荒蛇ノ尊

 まだ田畑や農家が残っている住宅地に引っ越して来た田淵は、暇なので近所を探索するのが日課になっていた。引っ越し先はまだこんなボロアパートがあるのかと思うような建物で、家賃が安いことで決めた。その目的は隠れ家。しかし実際には仕事場なのだが、これは名目で、仕事など殆どしていないというより、ない。だから暇。
 農村時代の農家は神社の周辺に集まっている。住む所と田畑がはっきりと分離している。その田の殆どは宅地になっている。だから田淵が越してきたアパートは初期の頃に建ったのだろう。まだ周囲が田んぼだった頃、ポツンとあったに違いない。農家が田んぼを売る。よくあることで、都市近郊では殆どがそうだ。そのアパートは農家が副業で建てたものだろう。家主が農家なのだ。早い目に農業を辞めたのだろうか。
 近所をウロウロしていると、モダンな一戸建ての家が多い。そして町の外れ、昔の村外れなのだが、そこにも農家がある。固まっているはずなので、こんなところにポツンとあるのはおかしい。しかも三軒ある。神社前の農家はどれも大きく立派なものだが、こちらの三軒は古いが小さい。
 それで市の図書館で調べると、合祀されたと書かれている。村の神社のことだ。吸収されたのは古地図から推定して、あの三軒の農家があったところで、小さな神社があったらしく、その神様が合祀された。
 つまり村の中に二つの神社があったことになるのだが、これは出身地が違うためかもしれない。つまり、この村の原住民など最初からいない。開墾しにきに移り住んで来た人達でしめられているので、その出身地や、どんな繋がりでここへ開拓に来たのかだろう。
 一番大きな勢力というか、中心になって開拓した人達の次に大きかった集団がいたのだろう。
 村の神社には合祀されたという形跡はない。ただのスサノウ神社で、そこに合祀された神様の名前は書かれていない。
 田淵は暇なので、三軒だけ残っている一軒に聞いてみた。既に農家などやっていない。お爺さんの代までの話で、今はただの家。近い内に建て替えるらしい。
 昔、この近くに神社があったのかと聞くと、受験生らしい少年が近くの小学校にあったという。それで神社も取り壊されたのだろう。合祀の理由はそれかもしれないが、図書館で調べた合祀の時代は江戸時代。だから神社が消えたのは、もっと昔。大昔。
 この三軒、同姓。昔は二十戸ほどの家がこの近くにあったらしい。残ったのは三軒だけ。
 詳しく聞くと、出身地は大和。今の奈良県。その寺領にいた人達が、ここへ移住してきたらしい。当然別姓の人も多いのだが、残ったのは吉岡という家系だけ。だからこの三軒、遠い親戚になる。
 村の中にもう一つの村があったのだ。しかし、それは村の中央部ではなく、離れたところにあった。
 話が弾むに従い、お婆さんが出てきた。
 いいものを見せてやろうと、田淵は蔵に案内される。その奥に小さな神輿が仕舞われていた。
 しかし、よく見ると、それは神社。合祀されたのだが、村の神社ではしっかりと祭ってくれないので、ここでひっそりとお祭りしているとか。だから担いだり引いたりする神輿なのだが固定したまま。外に出したことは一度もないらしい。
 神様は大和の寺領時代から続くアラヘビノミコトとされている。蛇と関係する先祖神らしい。ローカルすぎて、誰も知らない神様だった。
 
   了
 

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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