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【書き起こし】『アンダー・ユア・ベッド』×安里麻里監督

活弁シネマ倶楽部です。
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黒沢清と廣木隆一の融合『アンダー・ユア・ベッド』安里麻里監督が語る!!活弁シネマ倶楽部#41

(森直人)始まりました。活弁シネマ倶楽部。この番組のMCを努めます、映画評論家の森直人です。どうぞよろしくお願いします。早速ですが、今回のゲストをご紹介したいと思います。『アンダー・ユア・ベッド』の安里麻里監督です。どうもこんにちは。

(安里麻里)こんにちは。よろしくお願いいたします。初めまして。

(森直人)初めまして。いやいや、ようやくお会いできて大変光栄でございます。

(安里麻里)いえいえ、こちらこそです。本当にいろいろありがとうございます。

(森直人)今回、僕すごく好きな作品で。

(安里麻里)あぁ、本当ですか。よかったです。

(森直人)いやいや、もう本当にようやくお会いできて。でも僕、安里さんはすごいゴリゴリの映画マニアというイメージがあるんで、基本ビビってるんですけど(笑)

(安里麻里)いやいやいや、もうとんでもないです。なんか映画オタクです。

(森直人)そうですよね。たどってきた道筋が...まぁ今日その話もさせていただけたらいいなと思ってるんですけども、勝手に。マニアエリート路線のど真ん中なんで。

(安里麻里)いやいや、もうちょっとなんかハードル上げないでください。

(森直人)いやいや、迂闊なこと言えないなと思ってるんですけども。では、まず恒例の...という形で、ざっくりとですが安里監督のプロフィールをご紹介させていただきます。1976年生まれ、沖縄県出身。有名な話ですけども、映画美学校の第一期生なんですよね。

(安里麻里)そうですね。

(森直人)あれですか?僕通ってたこともちろんないんで。初等科と高等科って分かれてるんですか?

(安里麻里)お詳しいですね。

(森直人)いや、これ情報だけです。これってクラス違うんですか?完全に。

(安里麻里)基本的には...その時はですよ、当初は最強の自主映画作家をを作るというお題のもとに集まった、みんなで。なんかこの間、黒沢さんいわく、200人近くいたって言ってたんですけど。特に学科もわかれず。ただ、1年目を初等科、続けたかったら2年目きてね、みたいな感じで高等科って。

(森直人)なるほどね。じゃあ、1年で出た人は初等科修了。で、安里さんは2年いた...高等科ですよね?

(安里麻里)そうですね。両方行きましたね。

(森直人)両方行って...そうか、修了は高等科っていうことか。

(安里麻里)そうですね、はい。

(森直人)その同期が清水崇監督だったり、古澤健監督だったり、空族の富田克也監督だったり。あとは大九明子...

(安里麻里)濃いですね。

(森直人)華の第一期生という、フィクションのコースの高等科を出られて。その後、黒沢清監督や塩田明彦監督の助監督を経まして、2004年『独立少女紅蓮隊』で劇場長編映画の監督としてデビューということ。で、2005年には『地獄小僧』がフランクフルト映画祭に出品っていうのが以降ですね、もうすごい作品なんですよね。『呪怨 黒い少女』『リアル鬼ごっこ』の3、4、5。『劇場版 零 ゼロ』、『バイロケーション』、『氷菓』等々。本当にたくさん作品を重ねられてきまして、今年は『アンダー・ユア・ベッド』と。でも傑作ですよね。

(安里麻里)嬉しいです。そんななかなか傑作って言いづらいじゃないですか。傑作って言ったら...言っただけでもめちゃくちゃ嬉しいです。

(森直人)あ、そうですか。でも、実は今おっしゃったニュアンスのことを僕もいい意味で感じてて。なんか傑作ぶらないのがいいなって思ってるんです。

(安里麻里)あぁ、はい。

(森直人)なんか本当に、本当昔の撮影所システムの中で差し出された一本のような顔をしているっていうのがすごく好きで。

(安里麻里)そう。私なんかどうしても立ち位置としてそういうプログラムピクチャーの中でいかに作家性みたいなのがちらっと見えるかっていうのが気持ちいいなって思っていて。そういう一本ではあると思います。

(森直人)いきなり我が意を得たりで嬉しいんですけども...プログラムピクチャーとかね、撮影所システムっていうのは今はないんですけど。ないんだけど、その精神を受け継ぐっていう意味ではすごく重要ですよね、たぶん。7月19日から絶賛公開中で。いかがでしょうか?お客さんの反応とか。

(安里麻里)いや、それが思った以上に良いというか。作ったばっかりの時はきっと賛否あるだろうなと。

(森直人)まぁ、ハードな内容だし。

(安里麻里)はい、ハードな内容ですし。「けしからん」とか言って怒られることも覚悟しながら撮ったんですけど。意外とやっぱ最後泣いて出てくる方がいたり。特に女性の方がものすごく「本当良かったです」っていう声をいっぱいいただきました。

(森直人)それは素晴らしい。

(安里麻里)いや、嬉しいです。

(森直人)企画としてはKADOKAWAさんとハピネットさんのコラボシリーズ、すごい名前ですね。リミッターを外せ!“ハイテンション・ムービー・プロジェクト”

(安里麻里)ハイテンションかどうかちょっとわかんない。

(森直人)わかんないですけども。まぁ、意気込みとしては、気持ちはハイテンションで第二弾。

(安里麻里)だいぶローテンションな感じですよね。

(森直人)実際はね。二作目なのにいきなりっていう。一発目がね、中田秀夫監督の『殺人鬼を飼う女』で。原作は両方大石圭先生の小説でっていう流れで、R18でっていう流れなんですけども。この作品のチョイスっていうのは安里さんご自身ではないんですか?

(安里麻里)正直に言うと、一番最初に私が決まったんですよ。二本撮るという。で、最初私に話がきて。で、どっちがいい?みたいな。

(森直人)『殺人鬼を飼う女』と『アンダー・ユア・ベッド』?なるほど。

(安里麻里)で、私は『アンダー・ユア・ベッド』がとても自分のやりたいことに近いというか。これは私好みだというか、やってみたいと思って選んだ次第でして。

(森直人)なるほど。で、そこに意志がもう介在していたっていう?

(安里麻里)ありましたね。

(森直人)でもやっぱり原作自体が、まずものすごく映画との親和性が高いといいますか。もうなんかいろいろと...めっちゃフェティッシュじゃないですか、もうとにかく。

(安里麻里)手とかね。

(森直人)そう。いろいろとね。もう毛もあれば...僕ね、だからちょっとその評とかにもまず入り口で書かせていただいたんですけども、江戸川乱歩系だなっていうのがあって。高良健吾さん扮するこのなにをしているのか...三井直人...同じ直人なんですけど。彼が...

(安里麻里)本当だ。漢字も一緒かな?

(森直人)一緒です。だからなんてことはないんですけどね。彼がね、よその家のベッドにもぐりこんで、上にヒロインのね、旦那といるっていう。江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』とかあと『人間椅子』とかっていう感じが。あとね、そのフェティッシュっていうことで言うとその三井がエレベータの中に千尋の香水のにおいを嗅ぐっていう。

(安里麻里)そう、においで思い出すっていうね。

(森直人)強烈ですよね。

(安里麻里)でも、あれってわかりますよね。なんか10年前の記憶とかいきなりバババッて香りで思い出すって。なんかみんな経験があるような気がして。

(森直人)うん、実は記憶っていうものを一番喚起するアイテムとしてにおいっていうのは大きいと思うんですけども。大林宣彦監督の『時をかける少女』とかラベンダーとかっていうのはありますけども、意外と映画にするのって難しくないですか?

(安里麻里)そうなんですよ。においしませんしね、映画って。

(森直人)そう。まずね、そこなんですよね。

(安里麻里)まぁ、でもなんかそこはやっぱり捨てちゃいけないネタだなぁと思って。とても好きなエピソードだったのでなんかああいう描写というか...イメージショットをバババババッて出して、彼女のその断片を思い出すっていう。で、喫茶店でコーヒーを飲んだところから回想に入っていくっていう。

(森直人)マンデリンのコーヒー。

(安里麻里)そうですね。それも香りですもんね。

(森直人)そうなんですよね。だから、この方がすごくこの世界に対して鋭敏な受容性を持ってるっていうことはわかりますよね。

(安里麻里)過敏。

(森直人)過敏ですよね、それだけで。においで11年前のことを思い出す。無理、無理っていうやつ。

(安里麻里)いや、でもいかに過敏な作品にするかっていうのをすごく心がけて。だから、見てる人もたぶんちょっと神経ひりひりすると思うんですけど、音使いとか。なんか三井のもう真横にいるみたいな空気感で作りたいと思って、普通のモノローグと音の出し方変えてるんですよ。

(森直人)なるほどね。実はそれをお聞きしたくて、臨場感ですよね。これもうすごいエンタメじゃないですか。

(安里麻里)エンタメですか?

(森直人)エンタメですよ。臨場感あるなと思って。このベッドの下とかの。

(安里麻里)そう、なんかちょっとした息とか。ずっと彼女の足見てる時はもう息我慢。でも、ちょっとこう動かす時にぺちゃってしたり、やっといなくなった「はー」とか。なんか見てる人もこう息止めちゃうっていう。

(森直人)それやっぱりもう完全に計算されてたわけですね。

(安里麻里)そうですね、そういう作り込みでやろうと思いました。

(森直人)そう、だからそれも含めてもう本当高良さんがめちゃくちゃよかったんですよね。

(安里麻里)あぁ、嬉しいです。めちゃくちゃいいですよね。

(森直人)めちゃくちゃいいですね。いや、高良さんはもちろんいつも素晴らしいんだけど、今回はもう本当にテレンス・スタンプ越えぐらい。『コレクター』のね。

(安里麻里)超えました?

(森直人)超えちゃうんじゃないかっていうぐらいにすごいよかったですね。

(安里麻里)いやぁ、嬉しいです。

(森直人)高良さんというと監督が熱望されたんですか?

(安里麻里)そうですね、はい。もうプロットの段階でお願いしたいなと思って。

(森直人)その心は?

(安里麻里)その心はいろいろあるんですけど。本当の本音を言うと、私、黒沢清監督のいわゆる立教系の人達が師匠じゃないですか。で、映画業界っていうのはなんか派閥っていうかなんとなくあるじゃないですか。ここの...

(森直人)スクールとかいうのね。お前どこの出なんだ?

(安里麻里)こっち系みたいな。

(森直人)はい、なんとなくありますよね。

(安里麻里)で、高良さんは廣木隆一監督のもう子供のようなバックグラウンドの方で。例えば私の黒沢清監督とかは...師匠の演出方法って、私が学生時代の時に見てた黒沢さんっていうのはすごく人をどっちかっていうとギプスはめるようにぎちぎちに動きとか言うんですよ。

(森直人)ややヒッチコック寄りの?

(安里麻里)そうですね。なんかこう例えば、5歩あるいて止まって右向いて三拍とか。

(森直人)基本オブジェというか物としてまず扱う感じ?

(安里麻里)でも、そういう...わかんないですけど、私が勝手に思うのはそれもその演出方法の1つとしてあるじゃないですか。なんかその人間の動きとかって、その中で見えてくるその感情だったり意味だったりとかあったりして。でも一方、廣木監督っていうのはひたすら俳優部に何回も何回もやらせる。むしろ言わない。どこで止まるとか、これを見るとか云々とか言わない。立ち位置とかも座り位置とかも言わない、みたいな。だからすごく真逆。自分にとってはとってもアウェイな人だって今までずっと思ってきたんですけど、あえてそういう方をこの映画の中というか、私がこうぎちぎちにパズルみたいに作っちゃってる脚本を壊して欲しいというか。生きてる人間みたいに生物(なまもの)のように高良さんだったらきっとやってくれるだろうっていうのが本音でやりました。まさにその通りだった。

(森直人)なるほど。本当素晴らしい本音を語っていただきました。これでもめちゃくちゃ面白い話だと思います。黒沢清、廣木隆一、同世代...ひとつ違いの監督ですけども名匠。意外に比較して語る暴挙に出る人がいなかった。

(安里麻里)なんかだって頭の中で離れすぎてて、並べたことあんまりないじゃないですか。

(森直人)でも、おっしゃった通りだと思うんですよ。廣木さんっていうのは本当にフリーハンドで、役者の肉体からもう何かが立ち上がってくるのをひたすら待つみたいな方。黒沢さんと本当対極ですよね。で、そっちをなんか混ぜたのが『アンダー・ユア・ベッド』っていうのはめちゃめちゃわかります。しかもそれを意識的にやられたっていうのは。

(安里麻里)そうなんです、それが本音なんですよ。なんか舞台挨拶とかでは、イケメンを汚したかったんですって...まぁもちろんそれも一個は...

(森直人)この辺のやつ。

(安里麻里)もちろんあるはあるんですけど、そういう...言うと、リアリティ路線での顔選びというよりは面の良い人をあえて崩すっていう方がこの話はついていきやすいんじゃないかっていう、2個目のオファーの動機っていうのはありましたけど。でも、本音はさっき言ったアウェイの人をあえて。

(森直人)だから今までの安里さんの作品ともそこでちょっと構造が変わるっていうことですよね。編成の仕方が。だからちょっとね、正直やっぱり抜けた印象があるんですよね。

(安里麻里)そうなんです。それはやっぱりキャストの力はかなり大きいと思います。

(森直人)じゃあ、これから「よし、これた」みたいなことっていうのはちょっと思ったところが?

(安里麻里)そうですね。もちろんさっき言ったプログラムピクチャーって今はないけれども、そういう商業映画の中で自分がどう生きるかっていうふうにやる時に、どこまで俳優を選べるかっていうか、どういう意味のキャスティングをするのかって、なかなか難しいところはありますけど。ただ、映画をより生々しくするためにはぜひこの戦術で今後もやっていけたらなぁとは思いますね。

(森直人)本当にさっきおっしゃったその本音の一個手前の、綺麗なイケメンを崩していくっていうのも、やっぱりこの映画ではすごく重要だなと思って。やっぱりこの綺麗...すごい綺麗な顔じゃないですか、高良さん。この綺麗な顔で、童貞でストーカーの30歳のリアリティを吹き込めるのは彼しかいないですよ。

(安里麻里)そうなんですよね。不思議ですよね。

(森直人)不思議です。今童貞って勝手に言っちゃったんですけど、原作だとそこ違うじゃないですか。

(安里麻里)違います。もう風俗行きまくりです。

(森直人)そう、風俗めっちゃ行ってるんやけどって。

(安里麻里)そうなんですよ。

(森直人)昔からね、思ってる女性の方がもう一人登場するっていうていなのでそこをやっぱりガっと省きましたよね。

(安里麻里)そうですね。映画なんで短くしなきゃいけないっていうこともありますけど、私そもそもイギリスのルース・レンデルって作家が大好きで。ルース・レンデルの『引き攣る肉』っていう『Live Flesh』、原題だと。アルモドバルが昔やってますけど、だいぶラテン系のノリに変えてましたけど。

(森直人)大きく変えて。

(安里麻里)そう。だいぶ変えてましたけど、あれがやれるなって思ったんですよ。主人公の男が、要するについて行っていいのか悪いのかよくわからない。で、ルース・レンデルのその『Live Flesh』っていうのは主人公が言うたら犯罪者ですよね。詳しくは言わないですけど犯罪者です。犯罪者なんだけど、はじめはこの人の一人称で進むから読んでる自分はそれについていかざるを得ないんだけど。言ってることもやってることも「はぁ?」って思うのに、だんだんだんだんなんかむしろ周りの彼に対して理性をもって彼を閉じ込めようとする人たち...イギリスなんでちょっと階級社会の話とかもあって。主人公のヴィクターが好きな女の人は中産階級なんですけど...なんかちょっといけてる人だったりするんですけど。その人があしらっていく感じが、理性を持ってる人間ってこうやってちょっとやばい奴には対応しますよ、みたいな。なんかだんだんだんだん「あれ?周りの方が歪んでない?」「あれ?こっちの方が本当は純真に人を思ってないか?」とかなんかだんだん読んでいるうちに倒錯していく感じがあって、ものすごい好きなんですよ。で、ルース・レンデルってやっぱりそういう手法をすごく大事にしてる人だなと思うんですけど。とにかく、そういうのは映画でやってみたいってずっと思ってきたところがあって。

(森直人)なるほどね、おもしろい。

(安里麻里)で、風俗通いを切った理由っていうのがそういうところにあるというか。やっぱり三井っていうのも軸はしっかりある。かつて名前を呼んでくれた女の人にもう一本っていう、そういう作り方でやりましたね。あとはもうふらふらさせる。

(森直人)あぁ、なるほど。一本軸を絞って、それを不安定にぶらすみたいな作りなんですね。しかもアルモドバルへのダメ出しみたいな。こうじゃないよっていう。もうこれでやらないとなっていう。

(安里麻里)ですね、すみません。もうなんか即死するみたいな。

(森直人)いやでも、それは僕やっぱり気づかなかったので聞けてうれしいです。すごい腑に落ちますね。

(安里麻里)アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』はまた別の意味で大好きですけど。

(森直人)面白いですけどね。

(安里麻里)面白いです。

(森直人)そういうなんかちょっとレファランス的なことも今日はちょっと聞きたくて。例えば、割と今回めっちゃ露骨に『恐怖分子』

(安里麻里)露骨ですよね。

(森直人)結構あれはもう...ネタバレいきますぐらいのノリですよね。ちょっと説明すると、予告編でも使われている千尋の部分拡大コピーを合わせてポスターみたいにして貼ってるのが、『恐怖分子』とまったく同じカットで出てくるんですよね。あれ原作では二人が写っている唯一の写真を引き伸ばすみたいな設定だったじゃないですか。あれ読まれた時にじゃあ、これはあれを使うみたいな?

(安里麻里)なんか私、今まで結構モチーフとしてよく使ってるというか、今まで作った映画で壁に好きな人の写真を貼るっていうのは結構やってて。

(森直人)多いですよね、記憶にあります。

(安里麻里)『劇場版 零 ゼロ』の時とかも、中条あやみちゃんの写真を森川葵が貼っていつも見ているとか。デビュー作の時にもなんかでっかい自分の憧れの人の写真を貼って、その目線が常に合う、部屋の中にいると常に目線が合う。これ同じことをやってるんですけど。ただ分割して、もろエドワード・ヤンにしたのは初めての試みではあったんですけど。つまらないこと言っちゃうと、予算的に一枚の写真を印刷するのってそれだけのでっかい印刷機が必要で...もう予算的に厳しいとか。でも、だからって言ってちいちゃい千尋を貼るの違うでしょって思ったり。だったらいいや、もう『恐怖分子』好きだし、パラパラってなった時にその女の人の表情が変わる感じとか、もうオマージュでやろうって思って。

(森直人)趣味と実益が兼ねられた。でも、あのイメージっていうのはやっぱり強烈ですよね。

(安里麻里)すごい面白いですよね。

(森直人)うん、みんなもっとやったらいいのに、ぐらいの。

(安里麻里)むしろ押していけって。

(森直人)そうそうそう。そっか、でも確かに多いな。壁に好きな人の写真貼ってる描写。だから...っていうことは、内在的にそういう心象みたいなのが安里監督の中にあるってことですよね。

(安里麻里)そうですね。

(森直人)三井イズムの。

(安里麻里)なんかこう...たぶんですけど、いつも言われるのが、ちょっとなんか宗教っぽいよねって。宗教画とか血を撮る映画見た人の感想で「クリスチャンなの?」ってよく言われたりしますけど。なんかこう、なにかを毎日崇めるじゃないけど...

(森直人)偶像として?

(安里麻里)11年前の彼女のことをずっと崇めて、それに対して懺悔したりだとか。ついついやっちゃうんですよね。

(森直人)本当にでも生きていくためのアイコンがないと彼は生きていけない。それはついついやっちゃうっていうのは自覚があるっていうことですか?

(安里麻里)あとで人に言われるんですよ。なんであれが...なんか「クリスチャンなの?
」って。

(森直人)いやそれは...実際はどうなんですか?

(安里麻里)違うんですけど。

(森直人)違うし...?

(安里麻里)無宗教なんですけど。

(森直人)で、それは言われたらどう思われる?

(安里麻里)いろんな映画好きだけど、どこかにそういう絵的なところの好みとしてそういうやっぱり絵画っぽい...なんかビクトル・エリセだったり...全然宗教画と関係ないかもしれないけど、なんか要するに絵画的な主観?

(森直人)あぁ、そういうことか。

(安里麻里)そういうブレッソンとかもそうだと思うんですけど。手をいっぱい撮ったりとか。

(森直人)確かに。

(安里麻里)やっぱりそれはスタッフにも言いましたし、常になんかつい言っちゃうことなんですよね。絵的な狙いはこういうことです、みたいな。

(森直人)なるほど。すごく映画映えするものだっていうところが1つ大きくあると思うんですけど。なんか他に参照先がもしあれば、ちょっと教えて欲しいなと思ったんですけど。

(安里麻里)いやたくさん...言ったら、なんかこれが好きでやりましたみたいなのがありすぎなんですけど。例えばですけど、初めて暴力シーンが出るところで女の人が物みたいに棒立ちに立ってるところとかは、あれはイザベラ・ロッセリーニだと思って。『ブルーベルベッド』の。なんかこう、女の人がもう牛とか馬の品評会みたいに立たされてるっていう、なんかやっぱり殴るとか蹴るとか直接的な暴力って私あんまりこなくて。そうじゃなくて、やっぱり人が...女の人が物のように扱われてるっていうほうが痛々しいって思うんですよね。すごく自分はそういうのが一番この夫婦を表すときにやりたいことだって思って。例えばそういう『ブルーベルベッド』のを持ってきたり...持ってきたりっていうかインスパイアされたりですとか。あとはなんだろうな。これ言ったらあれなんですけど、『デッドゾーン』のラストとか覚えてます?

(森直人)え?バーンっていうあれですか?有名なやつですか?

(安里麻里)大統領になる予定だった人を殺すじゃないですか、主人公が。クリストファー・ウォーケンが...っていうか、クリストファー・ウォーケンだと思ってるんですけど。で、まぁ彼は結局警察官に狙撃されるというか。やったこととしては犯罪者なんだけど、見てる人はわかる。彼はこの女の人を、好きな女の人を助けたかっただけ。自分がたとえそれが理解されなくても、未来が見える男だから助けようと思ってやっただけ。でも、死ぬ間際のこの主人公...クリストファー・ウォーケンのとこに彼女がやってきて、死に際の彼に一言声かけるの覚えてますか?

(森直人)なるほど、なるほど。それか。それを...

(安里麻里)...とか。これ言っちゃうとあまりにズバリなんで。

(森直人)そうやな。結構なぞるぐらいの勢いで。

(安里麻里)もう本当大好きで。『デッドゾーン』が。とか、あとは『清作の妻』増村保造さん。

(森直人)増村ね。

(安里麻里)モノローグ大会。

(森直人)あのね、それ本当増村感すごいあるなと思いました。

(安里麻里)嬉しい。

(森直人)モノローグも対応してらっしゃるじゃないですか。

(安里麻里)逆利用。

(森直人)そう、逆利用ですよね。あれがね、そうそのさっきおっしゃった音とかと別にちゃんと邪魔しないというか、そこでがっつり構築されたモノローグ。増村。実際乱歩の『盲獣』とか撮ってたりもするし。角川大映っていう流れもあるし。

(安里麻里)いろんな意味で繋がるっていう。

(森直人)そうそうそう。増村わりと連想しやすいかな、と思いますけど。

(安里麻里)そうなんですよ。なんかこういっつも増村のあれって暗いじゃないですか。「彼女の心臓は止まった」とか

(森直人)オタクですよね、たぶん。真似し出したら...。

(安里麻里)市川雷蔵気取り。

(森直人)そう、あれいいよね。見たくなってくる。

(安里麻里)そうなんですよ。なんか三井君はそういう気分で。

(森直人)なるほどな。

(安里麻里)でも一番は若尾文子さんの『清作の妻』ですけどね。本当...思い余るというか。まっすぐ、まっすぐで。

(森直人)彼が『清作の妻』っていうことですよね?

(安里麻里)です。

(森直人)だからこれが面白いよな。いろんなものがこう変換されてかなり凝縮度の高い一本に。気持ちいいじゃないですか、ここまで込められれば。

(安里麻里)いろんなジャンルから。

(森直人)そう。だからなんでしょう...さっきもちょっとおっしゃったんですけども、この三井のその感情の動きっていうのがやっぱり映画を牽引するものだと思うんですけども。やっぱりすごくぶれないんだけど多元的じゃないですか。本当、名前を呼ばれたいっていうだけのシンプルな動機、シンプルな軸なのに振り幅がやたらでかいというか。それこそね、下手するとモンスター役になっちゃうというものなんだけど。ただ、さっき言った臨場感も含めて、すごく彼の波動に共振できる作りになってて。で、それはやっぱり監督がまさに意図されたように、音だとか、あるいはその『裏窓』チックに千尋を覗いてるんだけど、こうちらっと見えるんですよね。この傷とか。それで、こっちの中に広がると言いますか、すごいソリッドな話法ですよね。あれっていうのも計算ずくですよね、この話の流れで聞くと。だから、さっき暴力っていうこともおっしゃいましたけども。『ガチ星』の阿部賢一さんが、まったくまた別人のようなダメ男で...

(安里麻里)別人(笑)

(森直人)別のダメ男で、DV夫を。やっぱり熱量は高く、もうガンガンいってらっしゃって、西川さんもそれをガンガン受けるということはガチでやってらっしゃるんですけども。それと同等、あるいはそれ以上にこっちに想像させる暴力の部分も大きいっていう作りですよね。

(安里麻里)そうですね。なんかそういう暴力シーンについては、やっぱりあえてカットを割らずにもう一連で撮るっていう。なんかいろいろやるけど、基本的に全然寄ってないじゃないですか。だから、映倫とかもほぼ引っかからず...みたいな感じだったんですけど。だからこう...見てるお客さんが「いやぁ、もう暴力。もうドキドキした」って言われるんですけど、「あれ?全然寄りも撮ってないんだけどな」っていうか、ちょっと思ったり。ベッドの下から見えてる世界でしかないとか。でも、だからちょっとくる...たぶん想像力を掻き立てるのかなって感じ。

(森直人)だと思いますよ。

(安里麻里)あと声がとにかくもう逆にきちゃうっていうか。

(森直人)いや、もう本当そうで。言ったら、これも三井感覚だと思うんですけども。普段住んでて、隣の部屋から「これネグレクトじゃねぇか?」みたいな声が聞こえてくる、みたいなね。

(安里麻里)まぁ、そういう...辛いですもんね。

(森直人)あっちの方がやっぱりこっちの変な正義感とかね、火をつけられるところがあるわけですよ。見たら、なんか実は気の強いお母さんが子供と仲よく遊んでるだけかもしれないのに、音声だけ聞くとネグレクトに聞こえるみたいなことってあると思うんですよ、日常生活で。そっち、そのほうがきついんですよ、たぶん。

(安里麻里)そうなんですよね。やっぱり見てる側も妄想を引き立てられるというか。

(森直人)それはでも...それも計算ずくだ。

(安里麻里)まぁそうですね。緊張感は要するに選んだっていう。

(森直人)そうだよなぁ。それもさっきおっしゃったことに繋がるんですけども、本当に丁寧に、ひたすら丁寧に撮ってらっしゃるだけの映画のような気もするんですけども。でも、やっぱり丁寧に撮った映画って作品としてなんか小さくなることが多いんですよ。

(安里麻里)わかります。

(森直人)ですよね。

(安里麻里)わかります。それを壊したいんですよ。

(森直人)そう、それがその役者の熱量っていうところで、その小ささがなくなってるっていうのがこれすごいなと思った。

(安里麻里)見終わってみるとすごい脚本がしっかりしてるなっていう。なんかあるじゃないですか、パズルで伏線があってあれがこうだったんだっていう。もちろんそうやって作るし書いてる時はお客さんが面白いってなるようにひっかけろ、ひっかけろって思いながら、釣りみたいにこう引き寄せてリリースみたいな、計算しながら作るけど。でも、それにはまりすぎちゃうと本当ちっちゃくなって、見せられてますっていう感じになっちゃうんで。それをこうキャストが全部生々しさで臨場感を加えてくれて。要するにちゃんと壊してくれた。そこが嬉しかったです。だから、書いてないことをやったりしてるし。

(森直人)あ、そうですか。それはじゃあ...今まででそういうことありだったんですか?

(安里麻里)私結構ありなんですよ。でもなかなかやれないですよ。

(森直人)実際はもう設計図がガチっとしてるから?脚本もね、自分で書かれますもんね?基本的には。じゃあ、そこの書き込みで役者が規定されることが多いのに、今回はそれをぶち破る凄腕の人達が現れたっていう?

(安里麻里)本当にそうなんです。なんかそれを期待してやるみたいな。だから、ト書きに書いてないことでもいいから、もし思ったことがあったら何でも言って欲しいですって全員に言って。みんなこうかな、ああかなってこういっぱい案を出してくれて、本当面白かったんですよ。

(森直人)なるほど。じゃあ、ということはこれまで安里さんがご自身の作品でそこがちょっと自分では気になるなっていう自己批評の目線があったっていう?

(安里麻里)ありましたね、はい。やっぱり「きちんとしすぎ」っていうのがコンプレックスであって。別にきちんとすることは悪いことではないし、どうしても頭が理系っぽくてパズルでがちがちに作っちゃうのはしょうがないことかもしれないけども、性格だから。でも、映画見てて面白いなって感動する映画ってだいたいそういうことにはなってないじゃないですか。なんかそこを乗り越えたい、乗り越えたいって思いながら。

(森直人)なるほどな、おもしろい。

(安里麻里)あぁ、よかったです。

(森直人)計算ずくですねって言ったのも、実は違うって反転もするし。でも、そこも計算をしていたという...どんどん反転していくことが面白いなと思いますけども。あとちょっと聞きたかったのは、この性暴力っていうモチーフを今回扱ってるじゃないですか。性暴力、あるいは性奴隷っていう言い方でもいいような気はするんですけども、これって今のすごく時代的な主題でもありますよね。ただ、僕が『アンダー・ユア・ベッド』を見た印象だと、原作を踏襲してないっていうところもあるんですが、いい意味で古典的に思えました。言ったらちょっとあるレビューにも書いたんですけども、王子・王女感っていいますか、ちょっとその古典的ななんか透明な瞬間っていうか、そういうものが見える作りになってるなと思ったんですよね。『デッドゾーン』ももしかしたらそうかもしれないんですけも。時代的にもそうだし、意外にラジカルにそこを行かない方向でまとめたっていうところの心はちょっとお聞きしたかったんですよ。

(安里麻里)なんでしょう。王子・王女感は、王子・王女っていうふうには思ってなかったんですけど。ただ、一個そのキャラクターを作るうえでちょっと原作から離れて考えたことは、とにかく自己矛盾を抱えてる人たちを描きたいっていうのはあって。例えば千尋、暴力振るわれている方っていうのは「俺が嫌か?」とかっていっつも言われて、その時にもう反射神経で「好きです、好きです」って言ったり。はたから見て、いやそれは好きって感情じゃないよって気付いてって。お客さんより二歩も三歩も後ろを歩いている。で、なんか自己矛盾を抱えてるこの女の人。で、その男の方、振るう側の阿部さんも言ったらこの映画の中で一番高圧的、確かに高圧的な意味なんだけれども、この人は映画の中で一番のビビりである。彼女に逃げられるとかもうあり得ない。絶対に困る。だから毎日「俺が嫌か?」「俺が嫌いか?」確認作業。常に常に確認作業。びくびくしてる。それだけは絶対に嫌だっていう。なんか「俺が嫌か?」って言って暴力振るうけど、そりゃ嫌に決まってるだろっていう。気付いてよっていう。見てる側がそうやって...やっぱりもう二歩も三歩もこの人も後ろを歩いている。なんかそういう自己矛盾を抱える...三井もそうですよね。そういう現実を知る、夫婦の現実っていうのを知った時に彼は何をするかっていうと、別に一人でもいいし...じゃないけど。自分はそれでも生き残れるし、みたいな言い訳を始めたり、股間も触り始めたり。なんかもう、こっちからすると「いや、それはハッピーじゃないよ、三井君」みたいな。

(森直人)なるほどね。全員説教の対象になってる。

(安里麻里)全員に2~3歩後ろを歩かせるっていう。見てる人がそういうやきもきしたり。でも、なんかだからあそこの人達に何とかもう一歩前にというか、幸せになって欲しいってどんどん思っていくような。なんかそういうふうに考えてやってましたね。

(森直人)なるほど。古典的っていう言い方しちゃったんですけど、実はちょっとわざとしたところがあって。すごいニュートラルに見えたんですよね。それもだから、最初に言った傑作の顔をしていない傑作というところに繋がってくる加減の良さっていう気がしました。あと、これ前からすごいお聞きしたかったんですけども。率直にうかがってよろしいですか?作品から離れちゃうんですけど。安里さんって職人監督っていう自意識って持っておられますか?あるいは、職人、アルチザンタイプっていう規定をされるのはいかがですか?

(安里麻里)規定をされるのは...今はすごくそこが微妙にブレ始めてるところがあります。

(森直人)そうですか。その心は?

(安里麻里)自分がデビューしたてというか、もしくはやっぱり映画美学校で通っていた時の師匠たち...憧れの人達っていうのは、やっぱりアルチザン的な中でどう作るかっていうふうに見えたし、それが憧れの対象だったけど、やっぱり時代が変わって。なにかそういうスタンスに自分がずっとしがみつくことが本当にいいんだろうかっていうのが、今のふらふらしている...正直な気持ちはそんなところですよね。

(森直人)答えが出てる部分ではない?

(安里麻里)答え出てないですね。

(森直人)ただ、ちょっと僕予定してきたことと違うんですけども。廣木さん、廣木イズムの導入っていうところを聞いてハッと思ったのは、やっぱり転換期に安里さんご自身があるっていうふうな印象...

(安里麻里)そうですね。脱皮したいみたいなのがあるかもしれないですね。

(森直人)じゃあどこに行くのかっていった時に、まだわからないけども何かちょっと時代の流れも含めて変えていきたいなっていうところがあるっていうことですか?なんか僕とかは外野のウォッチャーなんで系譜でとらえちゃうところがあるんですよ。言ったら、ずっとおっしゃってるように黒沢清、塩田明彦の妹的な立ち位置だったと思うんで。同期の古澤さんとか清水さんっていうのは、やっぱり今もちょっと似た印象があるといいますか。それぞれのアルチザンスタイルでやってらっしゃる同世代の方。大九さんもそうですよね。まさにそうなんですけども、その系譜の中でもやっぱりどんどんこれから展開していかなきゃならないというのもある。あともう1つは、今だんだん例えば監督に男性、女性ということを、軸を持ち込むとしたら、まさにちょっと若い女性監督...本当女子みたいな監督が出てき始めてる。やたらたくさん。そうなると、黒沢、塩田の妹から今度は姉貴的な立ち位置、それはスライドしていくことになると思うんですよね、自然に。そういった時にどうなるんだろうとかちょっと思ったんですけど。

(安里麻里)確かに。俯瞰で見ました、今。

(森直人)あぁ、そうですか。でも、貴重な立ち位置でお仕事されてると思うんですよね。

(安里麻里)いや、なんか自分でもヘンテコな位置にいるなぁっていつも思いますね。

(森直人)でも、もう十年選手じゃないですか、完全に。それでしかも作品数が多いでしょう?だから、その作品数が多い監督は誰だ?みたいなところも常に思うんですけども。意外と安里さん多くないか?みたいな。今、三池さんより多いんじゃないか?と。

(安里麻里)そんなこと...そんなことはないですけど。

(森直人)いやいや、でもね...ってことは、やっぱ順調に撮られてて。なかなかね、まだ男性社会、男性中心社会ってよく言われてる映画界の中で、この世代でこれだけ作品数を重ねてる女性の監督さんって確かに少ないな、と普通に思うから。すごいロールモデルになるんじゃないかと思ってるので。

(安里麻里)そうですよね、なれるようにガツガツ...ガツガツやっていきたいですね。

(森直人)そこの自覚みたいなのってあるんですか?自覚というか自意識みたいなもの的な。

(安里麻里)なんかこう自分は言い方悪いですけどたいしたことないんだから、もう場数だって思ってとにかくバンバンバンバンやれって思ってずっとやってきたし、この先も多分そうというか。もちろん1本1本、本当に思いを込めて全力で作るけれども、やっぱりもっともっとよくなるって思いながら。どんな監督でもそうだと思うんですけど、100%満足するとかないじゃないですか。うわぁって。この間も劇場で後ろで見てて、ここ直したいわって。

(森直人)そうなんですか?今回も。

(安里麻里)それはやっぱりみんなあると思うし。本当場数、場数。どんどんいけ、格好つけるなって思いながらやってます。

(森直人)なるほど。沖縄出身ですからね。映画を好きになったのっていつ頃で、どういうきっかけなんですか?

(安里麻里)なんか母がすごく映画好きで。だからちいちゃい時から当たり前に本当いろいろ見てて。

(森直人)そうなんだ。どういったものですか?

(安里麻里)しかも母はなんかちょっと...今考えるとその影響があるかもしれないですけどホラー映画が好きだったりして。

(森直人)もろじゃないですか。英才教育。

(安里麻里)『サスペリア』とか、あとは『ザ・フライ』とか。

(森直人)マジですか。

(安里麻里)もう『ザ・フライ』とか本当、子供の時見なきゃよかったと思って。授業中何回も思い出すんですよ。もうあのなんかこうドーナツかなんか食べようとしておえってなんか吐くじゃないですか。あれとかトラウマでフラッシュバックするんですよ、授業中。

(森直人)小学生でしょう?もしかしたら。

(安里麻里)はい。算数とかもう全然手につかない。もうハエになっていく男の子としかもう...。

(森直人)クローネンバーグはもう体内の成分としては大きい。

(安里麻里)『デッドゾーン』もね。

(森直人)大きいですよね。『ザ・フライ』か。『サスペリア』と。結構もういきなりゴリゴリのど真ん中を投げられてたっていう、親から。

(安里麻里)親から。親は何にも...何が悪いとかも思わずに7~8歳の子供に見せてましたけど。

(森直人)ホラーDVですよね(笑)

(安里麻里)本当ですよね。とんでもない親。

(森直人)え?じゃあそれを...その英才教育を経てやっぱり...でも好きになっていったって感じなんですか?

(安里麻里)そうですね。好きになって。本当好きだったけど、でも仕事にするとはまったく思ってなかったです。

(森直人)すごい馬鹿な質問ですけど、中・高とかじゃあ部活はやってたんですか?

(安里麻里)中・高とか部活...私本当は三井君みたいな子供だったんで。

(森直人)あぁ、そうですか。

(安里麻里)そうです。もう端っこで誰ともしゃべらない、存在を消すみたいな。

(森直人)それ『ザ・フライ』を見たからでしょう?

(安里麻里)いや、まぁそうですね。親のせいです、完全に。

(森直人)彼も『デッドゾーン』を見たからこうなったかもしれない。

(安里麻里)あぁ、そうかもしれない。

(森直人)何を言ってるの。

(安里麻里)すみません。華やかに部活するとかないし。

(森直人)あぁ、そう。今でも初めてお会いするんですけど、なんかすごい快活なイメージ。明るいなと思って。

(安里麻里)これは一応社会人なんで。

(森直人)そう、社会性のある大人じゃん、みたいな。

(安里麻里)社会人だからこうしてるだけで、本当に小学校の時人としゃべった記憶ないんですよ。で、私最近小学校の同級生とやっと飲めるようになったんですけど。

(森直人)沖縄の?

(安里麻里)そうですね。で、こっちに出てきてる。そしたら、その子たちが私のその記憶って勝手に自分がしゃべんなかったって思ってるだけかもしれないしって思ってたら、帰りの電車でその幹事の男の子が「いやぁ、よかった。麻里を呼んで一言もしゃべんなかったらどうしようって俺思ってた」って言うから。あぁ、やっぱり自己認識は間違ってなかったんだなって思ったり。

(森直人)超三井じゃないですか。

(安里麻里)本当に三井で。

(森直人)それでこの人物描写にやたらいろんな意味での生々しさというか、臨場感があるのかな。意外ですけどね。大学ではあれですもんね、横浜国立大に通われてたんですもんね。それってあれですか?梅本洋一先生とかそういう流れ?

(安里麻里)いらっしゃいましたけど、でも私は...あぁまぁでもそうですね。教育学部に入って。

(森直人)教育学部か。

(安里麻里)はい。ただ、梅本先生の授業はもちろん受けてましたけど。大学なんか来ないで今すぐ映画館に行けって言われましたけど。

(森直人)教育学部って、じゃあ教師になろうと思ったんですか?学校嫌いなのに。

(安里麻里)なんか本当に正直に言うと、とにかく沖縄から出ていきたかっただけなんです。何になりたいとかもう考えたことなくて。

(森直人)僕も同じですからね。やっぱりとりあえず脱出願望で。出てからが勝負だ、みたいな。

(安里麻里)脱出願望。出てさえいければもういいですっていう。

(森直人)なるほど。じゃあ、まぁテキトーにって言ったらあれだけども。

(安里麻里)そうですね。それでその時に同じ学科だった女の子が「映画サークル入りたいから、一人で行くの怖いから...気持ち悪いし暗いしなんかたばこの煙がすごいし怖いし、一緒にいかない?」って言われて行ったら、初めてそこで自主映画をやってる人たちを見て。で、そういうのってあんまり見たことなかったというか。

(森直人)沖縄で自主映画撮られてる...そういう学生とかっていうノリはない?

(安里麻里)いや、とりあえず高校の時はなかったですね。

(森直人)そういう世界もじゃあ、映画マニアではあったけどもそのインディペンデントといいますか、いわゆる日本の自主映画の世界っていうのは触れてこなかった?

(安里麻里)触れてこなかった...いや、でも琉球大学の付属だったんですよ。で、大学祭とかに...っていうか、もう大学の敷地内にもう学校があるみたいな。うちの小・中とか。で、それでそういえば今言われて思い出したのは、行くと「映画がこれから始まるから見に来てください」って大学生が言ってて。

(森直人)琉球大学はたぶんありそうだな。

(安里麻里)それで見に行ったら、友達撮ってるって思って。要するに自主映画。それを小学校の時に見た記憶はありましたね。

(森直人)じゃあ結構遭遇は早かったんだけども...

(安里麻里)遭遇は早かったですね。言われるとそういえば。

(森直人)いわゆる映画のイメージと繋がってこなかった?『ザ・フライ』みたいに。

(安里麻里)はい、『ザ・フライ』...これは映画なのか?って。その時はわかんなかったです。

(森直人)じゃあ、映画はずっと見つつ、でもそれを仕事にするとか考えず大学へ。でも梅本先生の授業は出て。で、映画美学校ってできたのは97年?じゃあ大学3年とか4年?

(安里麻里)私浪人してるんで2年ですよね。

(森直人)そうか。じゃあ2年の時にもういわゆるダブルスクールっていう形で入っちゃった?大学って出てるんですか?

(安里麻里)一応頑張って出た。一応って言っちゃった。

(森直人)でも、もうフィルモグラフィーとか見たらもうすごい早いじゃないですか、活動が。撮影をやられていたり。

(安里麻里)大学に入ってる時から横浜からもう始発に乗って現場行ってました。

(森直人)...ってことですよね。早いよなぁ。やっぱり当時の美学校って、こいつ使えるってなったら結構もうすぐ現場にバッて行くようなノリもあったんですか?

(安里麻里)あったと思いますね。数は少なかったけど、古澤健さんと私は現場にすぐ出てましたね。

(森直人)古澤さんも早いか。でも、特にさっき並べた同期の中で安里さん一番若いですよね。

(安里麻里)そうですね。

(森直人)みんなやっぱりちょっと上じゃないですか。僕ぐらいという...5歳ぐらい上の感じ。

(安里麻里)大学を卒業してから美学校に来たっていう人がほとんどだったので。

(森直人)そうですよね。じゃあ本当に現場でも最年少の妹みたいな?

(安里麻里)そうですね。だから21~22で。

(森直人)すごいよな。

(安里麻里)いまだに美学校の人達の忘年会に行くとやっぱり一番下級生的な感じで。はい、はいって。

(森直人)でも、その感じがなんか今の本当にその大学出てすぐぐらいの、この番組にもよく出ていただいている女子監督の共感を呼ぶといいますか。なんかそういう感じのもしかしたらはしりなのか、みたいな気もするんですよね。あ、そこから始められたんだっていう。監督も、長編は『独立少女紅蓮隊』だけど『刑事祭り』とか。

(安里麻里)お詳しいですね。

(森直人)『階段新耳袋』とかね、撮ってらっしゃるじゃないですか、ちょいちょいと。だから早いですよね。キャリアが。

(安里麻里)そうですね。いや、本当に学生の時から撮ってますしね。

(森直人)...となると、ほぼ引きこもりのような感じで三井で、映画ただ見てるだけの10代だった人が20代になって監督やってるってすごい変身じゃないですか。

(安里麻里)いや、いまだにわけわかんないです。だって本当に修学旅行の時とか母がインスタントカメラ38枚撮りとか渡されて。で、帰ってきて現像したら母の顔がだんだんこう曇ってきて。人間が一枚も写ってない。もう見切れてもいないんですよ。腕とかも写ってない。誰も写ってない。で、「どういうことなの?」って。「普通はね、修学旅行っていうのはなんかの前で友達とこうやって撮るんだけど、何で撮らなかったの?」って言われて。自分も、え?そうだったのかって。わかんなかったのに、今人間にカメラ向けてるっていう。それはやっぱり時々思うんですよ。すごい成長率だなぁと思って。今生の伸び率すごいなぁって思いながら監督やってます。

(森直人)むしろあれでしょう。その時何撮ってたんですか?何が写ってたんですか?その変なカメラに。

(安里麻里)魚とか。

(森直人)魚なんだ...。風景でもない?

(安里麻里)風景でもない。やっぱりちょっとフェティッシュですよね。

(森直人)そうだよな。だから風景のイメージ全然ないもん。

(安里麻里)全然ない。なんか接写ばっかり。

(森直人)接写かぁ。じゃあ始まってますね。

(安里麻里)牛撮ったりしてますしね。始まってますよ、もう。

(森直人)安里さんの映画、風景のイメージ全然ない。だから...

(安里麻里)手とか。

(森直人)そう。だから、風景撮ってたらこれは何かおかしいと思ったんですけど、やっぱり違いますよね。動物。今でもだから動物撮ってるんじゃないですか?違う?

(安里麻里)ちゃんと人間撮ってますから。

(森直人)そう?失礼しました。

(安里麻里)そこはちゃんと成長しました。本当に。

(森直人)なるほどね。じゃあ、今お母さんが一番びっくりしてるんじゃないですか?

(安里麻里)あぁ、だと思います。本当。この間も完成披露見て「麻里大人になったぁ」って。

(森直人)でも「さすが私の子」みたいな感じじゃないんですか?

(安里麻里)いや、あんまりそういうのはないですね。

(森直人)そういうのはないの?いやいや、まぁね。だからそういう自己を経て。『独立少女紅蓮隊』はね、本当塩田明彦シリーズ監修、映画番長第一弾...第一弾が多いですけども。懐かしい。これでもあれですよね、2004年だから結構間があいてるというか。28歳か。結構実は経ってますよね。

(安里麻里)まぁそうですね。

(森直人)いかがでした?長編ようやくね。実は結構ずっとやってきて...5~6年、7年ぐらい経って長編撮りましたっていう時の感じって。

(安里麻里)なんかもう本当無我夢中で。もちろん、その前に助監督とかその間にやってたりするんですけど。現場のことをある程度分かるじゃないですか。現実がどういうことか。映画を撮るってどういう段取りで、どうやって、どういう部の人達がいて、とか。わかってやるんだけど、なんかもう全部吹っ飛んで。本当やりたいことをとにかくぶつけたのがやっぱり一本目で。

(森直人)濃厚ですよね。

(安里麻里)濃厚でしたね。本当、あの時に関わっていただいたスタッフ、キャストの方にはいまだにありがとうございますって思います。

(森直人)あれってでもユーロスペースの企画でしたよね。その28歳の時って、映画の仕事で自活できてたっていうことでいいんですか?

(安里麻里)いや、この...助監督の時はできてたかもしれないですけど、このやっぱり長編作る時にはその前にバイトをなんかいっぱいやって。半年ぐらいばぁっとやって。予算ないじゃないですか。でも監督って拘束期間長いし。でも、そのためにやっぱりなんか一稼ぎしてやった記憶です。

(森直人)やっぱり監督ってことになると...助監督だと本当にもらえるけどもっていうある種のジレンマですよね。それがちょっともろにきたっていう感じもあった?

(安里麻里)そうですね。ただ、まぁ20代の後半でまだ怖いものがない。

(森直人)あぁ、そうだよな。若いもんなぁ。バイトってそういう時って何をやられてたんですか?

(安里麻里)いやぁ、たくさんやってたので。

(森直人)家庭教師とか?

(安里麻里)そういうのは大学時代はやってましたけど、チケットぴあでとかも働いてたし。例えば昼はそういう...ちょっとこういう健康的なやつをやって、夜はもちろん飲み...例えば。じゃあ、ちょっとこれ...ロシアンパブの、ロシア人じゃないから接客する方ではなくて、ロシアンパブのお酒作る方っていうか、女の子たちの管理とか。

(森直人)あぁ、そうなんですか。めちゃめちゃちゃんと社会に出てるじゃないですか。

(安里麻里)もう女の子たちが可愛いんですよ。もうやっぱり出稼ぎに来て。日本人と違うんですよね。そういう水商売をやってるんだけど、全然違う。

(森直人)その感じもなんか映画に...

(安里麻里)ロシアンパブの?

(森直人)潜り込んでるような気もしますけどね。

(安里麻里)でも、なんかそういういろんな職種をやりました。

(森直人)タフですよね。

(安里麻里)タフですね。

(森直人)当時のあれか。でも、映画番長って西山洋市さんの『稲妻ルーシー』。あと、古澤さんの『ロスト★マイウェイ』か。アレックス・コックスが出てるやつ。第三弾のあの高橋洋さんの『ソドムの市』では助監督ですよね?っていう、こうなんかまぁいろいろ行ったり来たりとか。この頃の美学校系ってすごい映画秘宝色強いですよね。

(安里麻里)確かに、言われるとそうですね。私のやつだって、言ったらこうね、沖縄のアイドルスクールが実はスパイ養成学校だった、みたいな。

(森直人)大映カルトみたいな感じですよね。岡本喜八あれば...みたいないろいろ混ざりこんだ。

(安里麻里)そういう意味のエンタメみたいなのをやろうとして。

(森直人)当時、だからタランティーノの『キル・ビル』とかもあって、なんかああいう感じはすごく時代的にも見えましたけどね。僕からすると。その中でね、さっき大九明子さんの名前がようやく出ましたけど、やっぱりなんか本当女性一人だけっていうイメージなんですよ。やっぱり安里さん一人っていうイメージで。そこも実はちょっと前からお聞きしたかった部分なんですけども。結構お名前の字面がユニセックスな感じじゃないですか。なんか麻里ってマサトとも読めるし。そんなにバッと女性っていう印象はない名前なんですよね。それってなんか職人感覚っていう部分と繋がってくるっていうか。本当は今ジェンダー的なことを映画界ですごく言われてますけども、本当は気にしないのが一番成熟の形っていうのが...思いますよね。今は時期的には、女性の主張っていうのがびんびんにとがってるっていう過渡期だと思うんですけども。本当は、いやどっちでもいいんじゃないのっていうのが成熟で、実はそれをなんか一番やってらっしゃる気がするんです。

(安里麻里)そうですね。なんか性格がこういう性格なんで...。

(森直人)どういう性格なんですか。もうわからなくなってきました。

(安里麻里)なんか「自分が女である」っていうことをそんなに自意識がやっぱり弱いんですよね。とっても弱い。だから、本当小さい頃からあんまり自分のことを女って思ったことがないし。で、気づけばやっぱり男社会の中に紅一点でいるっていうことが本当に多かったんですよ、ずっと。

(森直人)実際やっぱりそうだったんだ。印象もそうだけど。外野から見た。実際そうだった?

(安里麻里)そうですね。だからこそぶち当たる壁とかもそりゃいっぱいありますけど。あるけど、でもなんかそこにとらわれてる場合じゃないというか。なんか必死に「私はこういう映画が好き」とか「こういうのが撮りたい」とか夢中でやってたら、女だっていうことを忘れちゃうじゃないですか、もう。映画って結局具体、具体だから。こうこうこうっていったら、気づいたら周りの人たちがみんなこっち見てて「安里さん、次何撮ればいい?」って感じで。例えば自主映画時代とか。本当は自分は輪の中心にいなかった。三井だから。いなかった。こういう感じだったはずなのに、こうしたらうまくいくんじゃないかとかって言ってたら、気づいたらリーダーになってる。神輿に気づいたら上に乗せられてるような。見渡したらもう20人、30人男しかいないと。なんかそういう状況にまた気づくとひるむんですよ、三井だから。「わわわわ、怖い」って思ったり。だからいまだにそういうのに戦いというか。朝集合場所に行っても、たくさん車があって男の人達がばぁって乗り込んでいく中、これ自分がリーダーなんだなって思ったらちょっとやっぱり気おくれするところとかどうしてもあったりするんですけど。でもなんか、あ、自分が女であるっていうことを忘れて、そうじゃなくて今何が撮りたい、何をやらなきゃいけない、それに集中、集中っていっつも思いながらやってるんですよね。

(森直人)今はじゃあ、緊張するっていう感覚がある?

(安里麻里)本当は誰もこっち見ないで欲しい。

(森直人)監督なのに?

(安里麻里)端っこにいてほっとしたいんですよ。

(森直人)なるほど。それなんか面白い戦いだなと思います。さっきだからまた戻るようなんですけども、今たぶん転換期でいらっしゃるみたいな話されたじゃないですか。そことも関係あるのかなと思って。要するに、その時代の転換点でもすごいあるじゃないですか、今。結構もろに。そこと今のお話と、安里さんご自身の転換点。あるいは変わらなきゃ意識っていうのは、何か全部繋がってる気がすごいするんですけどね。やっぱり女性性が少ないタイプとはいえ、女性クルーで撮りたいみたいなことっていうのも思ったりします?

(安里麻里)考えたことないんですけど、でも試みとしてはもしかしたら...要するに映画の可能性として面白そうですよね。たぶん何かが変わるし。

(森直人)やっぱりそう思う?やっぱりそれは思うんですか。

(安里麻里)それは思います。

(森直人)面白い。だから、僕も過渡期だから、なんかいろんな試みがあっていいっていう気なんですけども。いろいろあったほうが面白いですよね、たぶん。仕事を、これフリーランスとして聞きたいんだけど。仕事を受ける基準は?

(安里麻里)仕事を受ける基準?いや、もちろんお金と...とか。

(森直人)やっぱり。重要、重要。

(安里麻里)でもやっぱり腑に落ちるか落ちないかって結構あって。

(森直人)まさにそこですよね。

(安里麻里)ありますよね。やっぱりいくらなんでもこれは腑に落ちないっていうのは無理です。

(森直人)断ることもあるってことですか?結構。

(安里麻里)ありますね。

(森直人)これはもうズバリですわ。名言。これから言うと思う。

(安里麻里)もらっちゃいました?

(森直人)腑に落ちるかどうかですね。いろいろありますけど。そうなんですよね。それはそのギャラも含めてですけども、なんか本当ここまで、腹まですとんと...

(安里麻里)落ちるかどうか。

(森直人)そしたらよしっていう感じになるんですけど。なんかどうしても動かない時ってありますよね。

(安里麻里)はい、あります。

(森直人)で、なんでこれ動くんだろうっていう時もないですか?

(安里麻里)ありますね。腑に落ちてるからね。

(森直人)あれ?これ落ちるんだ、俺...みたいな。

(安里麻里)わかります。

(森直人)でも、やっぱりちょっと感覚的な部分ってありますよね、そういう。

(安里麻里)ありますね。あとやっぱり自分が腑に落ちてないのに、人に言えないじゃないですか。スタッフ、キャストに。こうしてください、ああしてくださいっつって。

(森直人)それ監督ならではのね、確かにそうですよ。リーダーですもんね。でもやっぱり腑に落ちずにやった仕事ってロクなことないでしょう?結局。

(安里麻里)そうなんですよ。ああ、やっぱり...墓穴掘った...ってなるので。

(森直人)結局ね、失敗体験でそうなってますよね、たぶん。なんか動物的なセンサーというか。

(安里麻里)あります。

(森直人)角川さんとよく仕事されてるじゃないですか、連続して。そこもかなり信頼関係がある?

(安里麻里)そうですね。おかげさまで、本当に。こんなに立て続けに撮らせていただくとありがたいです。

(森直人)それこそ本当、プログラムピクチャー撮影システムみたいなあれじゃないですけども、角川映画っていうその枠組みの中で安里麻里の映画が量産されていくっていうのは結構爽快というか。なんかいい流れだなぁってずっと思って。この数年。僕は『バイロケーション』がすごい好きなんですよ。

(安里麻里)えー?嬉しい。

(森直人)あれファン多いでしょ、でも。

(安里麻里)個人的にもとても想いが強い。

(森直人)やっぱり濃厚ですよね。いろんなものの中で。黒沢...古澤タッグの『ドッペルゲンガー』っていうのもありますけど、またかなり違った怪作。怪作にして快作みたいな。ジョーダン・ピールの...『ゲット・アウト』のね、『アス』って9月6日から公開なんですけど試写とか見てない?

(安里麻里)見てないです。わぁー、見るとなんかあるんですか?

(森直人)いや、僕これ『バイロケーション』じゃないの?って。なんかわかんないけど。

(安里麻里)最後らへんが?

(森直人)うーん、でもね、ちょっと『バイロケ』見てたら面白いなっていうぐらい、似てる部分があるのでちょっと見て欲しいなと思うんですけども。

(安里麻里)『バイロケ』は逆に『アンダー・ユア・ベッド』好きな人って『バイロケ』もたぶん好きだと思うんで。

(森直人)やっぱりでもご自身でもそう思われる?

(安里麻里)うん...結構その三井を撮ってる時に、どうしても水川あさみさんのことを時々思い出すというか、おんなじ言葉を言ってたりしました。

(森直人)あ、そうですか。それは気づかなかったけど。それは意図的にやられたんじゃなくて、勝手に重なっちゃったような感じですか?

(安里麻里)脚本の時に、どうしても同じ人間が書いてるし、作ってるんで。あの時のあの感じだ、みたいなのはありましたね。

(森直人)でもそうですよね。なんかすごく、一番太い線で繋がる二作っていう気がします。でも、『劇場版ゼロ』にしても『氷菓』にしろ、なんか角川映画でもちゃんとね、妙な感じっていうのがあるというか。自分のサインが映画のそういった商業映画の中に...しかも言ったら安里さんという名は意識しないで来た若い観客、10代とかの観客なんかが見るような映画にも、自分のサインがちゃんと入ってるかどうかっていうことは気になるタイプですか?

(安里麻里)気づいたらなっちゃってるかもしれないですね。

(森直人)理想ですね。いでよっていう感じじゃない?

(安里麻里)感じじゃなくて、あとで見て「うわ、やべぇ。一緒じゃん、こことここ」って恥ずかしくなることがあります。

(森直人)それやっぱり理想ですよね。

(安里麻里)そうですね。やっぱり個性。よく言うと作家性?

(森直人)そう、個性。作家性。シネフィル的な作家性。

(安里麻里)シネフィル的な言い方で言うと。

(森直人)作家性。どうしても出ちゃうもの?

(安里麻里)どうしても出ちゃう。『氷菓』とかも実は最後一緒だったりとか。あと、聞こえてないはずの声が届くとかいっしょなんです。

(森直人)そうですね。言われればそうなんだな。何を言っても全部もう自覚してらっしゃるのが怖いですよね。ちょっと最後にお聞きしたいことがあって。さらにぶっちゃけ、ずっとためてた質問ばっかりで恐縮なんですけれども。好きな映画監督は?

(安里麻里)もういっぱいいるじゃないですか。

(森直人)いっぱいいるし、今までも随分出てきたんですけど。

(安里麻里)じゃあ、今まで言ってなかった人?

(森直人)ない人とか、あるいは...だから理想像みたいなことですよね。監督としてのヒーローとか、まさに壁に貼るとしたら?っていうようなイメージ。

(安里麻里)三隈研次ですかねぇ。

(森直人)三隈研次か。あ、そうですか。でもやっぱり大映...あっち路線なんだな。

(安里麻里)やっぱりそうなるんです、どうしても。

(森直人)作品で言うとどういったものがお好きですか?

(安里麻里)普通に『座頭市物語』だったりも好きですけど、でも『子連れ狼』みたいなものも好きですし。

(森直人)そうですね。結構王道からフリーキーなものまで。

(安里麻里)そうなんですよ。ウェルメイドなものから、なんか飛ばしてるやつとかあって。でもすみません、もう一人いいですか?ジェームズ・グレイが好きです。

(森直人)あ、そうですか。

(安里麻里)まさかの。

(森直人)超シネフィルっぽいですね。

(安里麻里)え?そうですか?シネフィルっぽいですか?

(森直人)シネフィルっぽいですね。作品で言うと最近もね、川下りのとかアマゾン物とかありましたけども、作品で言うと何が好きですか?

(安里麻里)『アンダーカヴァー』とか『裏切り者』

(森直人)『裏切り者』か。渋いな。

(安里麻里)『裏切り者』がやっぱり好きかな。『アンダーカヴァー』も好きですけどね。

(森直人)『リトル・オデッサ』とか

(安里麻里)あの人も何か生々しさがあるじゃないですか。土着的な、なんかアメリカっていう国の中でのすごい閉鎖的なね。なんかああいうの好きですね。

(森直人)でもすっごいわかります。あの方もある種撮影所システム監督っぽいですよね。

(安里麻里)けど、生々しくやろうとするじゃないですか。理想なんですよ。あんなふうになりたいって思いながらいつもやります。

(森直人)作家論としても語れるし、職人監督としてのラインも語れる。ジェームズ・グレイも古典的じゃないですか、いわば。ラジカルにいかないっていうか。そこは似てるな。

(安里麻里)あぁ、よかった。

(森直人)三隈研次の方がラジカルじゃないですか?

(安里麻里)あぁ、まぁそうですね。

(森直人)わりと飛び道具してますよね。なるほどな。

(安里麻里)でも、現代の監督としては理想はジェームズ・グレイ。

(森直人)ジェームズ・グレイか。これ毎回聞いたら面白いかもな。なんか映画監督...言ったら両方男性じゃないですか。映画監督以外で、女性っていうことでお聞きしたいんですけども。なんでもいいんです。ヒーロー、理想像、いわゆる壁に貼るとしたら...っていらっしゃったりします?

(安里麻里)壁に貼る?

(森直人)いない?

(安里麻里)ナウシカのクシャナとかそういう...

(森直人)二次元?出た。あんまりいない?

(安里麻里)女の人で?リリアン・ギッシュ?だからやっぱりちょっと格好いい人ですよね。

(森直人)リリアン・ギッシュ...あれは西川さん...

(安里麻里)銃もっちゃいます。

(森直人)憧れじゃないですよね。アイコンですよね、リリアン・ギッシュ。どっちかっていったらグリフィス?貼っとくような?

(安里麻里)そうですよね。

(森直人)ノリか。だから、これからやっぱりたぶん、安里さんが引きこもりだったのにいろんな意味で先頭を走る時代じゃないかなと思ってます。

(安里麻里)そうですね。頑張って表に出たいと思います。

(森直人)これを機にガンガン行ってください。

(安里麻里)そうですね。

(森直人)というわけで、番組を楽しんでいただけた方は#活弁シネマ倶楽部、#活弁で投稿をお願いいたします。活弁シネマ倶楽部のツイッターアカウントもありますので、ぜひフォローください。それでは今回はここまでです。めちゃくちゃ楽しかったです。今日は記念日くらいに楽しかったです。積年の思いが今日はいろいろ晴れましたので本当、ありがとうございました。

(安里麻里)ありがとうございました。

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