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男女七人ふりかけ物語

お隣さんが、「三島のふりかけに「ひろし」が出たらしい」というのでネットニュースを見たら、三島のふりかけにはいろんな種類があることを知る。そしてお向かいさんが息を弾ませながら「全種類買ってきた!」と、イタリアンレストランのテーブルの上で広げた三島のふりかけ七種で妄想した物語。

「ひろし」と「かおり」と「あかり」

その集落では新参者の「ひろし」は、さわやかな風貌とやわらかな物言いが、語気の荒い言葉が飛び交う漁師町には際立った存在となった。
閉ざされた海辺の集落に現れた「ひろし」は、「かおり」には白馬の王子様に見えた。このさびれた小さな田舎町から救ってくれるのは「ひろし」しかいない。そう思った「かおり」は、猛アタックを開始する。

「ここのことに一番詳しい私になんでも聞いてちょうだい。困っていることがあったら、私に相談してね」
そう「ひろし」に笑顔でストレートに言い伝えるように「かおり」が言い寄る。
ほりの深い美人顔の「かおり」の笑顔は、この小さな集落では知らないものはいない。「びじんのかおりちゃん」と皆がささやく。

「ねぇ、「ひろし」さんにぜひ見てほしい場所があるの。案内してあげる」
そう「ひろし」を誘う「あかり」はセンス良く服を着こなす。
自分に合う化粧、服、小物。どれをとっても人目を惹く。顔立ちに特徴があるわけでもないが、とにかく化粧映えがする。そんな自分をよく知っている「あかり」は、化粧さえすれば「かおり」と同じ、いやそれ以上の美人顔になる。
センス良い「あかり」は、この小さな集落では有名だ。「びじょのあかりちゃん」と、皆が彼女に声をかける。

どこに行っても「さわやかな風貌とやわらかな物言い」で周りに人が絶えない「ひろし」は、その言葉が嫌だった。「静かに暮らしたい」と思って、誰も見向きもしないであろうリアス式海岸の小さな漁村を選んで移り住んだものの、ここでも他と変わりなく人が寄ってくる。特に女性が。

「俺はただ静かに暮らしたいだけなのに」
180度海を見渡せる小さな岬の先端に癒しを求めて来たものの、なぜかいつも隣を離れようとしない「かおり」が、「爽やかな風が心地いいね。こんな静かな時間を「ひろし」くんと過ごせるなんて、私、幸せ」とじっと目を見つめて何かの行動を期待している。

「「ひろし」くん、ここにいたんだ!探さなくっても、私のお気に入りの場所に来てくれてると思った!」と「あかり」が、見晴らしのいい岬の先端へと続く小道をトンネルのように覆う木立の間を抜けて、日の光の下に現れた。

「「あかり」、今日は仕事なんじゃなかったっけ?」
「ひろし」との二人きりの時間をふいに裂かれた「かおり」は目を丸くして「あかり」を見る。

「えー?「かおり」って、田舎臭い場所って嫌いって言ってなかったっけ?むしろ「かおり」がここにいるなんて、思いもよらなかったよ!」
「ひろし」と一緒にいる「かおり」を見た「あかり」は、目を細めた作り笑いで答える。

(まただ、この展開を見るのは何度目だろうか)
「ひろし」は静かに目をつぶって、思う。
(いっそこの岬の先端から飛び込んだら楽になれるのかもしれない)

つづく・・・かも


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