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『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第1巻原作者コメンタリー

 『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第1巻の発売を記念したコメンタリーです。
 それっぽくコメンタリーなどと銘打っていますが、要するにただの解説です。

第1話『俺たちの伝説(前編)』
 読切の前半にあたる回です。デュエルの勝敗が変わったほか、登場するカードが増えたり、社長が読んでいる『魔術士オーフェン』シリーズが『てめぇら、とっとと金返せ!』から『我が神に弓ひけ背約者(下)』になったりしています。
 神納はじめのキャラクター設定は、「ヒロインに白単のデッキを使わせたいからこいつは黒単にしよう」「黒単を使わせたいから中二病にしよう」「九十年代のサブカルネタを盛りこみたいからオタクにしよう」というわりと安直な発想で決まりました。

また、読切の企画段階で作画の横田卓馬先生に好きなラブコメの主人公像を尋ねた際、桜木花道という答えが返ってきました。「言うほどラブコメか?」と思いましたが、ちょうどその時期『SLAM DUNK』を読み返していたこともあり、はじめには「もし桜木花道がオタクだったら」みたいなニュアンスも入っています。

第2話『俺たちの伝説(後編)』
 読切の後半にあたる回です。職員室ではじめを叱っているのは生徒指導の野宮先生です。
 沢渡慧美は自分なりの「ゴリゴリのヒロイン」のつもりで書いています。僕もいい歳なので、内面が屈折したヒロインはもういいかなと……。私服は九十年代のアムラーを参考にしました。昨年引退需要で安室奈美恵がブームになっていたから、というのは建前で、あれは僕の趣味です。

 読切の告知をした際もふれましたが、横田先生には「胸は服の上からでもあるとわかるくらいにはある」と書いて慧美のキャラクター設定を渡しました。横田先生は「あるとわかるくらい」ではもの足りないと判断したのでしょう。その判断は正解だったと思います。おっぱいはあって困るものではありませんからね。

第3話『俺たちの大脱出』
 このエピソードから『エクソダス』環境に突入します。導入のページはもともと読切の冒頭に入る予定だったものを流用しました。
 シールド戦の場面では純喫茶しぶやまの常連たちが得意とするデッキタイプがわかるようになっています。鳥居祐爾(トリー)がアーティファクトデッキ、阿久井剛(ゴブさん)が赤単スライ、大楠主税(社長)が緑単ストンピィですね。
 純喫茶しぶやまの店長は僕が中学生のころ通っていたカードショップの店長をモデルにしています。ビジュアルはほぼそのままで、キャラクターの面ではスティーブ・ウォズニアックの無邪気さ、ギークっぽさを意識しました。

 ところで、第1巻に《悪魔の布告》のプロモーション・カードが付属することを告知した際、このエピソードに出てくる《裏切り者の都》をつけてほしかったという声が多数寄せられました。実現すれば発売後即重版、百万部突破は間違いなかったと思いますが、これだけは言わせてください。……常識で考えてくれ!

第4話『俺たちの十日間戦争』
 一学期最後のエピソードです。サブタイトルは往年の角川映画から。
 読切で好評だったはじめがTWO-MIXの『JUST COMMUNICATION』を熱唱するシーンはこの回に移動しました。音楽にはその時代の空気がパッケージングされていると思っていて、できればフルコーラスで熱唱させたかったのですが、さすがにそれは紙幅的にもコンプライアンス的にも無理でした。やりすぎると【機関】が動き出すのでね……。
 この回で来島が使っているデッキはユーロブルーという青単のパーミッションデッキです。カウンターやバウンスで相手のデッキを機能不全にして《鋼のゴーレム》や《隠れ石》で殴るのが基本戦術となります。僕も使っていました。

 口の悪い女子生徒三人組の名前はこの翌年にワイドショーをさわがせるあの人たちから取りました。元ネタがわからない人は「ミッチー・サッチー騒動」で検索してみてください。

こぼれ話
 この巻のあとがきで言及したとおり、中学生のころドミナリアを舞台にした小説を書いていました。『マジック:ザ・ギャザリング』に熱中している男子高校生がドミナリアにプレインズウォークして無双するという、現在で言うなろう系みたいな内容でした。
 実はマンガ版の『オナニーマスター黒沢』が完結したころ、横田先生にこの話をしたことがあります。ご本人は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、横田先生とふたたびコンビを組めることになって、ふと思い出したのが「そういえば『マジック:ザ・ギャザリング』の小説書いてた話したな」でした。

 最後に。
 読切から応援している、月刊少年エースのアンケートを毎月送っている、次巻も絶対に買う、という読者のみなさまの声が日々届いていて、大きな励みになっております。
 俺たちの伝説はまだはじまったばかりだと思って、これからも『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』におつきあいいただければ幸いです。

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