【書評】隠れ疲労ー休んでも取れないグッタリ感の正体

本書は、大阪市立大が実施した「抗疲労プロジェクト」の統括責任者、梶本修身先生が書かれた、いわゆる「マスクされた疲労」のメカニズムとその予防法、回復のための食事と睡眠などをわかりやすく説明したものです。2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控える日本のスポーツ界にとって、非常に示唆に富んだ内容となっています。

「隠れ疲労」とは、『「疲労」と「疲労感」は異なる』という前提のもと、生理的状態としての「疲労」が、緊張や興奮によって「疲労感」として自覚されず、マスクされてしまった状態を表します。この状態がひどいときには、「過労死」につながります。ちなみに、地球上のあらゆる生き物の中で過労死するのは人間だけ。

すべての疲労は、「自律神経中枢(=視床下部)」が疲弊することによって眼窩前頭野(=眼窩前頭皮質)が刺激される結果、「疲労感」として自覚されるそうで、肉体的な疲労も精神的な疲労も、行き先は自律神経中枢の疲労となります。人間の眼窩前頭野(下図では「視床下部」という文字の上あたり)は、発達した前頭葉によって大きく影響を受け、疲労感が発せられたときにドーパミンやβエンドルフィンなどが分泌されていると、その疲労感がマスクされてしまうんだとか。

抗疲労プロジェクトでは、そのマスクの影響を取り除いて疲労を定量化するための研究が行われ、いくつかの成果が得られています。そのひとつが、ストレスで発生した活性酸素によって自律神経が傷つけられた結果として現れるmRNAの「疲労因子FF」というもの。これは「疲労因子FR」とセットになっていて、それぞれFatigue Factor と Fatigue Recoverを意味しています。これらは、ヒトヘルペスウィルスと疲労との関係などとともに、東京慈恵会大学病院の近藤一博先生たちのグループが明らかにしました

疲労因子FRは昼夜を問わず放出されますが、ストレスが少ない(=FFが出にくい)夜間に活躍し、傷ついた細胞を回復します。そのため、疲労の回復には睡眠が重要だとのこと。また、このFRの反応性は個人差があり、年齢とともに低下するそうです。年をとると回復が遅くなるというのは、定量的に説明できるようになっているんですね。

睡眠以外では、抗疲労効果のある食物を摂ることでも疲労の発生を防いだり、回復を早めたりできるようです。たとえば、クエン酸、コエンザイムQ10、リンゴポリフェノール、そしてイミダ(ゾール ジ)ペプチドなどが、科学的に効果が実証されているとのこと。本書中ではイミダペプチド推しが強く、ときおり「ステマか?」という部分もあるのですが、とにかく4つの中でもとくに効果が高いそう。食品中ではとくにトリ胸肉に多く含まれていて、100g 食べれば、抗疲労に効果があると言われるイミダペプチド200mgが摂れるようです。それを2週間ほど続けると違いが実感できるとか。

先日、日本ハムファイターズのイベントで、日本ハム中央研究所(つくば市)で開発された「イミダの力」というサプリを紹介していたのですが、もっと背景を説明すればいいのに、とこれを読んで少し思いました。イミダペプチドとは、カルノシンとアンセリンが結合したものだそうで、カルノシンの抗酸化作用については、大学院時代に日本ハム中央研究所の研究員が書いた論文をよく読んだ記憶があります。そのころの研究成果が今につながっているんですね。

ともあれ、「隠れ疲労」は自国開催を控える日本スポーツ界にとって克服しなければならない課題。なぜなら、自国開催というプレッシャーや高揚感で疲労がマスクされてしまうから。ベストな結果につなげるためには、トレーニングだけでなく、さまざまな外的ストレスを定量化し、トレーニング負荷をコントロールすることが必須です。そのためには、こうした知見を最大限活用して、簡易に測定、評価できる機器の開発も急務です。そして、本書にはそのためのヒントがたくさん詰まっています。

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中吉
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河合 季信 OLY

河合季信の書評

私が読んだ本の中で、感じたことを残しておきたいと思ったものについて、書評としてまとめていきます。純粋な書評というよりは、書籍から触発されて考えたこと、アイデアなどの割合が高いかも。
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