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『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第12巻原作者コメンタリー

 『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第12巻の発売を記念した原作者コメンタリーです。
 第11巻のコメンタリーはこちら

第45話『俺たちの暗転』
 八雲をフィーチャーした水着回です。月刊少年エース本誌での掲載を告知した際は、Twitterに「夏休みらしくさわやかで楽しいエピソード」と書きましたが……スマン。ありゃウソだった。
 慧美が小学生のころトラウマを植えつけられた映画はかの有名な『セブン』。巻末の四コママンガでは、主演のブラッド・ピットがギターを弾き語りしています。こちらは九十年代後半に放送されていたEDWINのテレビコマーシャルが元ネタですね。当時はヴィンテージブームのさなかで、デニムが若者のトレンドでした。僕もお母さんが買ってきたBIG JOHNのジーパン(ダサいとされがち)にBAD BOYのメッセンジャーバッグをあわせてクールにキメていました!

 エピソード終盤で出てくるグラフィティは、種明かしというか、この物語では現実とは異なる1999年(Another 1999)を描きますよという意思表示です。現実とは異なるので、時代考証にミスがあっても苦情は受けつけません。フォントはプリンスの『1999』のアートワークに似せてもらいました。

第46話『俺たちの乱戦』
 このエピソードから「7.31終末編」と題しまして、長い新章に突入します。コミックス巻頭のカラーイラストはこのエピソード収録の月刊少年エースに掲載されたものです。いくつかの要素を横田卓馬先生に提案して、「もしも慧美が令和の女子中学生だったら」というテーマで描いてもらいました。気に入っているイラストなのでシリーズ化したいですね。
 嘉辺名町バトル・ロワイアルの舞台となるあやしいお店は、店名を「汚水の花道」と書いて「おみずのはなみち」と読みます。動き出さなけりゃそう、はじまりません。

 彩夏のバニーガール姿はもう少し露出度高めになる予定でした。打ちあわせの席で親御さんがビックリするだろうという話になり、こうなった次第です。
 嘉辺名町バトル・ロワイアルではじめと対戦した台湾人選手にはモデルがいます。だれとは言いませんが、のちにトランスジェンダーを公表したり、デジタル担当大臣になったりしそうですね。
 来島の対戦相手が使っているデッキは笹沼希予志氏が開発したとされるおにぎりシュートです。

第47話『俺たちの追憶(前編)』
 慧美のお別れ会を描く前後編の前編です。「週刊少年ジャンプの名作はタイムレスだから、九十年代のものであっても小ネタとしてあつかわない」という謎のこだわりがあったのですが、この回で禁をやぶりました。だって『THE FIRST SLAM DUNK』の公開が近かったから……。
 エクステンデッドは現在のモダンのようなもので、タイプ1(現ヴィンテージ)とスタンダードの中間に位置するフォーマットです。作中の時点では、一部の禁止カードをのぞいて『リバイズド・エディション』以降のカードが使用可能でした。当時好成績を収めていたデッキのレシピはほとんど残っていないのですが、トーナメントではカウンタースリヴァーなんかの使用割合が高かったそうですよ。

 渋山いとは純喫茶しぶやまのパートで画面が男だらけになることを避けるため生まれたキャラクターです。初登場時の設定資料を読み返してみたら、「結婚五年目」と書かれていました。攻略可能ヒロインではありませんが、一部の男性読者に根強い人気があります。宇◯ちゃんのお母さんみたいなものでしょうか。

第48話『俺たちの追憶(後編)』
 慧美のお別れ会を描く前後編の後編です。扉絵の元ネタはいまなおカルト的な人気を誇る九十年代の名画『トレインスポッティング』。初代の担当さんがこの作品のファンだったらしく、本誌掲載後にLINEをくれました。
 アーティファクト・レッドにはエンドカードに《猛火》を用いる型が存在します。純喫茶しぶやまオールスターズのデッキは世界選手権99で優勝を飾ったKai Budde氏のレシピを参考に、というか完コピしました。本編のゲーム展開では伝わりづらいかもしれませんが、《燎原の火》や《ミシュラのらせん》によるボードコントロールがこのデッキの基本戦術となります。

 慧美の回想に出てくるカードのうち、元ネタが明示されていないものは《断念》、《威圧の容貌》、《果敢な弟子》の三枚。五色それぞれに一枚ずつ、イラストがダイナミックかつ人物が描かれているものをチョイスしました。こういうマンガならでは、『マジック:ザ・ギャザリング』ならではの演出はプロットを書いていて楽しいですね。

こぼれ話
 コミックポータルサイトのComicWalkerとニコニコ漫画で『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』が読めるのはご存知でしょうか? どちらも月刊少年エースやコミックス最新巻に少し遅れて、毎週水曜日に一話を四分割して配信されています。
 ニコニコ漫画にはコメント機能があり、僕もときどき読者のリアクションを覗いています。「こんな細かいパロディでも拾ってくれる人いるんだ」とか、「八雲の出番が多いとコメントも多いな」とか、発見があって面白いんですよね。なかには本作を横田先生の単著だと勘違いしている人もいたりして。本作は共著だと認識しているのに『オナニーマスター黒沢』は横田先生の単著だと勘違いしてる人にいたっては、もうなにがなにやら(笑)。まあ僕は器がでかいので、そんなコメントも笑いながら読んでいますよ。「パンツ見せろ」「孕ませたい」みたいなコメントは人としてどうかと思いながら読んでいますよ。
 読者のリアクションが作家に届きやすい時代になったとはいえ、どんな作品でも話題にしてもらえるわけではありませんし、好意的なリアクションばかりともかぎりません。これからもときどきコメントに目を通して、応援してくれる人がいる幸せを忘れないようにしたいと思います。

 今回はこのへんで筆を置くとしましょう。
 僕はずっと一人称の小説を書いてきた人間ですので、大量のキャラクターを動かしていろんな視点を行き来するこの巻は、楽しくもありしんどくもありという感じでした。
 次巻はもっと楽しくもありしんどくもあるんじゃないですかね。知らんけど!

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