NETFLIXの人事戦略を3つのキーワードから読み解く

先日、『NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く~』という本が発売されました。NETFLIXといえば、アメリカの全トラフィックの3分の1を専有する驚異的なサービスとして有名です。(2013年時点の情報

本書は、NETFLIXのex-CTO (Chief Talent Officer, 最高人事責任者) パティ・マッコードが書いたNETFLIXの人事戦略を示した本です。本記事では、『NETFLIXの最強人事戦略』の内容を参考にしつつ、NETFLIXの人事戦略を3つのキーワードから読み解こうと試みます。

目次

・NETFLIXのカルチャーとは?
・『NETFLIXの最強人事戦略』には何が書いてあるのか
・NETFLIXを知る3つのキーワード

・まとめ


NETFLIXのカルチャーとは?

本記事を読み進めていただく前に、「NETFLIXカルチャーになぜ注目すべきか?」「なぜ注目が集まっているのか?」を共有します。

『Netflix Culture Deck』

上記スライドは、2009年に公開されたNETFLIXのカルチャーを紹介したスライドです。なんと、全世界で合計1,500万回以上も再生されています。

スライド1枚目に書いてあるように、最新版は、NETFLIXの採用ページに掲載されています。

・日本語訳全文
日本語訳を公開してくださっている方がいらっしゃるので、日本語で全文を読みたい方は、こちらをどうぞ。

シェリル・サンドバーグによる絶賛

このスライドは、Facebook COOであるシェリル・サンドバーグによる絶賛されました。

"It may well be the most important document ever to come out of the Valley"
「これはシリコンバレーから出てくる最も重要な文書かもしれない」

カルチャーデックには何が書かれているのか?

NETFLIX カルチャーデックの内容を前述の日本語訳記事より、いくつか抜粋します。

市場価値の最大限の給与を支払うことを目指す

私たちは、従業員の各々が同業他社で受け取るであろう賃金の最高額に関する誠実な見積もりを行い、そして、その最高額を支払います。通常、年に一度市場価値への調整を行います。私たちはそれらを「昇給」とは考えておらず、分割するための昇給テーブルはありません。能力の市場価値は、それ自体が固有のものであるはずです。私たちは、「まずまずの評価に対しては2%アップ、優秀の評価に対しては4%アップ」のようなモデルは採用していません。ある従業員の市場価値が急激に上昇することもあります(残した業績とその分野の人材不足の両方を原因として)。一方、ある従業員の市場価値は素晴らしい仕事をしたにもかかわらず対前年比で横ばいであるかもしれません。私たちは常に、全従業員に対して彼らの市場価値の最大限を支払うことを目指しています。

休暇日数が決まっていない

私たちの休暇に関する方針は「休暇を取る」のみです。一年につき何週間といったような、いかなるルール又はひな型も、私たちは持っていません。正直に言うと、私たちは仕事とプライベートな時間を相当混ぜてしまっています。変則的な時間にメールをし、子供の試合のために平日の午後に休みを取ったりする等です。

マイクロマネジメントをしない

私たちは、CEOや他の最高幹部達が細部に深入りしたことによって製品又はサービスが驚くべきものになったという伝説には賛成しません。スティーブ・ジョブズの伝説は、彼のマイクロマネジメントがiPhoneを素晴らしい製品にしたというものです。他の人たちは新しい思い切った手段であると理解し、誇りを持って自分自身をナノマネージャーと呼びました。主要なネットワークとスタジオのトップは時々、コンテンツの創作過程において多くの意思決定を行います。私たちは、これらのトップダウンモデルを見習うことはしません。なぜなら、会社中の従業員が意思決定をした時に私たちは最も効果的かつ創造力に富むはずだと信じているからです。

「NETFLIXカルチャーになぜ注目すべきか?」「なぜ注目が集まっているのか?」を少しでも感じられたでしょうか。


『NETFLIXの最強人事戦略』には何が書いてあるのか

本書には、カルチャーデックに代表されるような「NETFLIXの成功を支えてきた、ハイパフォーマンス文化をどうすれば形成できるのか」について書かれています。


NETFLIXを知る3つのキーワード

NETFLIXの人事戦略を知る上で重要な3つのキーワードを紹介します。

①自由と責任
②ドリームチームと人材パイプライン
③事業戦略と業務を深く理解した人事組織


①自由と責任

本書のタイトルが、『NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く~』であるように、自由と責任は、NETFLIXの文化を知る上で、重要なキーワードです。

本書では、自由と責任に関する、いくつものエピソードが紹介されています。

・ほぼすべてのドキュメントは誰でも読んだりコメントしたりすることができる
・旅行、娯楽、その他の経費に関する方針は「Netflixの最善の利益のために行動する」のみ
・各従業員は報酬を、給料とストックオプションそれぞれどれくらいの比率で受け取るかを毎年選択する(ストックオプションは10年間の権利が確定されており、Netflixを離れる場合でも保持できる)

エピソードだけではなく、本書全体を通して、NETFLIXが自由と責任をいかに重視しているかを感じることができます。

自由と責任の文化を築くために

自由と責任の文化を貫くために、重要なことはなんでしょうか。

本書には、NETFLIXが重視する考えがいくつも紹介されていますが、その中でも自由と責任の文化を根付かせるために、特に重要だと私が感じたテーマを紹介します。

・コミュニケーションのハートビート
・双方向に正直なフィードバック
・自由と責任の背後にある「信頼」

コミュニケーションのハートビート

ハートビートとは、ネットワークに接続された機器が、正常に稼働していることを確認するために定期的に信号を送信することです。

NETFLIXでは、事業戦略を全従業員が正しく理解している状態を維持することを重視します。なぜなら、事業戦略を従業員一人一人が理解していることで、はじめて彼らの決断が正しいものになり、その結果、自由と責任の文化を維持することができるのです。判断材料が不足した状態での意思決定を行うチームや従業員に、自由と責任を与えることは難しいのではないでしょうか。

そのため、コミュニケーションのハートビートを行い、今後の進路について、全従業員が正しく理解している状態を維持します。

双方向に正直なフィードバック

NETFLIXでは、全従業員がお互いに正直なフィードバックを行います。

・全員が事業に関する問題について正しい情報を知る。例え、事業がマズイ状況であったとしても。
・問題が起こったら、当事者同士でオープンに(できれば直接顔を合わせて)話し合うこと。
匿名調査を行わない。「匿名のときに正直になるのが一番だ」という誤ったメッセージを発してしまう。

自由と責任の文化を維持するには、常に双方向な状態を維持することが必要です。双方向でないと、一方的に上から降りてきた戦略を実行せざるを得ず、それは、自由と責任の文化と呼べません

また、正直であることは、双方向なフィードバックをより良くすることに貢献するでしょう。

自由と責任の背後にある「信頼」

NETFLIXのカルチャーについて理解を深めていくと、「自由と責任」の文化の背景には「信頼」が常に存在することに気付かされます。正直で双方向なフィードバックを行うためにも信頼は必要です。

冒頭で紹介したNETFLIXの採用ページでも以下のようなメッセージが書いています。

"Feedback is more easily exchanged if there is a strong underlying relationship and trust between people, which is part of why we invest time in developing those professional relationships. "
「人と人との間に強い信頼関係がある場合、フィードバックはより簡単に交換できます。これは、関係を築くために時間を費やす理由の一つです。」

信頼と仕事の成果との関係性を説いた書籍には、『7つの習慣』で有名なスティーブン・R. コヴィー氏の『信頼マネジメント』が有名ですが、NETFLIXはまさに信頼マネジメントを実践しているように思えます。

従業員エンゲージメント?

さて、「信頼」というキーワードを見て、「従業員エンゲージメントのことかな?」と理解した方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、本書では、従業員エンゲージメントについて、以下のように述べられています。

私が人事関連で使われる「エンゲージメント」という言葉が大嫌いなもう一つの理由は、「業務遂行上の問題はやる気不足に原因がある」という暗黙の前提が見え隠れするからだ。正直いって、そんなに単純な問題なはずがない。

著者のパティ・マッコード氏は、NETFLIX社内で行った調査の結果をもとに、エンゲージメントは業績とは関係がなかったと本書で指摘しています。

ですので、エンゲージメントを上げることに焦点をあてた人事施策を行うのではなく、信頼関係を築くためのコミュニケーションを行うことに時間を使うことが重要です。

余談ですが、前述の『信頼マネジメント』には、信頼関係は、エンゲージメントに強い正の影響力を及ぼすことが書かれています。このことから、エンゲージメントを目的にした人事施策を行わずとも、信頼関係が築ければ、エンゲージメントは後からついてくるとも言えるでしょう。


②ドリームチームと人材パイプライン

2つ目の重要なキーワードは、ドリームチームと人材パイプラインです。

ドリームチーム

ドリームチームは、優秀な人材を集めることを示すだけではありません。

・特定の小チームだけがドリームチームではなく、組織全体がドリームチームである
・ドリームチームにいることは、生涯のスリルになる
・キーパーテストに合格しなかった人は、速やかかつ敬意を持って寛大な退職パッケージを与えられる

家族ではなくチーム

特に重要であることは、ドリーム ”チーム” であるという点でしょう。家族ではなく、チームなのです。

プロのスポーツチームを思い浮かべてみると分かりやすいですが、長らく結果を残せなかった選手がチームでプレイをし続けることはできません。選手は流動的に入れ替わります。

NETFLIXも同じです。ドリームチームであるからこそ、働く人たちにとって、優秀な人たちとのスリルのある刺激的な仕事を提供できます。また、その経験により従業員が自分自身の市場価値を高めることで、退職時のキャリアに対する懸念を減らすことにもつながります。

人材パイプライン

ドリームチームをつくる上では、適切に人材が出入りすることが重要であることはご説明しました。

では、この状態を保つためには、何が必要でしょうか。

常に優秀な人材を採用できる状態が保たれていないと、活躍できなくなってしまった人材との関係を思い切って解消することができません。本書では、常に優秀な人材を採用できる状態をつくることを人材パイプラインをつくると述べられています。

採用の文化をつくる

人材パイプラインをつくる上では、採用の文化をつくることが重要です。

NETFLIXでは人材管理に関して3つの基本方針があり、その内の一つは、「優れた人材の採用と従業員の解雇は、主にマネージャーの責任である」ことだと述べられています。

ネットフリックスでは、事業が高度に技術的なこともあって、人材を採用したい部署のマネージャー自身が採用プロセスに深く関わることが欠かせなかった。
人材を採用しようとするすべてのマネージャーは、会社の採用方針とそれを実行に移す方法を細部にわたるまで十二分に理解していなければならない。

また、退職や解雇に対する責任を持つことも重要です。『名経営者が、なぜ失敗するのか?』で有名なシドニー・フィンケルシュタインの著書『SUPER BOSS(スーパーボス)』では、以下のように述べられています。

スーパーボスは、人員の減少を恐れない。むしろ、もっとも優秀な部下が巣立っていくのは当然の成長段階であり、喜ばないまでも受け入れるべきことだと考える。

人材の退職を受け入れることは、NETFLIXに限らず、重要なことだと言えるでしょう。

従業員定着率を追わない

ドリームチームと人材パイプラインの考え方をふまえると、従業員定着率はチームづくりの成功を測る指標として不適切であることが分かります。もはや説明不要でしょう。


本節の最後に、人材パイプラインの構築が重要であると喝破したもう一つの企業、シャオミの創業者 雷軍の言葉を紹介します。

「多くの起業家が、人が集まらないと言っている。実際、どんな企業でも優秀な人を見つけるのは大変難しい。この問題を解決する方法はふたつしかないひとつは、充分な時間をかけること。少なくとも仕事時間のうちの70%は人探しに割かなければならない。もうひとつは、人が自ら集まってくるようにすること。既存の製品と業務をきっちりと整えて、将来の伸びしろや発展のチャンスを見せつければ、自ずと人はやってくる」

シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略』より


③事業戦略と業務を深く理解した人事組織

NETFLIXの最強人事戦略』を読み進めていくと、NETFLIXの人事組織では、

・事業戦略を深く理解すること
・業務を深く理解すること
・部署のマネージャーにチームづくりの重要性を訴え続ける

が求められます。

事業戦略を深く理解した採用活動

NETFLIXが、今後一年以内にアメリカのインターネット・トラフィック全体の三分の一を専有することに気づいた時のエピソードが象徴的です。

IT担当者は、

「勝手にやらせてくれれば、うちでクラウドをつくるけど?それならできるよ」

と返答をします。しかし、著者(Chief Talent Officer のパティ・マッコード)はこう返答します。

「たしかに、それができる人がいるとすれば、あなたたちをおいてほかにはいない。でも9ヶ月間ではできないでしょう?」

その後、時間的な制約から逆算し、どんなチームが必要かを社内で討議を行います。結果、今のチームとは大きく異なるチームが必要になると判明し、最終的には、新しい人材を採用し、AWSと契約を結びました。

このエピソードからは、人事が事業戦略上の制約を理解し、事業成長をリードするための採用活動を行ったことが伺えます。私が本書でもっとも感動したエピソードの一つです。

業務を深く理解すること

NETFLIXでは、部署のマネージャーが採用に力を入れることはご説明しましたが、人事組織側からの寄り添い姿勢も素晴らしいです。

リクルーターは、どんなに専門的な事業であっても、そのしくみを周知しているビジネスパーソンでなくてはならない。採用プロセスに協力する、創意あふれる積極的なパートナーでなければならない。どんな人材が必要かをリクルーターにくわしく説明すれば、すばらしい見返りが得られる。

業務を理解したリクルーターがいることは、部署のマネージャーにとってたいへん心強いでしょう。

部署のマネージャーにチームづくりの重要性を訴え続ける

本書では、著者が部署のマネージャーに対して、組織づくりの重要性を訴えかける場面が何度か登場します。カルチャーデックを作成し、公開さえすれば、それが完全に浸透し、すべてのマネージャーがチームづくりを徹底できるとは限りません。

人事組織が中心となり、採用やチームづくりの重要性を訴え続けたからこそ、素晴らしい人材が集まり続ける会社になったのだな、と改めて実感させられました。


まとめ

本記事では、NETFLIXの人事戦略を3つのキーワードを軸にしてご説明しました。

①自由と責任
 ・自由と責任の文化を築くために
 ・コミュニケーションのハートビート
 ・双方向に正直なフィードバック
 ・自由と責任の背後にある「信頼」
 ・従業員エンゲージメント?
②ドリームチームと人材パイプライン
 ・ドリームチーム
 ・家族ではなくチーム
 ・人材パイプライン
 ・採用の文化をつくる
 ・従業員定着率を追わない
③事業戦略と業務を深く理解した人事組織
 ・事業戦略を深く理解した採用活動
 ・業務を深く理解すること
 ・部署のマネージャーにチームづくりの重要性を訴え続ける

NETFLIX本の注意点

本書に書かれてあるNETFLIXの文化は、ど真ん中に非常に強いプロダクトがあることが前提となっている点は意識する必要があるのではないかと感じます。

強い組織をつくったから強いプロダクトになったのか、強いプロダクトがあったから強い組織をつくることに挑戦できたのか、どちらが先かはわかりませんが、おそらくこの両者は両輪の関係であると思います。

ですので、安易にNETFLIXの文化をそっくりそのまま真似するのではなく、自社の状況を顧みながら、自由と責任の文化を徐々にインストールしていけばよいでしょう。

最後に

エーリッヒ・フロム『愛するということ』の一節を紹介して本記事を締めくくります。NETFLIXの文化もこれとまったく同じものなのだと感じます。

ほんとうの意味での責任は、完全に自発的な行為である。責任とは、他の人間が、表に出すにせよ出さないにせよ、何かを求めてきたときの、私の対応である。「責任がある」ということは、他人の要求に応じられる、応じる用意がある、という意味である。
責任は、愛の第三の要素、すなわち尊重が欠けていると、容易に支配や所有へと堕落してしまう。尊重は恐怖や畏怖とはちがう。
(中略)
尊重とは、他人がその人らしく成長発展していくように気づかうことである。したがって尊重には、人を利用するという意味はまったくない。
いうまでもなく、自分が独立していなければ、人を尊重することはできない。つまり、松葉杖の助けを借りずに自分の足で歩け、誰か他人を支配したり利用したりせずにすむようでなければ、人を尊重することはできない。自由であってはじめて人を尊重できる。


本記事を最後までお読みいただきありがとうございます。ぜひ『NETFLIXの最強人事戦略』をお買い求めいただければ、嬉しいです。

また、NETFLIXの文化を見習い、正直なフィードバックを募集していますので、何か気になる点があれば、ご連絡いただけると幸いです。

@katsuhisa__

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本記事で紹介した書籍

NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く~

信頼マネジメント ビジネスを加速させる最強エンジン

シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略

SUPER BOSS(スーパーボス)

愛するということ


本記事を書くにあたり、読み返した書籍

How Google Works

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか

ビジネスについてあなたが知っていることはすべて間違っている

論語と算盤と私

経営心得帖


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