方向と方法

 目先や方法を少し変えると一瞬だが新鮮な気持ちになる。これは長続きしないが、行き詰まったとき、少しは動ける。動けば事も動く。止まれば事は運ばない。
「目先ですか」
「そうです。これは方向を少しだけ変えてやるのです」
「方法もですか」
「方法とはやり方です。これを変えるのです」
「でも、いつもの慣れ親しんだやり方でないと」
「それで、事が動き出したときは、戻せばいいのです。それにいつものやり方といっても、昔からそうじゃないでしょ」
「はい、しかしそれが最善のやり方になっています」
「だから、戻せばいいのです」
「じゃ、一時だけの変化ですね」
「そうです」
「しかし、ありますかねえ。別の方向とか方法が」
「探せばあるでしょ。以前にやっていた方法でもいいのです」
「それならできますが、あまりやりたくないですね」
「だから変化のための変化でいいのです」
「そうですねえ。あとで戻せばいいんですから」
「そうです。とりあえず前へ進まないといけないわけでしょ」
「はい、止まってしまいました」
「動かせばいいだけのこと」
「そうです」
「目的は動かすこと」
「はい、そうです」
「だから方向とか方法は何でもいいわけですよ。動けば」
「そうですねえ」
 それからしばらくして。
「どうですか。うまくいきましたか」
「はい、行きました。目先を変えました。すると動き出しました」
「どんな目先です」
「いつもの方向ではなく、別の方向を向きました。すると、違う道が現れてきたので、これは何だろうかと好奇心も出ましてね。それで動かすことができました」
「それは良かった。でもしばらく立ちましたが、どうですか」
「はい、まだ長年やっていたものに戻していません」
「じゃ、調子がいいと」
「しかし、その方向、寄り道なのです。新鮮でいいのですが、方向としては本道から外れています」
「枝道だったわけですね」
「それで、目先が変わり新鮮な気持ちになり、やる気も起きましたが、目的地も違ってしまいます」
「じゃ、戻ればいいじゃありませんか」
「それが、その枝道の方が楽しくて」
「じゃ、それを枝じゃなく、幹にすればいいんですよ」
「でもその方向では目的が」
「目的を変えればいいのです」
「それは」
「では、最初からその目的地でしたか」
「変わっていきました」
「そうでしょ。目的なんて、変わるものです」
「どうしてでしょう」
「自分で決めたからです」
「はあ」
「目先は方向です。それを変えたわけです。そして方法ですが、そちらはどうでした。変えましたか」
「方法は同じです。しかし、方向が変わったので、方法も楽になりました」
「方法が楽?」
「はい、無理をしなくてもいい方法でできますから」
「それは良かった」
「ありがとうございました」
「いえいえ、それもまたしばらくすると、色々と問題が出ます。そして止まってしまうでしょう」
「いえ、今のところ、その枝道の先に何があるのかを見てみたいので」
「それはいい。好奇心がある間は進めるでしょう」
「はい、お世話になりました」
 
   了

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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