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【書き起こし】上海国際映画祭2019×徐昊辰×森直人

活弁シネマ倶楽部です。
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この書き起こしだけ(それも断片だけ)で判断するのではなく、語り手が語る言葉に耳を傾け、じっくりと楽しんでいただければと思います。
映画を見るという行為と同じような、能動的な体験をしていただけたら何より嬉しいです。最後になりますが、YouTubeチャンネルのご登録もお願いします。

日本映画も大盛況!!上海国際映画祭2019を語る!!活弁シネマ倶楽部#35

(森直人)始まりました。「活弁シネマ倶楽部」。MCを務めさせていただきます、森直人と申します。どうぞよろしくお願いいたします。「活弁」というのは聞き慣れない言葉かと思いますが、「活動弁士」の略称です。活動弁士とは、サイレント映画の上映中に語りを加えて、映画を楽しむ豊かさを提示してきた方々です。この番組では、動画配信を通して、映画を楽しむ豊かさを、視聴者の皆様に届けていきたいと思います。
それでは早速ですが、今回のゲストのご紹介でございます。
というわけで本日のゲストはさぁ誰でございましょうか。おなじみの。お世話になっております。

(徐昊辰)お世話になっております

(森直人)映画ジャーナリストの徐昊辰さんです。お馴染みなんですけど、この新しいスタジオでお話しさせていただくのは初めてですね。なんか左右も違うんで変な感じですね(笑)新鮮な感じで。

(森直人)今日のお題はということなんですけど、これ。上海国際映画祭。いつまででしたっけ?

(徐昊辰)6月24日の月曜日までですね。

(森直人)ずっと行ってらしたんですよね。

(徐昊辰)23日までいました。ギリギリまで。

(森直人)日本映画がめちゃくちゃ上映される映画祭。第22回でしょ。ここにね4つも公式パンフレットがあって、凄いですね。これ、めちゃめちゃ分厚いやつが。

(徐昊辰)マーケット用の。マーケット用の中に色んな映画会社、版権会社の資料が入っています。しかも中国で、WeChatっていうSNSが流行っていて、そのQRコードが付いています。連絡したいならすぐ。

(森直人)結構が無骨なつくりで、本当に業界用っていう感じに徹している。表紙も素晴らしい。

(徐昊辰)表紙は中国で最も人気なデザイナー黄海さんがデザインしたポスターで、意味も一応あるんです。

(森直人)意味?どういう意味ですか?

(徐昊辰)森さん、見たらどう思いますか?

(森直人)これあれ?別の見方ができるってやつ?

(徐昊辰)猿を見てどういう作品がピンと来ますか?

(森直人)もうすごいなんかドキドキしてきた。クイズでアホな回答しかできない人みたいな(笑)教えてください。

(徐昊辰)みんな知っていますね、『最遊記』の孫悟空です。

(森直人)それでいいのか。

(徐昊辰)『大暴れ孫悟空(原題:大鬧天宮)』っていう中国ですごく有名なアニメ、中国のアニメの象徴的な作品として知られています。今回はアニメの中で出てきた水の膜を借りて、その膜の裏にある孫悟空の魅力を見せる、つまり、映画をつくる裏に存在する監督とかスタッフに敬意を見せる。

(森直人)スクリーンの裏にいる作り手たちのリスペクトがテーマである。僕行ったことないんですけども、この話を徐さんから頂いて、Googleで「上海国際映画祭」と打ち込むと、「長澤まさみ 美肌 ドレス」がまずは出てくる(笑)

(徐昊辰)トレンド入り(笑)

(森直人)そういった話題もありつつ、こういうちゃんとしたコンセプトっていうのも下部コードとしてガツっとある。ざっと調べたら、第1回が93年で、まさに『さらば、わが愛/覇王別姫』の年で。なんか象徴的な気がしますよね、1993年中国映画。

(徐昊辰)中国でA級の国際映画祭は上海国際映画祭が唯一なんですよ。アジアだと東京国際映画祭と上海国際映画祭の2つだけ。

(森直人)93年に上海でもやろうっていう、そこが起点となって最初は隔年だったんですよね。第6回2002年から毎年に。

(徐昊辰)それもちょっと東京国際と似ているんですよね。

(森直人)だからちょっとあれかな、ロールモデルにしているところもあるのかな。

(徐昊辰)そうですね。たぶん93年の時、中国の映画産業は全然始まったばかりで、東京は一番近いからそれを勉強して。審査員のメンバーとかを見たらわかるんですけど、最初の1回目から10回目には結構日本の映画監督や女優さんが上海国際映画祭の金爵奨の審査員で選ばれて、1回目は大島渚監督。

(森直人)いきなり...巨匠、奇才。大島渚監督。

(徐昊辰)そうです。今回もいろいろ調べたんですけど、びっくりしたのは、結構来てるなって。降旗康男監督もそうだし、黒木和雄監督、小栗康平監督とか。

(森直人)すごいですね、そう思うと。

(徐昊辰)すごいです。

(森直人)第6回ってあれでしょ、『リリィシュシュのすべて』が受賞したんだよね。

(徐昊辰)受賞しました。

(森直人)岩井俊二監督。だからそれもなんかね。上海国際映画祭で受賞してたんだっていうのもちょっと思ったんですよね。アジアへの影響みたいなことが大きいじゃないですか。

(徐昊辰)岩井俊二監督に関しては、やはり海賊版の影響が半端なくって、その時は既に日本映画の監督と言えば、宮崎駿監督、ビートたけし監督、次は岩井俊二監督。

(森直人)その下地があって『リリィシュシュのすべて』は鳴り物入りで来たぞっていうんで。

(徐昊辰)ワーッて盛り上がって。

(森直人)海賊版もね。

(徐昊辰)その後も岩井俊二さんが2回審査員を...

(森直人)やってらっしゃるってことですよね。

(徐昊辰)はい。

(森直人)だからキーパーソンの一人であるって感じしますよね。

(徐昊辰)わりと架け橋的な存在になっているんですね。

(森直人)(上海国際映画祭には)いつから行ってるんですか。

(徐昊辰)9回目からですね。

(森直人)じゃあ2005年とか。

(徐昊辰)2005年、2006年ぐらいからですね。

(森直人)じゃああれだ。日本に来るちょっと前。

(徐昊辰)ちょっと前です。

(森直人)徐さんの個人史とも結構関わってくる話でしょ。

(徐昊辰)そうですね。あの時から日本映画を見始めて、でも見れないじゃないですか。海賊版でさえ少ない時代なので。その時もう既に日本映画が20本ぐらい上映されていて、時間があれば見に行こうって思い、たくさん見ました。劇場でなかなか日本映画見るチャンスが少ないので。一般公開されてるのは『ドラえもん』ぐらいなので、映画祭期間中で。まあ日本映画だけじゃないんです。他の映画もたくさん、普段上映できない作品が映画祭で見れるので、だいたい1週間で25本ぐらいは見るんですね。

(森直人)(笑)ハードですね。じゃあ2005年、2006年あたりで見た日本映画で思い出深いものってどのへんなんですか。

(徐昊辰)『どろろ』ですね。

(森直人)あ、塩田明彦監督。

(徐昊辰)そうそう。なぜ覚えてるのかというと、中国の劇場の反応、笑い声とか聞いて「すごいな」と。もう瑛太さんのファンがいっぱいいる、もうそこまで浸透しているっていう。妻夫木さんとか柴咲コウさんとか、既にある程度知名度があるんですけど、瑛太さんとかもファンがついてるのは...劇場の中の笑い声が半端ないっていう印象がずっと残っていて。

(森直人)塩田監督本人からかもしれないんですけど、『どろろ』は日本より、むしろ中国、香港ですごくうけたっていう話を聞いたことあります。

(徐昊辰)そうですね。映画祭で結構盛り上がっていまして、全部満席でした。

(森直人)日本だと実はそれまでミニマムな映画撮ってきた塩田監督、もともとすごく大作思考であられる方だと思うんですけど。『どろろ』を出した時に賛否両論が出たっていう感じなんですけど、中国・香港はすごくうけがよかった。それでじゃあ、(徐さんは)今に至る人生をグーッとこう変えられてきたってことでしょ。

(徐昊辰)そうです。日本に来る前の2006年は結構印象に残りまして、『アンフェア』の劇場版とか。ドラマは放送されてない。劇場版をいきなり国際映画祭で上映するっていう(笑)

(森直人)THE MOVIEのほうが。いきなり?

(徐昊辰)いきなり一作目が。みんな海賊版見てる前提で上映するんじゃないかなっていう。

(森直人)徐さんも見てた?

(徐昊辰)見てましたよ。

(森直人)ドラマ?海賊版で見てた?

(徐昊辰)ドラマを海賊版で見てて、しかも監督も上海まで来たんですよ。

(森直人)そうなんですか。

(徐昊辰)はい。

(森直人)へえー。むしろ映画祭とかは遠いラインの映画じゃない、そもそも。だからちょっと不思議な気もしますよね。

(徐昊辰)結構なんか、そういう不思議な感じは今までずっと続いてます。

(森直人)独特な立ち位置の...

(徐昊辰)そうですね。結構独特な映画祭ですね。一番大きな特徴はコンベディション部門の作品を一般の人はほぼ見ないっていう(笑)

(森直人)それ、良いんだか悪いんだか。

(徐昊辰)良いのかわからない。でもちょっと申し訳ない気持ちも。

(森直人)いわゆる映画祭、カンヌ、ヴェネチア、ベルリン型のコンペに一番注目が集まるっていうものではなくて、とにかくお祭りだ。

(徐昊辰)お祭りです。

(森直人)たくさん、普段見れない映画を見れる。だからいわゆる娯楽然とした映画っていうのも上映されると。

(徐昊辰)(中国では)外国映画、毎年120本ぐらいしか上映できないので...

(森直人)制限があるってこと?

(徐昊辰)制限があって、映画祭ではそういう制限がなくなったので、今年は500本ぐらい上映されました。映画祭期間中。

(森直人)9日間とかでしょ。

(徐昊辰)9日間で500本です。

(森直人)誰が見るん、そんなん(笑)

(徐昊辰)(笑)500本で上映回数は1600回です。

(森直人)(笑)えっ、じゃあ会場めちゃくちゃ広いの?

(徐昊辰)会場はメイン会場が一個あるんですけど、シネコンが全部映画祭の上映をやっていて、結構分散してるんですよ。多分やってるスクリーンが60ぐらいあるんです。

(森直人)(笑)映画館のスクリーンとしてシネコンを使うっていうのはありますけども、日本でも。でもその60回やってる間は通常のプログラムっていうのはやってないの?

(徐昊辰)シネコンはスクリーンが最低でも8つぐらいはあるじゃないですか。映画祭の作品を2スクリーンぐらいで開けて、他は全部一般。

(森直人)そういうシネコンがめちゃくちゃあって、合わさったらそれぐらいやってる。

(徐昊辰)それぐらいやってます。

(森直人)500本って1年で500本見ても上等ですよ。

(徐昊辰)上等でしょうね(笑)

(森直人)(笑)9日間で500本か。無茶やな。

(徐昊辰)例えば今年はアンゲロプロス監督の特集上映とか、4K。

(森直人)ちょっと待って。500本の中にアンゲロプロス入ってんの?長いでしょ。

(徐昊辰)長いです。

(森直人)なにやったんですか、アンゲロプロス。

(徐昊辰)有名なやつ、全部やりましたね。

(森直人)じゃあ『旅芸人の記録』とか。

(徐昊辰)『狩人』もやりました。

(森直人)『霧の中の風景』とか、じゃあビッグタイトルを。

(徐昊辰)はい。8作ぐらいやりましたね。ブレッソンも。

(森直人)ブレッソンも?

(徐昊辰)ブレッソンもほぼ全部4Kで5、6作ぐらいやりましたね。

(森直人)そのへんに来るのって、いわゆる上海のシネフェルみたいな人たちだけでしょ?

(徐昊辰)それでも全部満席ですね。

(森直人)ああ、そう。すごいね。

(徐昊辰)しかも劇場の席数半端ないんです。600から800ぐらいの。

(森直人)そんな入るの?最高じゃないですか。

(徐昊辰)最高ですね。

(森直人)アンゲロプロスとかブレッソンっていうのは、中国では上映、見れる環境ってどんな感じなんですか。

(徐昊辰)海賊版です。

(森直人)海賊版か、それも。

(徐昊辰)それか、自分で欧米のDVDとかBlu-ray買って字幕なしで見る。

(森直人)字幕ないもんね。そっか。字幕組のあれを経て海賊版で見るのがベストであると。(註:字幕組は、中国で非中国語コンテンツに中国語字幕を付ける有志団体)

(徐昊辰)そう。しかも、ブレッソンとかアンゲロプロスの海賊版をつくる人は別に儲けないんですよ。全部趣味で。

(森直人)趣味でつくるのね。

(徐昊辰)海賊版を見て、もう一回劇場で見たり。アンゲロプロスは多分一番そうでしょ、劇場で見たい。

(森直人)ちっちゃい画面だとすごい不全感が溜まりますね。

(徐昊辰)カサヴェテスもやりましたよ。

(森直人)まじっすか。すごいな。なんか一時の日本のミニシアター文化がガッと盛り上がってた時の熱気のような気も。それが一角であるっていうのが。

(徐昊辰)ちょうど今泉力哉監督と上海で食事して。

(森直人)『アイネクライネナハトムジーク』やってましたもんね。

(徐昊辰)今泉監督は「私、明日の朝、カサヴェテス見にいきます」って(笑)

(森直人)(笑)もともと今泉さん、カサヴェテスを初期にかなり言及されてた。影響を受けた監督として。

(徐昊辰)中国の映画ファンもみんな知ってるので、上海国際映画祭で普段は見れない映画をたくさん劇場で見れるっていうこと。上海に住んでない人でも、その1週間だけは出張みたいな感じで上海に行って、友だちは今回40本見たんです。

(森直人)(笑)40本でもすごいよな。(一日に)3、4本ペースで。40本ぐらいが上限、健康的なところだと思いますけどね。今回は日本映画が何本?

(徐昊辰)59本ですね。

(森直人)(笑)いや、おかしいでしょ。

(徐昊辰)おかしいと思いますよ、毎年。

(森直人)9日間で日本映画59本やって。

(徐昊辰)(日本映画を)59本やっている国際映画祭が多分ないと思います。

(森直人)ないない。

(徐昊辰)東京国際映画祭でさえ、多分59本ないですね。

(森直人)ないない。世界で一番日本映画大好きな国際映画祭と言って過言ではない。

(徐昊辰)しかも、今年はまだチケットの販売状況・結果が出てないんですけど、毎年1位は日本映画なんですよ。去年か一昨年は、確か『64 ロクヨン』が1位で、あと『世界から猫が消えたなら』も1位取ったことあります。上海国際映画祭が不思議なのは、興行収入まで統計するんですよ。

(森直人)あっ、そうなの。

(徐昊辰)作品ごとに。

(森直人)じゃあそれで1位?

(徐昊辰)1位が『64 ロクヨン』です。全作品の中で1位を取りました。

(森直人)映画祭で興行収入の統計をとる?

(徐昊辰)統計するんですね。

(森直人)それも変わってますね。

(徐昊辰)変わってますね。なんか結構そのへんは意識してるんですよ。どれぐらい儲けられるのか。

(森直人)良い視点ですよね。やったらいいのにね、他もね。

(徐昊辰)そうですね。全然やったらいいんじゃないかな。ある種なんかそういうファンたちの...

(森直人)熱量とかね。

(徐昊辰)熱量とか。どういう作品かを分析できますし。

(森直人)なにが売れてるか、売れるポテンシャルがあるかって、すごいわかるじゃないですかね。

(徐昊辰)上海国際映画祭が面白いのは、全回売り切れたりすると、追加上映するんです。

(森直人)映画祭で?柔軟。

(徐昊辰)柔軟ですね。人気でしたら追加で。

(森直人)(笑)スケジュールとか取れるわけなんだ。「追加やりたいです」って言ったら劇場は「よしやりましょう」ってなる?

(徐昊辰)シネコンと相談して、「もう1スクリーンください」みたいな。

(森直人)へえー。でもあれか、お金を出せば大丈夫。

(徐昊辰)大丈夫ですね。

(森直人)入ってる作品だからそれも出せるみたいな感じになるのか。

(徐昊辰)そうですね。今回『コンフィデンスマンJP』に関して、1時間で売り切れになってしまって、すぐ転売屋が動き出しました。

(森直人)転売屋が。

(徐昊辰)1枚で3万円ですね。それでさえ買う人がいるんですよ。『コンフィデンスマンJP』を見るために。

(森直人)ユニクロとKAWS(カウズ)のコラボレーションテーションみたいな。

(徐昊辰)よくご存知で。

(森直人)ああいうノリのことが『コンフィデンスマンJP』で起こっちゃう。

(徐昊辰)他の作品なんですけど、ホウ・シャオシェンの『フラワーズ・オブ・シャンハイ』が今年一番転売屋の値段が高くて。なぜかと言うと、世界で初めて4Kデジタルリマスター版が上映する、今回上海で。

(森直人)なるほどね。渋いね。

(徐昊辰)はい。チケットを販売始めてすぐ売り切れちゃって、1枚3万5000円。

(森直人)3万5000円?見に来る人いるん?

(徐昊辰)いるんですよ。普通にいる。

(森直人)どこの社長さん?(笑)

(徐昊辰)半端ない(笑)

(森直人)(笑)すごいね。

(徐昊辰)すごいです。

(森直人)奥山和由プロデュースですよね、実はね。

(徐昊辰)そうですね。日本の羽田美智子さんも。

(森直人)そうだ。の割にめっちゃ前衛性の...かなりいってる時期のホウ・シャオシェンですけどね。

(徐昊辰)私の父も見に行ったんですけど、チケット3万5000円と聞いた時は、「なんでですかね。普通この映画を一般の人が見ると寝るんです」って言って(笑)

(森直人)(笑)普通ね。

(徐昊辰)「なぜ3万5000円かけて...」って。だって800人の席が5回全部満席で、4000人なんですよ。

(森直人)まじで。すごいっすね。下手したら日本の劇場公開以上にに入ってるんじゃないの?それは言い過ぎか。でもそれぐらいの勢いある。

(徐昊辰)たぶん日本で公開しても、ミニシアターでの公開。

(森直人)今だとね。イメージとしてはユーロスペースとかでやって、マニアは見に来るよねっていう感じだけど、ちょっと規模感が...

(徐昊辰)はい。日本で上映することも決まって。

(森直人)するでしょうね、その流れだと。『フラワーズ・オブ・シャンハイ』自体が中国で初公開になるってことですか?

(徐昊辰)たぶん初公開。

(森直人)ホウ・シャオシェンの人気っていうのは、中国では今も強いって感じですか?それとも、アンゲロプロスとかブレッソンとか、そういうある種の教養に組み込まれているというような感じなんですか?

(徐昊辰)ホウ・シャオシェンは、一般的な認知度はアンゲロプロスよりもかなりありますし、まだ現役で活躍している中華圏の監督、もはやトップだと認識されているので。『フラワーズ・オブ・シャンハイ』も名作だし、普段見れないので、じゃあ見に行きますみたいな。

(森直人)どっちかっていうと岩井俊二さんとか、そっちのモードに近い感じなのかな。アジアの巨匠であるっていう。

(徐昊辰)『フラワーズ・オブ・シャンハイ』って上海で上映すると結構面白くて。上海語がいっぱい出てるから。

(森直人)そうか、ご当地映画。

(徐昊辰)ご当地映画でもありますし、上海生まれじゃない中国の人も、見に行ったら字幕を見ないといけない(笑)

(森直人)それぐらいわからないんですね。

(徐昊辰)わからないです。

(森直人)北京語と上海語って全然違ったりする?

(徐昊辰)トニー・レオンも、この映画を撮影するためにすごく上海語を勉強しましたね。

(森直人)あの人、広東?

(徐昊辰)広東です。

(森直人)広東だね。広東語だもんね。中国広いな。でも、すごいっすね。それはちょっと感動的な話ですよ。そこまでとはやっぱり予想してなかったな。こんなに日本映画をガーっとやり始めたのって、最初から?途中からどんどん?

(徐昊辰)途中からです。

(森直人)途中からですよね。いつぐらいからなんですか。

(徐昊辰)私が上海国際映画祭を見始める2005年、2006年あたり。

(森直人)(映画祭を)毎年やるようになって、岩井俊二さんが受賞されたあたりから日本映画を。

(徐昊辰)そうです。最初はやっぱり海賊版の影響で日本映画の人気がどんどん出てきて。劇場で見れる可能性がほぼゼロに近いから、じゃあ映画祭でやるっていうことになっていて。やったらほぼ全部満席になっていたんですね。それがたぶん5~6年ぐらい続いていて、日本側はやっとこういうことに気付いて。最近すごく増えているのは...今回59本上映されていたじゃないですか。たぶんその中の半分ぐらいは、日本で3月から6月あたり公開する予定の邦画なんですよ。それを上海国際映画祭に出品するということが、ネタとして日本国内の媒体にも与えられるので、それが宣伝になって。東京から上海に行く時間は、たぶん沖縄と同じぐらい。だから、バーッって行って写真を撮って、「こういうことをやりました」みたいなことを媒体に渡して記事になりました。

(森直人)ちゃんとパブに使うようになったのって最近ですよね。

(徐昊辰)そうです。4~5年前からやっとこういうことを意識して。でも、やっぱり日本国内との宣伝とはやり方が全然違うから、最初は結構慣れない方が多いんです。今も慣れない方が多いです。

(森直人)だから、徐さんからすると、もどかしい局面って結構いろいろあるんじゃないですか。

(徐昊辰)ありますね。今回も結構感じたんですよ。国際映画祭なので、国内宣伝部の方は行かなくていいんじゃないってずっと思ってるんです。日本の国内宣伝部の方が、日本のやり方が当たり前だと思って上海に行ったんですけど、でも実際全然違うんですよ。

(森直人)例えば?

(徐昊辰)例えば、写真撮影とか、普通に全員撮れるんですよ。駄目とか言ってもやるんですよ。

(森直人)これ、多いですよね。日本だと「フォトセッションの時間があります。それ以外は、すいませんけどSNS上げるのもおやめください」ってなるんですけど。これってむしろ今は少数派の態度ですよね。

(徐昊辰)日本は少数派ですね。

(森直人)完全にもう上げてくれっていう。「撮って、上げてくれ」の方が世界的には主流ですもんね。日本だと、フォトセッションでバチっと決めたものを、まず事務所に通して写真チェックして、媒体にガーっと流すっていうのが一般的ですもんね。その手続きを踏みたいっていうことですね。

(徐昊辰)たぶん日本だけかもしれないですね。韓国もそうだし、普通にイベントやってる時にパッて写真撮って、もう(SNSに)追加しましたみたいな。

(森直人)ハリウッドセレブみたいな人たちも、すごい無防備な姿の写真いっぱい出てますよね。

(徐昊辰)出てますね。

(森直人)何で日本ってあんなに肖像に厳しいんでしょうね。やっぱりイメージっていうところで、すごく商売しようと思ってるところなんかな。

(徐昊辰)それもそうだし、マネージャーさんとも何回も話したことがあって、海外の、中国のタレントさんはいわゆる攻め側なんです。自己アピールがすごくて、こういうプロデューサーと会いたいとか、ファンと会いたいとか、自分自ら行きますみたいな感じ。日本はわりと守るんです。

(森直人)確かにそうですね。

(徐昊辰)できるだけスキャンダルというか、トラブルがないように。「イベントをやって終わって、記者さんに写真撮られて、いい記事になるように」っていう流れになってしまったんですね。

(森直人)確かに。だから、これも良し悪しですけど、事務所さんの努力っていうか、ある種ぴりぴりした感じも含めて、トラブルが起きないようにっていうのはすごいですもんね。

(徐昊辰)やり方としては日本は日本のやり方があるんですけど、海外に行ったら、やっぱり海外のやり方っていうか。海外のファンとどんどんお話とかした方が。だって、国際映画祭に参加することは、日本国内の宣伝のためだけではないんですよ。

(森直人)これは大きな問題提起だと思いますね。(撮影禁止)といっても撮るんでしょう?

(徐昊辰)撮ります。

(森直人)それは勝手にアップするわけでしょう?

(徐昊辰)はい。しますね。

(森直人)じゃあ抑え切れてないわけだ。現実的には。

(徐昊辰)無理ですね。逆に。「やめなさい」とか言っても無理でしょうし、そもそもファンですから悪意はないんですよ。「お金かけて写真を撮って、悪意をします」みたいなことはないと思いますし。

(森直人)だから、そこは当分グレーゾーンでいくしかないっていう気はしますよね。なかなか難しい問題はあるのかもしれない。文化の擦り合わせが起こってきてるってことですよね。

(徐昊辰)今は日本でも、映画イベントで一般のお客さんも写真を撮れるようなものも出てきていますので。

(森直人)そうそう。僕も司会みたいなことはよくやらせてもらうんですけど、どっちかっていうと、俳優さんが「いや、もう撮ってよ」っていうふうに自分で言い出すことが増えてきましたね。それは、事務所さん側に理解がある場合ってことだと思うんですけどもね。

(徐昊辰)中国の媒体の考え方としては、一般のお客さんがSNS発信するということも媒体なんですよ。

(森直人)そうだよね。

(徐昊辰)映画の宣伝になるんですよ。たとえこの映画に悪口を言っても宣伝になるんですよ。

(森直人)数ですもんね。でも、これは本当に過渡期な感じがする。しかも日本独特の過渡期で。でも、日本映画が行ってるってことで文化衝突みたいなものが見えるのは面白いですね。

(徐昊辰)面白いですね。日本の本当に良いところなんですけど、ちゃんとスケジュール通りにイベントがやってるんです。

(森直人)そこはね。

(徐昊辰)海外行くと、そこまでこだわってないんですよ、みんな。

(森直人)これはお国柄というか。

(徐昊辰)あと、もう1つ違うところは、ファンの熱情が半端ないですね。(海外の人の)エネルギーは、たぶん大阪人の倍以上ですね。ちょっと動画をお見せします。

『ホットギミック ガールミーツボーイ』の現地映像

(徐昊辰)こういう感じなんです。これ、映画館ですよ。

(森直人)すごいな。ライブ?すごいね。垂れ幕感が。若いっすね。

(徐昊辰)若いです、みんな。

(森直人)乃木坂ファンってことなんですか。

(徐昊辰)乃木坂ファンですね。

(森直人)なるほど、なるほど。すごいね。だから、いろんな層があるってことでしょう。いわゆる乃木坂ファンが集まるようなノリもあれば、長澤まさみファンが集まるノリもあれば、ほんとに。

(徐昊辰)映画ファン。

(森直人)映画、いわゆるコアな。その『ホットギミック ガールミーツボーイ』を撮っているのが山戸結希さんっていうのもちょっと面白い話ですね。

(徐昊辰)面白いですね。

(森直人)いろんなものが混在してっていう。今年でいうと、湯浅政明監督のアニメーション『きみと、波にのれたら』。これはグランプリ?

(徐昊辰)グランプリ。上海国際映画祭って、メインコンペの金爵賞を「実写」と「アニメ」と「ドキュメンタリー」に分けたんですよ。

(森直人)前は分けてなかった?

(徐昊辰)3年前から。

(森直人)3年前から。部門別で。そのアニメーション部門のコンペのグランプリ?

(徐昊辰)グランプリ。2年連続で。

(森直人)すごいよな。ご覧になりました?

(徐昊辰)はい。見ました。

(森直人)僕、『きみと、波にのれたら』すごい好きなんです。

(徐昊辰)そうですか。

(森直人)いかがでした?

(徐昊辰)湯浅さん、今回ちょっとメジャー的なものが入っていて。と言いつつ、自分の個性は残しているんですけど。実は上海で、湯浅ファンで怒ってる人が多いんですよ。逆に。

(森直人)逆にね。

(徐昊辰)それもちょっと不思議。何で怒るのか。

(森直人)それはあれですか、ちょっと。

(徐昊辰)ちょっと昔の作品と違う方向に行っちゃうっていうことに、不満を持っている。

(森直人)それはよく分かるんですよ。『マインド・ゲーム』とかを神棚に置くコアファンからすると、ちょっと軟化したっていうふうに思いますよね。むしろ『夜明け告げるルーのうた』とかのほうが、出力という意味ではフルスロットルでぐっと踏んでる気がする。でもこれは余談ですけど、『きみと、波にのれたら』は、実は湯浅作品の中で一番好きなぐらいで。湯浅監督はやっぱ癖のある作家じゃないですか。基本的には。

(徐昊辰)メジャーじゃないんですね。初めて東宝配給だし。

(森直人)そうですよね。だから、資質としてはやっぱりすごく作画の動き自体にも作家のサインが刻んであるような、アバンギャルド性の強い作家なんですけど。僕、そういう人が出力7〜8割ぐらいで、何かすごいポップなものをつくった時の感じが、映画でも音楽でも文学でも漫画でもすごい好きなんですね。これ、まさに。

(徐昊辰)それなんですね。

(森直人)いい感じのライン、好きなラインのツボを突かれる感じに仕上がってるんですけど。確かにその分、一番ディープな湯浅節が好きな方は「何だよ、これ」と。

(徐昊辰)今回中国の映画サイトをチェックしたところ、脚本に不満な人が多いですね。多分吉田さんの脚本が悪いというより、吉田さんの脚本と湯浅ワールドと合わないっていう。

(森直人)合わないっていうふうに見ちゃうんだね。よく言われるけど、リア充感すご過ぎる。別にいいと思います。

(徐昊辰)それでも実際グランプリ取りました。

(森直人)ね。と言いつつも、やっぱりグランプリを取ったっていうね。

(徐昊辰)割と上海国際映画祭って日本映画に優しいっていうか。

(森直人)優しいってことあるよね。

(徐昊辰)逆に東京国際映画祭は中国映画に優しい。

(森直人)優しいから、お互い。

(徐昊辰)お互いに。上海国際は毎年必ず日本映画が1本、コンペティション部門に入る。逆に東京国際も必ず中国映画が1本入るっていう。しかも、結構賞を取ったりはしますね。

(森直人)だから、その賞を取るのって別にひいき目とかじゃなくて、単純に徐さんとやってるこのシリーズのテーマでもあるけど、「近くて遠い」。だから、すごく興味があるんだけども、映画を見ると、「ああ、知らないこと多いな」っていうことが分かって、さらに関心度が上がるっていうとこがあるからだと思うんですよね。やっぱり興味の度合いっていうのが強いと、注目も高くなる感じ。

(徐昊辰)そうですね。

(森直人)だから、自然な現象かなと思うんですけど。あと、新人、箱田優子監督の『ブルーアワーにぶっ飛ばす』。これも試写で見てるんですけど。これが新人監督賞?

(徐昊辰)新人監督賞ですね。日本映画だと、2015年から4回取りましたね。

(森直人)去年があれか、『わたしたちの家』の。

(徐昊辰)『わたしたちの家』の清原さん。その前は斎藤工さんです、『blank13』。

(森直人)『blank13』、そうだ。

(徐昊辰)その前はまた女性で安藤桃子さんですね。『0.5ミリ』。

(森直人)『0.5ミリ』。そうそうたる面々ですよね。ユニークな。

(徐昊辰)割とこの部門は、日本映画は取りやすいです。アジアになっちゃったから。

(森直人)そうか。アジアの新人監督賞。じゃあ、かなり有利ではあるってことですね。

(徐昊辰)やっぱり日本映画は、中国の人が共感できそうな作品が多くて。今回の『ブルーアワーにぶっ飛ばす』もそうなんですよ。香港で見て結構面白かった。

(森直人)そうか、先に香港の映画祭でやってましたね。

(徐昊辰)ワールドプレミアが香港ですね。

(森直人)いかがでした?『ブルーアワーにぶっ飛ばす』は。

(徐昊辰)また新しい夏帆さんが。

(森直人)夏帆さんね。ぶち切れの。

(徐昊辰)ぶち切れの夏帆さんが。

(森直人)すごく箱田監督の自画像というか、自己投影が強い映画なのかな。

(徐昊辰)そうですね。そう聞きました。

(森直人)CMディレクター。30歳のね。これから公開で、注目作なんでご覧いただきたいんですけど。日本では秋ぐらい。

(徐昊辰)ビターズ・エンドさんです。

(森直人)ビターズ・エンドさんで。30歳の生き難さを抱えたCMディレクターの女性を夏帆さんがやられてて。

(徐昊辰)仕事に限界があって、田舎に戻って。

(森直人)人生にね。故郷茨城に戻るっていう映画で。でも、すごい面白く見たんですけど、30歳の生き難さを抱えたCMディレクターの男だったら、これ誰も見ないなと思った。その意味で、「女性映画」という言い方はもう死語になりつつあるとは思ってるんですけども、でもそう考えるとこれってジェンダー性が高い。

(徐昊辰)ジェンダー性が高いですね。

(森直人)非常に高いわけですよね。

(徐昊辰)いわゆる今の映画ですね。

(森直人)今の映画って気がすごいしますね。だって、これ、男だったらマジで成立しないもんって思った。シム・ウンギョンさん、『新聞記者』に出てた韓国の女優さんが。

(徐昊辰)今年、日本映画2本出たんです。

(森直人)『ブルーアワーにぶっ飛ばす』にも出てるっていうね。『ブルーアワーにぶっ飛ばす』で僕一番好きなのって実は音楽の付け方で、結構変わってますよね。

(徐昊辰)変わってます。

(森直人)異化効果までいかないんだけど、ちょっと何か、意味の幅が出るようなちょっと変わった付け方をしてて、面白いセンスだなと思いましたけどね。そういうのもちゃんと拾っていく映画祭ではあると。

(徐昊辰)そうですね。上海国際映画祭ってアジアの、特に日本映画の作品に普通にチャンスを与えますね。上映するっていう。見たらわかるんですけど、小津さんの『お早よう』とか、『東京物語』を上映するのに対して、『ダイナー』みたいな、エンターテイメントも上映しますし、石井裕也監督の『町田くんの世界』とかも上映する。ジャンル関係なくたくさん上映する。

(森直人)そうだな。規模感も関係なく。『ウィーアーリトルゾンビーズ』とかもね。

(徐昊辰)『ウィーアーリトルゾンビーズ』、5回上映して4回満席でした。

(森直人)素晴らしい。この活弁(シネマ倶楽部)絡みの方が多いんですよね、結構。上げていくと実はね。出ていただいた方々が。今泉さんもそうですけども。

(徐昊辰)今泉さんも今回上海で食事した時に、『アイネクライネナハトムジーク』をぜひ森さんと活弁で。

(森直人)そうですよね。ぜひね。ぜひぜひ。

(徐昊辰)『アイネクライネナハトムジーク』、今回上海で好評なんですよ。一般の方から。賞はちょっと無縁なんですけど。

(森直人)ああ、そうなんだ。そうか。

(徐昊辰)結構評判が高くて。

(森直人)『愛がなんだ』の前に撮ってた伊坂幸太郎さんの原作。伊坂幸太郎、今泉力哉、うん?っていう。

(徐昊辰)うん?ですよ。

(森直人)これも面白そう。

(徐昊辰)最初は伊坂幸太郎と中村義洋ですね。

(森直人)それは黄金コンビ。

(徐昊辰)黄金コンビで。しかもプロデューサー陣が全部同じ人たちなんですよ。なぜか今回、今泉力哉になったんですね。

(森直人)なるほど、なるほど。『アヒルと鴨のコインロッカー』からの流れのチームが、中村さんから今回はちょっと若手の(今泉監督)。

(徐昊辰)たぶん今回は恋愛要素が入ってるから今泉さんに。

(森直人)そうかもしれない。今泉さんとかは本当それこそ今年ブレイク感が。

(徐昊辰)ブレイクですね。

(森直人)『愛がなんだ』もね。

(徐昊辰)ちょっと1枚の写真を。上海での今泉監督です。

(森直人)あっ、囲まれてんじゃん。

(徐昊辰)囲まれてるんです。本人びっくりです。

(森直人)巨匠。

(徐昊辰)巨匠になったんですね。

(森直人)あれですもんね。山戸結希さんも行ってらして、結構ニュースとかでも見ましたけどね。

(徐昊辰)そうです。しかも、山戸結希さんの前作の『溺れるナイフ』が中国で最大の配信サイト、愛奇芸(アイチ―イー)で配信されていまして。今回取材した時も山戸結希さんが、『溺れるナイフ』を見た方が山戸結希さんのインスタグラムにメッセージを送ったりとかしていて、すごく中国のファンとお話ししたいと。

(森直人)いいことですね。『ホットギミック ガールミーツボーイ』もご覧になりました?

(徐昊辰)見ました。

(森直人)僕は試写で見たんですけど、これはもうあれですよね。『きみと、波にのれたら』とは逆で、アクセル踏み切ってますね。

(徐昊辰)『21世紀の女の子』の延長線。

(森直人)延長、そうですね。さらに、ぎゅー、ぎゅーっといった、一種のアバンギャルドですね。キラキラ映画のふりした。

(徐昊辰)すごいですね。5秒に1回ぐらいですね、カット数。

(森直人)ちょうど公開だから喋ってもいいと思いますけど...顔の接写みたいな、ぱーっとやる。大島渚の『白昼の通り魔』かと思った。

(徐昊辰)『白昼の通り魔』、確かにそうですね。

(森直人)原作自体が、本当キラキラものの原点みたいな、かなり前のね。

(徐昊辰)2004年ぐらいかな。

(森直人)2000年代前半。それこそあれでしょう、『恋空』とか携帯小説が流行ってた頃の少女漫画。だから、『溺れるナイフ』が7億ぐらいいってますよね。

(徐昊辰)7億ぐらいいってます。大ヒットしたんですよね。

(森直人)大ヒット、大ヒット。GAGAさんの映画で。あれは本当、いわゆるキラキラものっていうのを山戸さんの作家性でハッキングしたものだと思う。

(徐昊辰)ちょっと今のキラキラ映画へのアンチ的な。

(森直人)そうそうそうそう。合法闘争みたいな。内部に入り込んでぐるっと反転させるようなやつを今回さらにやって、かなり深々やって、すごいことに。

(徐昊辰)しかもロケ地もすごかったですね。最初、ロケ地にびっくりした。え?これ、どこですかって。

(森直人)確かにね。もはや、「どこか」っていうような、ある種の抽象性をまとったものになってて。でも、これを撮ることでもしかしたら山戸さん、セカンドシーズンというか、「え?これが山戸結希?」みたいな別の題材にいってくれたらなっていうふうにも思いますけど。ちょっとこのラインを行き切ったかもしれない。

(徐昊辰)そうですね。答えが見つかったかもしれない。今回も実はさっき見せた動画なんですけど、乃木坂ファンたちもちゃんと映画を見たんですよ。終わって、東映の人が(お客さんに)感想を聞いたんで、隣にいたんですけど、いろいろ良い感想を話してたなって。

(森直人)ああ、そうですか。ちゃんと。「堀ちゃん、かわいい」だけじゃなくて、ちゃんと映画の感想になってた。

(徐昊辰)そうですね。ちょっと失礼なんですけど、他の映画祭だと上映できない作品が、上海国際映画祭で上映できて、しかもみんなエネルギーが半端なくて。で、行った監督もみんな話してくれたのは、「(映画ファンの)みんなストレートだな」って。

(森直人)ああ、なるほどね。

(徐昊辰)普通に笑ったり、拍手とかも最後したり。最後、質疑応答の時は挙手する人がすごく多いんです。

(森直人)多いんだ。良いですね。

(徐昊辰)日本は少ないですね。

(森直人)日本は一人が挙げたら、呼び水があれば、ばばーっといくんですけど。かく言う徐さんってそういう時に挙げるタイプなの?

(徐昊辰)挙げますね。

(森直人)偉いね。僕、挙げたこと一度もない。超日本ライクな感じですけど。

(徐昊辰)『ダイナー』のワールドプレミアで挙手する人が30人ぐらいいるんですよ。映像も(あります)。1,000人の劇場でワールドプレミアやりました。

『ダイナー』ワールドプレミア時の映像

(森直人)入ってんなあ。

(徐昊辰)入ってます。しかも、11時15分ぐらいです。

(森直人)え、夜?

(徐昊辰)夜。終電もなくなってたんです。

(森直人)みんな困らんの?

(徐昊辰)みんなタクシーで帰るんです。

(森直人)タクシーで帰るのか。タクシーの運転手大変だ。

(徐昊辰)みんなすごいなって。電車もないんですよ。

(森直人)すげえなあ。でも、深夜に近い風景に見えない。

(徐昊辰)見えないですね。

(森直人)熱気が。

(徐昊辰)もう1つ今回感じたのは、59本上映された後に、もっと一般公開に繋がることができたらいいなっていう。

(森直人)確かにね。

(徐昊辰)毎年結構上映されても、そこで止まるみたいな感じがして。さっきの話に戻るんですけど、宣伝の仕方が。せっかく日本映画の一番大きなマーケットは中華圏なので、国際部のライセンス販売だけじゃなくて、いわゆる海外の宣伝プロモーションの方も1人、2人行ったほうがいいんじゃないかな。

(森直人)なるほどね。

(徐昊辰)そうすると、海外での映画ファンも育成できますし。今後のライセンス販売はさらにうまくいきそうな気がします。

(森直人)ただ、あれですよね。最初におっしゃったけども、中国は外国映画の劇場公開本数の制限があるんでしょう?

(徐昊辰)はい。

(森直人)それは突破することはできないわけでしょう?

(徐昊辰)突破というか、(規制が)変わるんですね。

(森直人)ああ、そういうことか。

(徐昊辰)去年、日本映画は十数本ぐらい上映されたんですけど、今年は上半期だけで20本上映されたんです。けど、良い成績が残った作品が少ないんですね。実写がないんですよ、良い成績残した作品。

(森直人)『万引き家族』以外は全滅に近かったみたいな。

(徐昊辰)どっちかというと中国の人はやっぱり実写の方が好きなんですよ。日本とちょっと違って。アニメはヒットする作品は少ないので、実写で内容を直に観客に届けたらヒットするんですよ。前の回も話したんですけど、インド映画とかもタイの映画も。今年、スペイン映画とかイタリア映画もヒットした作品が。

(森直人)ああ、そうですか。すごいな。

(徐昊辰)やっぱり内容さえ面白ければいけそう。誰が出演、主演するかというより内容が面白ければ。さらにタレントさんの魅力がプラスされたらすごく(良い)。『千と千尋の神隠し』は 先週金曜日に、中国で一般公開が始まりました。

(森直人)劇場公開、初の。

(徐昊辰)初公開。(日本での公開から)18年後に中国で公開するということで。みんな海賊版でほぼ見たんですけど、「もう一度劇場で見たい」っていうのが(強い)。1週間で50億円の興行収入です。

(森直人)『トイ・ストーリー4』とかち合って。どうだった?

(徐昊辰)初日は『トイ・ストーリー4』の3倍でして、今も『トイ・ストーリー4』の2倍を超えてるんです。

(森直人)すごいね。

(徐昊辰)なので、中国のマーケット、戦力がありますよ。映画祭で59本を上映して半分以上満席っていうことをちゃんと利用して、中国本土に宣伝とかやっていれば、日本映画はさらに飛躍できますし。

(森直人)そうですよね。

(徐昊辰)中国で大ヒットすることになったら、例えば日本で50億円の興行収入が、中国も50億円とかになったら、資金が増えて今後さらにでかい映画が作れる。

(森直人)そうですよね。だから水面下ですごい魚が群がってるってイメージだよね。こんなに来てるのにまだ上にピョンって出てないって感じでしょう。何でしょうね。もう一息ですよね。

(徐昊辰)はい。今回も59本上映するということも日本媒体はほぼ(報道していない)。

(森直人)あんまりね。

(徐昊辰)ないんですね。

(森直人)あんまりないと思う。僕も徐さんから聞いて、そんなやったのって思った。

(徐昊辰)長澤まさみがクロージングでレッドカーペットを歩いたり、こういう映画の舞台挨拶やったりとか、それだけなんですね。

(森直人)何かラグがありますよね。何なんでしょうね。やっぱり(徐さんが)ずっとおっしゃってるような意識とか、これまでのスタイルの違いってことがモロに出てるのかもしれないですね。

(徐昊辰)そうです。あと、失礼なんですけど、国内宣伝部の人が本当に国内のことしか考えてないんです。

(森直人)だから、そこの改革っていうのは、誰か1人が出てこないとっていう。

(徐昊辰)そうですね。そういう革命的な人が。

(森直人)革命的な人が出てこないと、やっぱり組織だから命令系統がいかないのかもしれないですね。

(徐昊辰)6月28日に『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』が中国で公開して、初日に大ヒット。次の日に主演の方が自撮りで「Hi China my friends」っていう動画を撮るんですよ。

(森直人)そうなんだ。

(徐昊辰)はい。そこまでハリウッド映画はちゃんとやっていて。日本ではあり得ない。自撮り、やらないでしょう。もうちょっとリラックスして自由に(やった方が良い)。

(森直人)リラックスしてね。そうですよね。余談なんですけど、ちょっと前にNetflixのオリジナル作品祭がありまして、ある部門のMC的なことをちょっとやらせてもらったんですよ。Netflixだから、もちろん世界中のいろんなジャーナリストの方々が集まってたんですけども、そこでも今、徐さんがおっしゃったようなことをちょっと思ってましたけどね。やっぱりフォトセッション方式なんですけども、日本的なやり方と世界発信っていう。Netflixなんてまさにそうじゃないですか。それがどうやって、2つの川が融合していくのかなっていうのは、その場にいながらぼやっとイメージしてましたね。まだ、やや模索してる部分が多いのかなっていうのはちょっと思いましたね。これからですよね。

(徐昊辰)これからですよね。Netflixでさえ、最初は日本のにおいに慣れないといけないみたいな感じがしていましたので。

(森直人)武さん(註:武正晴監督)も楽屋で会いましたけど。やっぱりちょっとそこの溝、までいかないな、スタイルの違いですよね。そこをどうやって埋めていって、新しい大きな流れになっていくのか。だから、今そういう意味では、ちょっと可能性の種みたいなものがそこかしこにいっぱいあるんで面白いですよね。

(徐昊辰)可能性はありますね。武さんですと、今回も本当にすごかったエピソードがありまして、『きばいやんせ!私』今回も上海で上映された。

(森直人)『きばいやんせ!私』もそうですよ。夏帆さん、武さん。

(徐昊辰)普通の部門で、いわゆる監督の招待枠はないんですよ。なのに、武さんはその話を聞いて、自分でお金をかけて上海に飛んでいって。

(森直人)そうなんですか。

(徐昊辰)ファンと会って握手して舞台挨拶やって、またその次の日の朝に戻る。自分の映画をもっと海外の人に見せたい気持ちが半端ないなっていう。たぶんこういう制作側の人は多いんですよ。

(森直人)そうですよね。自分で動きたい。で、それをちゃんと受け入れてくれる映画祭であるってことですね。

(徐昊辰)急に決まったのに、「武さん、舞台挨拶やりますよ」「ああ、じゃあいいですよ」っていう。それも上海国際映画祭の良いところかもしれないですね。

(森直人)確かに。日本の形式ばった(スタイルだと)、なかなか融通が利かないと。良い意味でも悪い意味でもなんですけどね。かちっとしたところをどう柔軟化させるかっていうのは、もしかしたら課題なのかもしれないですよ。だから、ぐるっと広がっていけば、徐さんご自身、この活弁シネマ倶楽部でやってるっていうのもかなり近いテーマでやってる気がするんですよね。どうですか。この上海国際映画祭とこの番組自体、目指すところは割と合致してる部分が多いんじゃないですか。

(徐昊辰)多いですね。もっと映画の魅力を多くの人に、本当に心の中に届けられたら一番良いと思って。上海国際映画祭もそうなんですよ。やっぱりまずエネルギーが半端なくて、わぁーってやって、ここまでにしたんですよ。監督とかも上海に行って。さっきの今泉監督の写真もそうなんですよ。びっくりするほどみんなが熱意を持って「お願いします!」みたいな。日本語が話せない人でもちゃんと自分の気持ちを話したいっていうのが、すごく良いことなんじゃないかな。自分の感想を制作側の人に伝えて、交流したいっていう。しかも海外の方と。

(森直人)特に今泉さんとか、ご自身ですごくコンタクト、コミュニケーション取られる方じゃないですか。反応をリアルに知りたいっていう。いやぁ、毎回面白いですね。色んな知見が得られるので大変勉強になります。

(徐昊辰)本当に海外での話をもっと日本の方に知らせられたらいいなと。

(森直人)どんどんね、こういうシリーズやっていきたいなと。僕は楽しみにしてますんで、引き続きよろしくお願いします。

(徐昊辰)引き続きよろしくお願いします。

(森直人)番組を楽しんでいただけた方は、#活弁シネマ倶楽部、#活弁で投稿をお願い致します!活弁シネマ倶楽部のTwitterアカウントもありますので、ぜひフォローください。それでは今回はここまでです。今回のゲストは映画ジャーナリスト、徐昊辰さんでした。どうもありがとうございました。

(徐昊辰)ありがとうございました。


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