19歳の8月15日

思い瞼を懸命に持ち上げ、目の下に隈をつけつつ家を出て、猛暑の中見慣れた街並みをロードバイクで駆け、駅に向かう。やっている事はいつもと変わらないのだが、この日は自分ではない何かが違っていた。

駅の駐輪場にロードバイクをとめ、駅に向かって歩いているのだが、人が全くいない。スーツを着た人達がごった返していた駅のホームもしんみりとしていてスーツを着ている人は2~3人程度。お盆だから帰省しているのだろう。理由はわかっていても、いつも乗れるか乗れないかの瀬戸際で戦々恐々としていた僕にとってはどこか寂しさを感じたのだ。こうも変わるのかと。

人は普段、嫌な事も好きな事も続けていくうちにいつの間にかそれが「当たり前」だと錯覚してしまうもの。その当たり前が何かの弾みで突然変わってしまうと、やっぱりどこか違和感を感じる。

会社に着くと、いつも通り先輩方がおはよう、と挨拶をしてくれる。だが、「おはようございます!」と元気に笑顔でヤクルトを売りに来る女性の方はいつもの時間を過ぎても来なかった。これといって意識はしていなかったのだが、無意識にヤクルトさんが来ると「今日も仕事だ。頑張ろう。」という気持ちになっていたのかもしれない。部長に作成した書類を提出しに行く。いつも部長の左隣前に座っている人事の優しいおばさんの姿もない。他の人からしてみれば、「そんなの普通じゃない?」というような事なのだが、僕にはそこにあった「ひとつの色」が消えてしまっているようにも感じたのだ。

きっとお盆が終わればまたいつも通り人のごった返す駅に戻り、職場も色を取り戻すだろう。

どこか寂しく、不思議な体験をした19歳の夏の日でした。