思いがけない出会いから

ロシア滞在が始まり2週間。ヤロスラヴリというモスクワ郊外の街に行った時のこと。

午前中のツアーを終え、午後は自由時間となった。

どこに行くか全く決めていなかった。

しかも、肝心の頼みの綱である「地球の歩き方」に載っているのは午前中に行った教会のみ。

仕方がなくトリップアドバイザーで調べてみたところ、出てきたのが
«Мой любимый мышка»
(モイ リュビームイ ミーシュカ)

という場所。

日本語訳は
「私の大好きなクマちゃん」

解説には、こう一言。
「おもちゃ博物館です。つまらない!」

しかし、めぼしい観光スポットも他になさそうなので、そこに行ってみることにした。

大通りから横道に入り、生活感の漂う路地裏を通り抜ける。
メジャーな国や地域の観光だったら、こういう道を通ることはないんだろうな、となんとなく思った。

Google マップが示したのは、一見普通の家にも見える建物。
とても、博物館には見えない。
入口の方に進んでいくと、看板があり、そこで初めて目的地に着いたのだと知る。

扉を開けると、出迎えてくれたのは背の低いおばあちゃんとその娘さん。おばあちゃんが、自身の趣味で集めたテディベアのコレクションを、博物館風にアレンジした家に展示していたのだ。

ロシア語で「日本から来た大学生です。」
と言うと、とても喜んでくれた。

「これ、全部私のコレクションなの」
そういうおばあちゃんの目は、きらきら輝いていた。

このとき、ロシア語を勉強していて良かったと心の底から思った。
今まで、日本語を勉強しているロシア人や、ネイティヴの先生と会話する機会は多かった。しかし、現地の人と、このような形で出会って意思疎通できたのは初めてだったので、今まで勉強してきたことが役に立ったと感じた。
語学をやっていると、テストで良い点を取ることとか、スピーチコンテストに出ることとかで語学力の良し悪しを測ってしまいがちだ。
しかし、少なくとも私にとっては、言葉を勉強する本来の目的は、より多くの人と話せるようになることだった。
そのことをこのとき、この瞬間に思い出した。

お家の中は、まるで子供時代で時が止まってしまったかのよう。

私は、ぬいぐるみが大好きで、よく、布団の横に持っているぬいぐるみを並べて寝ていたことを思い出した。
旅先に欠かさず連れて行ったうさぎのぬいぐるみ。
おばあちゃんと一緒に、お洋服やポシェットを作ってあげたこともあったっけ。

心の奥に溜まっていた思い出が、カラー写真で一枚一枚目の前に現像されていく。

館内を見終わった後、隣接するカフェで手作りのワッフルをいただいた。

バニラアイスの乗った、少ししょっぱめのワッフル。
どんどん溶けていくバニラの香りに、手作りのベリーのジャムが混ざって、ワッフルの山から流れていく。

おばあちゃんの得意なお菓子はシフォンケーキだったのに、なぜか懐かしい味だと感じたのは、なぜだろう。

ここには確かに、都会とは違う速さの時間の流れがあるらしい。

ものすごい速さで進んで行く時間の中で、置き去りにしてしまったものを、ロシアで、おばあちゃんとたまたま出会ったことで取り戻したのだった。

#あの夏に乾杯
#エッセイ
#旅日記






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ロシア・カワイイスキー

東京外国語大学でロシア語を勉強する大学生が立ち上げたプロジェクト “カワイイスキー”の一環で、ロシア留学記を書きます!インスタこちら→https://www.instagram.com/russia_kawaii

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