手抜き作法

「ここはまあとりあえず、適当にやっておきましょう」
「いいんですか。もう少し丁寧にやらなくても。先方は五月蠅いですよ。手を抜いたと思われますよ。良い仕事をしなかったと」
「いいんですよ。何をどうやっても文句を言う相手です。時間と手間を掛け、心を込めても同じなんです。こういう相手は適当にやればいい。やっつけ仕事で充分。むしろ一番荒っぽくて丁度ぐらい」
「しかし」
「じゃ、君は丁寧に丹精込めてやるかね」
「できればそうしたいですが」
「プレッシャーだろ」
「そりゃ、色々と神経を使います。これが最善だったかどうか、何度も検討して」
「それもいいがね。しんどいだけで、つまらんよ」
「はあ」
「やっつけ仕事でいいんだ」
「しかし、大きな仕事です」
「そういう仕事ほど、投げやりになる」
「やはりプレッシャーで」
「それもあるが、やっつけ仕事で荒っぽい方が、先方は喜ぶことが分かったんだ」
「そうなんですか」
「今までの例でね。それに気付いてからはやり方が分かったんだ。荒っぽく、投げやりでいいと」
「でも、それはやってはいけないことでしょ」
「アラが出る」
「出ますよ。それを最小限に抑えるのが私達の仕事です」
「いや、先方はそのアラがお気に入りのようだ。目立つからね。分かりやすい。誰にでも分かる。だから先方にも分かる。だから、非常に分かりやすいんだ」
「だからこそ丁寧にやるべきでしょ。アラが目立たないように」
「魚のアラが好きな人なんだろうねえ、きっと。荒れ具合が好きな人なんだ」
「そんな人もいるんですね」
「それだけに特徴がある」
「それはあってはいけない特徴でしょ。また、そんなものは特徴でも何でもありません。手を抜いて、そのまま放置しているようなものです」
「それがお気に入りだということが分かった」
「はあ」
「だから、できるだけ乱暴に、荒くやった方が受ける」
「じゃ、見る目がないのですね」
「逆に利休のように見る目のある人だよ」
「でもアラは誰でも見えますよ」
「普通なら直す。またはやり直す。それをしない方がいいんだ」
「そりゃその方が早いし、簡単ですよ。素人でもできますよ」
「だから、そこが盲点」
「分かりました。その方法でやってみます。あっという間にできますよ。それなら。もの凄く楽です」
 弟子は鼻歌を歌いながら、簡単に作った。
 先方はそれを見て、傑作だと褒め称えた。文句はひと言も出なかった。
 
「そんな風になりませんかねえ」
「ならない。しっかり作りなさい」
「はい」
 
   了

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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