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『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第9巻原作者コメンタリー

 『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第9巻の発売を記念した原作者コメンタリーです。
 第8巻のコメンタリーはこちら

第33話『俺たちの現在と過去』
 関東地区選手権編ラストマッチの前半にあたるエピソードです。独立したサブタイトルがついていますが、実質的には前後編の前編ですね。この回は第1話、2話と読み比べてみるのも面白いんじゃないかと思います。
 現存するデッキ・レシピが見つからず、慧美のスニーク・アタックは例によって創作色の強いカード構成になっています。「十」ではじまり「軍」でおわる白の全体強化エンチャントがBANされていなければ、ここで慧美が使うデッキは変わっていたかもしれません。

 慧美の回想に名前が出てくる鈴木くんと桜井くんは、テレビドラマ『ビーチボーイズ』の反町隆史と竹野内豊の役名から取りました。この回想はあまり「慧美に悲しき過去……」みたいにならないよう神経を使った記憶がありますね。誤解してほしくないのですが、これは「慧美は純喫茶しぶやまで出会う前からはじめのことが好きだった」ということを示す回想ではありません。この時点でのふたりの関係は、なんというか、忍者学校時代のナルトとサスケェみたいなもんだと思ってほしいってばよ。

第34話『俺たちの黒と白』
 関東地区選手権編ラストマッチの後半にあたるエピソードです。ページ数がかさんでしまったため、月刊少年エース本誌では月をまたいで分割掲載となりました。分割掲載の後半の扉絵はコミックスには収録されていません。せっかく横田卓馬先生が描いてくれたわけですから、ここに貼ることでせめてもの供養とさせてください。

 はじめの回想で池袋西口公園のスケーターが履いているのは、DCシューズ(によく似たブランド)のスニーカーです。スケーターファッションの流行とともに九十年代終盤からゼロ年代序盤にかけて若者に人気でした。弾き語りのフォークデュオが演奏しているのは、紙ヒコーキに「メーヴェ」とつけるあれです。
 この回に関してはさほど語ることがありません。横田先生から原稿をもらったとき、ライフ計算のミスを指摘されて右往左往したくらいですかね。
 あ、まだ語ることありました。サブタイトルがダジャレになっています!

第35話『俺たちの光彩』
 水着回(?)です。またしてもサブタイトルがダジャレになっています。サブタイトルで直接的なネタバレをしないための苦肉の策と言えるでしょう。本誌掲載時には扉絵がありましたが、コミックスではページ数の都合で収録できませんでした。こちらも供養しておきますかね。

 この回では、これまでスポットライトをあてることができなかったM:TG関連グッズを取り上げてみました。やのまん製のジグソーパズルは僕も三種類所有しています。当時はこういったグッズが多く流通しており、スタチュー(無彩色の石膏像)と呼ばれるフィギュアのほかに、キャップやウエストバッグ、ふりかけ、DX日輪刀などが販売されていました。もちろん後半は嘘です。
 はじめが純喫茶しぶやまの帰りにうたっているのはSOPHIAの『街-Single version-』。『ブレス オブ ファイアⅢ』のコマーシャルソングでした。
 終盤の追いかけっこのシーンは『ハルフウェイ』という映画のワンシーンを意識して書いていたのですが、途中で「あ、これページ数長くなるやつだ」と気づいて大幅に尺を短くしました。
 担当さんには前々から「こいつらいつつきあうんですか?」と言われていて、この回のプロットを送ったときは「祝! バカップル誕生!」というLINEが届きました。学年成績一位と二位なのにバカップルとはこれいかに。

第36話『俺たちの新時代(前編)』
 『ウルザズ・デスティニー』発売直後のエピソードです。冒頭でレイモンドが操作しているのはPalmPilotというPDAで、日本の製品で言うとザウルスみたいなもんです。the end of genesis Hajime Kanou evolution turbo type †C†の元ネタはthe end of genesis T.M.R. evolution turbo type Dですね。長え……。
 瑛願寺の景観は、僕が実際に行ったことのある京都の禅宗寺院をいくつかピックアップして作画してもらいました。設定上のモチーフは『神河物語』の《永岩城》。雲龍図は《復讐の神、大口縄》をイメージしています。
 『ウルザズ・デスティニー』は横田先生が最初に手にしたカード・セットだそうです。僕は当時、強さにおぼれ力を欲しており、《ファイレクシアの抹殺者》を集めまくっていました(資料という名目で最近また一枚増えました)。

 言うまでもなく、レイモンドのモデルは『マジック:ザ・ギャザリング』で一番有名なキャラクターとして知られるテフェリーです。当初は映画『グリーンブック』のマハーシャラ・アリをヒントに、深い知性と威厳をたたえたキャラクターにしたいと考えていたのですが、気がついたら面白助っ人外国人みたいになっていました。僕にはよくあることです。

こぼれ話
 今回は本編のボリュームが過去最長となり、コミックスにおまけを少ししか入れることができませんでした。四コママンガやゲストページを楽しみにされていたかたには申しわけないです。
 ぶっちゃけた話、おまけは基本無給なので、制作サイドにとっては読者サービス以上の意味を持ちません。「基本無給」と、「基本無料」をうたう悪質なソシャゲのようなノリで書いてしまいましたが、事実そうなのです。作画の横田先生はただ働きを強いられて大変だと思います。同じただ働きでも、僕は「こんな四コマ考えたよ。あとはよろしく」と雑なテキストを送りつけるだけなので気楽なものです。
 とはいえ、本編で描ききれなかったことを補完する場として、おまけ、とりわけ四コママンガが僕的にとても役立っているのもまた事実。そしてなにより、本誌で連載を追いながらコミックスも買ってくださっているガチ勢に「ありがとう。また買ってくれよな」という気持ちを伝えるのに、おまけ以上の手段はないのです。
 このコメンタリーもいつもそんな気持ちで書いています。また買ってくれよな!

 さて。この巻ではじめと慧美がくっついたわけですが、主人公とヒロインがくっつくのが最終目的になってしまったらラブコメとして芸がなさすぎるよね、ってことで物語はまだおわりません。
 八雲にも、ルーにも、彩夏にも久遠にも来島にも、さらなる活躍の場を用意しています。ゴブさんはそろそろどうしようかなと思いはじめています。
 次はいよいよ第10巻。ゴブさんの活躍にご期待ください。

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