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操作的実験ができない分野の科学における研究の進め方 / 『歴史は実験できるのか』書評

最近、ずっと本を読みっぱなしになっていたので、久しぶりに更新。

『歴史は実験できるのか』という本を読んだ。

本書の編著者のうちの一人は、『銃・病原菌・鉄』で有名なジャレド・ダイアモンド。


本書の興味関心

本書の中心的な興味関心は、「ある時点で類似し、後世大きな差分があった地域A, Bを比較して、何が決定的な要因だったのかを分析する」こと。また、その研究プロセス自体の紹介である。


科学の世界では、操作的実験を行い、原因と結果を分析する・・・とばかり思われがちだが、実際は科学と認められる多くの分野において操作的実験を行うことができないケースも多い

過去に関わる科学は間違いなく操作的実験は不可能だし、道徳的な問題で実験を行うことができないこともある。


歴史における比較研究法

そこで、本書では、いくつかの題材を用いながら、比較研究法のプロセスを紹介し、「操作的実験ができない分野の科学で、どうやって研究を進めるか」が丁寧に解説されている。


私自身、学生時代は結晶成長の研究をしており、操作的実験ばかりを毎日行っていたこともあり、複数の比較研究の事例が一気に読めて、すごくおもしろかった。

また、本書で取り扱っている題材そのものが非常におもしろいものばかりだった。

プロローグ
 ジャレド・ダイアモンド+ジェイムズ・A・ロビンソン
第1章
 ポリネシアの島々を文化実験する
 パトリック・V・カーチ
第2章
 アメリカ西部はなぜ移民が増えたのか
 ――19世紀植民地の成長の三段階
 ジェイムズ・ベリッチ
第3章
 銀行制度はいかにして成立したか
 ――アメリカ・ブラジル・メキシコからのエビデンス
 スティーブン・ヘイバー
第4章
 ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか
 ――島の中と島と島の間の比較
 ジャレド・ダイアモンド
第5章
 奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか
 ネイサン・ナン
第6章
 イギリスのインド統治はなにを残したか
 ――制度を比較分析する
 アビジット・バナジー+ラクシュミ・アイヤー
第7章
 フランス革命の拡大と自然実験
 ――アンシャンレジームから資本主義へ
 ダロン・アセモグル+ダビデ・カントーニ+
 サイモン・ジョンソン+ジェイムズ・A・ロビンソン
あとがき 人類史における比較研究法
 ジャレド・ダイアモンド+ジェイムズ・A・ロビンソン


個人的には、「奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか」の章が抜群におもしろかった。

どんな影響を与えたか、という結論それ自体もおもしろいが、データセットをどのように準備し、どう分析するか。また、測定誤差をどうすれば減らすことができるかの考え方それ自体も非常に勉強になった。

もしかしたら本書は、データ分析に関わる人が読むのが最もそそられるのかもな、なんて思ったりもした。


というわけで、おすすめの一冊でした。

比較研究に興味のある方だけでなく、上記で紹介した題材それ自体に興味がある人も楽しんで読める一冊だと思うので、ぜひ。


『銃・病原菌・鉄』もまだ読んだことがない方はぜひ。


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