おれなんて、30過ぎても迷子だよ


「30歳の抱負をどうぞ!」

10日前。誕生日を迎えたばかりの僕に、ある人が野球のヒーローインタビューさながらのテンションで尋ねてきた。

「ええ……? 急に言われても……。えっと……、うーーん……、いろいろと……、挑戦する……? 新しいことを、する……?」

「新しいこと? 何それ? 例えば……?」


10代の僕は、「30歳」はすごい大人で、落ち着きがあって、堂々としていて、安定を好む生き物だと思ってた。

でも実際の僕は、エア・マイクによって行われる正真正銘のエア・インタビューに対して、オドオドしながら「いろいろと挑戦」だとか「新しいこと」だとか、まるで10代のころと変わらない発言をした、大きくなっただけの子どもだった。


「……おれ、ひとりでニューヨークに行くの、やってみたかったんだよね」

「……ニューヨーク?」




「自分探し」は、空間軸ではなく、時間軸でするものだと思う。

だから僕は、就活前に慌てて海外へ飛ぼうとする学生に、「やめとけば?」と諭す。

具体的な目標もなく東京に出てこようとするフリーターにも、「落ち着け?」となだめる。


「でも……、でもおれ、将来が大学4年の春で決まるだなんて、実感なかったんすよ! だからこのままじゃ絶対ダメだと思って……!」

「就職」を「将来」に直結させる学生も多い。確かに、働いている姿や収入、勤務地などは、ぼんやり描いていた将来像に大きな影響を及ぼすだろうから、気持ちもわからなくない。

でも、だからって、慌てて海外に行っても、見つかるものは「自分」ではなくて、きっと強引に作りだした「働くきっかけ」か何かに過ぎないと思う。


そもそも「自分」ってなんだっけ? 

社会学の授業を思い出してみると、イギリスの精神分析家・ロナルド.D.レインが、こんなことを言っていた。

「アイデンティティーには、すべて、他者が必要である。誰か他者との関係において、また、関係を通じて、自己というアイデンティティーは現実化されるのである」

そうそう。つまり「自分」という存在は、これまで出会った人によって構成されていて、それは今後の出会いによってまた、アメーバのように変わっていくものなのだ。皮肉に聞こえるかもしれないけれど、「出会いに感謝」とは、まさにこのこと。


とはいえ、今から新たな出会いを作っても、自分のアイデンティティになるにはきっと咀嚼に時間がかかる。2~3人新たな友人ができたぐらいでひょいひょいと自分が変われたら、こんなに人生悩むこともないだろう。

だから、「自分探し」をするなら、海外旅行ではなく、時間旅行をすればいい。これまでの自分を作っているのは、過去の出会いと経験であって、それは今からカンボジアに行ったって、見つかるものじゃないから。

過去の自分から本当にやりたいことを見つけられたら、それは外部環境に左右されない、本当に自分のやりたいことなんじゃないかと思う。



「ニューヨークって……お前、本当にミーハーだなあ(笑)」


笑い飛ばされた。けれどそれは、珍しく僕の内側の奥底から出てきた、やりたいことだったように感じる。


「いや、ミーハーなんだけどさ(笑)。前に、『高校時代にヴィレヴァンデートをしたがるミーハー男子は、社会人になるとIKEAデートをしたがる』って、言ったじゃん」

「言ったっけ?」

「言ったんだよ。それの、続き」

「続き?」

「社会人でIKEAデートをしたがるミーハー男子は、『20代のうちにニューヨークに一人旅がしたい』とか言い出す(笑)」

「なるほど(笑)」

「だから、もう30歳になるまでには間に合わないけど、ニューヨーク、行きたいかも」



そんな、なんてことないやりとりをした。

そして、実際にやってみることにした。


30歳になって早々だけれど、

僕は、10月24日~11月9日まで、ニューヨークで暮らすことにした。


「短い期間だけれど、単なるミーハー心で行くにはちょうどいいかな。チケット、取っちゃったからな。宿見てるだけで、ワクワクすんな」

そんな気持ちでいる。

ハロウィーンを向こうで迎えることになるし、「アメリカのハロウィーンを取材してきて」とか、いくらかアメリカっぽい原稿を書くこともできそうだ。(お仕事の依頼があったら、連絡ください)



「30歳の抱負をどうぞ!」

そう聞かれた僕から出てきた言葉は、「いろいろと挑戦する」「新しいことをする」だった。アメリカ行きを密かに決めていたから、出てきた言葉だと信じたい。

いろいろと挑戦しよう。新しいことをしてみよう。30代から守りに入らなきゃいけないなんて、誰も決めてない。30過ぎても迷子なんてカッコ悪いが、カッコ悪い迷子なりにいろいろ見つけて、楽しいことをしてやろう。

家を建てる。車を買う。ローンを組む。保険内容を見直す。

そんな立派な30歳にはならなかったけれど、きっとこの人生も、そんなに悪くはないだろう。


「自分探しで海外には行くもんじゃない」。今でもそう思う。

でも、誰かに止められたって「行きたい」と心が叫ぶなら、その声に従って、責任持って行ってこい。背中押されなきゃ飛び込めないような夢や決意なら、さっさと捨てちまえ。そんな夢、きっと大したもんじゃないから。

「みんなと同じレールじゃイヤだ」と、迷子になってる10代、20代。

迷子だからって焦ることはないし、迷子なりに自分が正しいと思う道に進んでみればいい。

誇れたもんじゃないけれど、気休めにもならないだろうけど、

おれなんて、30過ぎても迷子だよ。



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