華麗なるランウェイとその舞台裏の狭間で【 ha | za | ma ファッションショーレポート】

2018年6月8日。アパレルブランド 「 ha | za | ma (ハザマ)」の初となるファッションショー「 ha | za | ma 2018 A/W TOKYO COLLECTION
"NOT BAD NIGHTMARE(悪くない悪夢)"」
が開催された。

その反響は既にSNSを通してご存知かもしれない。入場無料とはいえ、恵比寿ガーデンホール420席を2公演とも満席にし、それぞれ立ち見客を150人以上集める大盛況となった。

同ブランド「初」のショーであることを考えると、1日(しかも平日!)に1200人を超える動員数を叩き出したこの結果は「成功」の二文字以外考えにくい。

何より、これまで常設店舗を持たずに運営を続けてきた「 ha | za | ma 」がソーシャル上だけでなくリアルにおいても集客力を持っていることを決定付けるには、十分の証拠となったはずだ。

SNSにはその成功を喜ぶ声が幾つも寄せられ、ショーで初披露目となった新作は、今まさに同ブランドの歴史に名を刻むほど大きな反響を呼んでいる。

しかし、この大きな成功の裏側には、同ブランドの代表である松井諒祐(まついりょうすけ)をはじめとする多くのクリエイターと、それを支える優秀なスタッフ陣の努力と困難が存在していたことを強く強く、強調したい。

本記事では、初開催となった #HAZAMAはじめてのファッションショーの様子を、舞台裏も含む全編を通してお届けする。


8:50

ショー当日、松井とスタッフ陣は、9時前には会場に到着していた。

ショーの1回目の公演開始時刻は17:30だが、会場の設営から衣装の運搬まで、全て自分たちでこの日に行わなければならないからだ。

同ブランドの代表を務める、松井諒祐。

松井はこの日、朝7時には恵比寿駅に到着していたらしい。「落ち着かなかったから、先にカフェに入ってぼんやりしてました」と話すその目は少し充血していた。昨夜は眠れなかったのだろう。興奮と緊張が伝わってくる。

9時になった途端、会場内に飛び込む。1回目の公演のオープンまで8時間。やるべきことは多い。

今回の舞台となるホール。まだ椅子一つない空間に、挨拶の声がこだまする。

ハンガーの数も、圧倒的に足りない。早朝時点ではスタッフも限られた人数しかいないため、松井も自分で手足を動かす。

椅子を並べるのも、自分たちの仕事だ。倉庫から約400脚を引っ張り出す。

今回の主役となる洋服たちも、随時開封されて陳列されていく。

照明はもちろん、レッドカーペットすら、この日この時のためだけにセッティングされる。使い回しは、何一つない。

映像、音響、受付、衣装の並び、全てが急ピッチで進められていく中でも、来賓客やメディアからの連絡の対応に追われる。SNSでの直前告知も、自分でしなければならない。

そんな切迫した状況下でも、松井はスタッフに穏やかに接し、時に冗談をぶつける。迫ってくる時間と無数に飛んでくる質問に苛々してもおかしくはない場面だが、決して心を荒立てることはない。

その理由は、この笑顔を見れば分かる。この男、心底服が好きなのだ。自分のデザインした服たちが輝くためなら、どんな苦労も買って出るのだろう。

10時前には、今回のショーのメインビジュアルとも言える王座とガイコツのネオン管が届いた。点灯せずとも、匠の技がハッキリと光って見える。


10:00

10:00を少し過ぎた頃、今回出演するモデルとそのスタッフも合流し、全体ミーティングが実施された。

今回のショーの音響から映像、演出と運営全体のサポートを行なっているのは、数々のフェスやライブ、MVで映像作品を作ってきた「A4A」。


メイクスタッフのチーフは、ミサキダイチ。この日のために、モデル一人ひとりの顔と表情の分析を重ねてきた。

モデル陣は、

うちだゆうほ、カレン、アリスムカイデ、二見悠、つぶら、瀬戸かほ、しらい、S!N、やね、るうこ、木下桜、浅利琳太郎、あの(出演順)の13名。

これまで ha | za | ma を彩ってきたメンバーに加え、SNSでも多大な影響力を持つ、言うまでもなく豪華絢爛な布陣。(それでも松井らしいと思ったのは、モデルメンバーによるSNSでの事前告知を禁止としたことにある。あくまでもブランドの力だけで集客をしようという意地を感じた)

映像・照明、メイク、モデル、それらを支えるスタッフ。いずれも松井諒祐と ha | za | ma の集大成とも言えるメンツが一堂に集った。


座席や照明のセッティングも、着々と進められていく。

初めてのショーとは思えないほど順調に物事が進んでいるのは、紛れもなく優秀なスタッフ陣のおかげだ。松井ひとりの力ではここまでのイベントを動かすことはできない。でも、松井ひとりから始まったイベントであることには変わりない。



11:00

しかし全てがうまくいくことは、なかなかない。どれだけ万全の体勢を取ろうとしても、不測の事態というものは起きてしまうのが常だ。

電話を手に、突然慌ただしくなる松井。明らかに何かあった様子。

「靴が、届かない」

今回のショーの目玉とも言える靴の発送手配をした業者と、今朝から連絡が取れない。そして、ここにきて電話がつながったと思ったら、返ってきた答えは「ショーは明日ですよね?」というものだった。

一部のスタッフに今起きた事態が伝えられ、急遽トラブルシューティングが練られる。12時のリハーサルに間に合うことは、まずない。では、16時半からの最終リハには? 最悪、17時半の本番にはどんな手段を使ってでも間に合わせなければならない。

靴の到着を、最優先で進めたい。そう思っていても本番は刻々と迫り、総勢50名近くいるスタッフは次々と指示を扇いでくる。モデルへのフィッティングにおける注意事項をスタッフに共有しつつ、同時進行で靴業者との交渉を続ける。


12:00

開場まで、残り5時間。

モデル陣が衣装への着替えを終えると、A4Aの東市氏から本番の流れの説明を受け、リハーサルがスタートする。

2分程度のオープニング映像と音楽グループMiliのBGMに合わせて、王座の前のカーテンが開き、ショーが始まる。

その光景は、果たして松井の脳内に描かれていたものとピッタリ一致していたのだろうか? 

彼の視線はただひたすら正面を捉え、モデルの動きと、自身が作った服たちに注がれた。



リハーサルを行なっている最中に、ホール入り口では整理券の配布が始まる。

平日昼間にも関わらず、確実にショーを見るために途絶えることなく来場客が訪れた。



13:00

リハが終わると、記録用の写真を確認して、どのようにメディアの目に映るのかを細かくチェックする。(ちなみに記録用写真の撮影担当は、同ブランドでも馴染み深い安藤きをくだ)

話し合いの中で、早速全体の流れで修正事項が加わる。

リハ時点では、ランウェイの先端に骸骨のオブジェが置かれていた。インパクトはこちらの方が大きいかもしれないが、これでは肝心の洋服が足元まで映らない。

あくまでも主役は洋服であり、ランウェイ先端でモデルがポーズを取ったとき、全身が映らないのは致命的だ。

最終リハまでに、オブジェの位置は若干後方へ修正されることになった。


一度目のリハを終えた時点で、メイクスタッフも本格稼働する。13名のメイクを短時間で終えるには、テクニックもスピードもかなりのレベルが求められる。

その間も松井は、製作者の観点から、リハで気になった点をフィッティングスタッフに指示を出す。凡人には気付かない細かなこだわりは、アーティストのそれに近い。

13時半を回っても、靴はいまだ届かない。

リハーサルをモデル13名分のメイクがどんどん仕上げられていく。最大のパフォーマンスを発揮しようと、全員が必死だ。

自然と、弁当が手に取られるタイミングも、どんどん遅れていった。



15:00

最終リハまで、残り1時間を切る。

ここからは各種メディアの入場も許可され、 ha | za | ma の新作の様子を捉えようと、ランウェイ先端の先にいくつものカメラが構えられた。

(正面のカットを捉えるために、全カメラマンが縦一列となり、高低差をつけて撮影していた。ちょっとした発見だった)



15:55

最終リハーサル5分前。

急にスタッフエリアが騒がしくなる。「道開けて!」などの声が響いた。

大きなダンボールを開けると、届いたのは、 ha | za | ma の新作であるハイヒール。最終リハに、ギリギリのタイミングで間に合った。

「10年に一度あるか、ないかのミスらしいです。なんで僕の時にそれなんだろう?(笑)」笑いながら話す松井。遅れたとはいえ、メディア撮影には間に合った。なんだかんだ言って、持っている男である。

時間が押しているため、ヒール部分にアクセサリーを付ける作業が、手の空いたスタッフ全員で行われる。

ギリギリの、完成。

ショー開催後、このヒールがSNS上で劇的な話題を呼ぶことを、スタッフはまだ誰も知らない。


16:10

若干予定より時間が押して、最終リハがスタートする。

メイク、靴、オブジェの位置、全てが整った状態でランウェイを歩けるリハは、これが最初で最後だ。

松井は気になった点をスマホで手早くメモしながら、じっと着こなしを見つめる。

開場前には、すでに多くの来場客が待機していた。

中には ha | za | ma の洋服を着ている人も複数見られ、同ブランド初のファッションショーに胸を躍らせ、祝福するムードが満ち足りている。

いよいよ、始まるのだ。


17:10

10分押して、開場。整理券の番号順に少しずつ場内へ案内されていく。

スタッフの誘導により、入場はスムーズだった。赤く照らされた会場に、600名近い来場客が入った。

そして、運命の17時半。

これまで多くの人の前に姿を表すことはなかった ha | za | ma が、

いよいよランウェイを闊歩する。

























時間にして、僅か20分の出来事だ。

恵比寿ガーデンホールは、”夢”を見た。それは、松井と ha | za | ma が仕掛けた、”悪くない悪夢”である。

ポップの中に鋭さを、恐怖の中に優しさを。松井が「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」からインスパイアされた今回のショーコンセプトは、映像と音楽、衣装とモデルに憑依して、会場に魔法をかけた。

高揚感と緊張感が場を制し、ランウェイは眩い光を放つ。服はモデルが足を進めるたびに生き生きと踊り、観客はただ息を飲んで、その悪夢に見惚れた。

鳴り止まぬ拍手が、反響を物語る。

松井が頭を下げ、会場全体に照明が灯ると、感嘆の吐息が場を満たした。まるで長い眠りから覚めたようにぼんやりしている人、涙を流している人。興奮冷めやらぬ笑顔を浮かべる人。

その様子は紛れもなくこのショーの成功を意味していたと思う。

ha | za | ma 初めてのファッションショー。その1回目は、大絶賛の中で終わりを迎えた。


18:30

一回目の公演が終わったところで、松井に安堵の表情を浮かべる余裕はない。

すぐに次の公演の開場が行われ、舞台裏は慌ただしくその準備に追われていた。

一公演目の反省点をスタッフに指示しながら、SNSで反響をチェックする。並べられた大絶賛のコメントを一つ一つ読み込むが、その表情は冷静だ。

「ツイッター、トレンド入りしないなあ…」

ふとしたぼやきに、思わず笑ってしまう。この男、どこまでも貪欲である。

1公演目の緊張感を保ったまま、2公演目の開始時刻が迫る。

先ほど同様、会場前には多くの ha | za | ma ファンが溢れ、期待する想いが濁流のように場内に流れていく。

直前までコンディションを整えられる洋服たち。

「終わり良ければ、全て良し。いや、初回も良かったから、最初も終わりも全て良しだ。よろしくお願いします!」

松井の掛け声に、全スタッフが応じる。

いよいよ、第2部の開幕である。

























そのとき観客から送られた拍手ほど、賞賛と感動、驚きと多幸感を感じられるものはなかった。1回目よりも気持ち長く感じられた拍手は、もはやこのまま、鳴り止まないのではないかとさえ思えた。

悪夢は、二度宿る。

来場客はなかなかその場から立ち去らず、王座と骸骨のオブジェを名残惜しそうに撮影し続けた。

その様子はまるで、夢に取り憑かれているようにも思えた。

事実、会場は扉を開けるまで、別世界を作り出していた。

来場客が徐々にその場を離れ、誰もいなくなるまで、たっぷり30分。

ha | za | ma 初となるファッションショーは、大反響のまま終わりを迎えた。

準備期間を含め、今年の頭から走り続けていた松井の全力の集大成は、この場をもって一つの完結を迎えたのである。

改めて、松井に一つの質問をぶつけてみた。「どうしてここまでの規模のショーをやろうと思ったのか?」である。

「最初は、本当に感覚というか、今こそ絶対にやらなきゃいけないときだと直感的に思いました。どうしてそう思ったのか、後から根源を辿ってみると、まずはSNS発のブランドがどんどん増えてきた事への危機感があったのだと思います。

僕が ha | za | ma を始めたのは2014年で、SNSを中心に成長してきたブランドとしては古い方だと思うんですけど、ここ1~2年で同じようなブランドが明らかに増えてきた。このまま”SNSでそこそこ有名なブランド”の1つに括られてしまう事への危機感がかなり強かったんです。

じゃあ、どうすれば埋もれないか。答えは一つで、他のSNSブランドが簡単には真似できない、そしてまだやってない事をやるべきだと思ったんです。その答えが、僕の中では大々的なファッションショーでした」

松井は、自身のブランドが実店舗を持たず、インターネット出身ブランドであることにもコンプレックスも抱いている。

「例えば他の業界でも言えることだと思うんですけど、あれだけ売れている米津玄師さんでさえ、インターネット出身であることには危機感を覚えてるって言ってるじゃないですか。

米津さんでさえ危機感を持っているのに、僕如きその百倍くらい危機感を持っていないとまずいと思うんです。

ましてやファッション業界は、文化的な歴史と重さを持った世界。”インターネット出身”ってだけで舐められがちな風潮はより強い。だから、インターネットから一個飛び出るためにも、元々デザイナーズブランドの新作発表形式として主流だったファッションショーはやらなくちゃと思いました」

商業的な意味では、無料のファッションショーはこのSNS全盛時代において時代錯誤なものかもしれない。それでも、ショーでしか伝えられない温度感は絶対にあることを、今回のイベントで ha | za | ma は証明してみせた。

「元々ビジネス的に成功したいというよりは、『憧れの人達と仕事がしたい』『かっこいい!って心から思える人達と対等に何かを創れるようになりたい』といった想いで、この道を進んできました。今回のショーが、尊敬する人達に近づく第一歩になればと思います。

……まあ、やりきった感はあるから、次のショーは4年後くらいでいいんですけど(笑)」


松井諒祐と ha | za | ma の旅は、まだまだ続く。





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