚きだったのはルーカスの帰陣意識の高さです。長い距離を自陣まで戻る様子を、動画を見て感じていただければと思います。

最後に明暗を分けたチャレンジ&カバー

 レオシルバから伊藤翔へのダイレクトスルーパス。プレスをかけた深井をかわしルーカスと宮澤の間にあるギャップを通す見事なパスでしたが、ファーストディフェンダーはルーカス。スライディングを伴うクリアが伊藤翔にコントロールされてしまいそのままゴールまで繋げられてしまいました。ボールへの対応者がルーカスに決まったときに、同様に最終ラインを構成していた宮澤・福森は、①守備原則に従いカバー位置を深く取る、②ポジティブトランジションに向けて幅を取るポジション修正、のいずれかを選択する判断を迫られます。2人ともに、ルーカスが優位にボールを奪取し攻撃に転じることを想定、②の選択を取ります。
 この試合、ミシャの攻撃テーマのひとつとしてあったのがポジティブトランジションにおける速い展開でした。4-4-2のブロックを形成される前にスペースを活用し攻撃を展開することで、得意の4-1-5のセットに持ち込みやすくなります。ルーカスの対応方法を予測できなかったことに加え、上記の意識が頭に過ぎったことによる判断だったと考えられます。
 しかし試合序盤立ち上がりの時間帯での局面、アントラーズの守備陣であればここは手堅くチャレンジ&カバーの原則通りにことを進めていたことと思います。普段最終ラインを形成しているわけではないルーカスが対応者だったことも加味すると、低リスクの選択をすることは更に妥当となります。
 本職ではないCBを守る宮澤が今後こうしたケースの経験を積むことで判断精度が高まるならば、それこそ長谷部選手のようなプレゼンスを発揮できるようになるのではないかと期待してしまいます。
 今後もコンサドーレは多くの被カウンター機会を経験することと思いますが、失点率を減らすために大事なのは属人的な守備対応ではなく、組織として守備原則に沿ったプレーを選択することです。サポーターとしても、結果論で語り過ぎることなく、再現性のあるプレーを評価しながらチームの成長を感じていきたいところです。

右サイド守備に対しての約束事

 5-4-1(or 5-2-3)で守るコンサドーレに対して、4-4-2のチームはほぼ必ず、攻撃プランのひとつにサイドでの数的優位形成を前提としたサイド攻撃を想定します。アントラーズにおいても、特にコンサドーレの右サイド(進藤・ルーカス・ロペス)を崩しどころと捉え、深く侵攻を進めました。前半だけでも数パターンの人とボールの動かし方を用意していました。以下、その中でも特にデザインされていたプレーケースを取り上げていきます。

 ボランチ(白6番)がCBの間に入り、最終ラインは3枚、SBはラインに対して高さを持った位置取りです。SH(白10番)はどのセットでも大外に開き、進藤(赤3番)とルーカス(赤7番)の位置取りを制限させています。
 ボールの動きは、白6番→白28番→白22番と渡っていきますが、ボールの動きに合わせ、白6番が中盤の位置に上がりパスコースを確保します。それに合わせ、荒野(赤27番)が白4番へのパスコースを意識しながら、白6番を牽制できる位置を取ります。それを見て、白22番がボールを確保しているタイミング(ルーカス(赤7番)は白10へのパスコースを切る)で、ポジショニングを修正しパスコースを作ります。白4番にパスが入り、ドリブルを挟むことで進藤(赤3番)の対応を難しくし、その後大外の白10番にボールが渡ります。白10番は広く自由にできるスペースを得ており、更に深い位置まで侵攻していきます。
 この一連のプレーの肝は、”ポジショニングの修正””相手DFを意図的に動かすアクション”です。こうしたプレーは、次節の名古屋グランパス(風間監督)が得意としています。
 4-4-2は基本的にサイドで数的優位を作りやすい設計になっていますので、守備側としてファーストディフェンスは角度とタイミング、速さにおいて次のプレーを限定させるために実行し、後追いとなる局面を極力作らないことが肝要です。2~4名単位のユニットで攻守対応することになりますが、”誰に”ではなくその形の”どの頂点”に付いていくのかを決めて対応できる準備を進めておきたいところです。
 雪のため、フルコートでの調整が難しい状況になっていることが懸念されますが、何とか、次週までに右サイドの攻防で優位が取れるような準備ができることを祈っています。

攻撃の見どころは”スペース活用”と”身体の向き”

 前半5分の決定機演出だけでなく、コンサドーレの攻撃は何度もチャンスを作りましたが、その反面、アントラーズの狙い通りに上手くボールを奪われたケースの続く時間帯も存在しました。今シーズンのコンサドーレは、相手DFラインとボランチの間でフリーマンを生み出し、中央orサイドへの展開によりチャンスを作ることが出来ています。
 コンサドーレが少ないタッチ数でボールを回しながら判断速くビルドアップが出来ているのは、ボールの方向性を意図的に決めており、その方向に対して正対した身体の向きの選手を常に作り続けることができるからです。多くのビルドアップのパターンの中でアントラーズの中で機能しなかったものと有効だったものについてそれぞれ考えていきます。

 上記のパターンは相手に狙い通りのボール奪取を許したケースです。進藤(赤3番)からIHのロペス(赤11番)に垂直のパスが入ります。この時、武蔵(赤9番)がCB(白39番)を引き付け、かつボランチの白4番がボールへのアプローチをかけたことにより、中央のスペースがぽっかりと空きます。ロペスは相手ゴールに背を向けており、空いたスペースに対しても正対できておらず、セオリーからすると、あまり良い身体の向きではありません。にも拘わらず、ロペスはボールを持ち出して白4番をかわそうとし、結果ボールを奪われます。このシーンでは武蔵へのフリック、ルーカスへのパスという他の選択肢がベターでした。同様のケースでも、身体の向きが悪い選手が簡単にボールを離すことで人の動きも流動的になり、相手を翻弄する攻撃を展開させることが出来ています。

 上図は、中央で武蔵(赤9番)が起点をうまく作ったシーンです。進藤(赤3番)からルーカス(赤7番)にパスが入ったシーン。ロペス(赤11番)が縦のスペースにフリーランし、白28番を引き連れて中央のスペースを空けます。そのスペースを活用し武蔵がボールをキープ。その後、荒野(赤27番)、菅(4番)に展開。

 加えて、上の動画は武蔵の裏抜けのアクションにより空いた中盤のスペースを深井が活用し展開させるケースです。日本代表(対コロンビア)での試合もそうでしたが、武蔵は裏抜けあるいは最終ラインを牽制することで、2列目の選手に仕事をさせるスペースを確保することが期待できます。こうしたシーンが増えてくるならば、ボランチの2選手にも攻撃面のクオリティアップが求められてきます。

最後に

 攻守ともに、アントラーズ相手に通用するものは昨シーズンよりも明らかに増えていました。相手が怪我人を多く抱えていたことももちろんありましたが、今後更にチームとして成熟が進むことで決して手の届かない場所にある相手ではないと思います。武蔵の日本代表選出など、良いニュースもありました。
 次節以降、数試合に渡って昨シーズン勝ち点を得た組み合わせの試合が続きます。まだまだチャレンジャーだと思い出させてくれたこの試合を糧に、連勝街道を築いていけるよう、これからも応援していきたいと思います。
 改めて、長文最後まで読んでいただきありがとうございました。




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