喫茶店でコーヒーを

「波長が合いすぎたんですよ。ただ、それだけのことです」

彼は、飲み終えたアイスコーヒーの氷をストローで突きながら、退屈そうに言った。

「でも、その波長が一番厄介なんです。他の人で、埋められるものじゃないから」

失恋話である。男が語る失恋話というのは、やたらとロマンチックな言葉で装飾する傾向があると、私は思う。この会社の後輩にしてみても、なぜかどこか成功体験を語るような口調で、終わった恋について淡々と話す。私はその態度がどこか釈然としないと思いつつ、今日は彼の失恋話を聞くためだけに来たのだから、黙って聞くことに徹しようと思っていた。

「先輩も、そういうことないっすか」

まるで「ないでしょうね」と言いたげな顔だ。そして、図星である。

「私は、ないかなあ」

波長が、合う。その感覚が私にはよくわからなかった。これまでに何人かの男と付き合ったし、酔いの勢いで名前も知らない男と夜を越したこともあった。でも、いずれも「波長が合う」感覚は得られなかった気がする。考えてみれば、いずれも相手の意見に合わせてばかりで、見たい映画も、食べたい料理も、好きな体位も、何も希望を伝えずにただただ“おまかせ”を選んできた人生だったのだ。そして、現に私はいま、後輩が頼んだアイスコーヒーと“同じ物を”と注文したものを飲んでいる。これでは波長も何もあったものじゃないだろう。

「何気ない会話だけで本当に満たされちゃうような相手が、世の中にはいるんです。おれは、そいつと出会っちゃったんす」

だったら、どうして別れたのだ。何気ない会話だけで本当に満たしてあえるような相手なら、手放さなければよかっただけではないか。言いかけてまた言葉を飲み込む。女の悩み相談に答えがいらないのと同様に、男の失恋話には耳を傾け続けるに限る。

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と、いうところまで書いて、オチも何も書きたいことがないことに気付いたので、そのまま公開する。

2017.1.24



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