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お前が“付加価値だ”と思ってるものなんて。

「で、一年目終えて、どうだった?」
「いやー、なんつーか、あっという間でした」
「そうだよなあ。入社前のイメージと、違った?」
「そうっすね。いやー、なんか、思ったより、地味じゃないスか?」
「あははは、まあ1~2年目だもんねえ」
「いや、でも、シューカツのときは、『即戦力を求めてます!』とか、『若いうちから活躍できる職場です!』って、言われてたんすよ」
「まあ、そう言うだろうね?」
「それがフタ開けてみたら、“去年の書類の日付を今年に直すだけ”とか、“センパイの後ろにくっついて頭下げて、よくわかんない会議に出てたら終わり” とかじゃないっすか」
「ウンウン、そうだね」
「あれじゃあ、若手、やめても仕方ないかなーって。だって、俺のゼミの友達、ITベンチャー行きましたけど、もうコード書いてるみたいっすよ? なんかエモいサイト作ってました」
「あははは、“エモいサイト”いいなあ。そういうことやりたいの?」
「いや、なんか自慢できるじゃないっすか」
「自分の仕事だー! って?」
「そうですそうです。同期が活躍してると、焦るじゃないっすか」
「そうなあ、気持ちはわかるなあ」

「あとは、アレっすよ、すんません、センパイだから言うんすけど、なんか、課長がやりづれーっす……」
「おお、シバタさん?」
「そうっす。課長、怖くないっすか?」
「えーそう? すげーいい人じゃん。絶対に感情論にならないし、クレバーだし」
「いや、なんか、俺にだけ当たり強い気がするんすよね……嫌われてませんかね……?」
「えー、それはないと思うけどなあ。なんでそう思うの?」
「いや、なんか、書類提出するたびに怒られてるし、あと、重箱の隅つついてくるっていうか、揚げ足とってくるっていうか、なんで俺だけこんななのかなーって」
「あー、なるほどねー」
「俺、そんなにミスってないと思うんすよ。むしろセンパイたちがやってきたことに、こう、付加価値くわえるっていうか、アレンジ入れるっていうか、そういうのが新人の役目だと思ってるんで」
「なるほどねー」
「そしたら、そこらへん全部、気に食わねえって返されるんすよ。あれじゃあ、出る杭打たれて、伸びるもんも伸びないと思うんすよね……」
「んんー、わかるわかる。そういうことね」
「そうなんすよー、もうセンパイにしか話せないっすよ俺―」
「あははは。でもね、課長の気持ちも、ちょーっとわかる気がするよ」
「え、そうなんすか?」
「うん、もしかしたら、違うかもしれないけどね」

「まずさ、社会人一年目って、どんな時期だと思う?」
「どんな時期って、うーん、ムズいっすね。社会人経験がないからこそ、消費者視点で、サービスのこと考える時期とか?」
「なるほどね。それで意見が通る社風だったら超いいけど、例えばウチみたく30年やってる会社が、一年目の意見でコロッと変わると思う?」
「いや、それは、あんまりない気がします……」
「でしょ。30年やってこれたプライドとか、成功事例があるから、ちょっとした意見で動けるほど、フットワークが軽くないのよ、もう」
「なるほど」
「大学のサークルでもそうじゃん。ルールに違和感覚えても、一年坊主が意見したって、通さなかったでしょ。アレは“俺たちはこのやり方でやってきた”って自信が意地になってるわけだわな」
「いや仰る通りですわ、それは」
「でも、違和感は、違和感じゃん」
「はい」
「それを正すためにはどうすればいい?」
「んー、意見が通るくらい、周りから認められる存在になる?」
「お、センスいい。それですよ、それ」
「え、どゆことっすか?」

「“何の実績もないうちは、誰も認めてくれない”。これが社会の摂理だと思うのね」
「ほお」
「だから、実績を積まなきゃいけない。じゃあ、実績を積むためにやるべきことは?」
「会社が認めてくれるくらい、仕事で評価を得る?」
「そう! それです。大正解」
「いや、でも、俺、実績作ろうと思って、超一生懸命やってますよ?」
「それは、一生懸命の方向が、ちげーんだわ」
「え、どゆことスか」
「ウチみたいな会社において、社会人序盤でできる付加価値の付け方はね、アレンジを加えたり、質をあげたりすることではないの」
「え、じゃあどうやって実績にするんすか?」
「 “ミスなく、早くこなすこと”」
「え、それだけ?」
「うん。やれと言われたものを、先輩の想像よりも早く、ミスなく終わらせる。よほどクリエイティブなスキルに長けた人ではない限り、社会人序盤戦は、ほぼソレでしか、“お、コイツできるな?”と思わせることはできないと思う」
「いやー地味! 地味すぎる!!」
「うん、理不尽だし、企業の体質に問題があるのはわかってるけどね」
「いや、でも、確かに。先輩が言ってることは、この一年振り返ればメチャクチャしっくりくるっす……」

「でも、ミスなく早くこなしているうちにね、今度は初めて、アレンジが求められる仕事が降ってくるんだよ。その時にようやく、お前の言ってる“付加価値”ってやつを試すときがくるわけ」
「なるほどー……。じゃあ、アレっすか? 課長が俺にいろいろ言ってくるのって、“ジキショウソウだ”って意味なんすかね?」
「そう! 飲み込み早いな。お前は最初からアレンジに力入れすぎ。それよりもさっさと書類あげて、“お、はえーじゃん”って思わせる。仕事が早いやつには、大きな仕事を任せてもいけそうな気がしてくる。そうしてどんどん、大きな仕事をしていく。それが組織に属する人間の戦い方なんだよ」
「いや、先輩、俺それ、入社当時に教えてもらいたかったかも」
「あはははは! 確かに。社会人一年目って、人生で一回しかねーからな。でも、ある程度理不尽な世界であることを把握するのが一年目の仕事だとも思うから、お前は立派に“社会人一年目”を経験してたと思うよ」
「そうなんすかねー……」

「とはいえ、これは古い企業だったり、ある程度大きな会社に入った場合の話であってさ、最近は一年目からフリーランスだったり、それこそ一年目からコード書いたりって会社もあるじゃん。そいつらには、今の話ってあんまり刺さらないかもね」
「確かに。ガンガン自分で仕事とってこなきゃいけない世界も、ありますもんね」
「そうそう。あとは」
「あとは?」
「業務は業務でこなしつつ、脳内では、“その会社を使ってどんだけデカいことできるか”、とか、“自分がどんなスキル身につけておくべきか”って考える余裕は、一年目から残しておきたいかもね」
「あー、ソレは確かに」
「いつ会社がなくなっても、おかしくはないからね。社内実績を作りつつ、社外で活躍できる自分を育てておく、その両輪が必要なのかもしれないね」
「いやームズいすね、それも」
「ね。俺なんかだいぶこの会社に染まっちゃったから不安だけど、お前はそういうのから抜け出ていて欲しいとは思うなあ」
「うす……」

「あとは、矛盾するかもだけど、社会人一年目の最大の特権は、“どんな質問をしても許されて、どんなミスをしても許容されること”にあると思う」
「ほお」
「お前、もう二年目だから、仮に後輩が入ってきて質問されたときに、答えなきゃいけない立場じゃん」
「そうっすね」
「そのとき、一年目の質問に答えられなかったら、それはお前が一年目の時にサボってた証拠じゃね?」
「え、マジすか」
「うん。だからお前が言ってた“去年の書類の日付を今年に直すだけ”の仕事にも、どんな意味があって存在してるのか考えるってのは、大事なことなのかもしれないね」
「いやー地味なことが後から効いてくるの、マジで社会人大変だわー……」
「あははは、ホントそれな。あ、お前、なんか飲む?」
「あ、じゃあ同じモノを」
「すません! ハイボール2つください!」
「いや、センパイこれ、ジンジャーハイっす」
「あ、まじ? ごめ、まあいいや、ハイボールのも」



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この記事は、キリン×note「 #社会人1年目の私へ 」コンテストの参考作品として書かせていただきました。
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カツセマサヒコ

ライター/編集者。広告記事、取材記事、コラム、エッセイ、Web小説などを書いています

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