自意識過剰小説 3 夏至

カラスがなにやらくちばしで転がしているので、なんだろうと思って見るとそれは硬直した鳩の死骸だった。カラスにあちこち齧られている。信号待ちの通勤する人たちはよそでやってくれ、というように見ないふりをしている。カラスはお構いなしに、頭を上下させて初夏の朝日に熱せられたアスファルトに細い血管を引きずり出した。みんなが揃って顔を背けるのは、今朝も清潔なシャツやスーツに押し込めてきた色々なものが刺激されそうで怖いからなんだと思う。
会社からの帰り道、コンビニによる。何を選ぶのが正解なのか毎日買い物をしてもわからない。ビニール袋の擦れる音。線路際のジャスミンの花がくさい。僕のアパートの玄関の土壁は触るたびにぽろぽろと崩れてゆく。こんな部屋には誰も連れて来れないだろう。出会ったばかりの女の人をこの部屋に連れてくるところを想像する。部屋に入るのを待たずにこの壁に押し付けてみようか。その人はぴったりしたスカートを穿いているといいな。畳の上に新聞を広げて、正座をした膝の上で両腕を組んで読む。突然、自分の内側に善良な光があって、その光を誰かに分けてあげなければいけないと感じる。でも誰にどうやって分けてあげればいいかわからないし、こんなこと言われた方も困るだろう。今日もこのまま寝てしまうだろう。電気をつけたまま。



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